ん?なにもいってませんよ?ほんとですよ?
さて、巴編-1-も次辺りで完結となります。今回はどちらかと言えば、後半ぐらいで話の主旨が変わってしまいますけど………問題ない!ない!
では、どうぞ。評価、感想、大歓迎。
◇◇◇
体育館、地下スペース。
「練習、お疲れさま」
ようやく今日の練習が終わった、と一息ついたその時に巴がやって来た。
巴の右手にはスポーツドリンクが握られている。それを巴は俺の方へ差し出してきた。
「ほい、これ」
「あぁ、ありがと」
「どうも」
太鼓の練習も、八月に入り本番間近なので練習の量も時間も佳境に入っていた。
こうしてメンバー一員となって判明したが、平均的に高齢な方が多いはずなのに凄い迫力のある演奏をこなす。ドラムとまた違う打楽器真髄の胸に響き渡る打音というか、なんというか。表現できん。
それに追い付くのには一苦労した。現状はだいぶマシとなっているはず。
「にしても暑いな………」
練習があるのは日が沈んだ後。各自の用事も考慮しての集合しやすい時間帯。
夏の時期には有り難いがそれでも暑いものは暑い。特に激しい運動をすれば、夜でも発汗量は馬鹿にならないぐらい出てくる。
俺は首に巻いてたタオルで汗を拭う。
頭や顔から順に拭いていくが、背中や腹辺りまで来ると巴の視線がちょろちょろと動き出す。
「どうした?」
「あ………」
「予備のタオル使うか?」
「いや、大丈夫。持ってきてるから」
巴は腰にあったタオルを出した。
んじゃあ、何をそんな挙動不審にしてるのだろうか。
「なら、どうしたんよ?」
「………何でもないから」
本人はそう誤魔化す。
気になる。気になるが、巴は答えてくれそうにもない。仕方ないので、大人しく諦める。
「それよりもさ!蒼真先輩は祭りの時に予定ってあるのか?」
「予定?そうやな………今のところはこれぐらい。悲しい人生ですよ」
「そ、そこまでは聞いてない………」
これ、とは太鼓演奏を指す。
生憎とそんなに交遊関係が広いわけでもなく、また舞台に出ると言っちゃってるので遠慮してなのか誰も誘ってくれない。
「なら、あたしと一緒に回らないか?」
「巴ちゃんと?」
「巴ちゃん………!?」
「あ、巴と?」
「な、何なんだ………今のは………」
不味ったか。
想像外の巴のリアクションについ即行で訂正してしまった。案外、ちゃん付けでは呼ばれなれてないのかな。
折角だ。巴の珍しい表情も見てみたいし攻めてみよう。
「んで、わざわざ誘うって事はそんなに俺と祭りを回りたいのか?」
「ウチのあこがな………蒼真先輩と行きたいって五月蝿くて」
「お、おう………」
「なんか………すまん」
「いやいや。全然構わんよ、うん」
また予想を越えた返答が。
俺の態度に巴は何を思ったのか申し訳なさげに謝ってくる。
あこ、とは巴の妹。あこもまたドラマーであり、俺の事を慕ってくれている可愛い堕天使後輩。
「待ち合わせの時間とかはスマホで送ればいいか?」
「そうやね。そうしてくれ。今日は疲れたし、俺はさっさと帰ることにするわ」
「おう。本番頑張ろうな」
「あぁ」
太鼓演奏の本番も近い。体調管理には気を付けていないとな、と俺は頭の隅において巴の元を去ったのであった。
◇◇◇
町内祭。当日。
「蒼真先ぱぁぁーーーーい!!!」
待ち合わせ場所に直進するのは妹のあこ。大声は人目を集めると幾度となく注意したのだが、お察しの通り効果はない。
まだ待ち合わせ時間まで少しあるのだが、彼は律儀に早く来ていたようだ。
「あこちゃん。この前のスタジオぶりやね」
「はい!それにしても先輩………浴衣なんですね!」
「従妹に無理矢理着ろって言われてな………」
「だとしても、お似合いじゃないですか~」
「ありがと。あこちゃんもその浴衣、可愛いよ」
「ありがとうございます!」
妹と仲良く話す蒼真。
その姿はまるで兄妹と言われても疑問どころか納得してしまうレベル。
「巴もいつにも増してお似合いやね」
「え?そ、そうか?」
自然な流れで彼のお褒め言葉を受けとる。
普段から言われ慣れないので、どうしても反応に照れが混じってしまう。
「あー!お姉ちゃん、照れてる~」
「あぁぁぁこぉぉぉぉ!!」
あこがまた余計なことを。
ここぞとばかりにアタシはあこにお灸を据える決定を下す。
いやーん、助けてー!と棒読みの叫び声を上げたあこは蒼真の背中へと隠れる。
「仲がよろしいことで」
「はい!私の自慢のお姉ちゃんです!」
「………まぁ姉妹仲は悪くはないな」
「蒼真先輩になら、お姉ちゃん盗られても良いかな~。どうです?先輩?」
「お、おい!あこ!?」
やはり口を塞がないと。
何を言い出すか、姉として不安しかない。
「あこちゃんにそれを答えるのはまだ早いかな。ほら、混雑してきたしもうそろそろ行こうや」
「はーい」
あっさりと流した蒼真。
それがなんだかアタシにとっては微妙な感覚。それもすぐに消えてしまったのでアタシは忘れることに。
「お姉ちゃーん!!行くよー!!早くー!!」
「分かったー!!」
人混みへと突撃する二人。
その背中を追いかけて、アタシは駆け出すのであった。
◇◇◇
町内祭。本会場通り。
「にしても祭りってこんなに賑やかやねんな」
俺達が歩くのは祭りで最も屋台が並ぶ通りである。恒例の焼きそばだったり林檎飴の屋台があったり、挙げ句の果てには滅多に見ない屋台もちらほら見掛ける。
………唐揚げ、上手そうやな。
「年に一回だからな。地元の人達も相当力を入れてるらしいぞ」
「蒼真先輩、あまり来ないんですか?」
「そやね。人が多いとあんまり行きたくないから」
「えぇ~。それは勿体無いですよ~」
「ライブはそうはいかないと思うけど」
「巴よ、分かっておらんな。ライブの人混みは飛び込むもの。だがしかし!」
「お、おう………」
「こういうイベントの人混みは邪魔でしかない!そうであろう?」
「そ、そうだな………」
俺の渾身の力説も手応えなし。
分からないか。ライブでの周りとの一体感は一度味わってしまうと忘れられない。
「あっ!蒼真先輩!」
「おっと………あこちゃん。急に引っ張らんといてくれへん?びっくりするから」
「すみませ~ん。でも、面白いものありましたよ!」
あことははぐれないように手を繋いでいるので彼女の動きとは無意識にある程度連動してしまう。
なので、唐突な行動にはなかなか反応が出来ない。
しかし、あこの無邪気にはしゃぎ、幼さが残る姿を見ると、どうしても妹を思い出してしまう。
今日は友達と祭りを堪能すると聞いたが、迷子にならないことだけを祈っておく。
「これは………」
あこが示した屋台を見る。
「くじ引きか。お?」
祭りの定番と言えば、定番。
恐らくあこが見せたかったのはこの屋台の景品一覧と俺は予想した。
確かにこれはあまり並ぶ所を見ない。
「スティック………珍しいな」
「ですよね!?あこも初めて見ました!」
そりゃそうだ。需要が無さすぎる。
ドラマーにとっては必需品。でも、残念ながらドラマー以外の人が多いのがこの世界。人数全体で見れば、欲しがる人など希少種レベル。
「これ、あれだ。蒼真先輩の欲しいって言ってたやつの限定モデルだぞ」
「え?それ、マジなん?」
隣から顔を出した巴が言う。
それが事実なら、話は変わる。限定モデルだと生産は既に終了済み。なら入手手段も普通では到底不可。
運命とは時に残酷となるのか。
ちらり、と手前に置かれた紙を一見。
「ぐぬぬ………」
三等。その結果、スティック。
待て。三等って何や。微妙すぎるラインに置かれているという何ともない屈辱感はどうするべきなんだろう。
もう、この際だ。それは気にしないものとする。
「蒼真先輩、どうするですか~?」
「待って。考えるわ」
―――くじ引き。一回、五百円。
正直、地味に痛い出費だ。つい最近に別の機材を勢いでネット注文してしまい、手持ちも寂しい中でのこれだ。バイト代もそもそもシフトをそれほどこなしてないので期待できないし、それ以前にまだ先だ。
ここで逃してしまえば、俺は生涯こいつをお目にかかれないかもしれない。でも、やれば当たるなんて幸運を持ち合わせている自信もない。
究極の二択を迫られていた。
「ん?電話か。誰からだ?………」
巴が動いた気配を片隅に留めつつ、俺の思考はどんどんと渦に巻き込まれていく。
―――とんとん、と俺の肩がつつかれる。
「巴?どした?」
「どうやら思ったよりメイン会場のスケジュールが巻いてるらしいぞ」
スマホを片耳に当てた巴がそう言う。
「おいおい………俺に今、それを言うということはやね………」
「お察しの通り、念を持って今から集合だってさ。行くぞ」
「そんなぁぁぁ」
襟元を掴まれ、巴に連行される。
去らば、限定モデル。お前のことは未来永劫忘れない。
「お姉ちゃん、あこは?」
「あこも付いてきてくれ。蘭達も既に居るらしいから」
「はーい」
きらり、と舞った滴。
それが地面へと届くことはきっとないだろう。そいつは儚く空へと昇っていくだけだ。
「巴さん?自分で歩けるから引っ張らんといてくれへん?」
「あっ………それはすまん」
「なら、お姉ちゃんと蒼真先輩、手を繋いだら?そしたら全力で走れるよ!」
「あこ!?」
「え?あこ、変なこと言った?」
「ぐっ………」
「お姉ちゃん、しないの?なら、あこは蒼真先輩と繋ぐ~♪やった!」
「―――はっ!?今はどっちでも良いから!ほら、二人とも急ぐぞ!」
「はぁーい」
「あいさー」
姉妹仲は良好で大変よろしいです。
-3の3- へ続く。
*Roseliaのライブ当たれーーーーー!!!!!
《気分で決める補足シリーズ》
・ちらちら、見る巴
→主人公、案外着痩せするタイプ。
・主人公、浴衣姿
→それを着せたどっかの従妹さんはバチバチ記念撮影しまくったという………。
・人混みとは何ぞ?
→ライブでの一体感はガチで楽しいです。あるバンドのライブで隣にいた知らない人と肩組んで熱唱したのが良い思い出です。
・あことお手繋いでる事件
→むっちゃ自然とやっちゃってる。妹目線で主人公はあこと接しちゃってる。あこはそれが当たり前と思っている。よって、特に両者共に気にしてない。ただし、それを後ろから見ていた人は………どうやろね?
・祭りの景品
→流石にくじ引きでスティックは見たことないですけど(笑)、何らかと運命的な出逢いしゃちゃった!ってこと、人生で一度はありますよね?
………え?ない?そうですか。ふっ。