Dreamer of Drummer   作:ソウソウ

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 なんか、すごいカバー曲が追加されますね。
 難易度29?うん、無理で~す。28ですらクリアするのにあんなに苦労したのにその上があるだとぉ~(←戦慄してる)。

 ………ふぅ。さて、今回はラストスパートの先端に触れていくって感じです。どういう展開になるか、作者自身も予測不可能ですよ。

 評価、感想、大歓迎。お待ちしております。



-4の2-

 ◇◇◇

 

 とある客室。

 

「「………」」

 

 ―――気不味いな………。

 

 旅館の人に案内され、俺と沙綾は客室へと足を踏み入れた。和室を趣向に置いた室内は普段の俺ならその雰囲気に飲まれるだろうが、今回は例外。

 同じく部屋へ入ったのは沙綾。

 彼女は部屋全体を見渡しながら、のんびりした態度で畳を踏み越えていく。挙げ句の果てには、ん?と俺に向けて首を傾げてくる余裕ぶり。

 完全に意識してしまっている俺とは正反対に沙綾は普段と変わりない姿をみせていた。

 

「ソウ君、見てみて。景色が綺麗だよ」

 

 窓際に立つ沙綾からお声がかかる。

 ここは立地的に恵まれた部屋らしい。窓からは温泉街やその奥に聳える山々を一望できる贅沢な景色がそこにあった。

 

「………綺麗だな」

「綺麗だね………」

 

 二人揃ってじっと眺める。

 

「あ、さっき浴衣があるって言ってたけど」

「あーそれやったら、確かテーブルに置いてあるって言ってたな」

 

 案内してくれた人の説明の中にあった。

 温泉施設なので、基本的に旅館内の移動はその浴衣姿となる。

 さっき案内されると同時に俺達用の浴衣のサイズも尋ねられたのでサイズが合わなくて着れないなんて事態はないはず。

 ただ、別に問題がまたあって―――

 

「あったよ。こっちがソウ君のかな」

「ん。あんがと」

「それでこっちが私」

「………」

「………ソウ君、何処で着替える?」

 

 そうだ。

 これから着替えないといけないのだ。

 

「俺、洗面所で着替えるわ」

「うん、分かった」

 

 浴衣を回収。そそくさと洗面所に避難。

 さてと、鏡の前で一息つく俺であったがこのまま何も動きたくない衝動を抑えつつ、浴衣姿へと着替えることに。

 そして俺は気付いてしまう。

 

「………帯が、ねぇな」

 

 緊急事態だ。

 浴衣に必要不可欠な帯。それがないと最早只の下着姿丸出しな変態となってしまう。

 

「さーちゃん、帯そこにな………い」

 

 扉を開けて、顔を出そうとした俺であったがここでさらに失態を。

 俺の視線はばっちしある一点にがっちり固まってしまう。

 

「えっ!?今はちょっと!!」

「………すまん」

「―――っ!?!?」

 

 下着姿の沙綾がいた。

 まさかテーブルに脱いだ服を置いて着替えていたなんて思っていなかった。言い分としてはあれだ。もう少し隠してくれ。

 不幸中の幸いと言うべきだろうか。沙綾はこちらに背中を向けていた。でも、それで全てを赦される訳ではない。

 

「もぅ!!これで良い!?」

 

 浴衣を片手で握り締め体を隠し、もう片方の手で俺の浴衣色に合わせた帯が投げつけられた。

 無心で俺はそれをキャッチ。

 

「なんか………うん、ごめん」

「早く閉ーめーる!!」

 

 がちゃり、と扉を閉めた。

 脳裏にはっきりと描写された彼女の姿、女の子のその生々しい姿。おい、それは違うと思われるかもしれないが、俺はただただ気になってしまった点が一つだけあった。

 

「なんで黒やねん………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ―――数分後。

 

「もう良いよ」

 

 二度目のあの間違いは人生終了の合図。

 そう学習していた俺は扉をノックして沙綾に合図を出す手段に出ていた。彼女もその意図を汲み取ってくれたのか、ちゃんと扉越しからお声がかかる。

 扉をゆっくり開いて、洗面所を出る。

 俺と沙綾はお互いに浴衣を披露タイムとばかりに立ち姿で向き合った。

 

「むぅ………」

 

 ご機嫌斜めな様子の沙綾。

 無理もない。自分の恥ずかしい姿を油断していたのもあるが従兄の俺に目撃されてしまったのだ。

 

「今からでも遅くないからさ、母さんと変わってこようか?」

 

 偶然が招いた。確かにそれもある。

 つまり、今後たりともまたその偶然が再発しないとは言い切れないのがぶっちゃけ想像するだけで恐れ多い。そう危惧した俺は沙綾に提案することに。

 ところがどっこい、この一言が逆効果のようで沙綾の表情が益々不機嫌さを増していく。

 

「さっきの言い訳はそれ?」

「その件は俺が悪かった………うん、すまん。この通りです」

「其処まで素直に謝られるとね………私も考え事してたせいでもあるし………」

「考え事?」

「ん?気にしないで?」

 

 沙綾の笑顔の裏に俺は無言に頷く。

 

「それと部屋を変えるなんてこともないから。今更、変更だなんて叔母さんにも迷惑かけちゃうし」

「俺には良いんかいな………」

「何か文句でもあるの?」

「んや、ないよ」

 

 ギロリ、と沙綾の圧が飛ぶ。

 

「これでこの話は終わり!にしてもソウ君、浴衣姿が意外と似合うね」

「そうかい?自分では全くやねんけど………折角やし、今度のライブ衣装にでもしたろっかな」

「ライブ衣装?ふふ。案外、いけるかもね」

「マジ?今度、光に言ってみるか」

「楽しみだね―――あ、ちょっとだけ、じっとしてて」

 

 沙綾がすぐ目の前に接近。

 黄土色をベースに花柄模様を鮮やかにした浴衣姿の沙綾。普段見ない彼女のギャップに俺の脳内がレッツフル回転。

 俺の浴衣の襟が気になった様子の沙綾。両手を俺の首もとへと伸ばしてきた。

 

「ふっ………と。これでよし」

「あ、ありがと………」

「どう致しまして」

 

 彼女はにっこりと微笑む。

 と完全に二人の世界に入る次の瞬間、第三者の声に沙綾が思わず跳ね上がる。

 

「終わった?」

「えっ!?悠希ちゃん!?いつからそこに!?」

「ついさっき」

「全部見られていた………!?」

 

 部屋の扉には妹の悠希がポツンといた。

 俺も悠希の気配には全く気付けていないので驚いている。この子、いつの間に。

 ついさっきまで俺と沙綾のくだりも黙って見ていたらしい悠希も勿論、赤をベースとした浴衣姿である。

 

「悠希、どうした?」

「父さんが温泉行こうって。だから来た」

「分かった。準備するから少し待っとってくれ」

「了解。廊下にいるから」

 

 そう言い残し悠希は部屋を出ていく。

 バスタオルは確か各部屋に置かれているはず。記憶を頼りに俺は温泉へ行く準備をすることに。

 一方で、沙綾は悠希出現が相当ショックだったのか両手で顔を隠してテーブルに俯せている。表情が全く伺えない状態だ。

 

「さーちゃん」

「………なに?」

「温泉行くぞ」

「うん」

 

 それでも沙綾は動かない。

 これを俺はあれを言えそうな唯一のチャンスだと感じ、攻めることにする。

 

「あー、さっき言い逃したけど………」

 

 ぴくり、と沙綾の肩が動いた。

 

「さーちゃんの浴衣も似合ってる。可愛いよ」

「………うん」

 

 この時、沙綾がどういう反応をしたかは俺には分からない。照れ隠しで顔を隠したままなのか、聞き流してそのままなのか。はたまたは別の理由なのか。

 ただ一つ、沙綾の耳は赤く染まっていた。それだけで、俺は何となく分かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 露天風呂。

 

「ふぅ~」

 

 私は深く、それはもう深く息を吐いた。

 温泉に浸かれば、温泉独特の気持ちよさが全身にぞわっと染み渡ってくる。この感覚がなんとも言えない快感。

 ミニタオルを頭に乗せた私はこの旅館の中でも特に人気と推している露天風呂へと来ていた。

 どうやら温泉を出入りする人波のちょうど境目に来たらしく、他に女性の姿は見当たらない。ラッキーだと私は存分に独り占めすることに。

 

『さーちゃんの浴衣も似合ってる。可愛いよ』

 

 刹那にザブン、と水飛沫の音が。

 勿論、これは私が勢いよく顔をお湯に入れたせいだ。直ぐにひょっこりと顔を水面から出し、プクプクと口から気泡を漏らす。

 

 ―――何で今思い出しちゃうの!?私!!ソウ君、あれだけはホントに反則だって………。

 

 彼と相部屋になる。実は出発前に彼の母親から密告を貰っていたので、己の覚悟を決める時間は十分あった。

 着替えを彼に覗かれた。これは想定外。私の思考がその時、これからの彼との二人きりの時間にどう対処していこうかに費やしてしまっていたのだ。先より今を考えるべき。

 次に彼の妹に一部始終を見られた。もう完全にキャパシティオーバーとなった。あんなに恥ずかしい姿を身内の人に公開されていたなんて………知らない方がよっぽどマシ。

 そして、止めの彼の一言。あの時、顔を隠していた私、ファインプレーだと今、振り返ってさらに痛感している。

 あんな照れて真っ赤になった私の顔など誰にも見せられない。

 

「沙綾ねぇ」

「ふわぁ!?ゆ、悠希ちゃん………」

 

 背後からの声にまた驚いてしまった。

 そこに居たのは裸にタオルで胸元から下を隠した彼の妹、悠希ちゃんであった。

 スタイルが良い彼女。中学生にも関わらずタオル越しに胸が少し出ており、くびれもしっかりある。さらに白く透き通る肌を持つ悠希ちゃんとこの温泉はまさに最強のコラボだと私は思う。

 

「隣良い?」

「うん、おいで」

 

 悠希ちゃんは私の隣に座り、温泉に入る。

 普段から物静かな性格の女の子である悠希ちゃん。私の家の姉妹には居ないタイプでもあるが、十分私にとっても可愛い妹。

 

「一つ聞いても良い?」

「う~ん?何?」

 

 悠希ちゃんから質問かぁ、珍しいこともあるんだね、とこの時の私は思っていた。

 

「沙綾ねぇはお兄のことが好き?」

「………な、なんのことでしょう?」

「誤魔化しても駄目。さっきも、お兄と話す沙綾ねぇ、とってもニヤニヤしてた」

 

 鋭い指摘に私はたまらず唸った。

 反論したい。したいが、彼女の正論の前にはぐうの音も出ない。

 

「答えないと駄目かな?」

「お兄に言う」

「それはちょっと不味いかな………」

「なら、教えて」

 

 必要以上に迫る悠希。

 答えたい気持ちはあるが、言葉に出す恥ずかしさもまた劣るに至らず私の判決に迷いを与えていた。

 

「私はソウ君のこと………」

 

 ちらっと見る。

 悠希は真っ直ぐした瞳でこちらを見つめていた。

 

「………好き。うん、好きだよ」

 

 ―――言ってしまった。

 

「沙綾ねぇの気持ちは分かった。私も沙綾ねぇが本当のお姉さんになってくれるのは嬉しい」

「えっ?あ、ありがとう………」

 

 素直な悠希の言葉につい反射的に返してしまう。あまりにもあっさりした幕開けにぽっかりと開いた虚無感を覚えた。

 と、思ったのもつかの間。ここからが本番とばかりに悠希の目が変わった。

 

「でも、そう簡単には行かないと思う。お兄は今もまだ引き摺ってるままだから」

「それってどういう………?」

「あれ?沙綾ねぇは知らない?お兄に昔、彼女がいたこと」

「えっ、か、彼女?………し、知らない………昔、噂程度で聞いたことはあるけど………」

 

 そして後に私は決断を迫られることとなる。

 この気持ちに心の嘘をつかず、誰一人として懺悔だけはしないように。彼を好きになってしまったこの私だけの恋を大切にする為にも。

 

「私、もう上がる」

 

 そう言って悠希はその場を立ち上がる。

 

「悠希ちゃん!?ちょっと待って!!私、聞きたいことがまだあって―――」

「沙綾ねぇ」

「へ?」

「後で部屋に来て。私の知ってること話すから」

「う、うん………」

「沙綾ねぇだから話すんだよ。取り敢えず、他の人には絶対に死んでも話さない内容を沙綾ねぇに話すって事だけは先に言っとく」

「………ならどうして悠希ちゃんは私には話してくれるの?」

 

 室内への扉に手をかけた悠希。

 外気で冷えた体を振り返り、はっきりと告げた。

 

「今のお兄を救えるのは沙綾ねぇだけだから。私では無理だった………でも、沙綾ねぇだったらお兄を救ってくれるって………信じてる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沙綾編-4の3- へ続く。

 

 




*通算UA数40000突破!ありがとうございます!
 評価してくださった、ケチャップの伝道師様、ありがとうございます。
 

『色々と罪だね、補足シリーズ』
・沙綾の着替え覗いた事件
→羨ましいぞぉ!こんちきしょう!(←自分でそう仕向けているやないかい)


・「なんで黒やねん………」
→夢に出てきそうですね。嘘です。冗談です。
 まぁ沙綾がここまで大胆なのは蒼真の母親が元凶。


・沙綾の浴衣姿
→作者にそれを描写する技術がないです。各自のご想像にお任せ致します。


・悠希
→隠密スキル持ち。


・沙綾と温泉。
→つい想像してしまった者、正直に手をあげなさい。そう怯えずとも良い、作者と共犯罪として牢獄に連行されるだけだ。


・蒼真の過去について
→どのルートでもここは共通して進める予定です。また、各ルートごとに触れてはいきますが少しずつ語りべの視点も変えるつもりなので読みがいはあるかと。
 現在(6/4)時点で投稿している話の内に限り、軽くヒロイン達は誰から蒼真の過去編を聞くことになったかを纏めておきます。

 沙綾編→蒼真の妹、悠希から。
 花音編→蒼真の元バンドメンバー、可織から。

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