正直、一番蒼真と絡めづらいキャラでもありますね。
バイトとか店番してたらやりやすいんですけど…文句は言えないですね。格好いいし。
てか、バンドリのドラマーの中では一番を争う上手さだと思いません?(ライバルは麻弥)
-1の1-『和太鼓』*
◇◇◇
蒼真の部屋。
「もっすもす?」
電話がかかってきた。
折角やし、ちょっとしたボケを入れてみた。さて、どう来るか。
因みに電話相手はしっかり確認済み。
『何ですか?それ』
「………気にすんな」
おっと、完全に外した。これは失態。
よくよく考えてみれば、俺がこれに答えろと言われても似たような展開になるだろう。
「珍しいやん。電話で来るの」
『珍しいというかですね………先輩にかけるのは初めてですね』
「んで、何用?」
電話主は"宇田川巴"。
"Aftergrow"という王道ロックバンドのドラム担当。どうやらバンドメンバー全員が幼馴染みで集まって結成して出来たバンドらしい。
あの騒がしい妹と違って、姉御肌の持ち主でもある彼女は周りから頼れる存在として重宝されている。
でも、俺からしたら巴は後輩という立ち位置になってしまう。忘れがちだが、俺は高校二年生だ。現役のな。
『それが先輩に手伝って欲しいことがありまして』
「うんうん、何?」
『先輩って太鼓出来ます?』
「太鼓?ドラムやなくて?」
『はい、太鼓です』
太鼓か。和楽器の一つ。祭りなどでよく見掛ける。あの重厚な音圧がより会場を盛り上げるのだが、やってる側はとても大変である。
「一度なら叩いたことあるな」
『え!?ホントですか!?』
「中学の文化祭の時ね、生徒会で和楽器演奏するのが本校の伝統とか何とからしくて、そのせいで触ったことはある」
『丁度良かったです。先輩、来月の祭りで和太鼓演奏あるの知ってます?』
「………まさか?」
『はい。そのまさかです』
俺がそこで和太鼓、叩けと?
無茶に感じる巴の要求。それは経験者でもある彼女自身も分かってるはずだ。
地元の祭りで一際盛り上がるのが、今話に上がっている和太鼓演奏だ。恐らく、巴はこれに出て欲しいと言っている。過去に何度か演奏自体を観てはいるが、それを俺が代わりに披露して欲しいと。
「………いや、普通にヤだよ」
『町内の皆でやってるんですけど、その内の一人が怪我で入院しちゃってどうしても空きが出てしまうんです!』
「だからってなんで俺に………」
『太鼓を初めてやるにしても女子にはちょっとキツいかな、と考えまして………なら、男の人でリズム感ある方と言えば、先輩しか候補がいなかった訳でして………』
「いや、お前だって女子だろ」
『っ!?………私は普段から慣れてるんで大丈夫ですから』
「そういうもんか。そういえば、他にも大人の人達がいるんやない?」
『それが………当日は店の準備に追われるらしくて、誰も時間が取れないみたいで………』
「はぁ………分かった。日程とかの詳細は?」
電話越しに伝わる不安感。
祭りでの成功を掲げる彼女にとって、和太鼓の人員不足は甚大かつ想定外の問題であったはず。それでも中止ではなく続行の意思を示す彼女から、祭りに対しての覚悟は見える。
しかも頼れる相手が俺しかいない、と。
『ありがとうございます!!ちょっと待っててください!!』
喜ぶ声が聞こえた。
と、微かにスマホの奥から別の声が漏れてくる。
ーーーお姉ちゃん?どうしたの?
ーーーあこ!?何でもないから!!
ーーーえぇ~。明らかに嬉しそうに叫んでたよ?
ーーー分かった、分かった。後で話すから今はちょっと向こうに行っててくれ。
ーーーむぅー。
予想するに、妹かな。魔王ちゃん。
その後はしばらくした静寂があり、ようやくして、もしもし、とスマホが向こうの音を拾う。
『明後日は大丈夫ですか?』
「あぁ。放課後は空いとるよ」
『なら、早速ですけど、その時に一緒に出る方達と会って貰います。その際に練習期間とか詳細も決めていくつもりでーーー』
「なぁ、今更で悪いんやけど」
『あ、はい』
「敬語じゃなくても良いで?」
『えっ?』
「なんかもう聴いてる方が面倒くさいし普通にタメ語でも構わんよ」
『分かりまし………分かった』
これでやりやすくはなるだろう。
元々、俺は相手から敬語で話しかけられるのはあまり好きではない。
『集合場所と時間は後でメールで送るから』
「了解した」
『太鼓の件、引き受けてくれて、ありがと。よろしく頼む』
「こっちこそよろしく」
これを最後に俺は電話を切断。
太鼓の練習で予定がかさ張るかもしれないが、これも経験の一環として考えてみれば良い機会ではないだろうか。
そうポジティブに捉えることにして、俺は先程から放置していた作曲作業へと没頭していった。
◇◇◇
とある体育館。
「ーーーということで、今回緊急参戦させて頂くことになりました。山吹蒼真です。よろしくお願いします」
ここで丁寧にお辞儀。
今日、巴に呼び出されてここに来てみれば、早速と言わんばかりに俺を紹介し出した。思わず言ってしまったが"緊急参戦"って何やねん、俺。
取り敢えずだ。現在、集まっている人達が祭りで披露する和太鼓のメンバーらしい。この人達のお陰で毎年の祭りが盛り上がっていると言っても過言ではない。ないはず。
………うん、やっぱり年齢層が高いな。
「おう!よろしくな、兄ちゃん!」
「巴ちゃんの紹介なら今年の祭りも成功確実やな!」
「これは若いもんに負けれらへんなぁ!」
四十、五十代(憶測)の方達が闘志を燃やした。
巴の普段からの信頼感のせいか、俺のハードルが上がっているような気もするが当の本人は別のメンバーと会話をしている。
と、俺の視線に気付いた巴。そうそうに会話を切り上げ、こちらへと接近してきた。
「調子はどう?いけそうか?」
「いや、まだ何もしてないんやけども」
「あ………それもそうだな………」
「もうボケる年か?それとも?」
「忘れてくれ………」
視線を反らしまくる巴。
太鼓の空きが埋まったことがそんなに嬉しいのだろうか。
「太鼓と言っても、俺がやるのはどれになるん?」
「私の隣、と言えば分かるか?」
「へぇ~………めっちゃ目立つ奴やん!」
まさか、殆ど主役というポジション。
これは思ったよりも本気で行かないと不味いことに気付く。
下手な演技ほど本番で目立つのはバンドにおいて嫌というほど味わっている。加えて、そんなことになれば巴にも迷惑をかけることになってしまう。
それだけは避けるべきだ。
「蒼真先輩なら平気だって。期待してる」
「お前に言われてもな………」
「なぁ、ちょっといいか?」
一気に不安が襲って来た。
そんな俺を余所に太鼓メンバーの一人が話に入ってきた。高齢組が大半を占めるなかで珍しく若者の部類に入っている人、という俺の認識であった。
「お前らってもしかして」
その人は一拍置くとーーー
「付き合ってんの?」
そんなことを聞かれた。
「「いや、全然。そんなことない」」
二人して顔を会わせる。
台詞が一字一句被ったことに対しての文句を一つ言おうとしたが、その行動すらも一致してしまう。
気恥ずかしいので黙って、視線を戻す。
「こいつはただの後輩ですよ」
「"ただの"ってのは心外だけど、まぁそんな所だ」
「………あっそう」
それを最後に踵を返してその人は帰っていった。
俺はその背中を見ながらふと気になったことを巴に問う。
「あの人は?」
「ん?あぁ。去年から入ったばっかの新入りだ。とは言っても、あたしらより年上だぜ?噂程度だけど、浪人中らしいし」
ということは二つ、三つ年が上だな。
「の割には、ため口だな」
「それはこのチームのルールでもあるからだな。一心同体で太鼓を演奏する上で、敬語は邪魔にしかならないし」
「………成る程ね」
だから、さっきの人も巴の言葉使いに対して何も口出ししないのか。
全員の協力関係が必要不可欠な太鼓演奏。それ故に、信頼を築こうと様々なルールを設けるのは何ら不思議ではない。
「まぁ………いいか」
「ん?どうした?」
「何でもない」
「なら、こっちに来てくれ。今後の予定について話す」
奴には何かがある。
とは言っても、今の俺にはこれ以上分かりようがない。探ろうにも手がかりが無さすぎる。
なので俺は大人しく巴の説明でも聞いておくことにしたのであった。
-1の2- へ続く。
注:怪しい男が登場しましたが特に修羅場みたいな展開にはなりません