Dreamer of Drummer   作:ソウソウ

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 最終章です。評価、感想、お待ちしてます。



-5の1-『絶対領域』

 ◇◇◇

 

 蔵。地下。

 

「………沙綾ちゃん。もう一度だけ………良い?」

 

 再度、聞き返してしまう。

 りみにとってそれぐらい一度では理解し難い話が飛び出した。

 

「えぇ………。次で最後だからちゃんと聞いてよね。ソウ君に………()()()()。あくまで、その場の流れで勢いに任せた結果がこうなっただけの話だけど………」

「それってあれだよな………男女が恋人となる前に行うやつ………」

 

 有咲の唇が微かに震える。

 

「それでソウの返事は?」

「おたえちゃん!?」

「あれ?聞いたら不味かった?」

 

 本日もおたえランド営業中。

 だが、完全に沙綾のプライベートを抉り込む質問をするのは不味い。親しき仲にも礼儀あり。

 たえを庇いながら、りみは肝心の沙綾をそっと様子見する。おたえは変わってないなぁと眺める彼女の表情に一先ずりみは安堵した。

 

「う~ん………断られた訳でもないし、OKを貰った訳でもないからね。何とも言えないかな」

「え?返事は保留にされたのか?」

「ってことになるの?分かんない」

 

 有咲の質問に沙綾は曖昧に返す。

 その重要なシーンは当事者二人のみしか知らず、その内の一人がこうして悩ましている。

 有咲は思考を巡らせた。

 恋沙汰に経験は皆無の有咲だが、小説やネット、テレビで培った知識で対抗するしか道はない。

 だけど、友達を悲しませたくはない。

 心の片隅で密かに決意を固める有咲であった。

 恋と言えば、失恋と勝手に繋げている時点で既に思い込みが発生しているとは誰も指摘してくれない。

 

「ソウさんからは具体的に何て言われたの?」

「薄々感じてはいたけど、今は答えられない………って感じだったはず。パニック状態だったから、細かい部分までは記憶にないけど」

「うわっ。一番困るやつ」

「有咲?………有咲も言われたことあるの?」

「なんでそういう結論に至った!?」

 

 男気がないと断言せざるを得ない。

 女の子の告白した勇気にけじめを付けないなど断固反対な重大案件である。

 りみが冷静に考えた判断を告げる。

 

「だとしたら、今は返事待ちってことになるのかな?」

「それもどうかと………そもそもソウ君が私の気持ちにちゃんと気付いてるかどうかも怪しいし………」

「は?告白したんだろ?」

「告白ってよりも………好きな人が目の前にいたら、貴方はどうするって曖昧な感じに言っちゃって………」

「沙綾って意外と奥手だよね」

「だな。今回はおたえの意見が正しい。肝心の所を最後までやりきらないのは沙綾らしく無いんじゃないか?」

「はい………」

 

 有咲の淡白な断言に沙綾は反対出来ず。

 告白という恋愛のメインたる場面で普段の沙綾とは売って違うこの姿。恋する乙女の羞恥心に沙綾は負けてしまった。

 

 だが―――まだ完全敗北ではない。

 

 一筋の希望が残されいる。

 重要視される彼の気持ちは一旦置いておくとして、沙綾が失恋としたと認定するのはまだ早いのだ。

 そもそも、沙綾の思い人の蒼真は沙綾が告げた告白をどう受け止めたのか。鍵となるのはそこ。

 純粋に沙綾の好きの気持ちとしてなのか。それとも、幼馴染としての単なる冗談としてなのか。

 本人のみぞ知る事実。

 

「やっぱり問題は沙綾の気持ちをソウがどう受け止めたのか分からない所だな」

「本人に直接聞くのも出来ないし………」

 

 打開策はない。

 根本的な解決策して必要な情報が不足している。

 

「そう言えば、香澄は?」

「あれ?確かに全然話に入ってこないけど………」

 

 地下室を見渡した。

 楽器の置いたスペースが部屋の奥に存在する。

 そこにギターを抱えながら、スマホを片耳に当てて楽しそうに笑顔を浮かべる香澄がいた。

 

「電話中」

「誰と話してるのかな?」

「香澄の好きそうな話題なのに、やけに大人しいと思ってたらな………電話………電話?………まさか!?」

 

 有咲に一つの考えがよぎる。

 

「ええー!?来てくださってもいいじゃないですか~!!………練習?なら、仕方ないですけど………え?良いんですか!!わかりました!!………はーい!!」

 

 渋い形相をした有咲。

 通話を終えた香澄の背後へと近寄った有咲は恐る恐る彼女の肩をつつく。

 

「おい、香澄」

「ふわぁへ?有咲?」

「誰と話してたんだ?」

「ソウ君だよ?」

 

 離れて様子を見守る沙綾の頬が赤くなる。

 

「………やっぱりか。一応聞くけど、香澄からかけたのか?」

「うん!皆、ソウ君の気持ちが知りたいって言うから。直接聞いた方が早いでしょ?」

「香澄!?それとこれとは話が違うってさっき言った――――」

「でも、さーや。さーやだってこのままソウ君の気持ちを知らないままなのは嫌でしょ?」

「う、うん………」

 

 まさかの沙綾が撃沈。

 それほどに香澄の言い分も一理あるのだ。手っ取り早い手段は本人にとっとと尋ねること。

 とは言え、それが出来ないから問題という形で浮上している。香澄だから選べる手段である事実を忘れてはならない。

 

「うん、そうだ。聞く。聞けば良い。わざわざ私が悩む必要なんて………というか、なんで私が?こんな気持ち、私だけだなんて不憫だよ。ソウ君にも味あわせて………」

「待て、沙綾。正気を取り戻せ。流石に私でも分かる。それだけは不味い」

 

 冷静に止めに入る有咲。

 そんな光景が繰り広げられてる横で、おたえは香澄の方へと近付いていた。

 

「香澄、ソウとは何を話してたの?」

「えっとね、私達の練習に来てくれないかなって誘ってたんだ。でも、今日はバンドの用事が忙しくて来れないって」

「それは残念」

「ある意味、それで正解かも………」

 

 りみの視線の先は沙綾。

 有咲と会話しているが、ずっとそわそわ状態。肝心の意識の先は全く別の方へと向いている様子。

 話題に上がるだけでこれだ。

 さらにご本人登場となれば、沙綾が無事に意識を保てるかどうかすら怪しくなってくる。

 

「バンドの用事って事は向こうのライブハウスにいるって事かな?」

「ど、どうだろう………?ソウさんの個人的な用事かもしれないし」

「会いに行くだけ行ってみようよ!」

「だ、駄目だってば!!」

 

 三人の会話に聞き耳を立てた沙綾。

 まさかの意外な展開にたまらず入ってしまった。心の準備は大切なのである。

 

「どうして?」

 

 おたえが首をかしげる。

 

「どうしてって………急に押し掛けたら、迷惑だし」

「私達が行くのだったら、全然問題無いって言ってたよ。むしろ、感想が欲しいんだって」

「ぐぬっ………だとしても、そうだ!練習はどうするの?今日はその為に集まったんだし」

「今のままだと、沙綾が練習に全然集中出来ないだろ。兎に角、ここまで来たのなら一度直接会って話さないと駄目だ」

「有咲!?………そうだけどぉ」

 

 香澄、有咲の正論。

 成すすべなく外壁が固められつつあるこの状況に沙綾はぐったりと項垂れた。

 

「りみりんも大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。バンド練習の見学は私もしてみたいと思ってたから」

「やった!!なら、決定~!!」

「いぇーい」

「あっ。ソウさんに差し入れとか持っていった方がいいのかな………?」

「お前ら、他人に迷惑だけは絶対にかけるなよ」

「香澄。ギターはどうする?」

「持っていく!!」

 

 話は無情にも進む。

 沙綾を除いた四人が外出の準備を始めた。ギター、ベース組は楽器をケースにしまい、背中に背負う。

 取り残されつつある沙綾、覚醒。

 

「ま、待って!!」

 

 全員の視線が沙綾へ集まった。

 

「沙綾。まだ何かあるの?」

「あのね………ソウ君に会う前に一つ解決しておくべき必要な事があって、それが私にとっての本題なんだけど………」

「うわっ………これはやべぇ」

「沙綾ちゃん………!!可愛い………!!」

 

 ほっこりと顔を赤らめ、俯いた沙綾。

 あまりにも可憐なその仕草にりみは無性にも何故か自分にも羞恥心が芽生えてしまった。

 

「これから行くにしても、その、ソウ君と………どういう顔して会えば良いのかなって………」

 

 ―――絶対にこの乙女(沙綾)を守ろう。

 

 有咲とりみはこの時、決意したという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -5の2- へ続く。

 




『沙綾は絶対可愛い補足シリーズ』
・沙綾
→前回の告白した後では再び話題に上がることなく、淡々と時間は過ぎていき、現在に至る。
 逆にそれが沙綾の恋心に火をつけたのだが、冷静になってみれば普通に恥ずかしいだけなのではないかとつい先日気付いた。

・有咲
→練習している蒼真達の元へと向かう意見には賛成ぎみ。普段なら反対するであろうに、賛成した理由はアークラのメンバーにとある人がいる為だと考えられる。

お気に入りの話はどれですか?「沙綾編」

  • -1-『師弟関係』
  • -2-『強制連行』
  • -3-『緊急看病』
  • -4-『温泉旅行』
  • -5-『絶対領域』
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