―――では、どうぞ。
*お気に入り数200、評価数10を突破しました。
大変喜ばしい事です。ありがとうございます。
◇◇◇
祭り、メイン会場。
「緊張してんの?」
特設ステージ裏のとある一角で俺は巴を見つけた。巴は着物姿から一変、演奏用の法被を身に纏っていた。
今、この場に入るのは和太鼓メンバーと祭りの運営に走るスタッフのみ。
「蒼真先輩………そうかもしれない」
「そか。巴は案外、本番前は緊張するタイプやったんか」
「バンドではあれだ。アタシ以上に緊張する子が居るんで見ててホッとしているというか」
「よくある」
「蒼真先輩は平気そうに見えるけど」
「まぁね。俺は本番前になると逆にワクワクが抑えきれなくなんのよ」
つい色んな妄想をしてしまうのだ。
「ズルくない?それ」
「俺の特性だ。諦めろとしか言えない」
「分かってるけど………」
巴は立ち上がる。肩をほぐしたいのか片腕をぐるぐる回し始めた。
「お?蒼真先輩のお陰で少し緊張が解けた………?」
「マジか?なら、良かった」
と、ぴったりのタイミングで俺の耳にステージにいる司会者の声がスピーカーを通して反響してきた。
――――では、次に参ります!!
「皆さん、準備をお願いします!」
スタッフの一人が大声で呼び掛ける。
いよいよ次の番が和太鼓メンバーによる迫力満点の演奏。
全員が予定通りにステージ裏の段差近くに並ぶ。巴が先頭を切り、その後ろに俺が居て、後列に他のメンバーも連なる。
列に並び、何となく後ろを振り向いた俺とあの度々話題に上がる若者の目があった。
おっと。すぐに視線を逸られた。
「蒼真先輩、頑張っていこう」
「あぁ」
――――本番、存分に楽しんで行こう。
◇◇◇
和太鼓演奏。本番。
「せいやっ!!」
―――奴の第一印象は特にない。
ただ和太鼓メンバーに欠員が出てしまい、それの補充として、宇田川から代役を任命され連れてこられたのがあの男。
"山吹蒼真"。高校二年生。
オレからは年下である。ぶっちゃけ太鼓する上で年齢はどうでも良いけど。
どうやらドラムはしているみたいだが、和太鼓の経験はあまり無いそうだ。初めての練習を見ても確かにバチを持つあいつは恐る恐るな感じで太鼓の練習をしていた。
―――正直、オレは奴を舐めていた。
どんなに頑張ろうとどうせ代役止まり。演奏をこなす上で下手に目立たなければ、何でも良かった。奴には次の機会がないから無難なレベルで満足するだろうかと思っていた。
でも、現実は違っていた。
オレが直にこれを痛感したのは今だ。こうして本番を迎えて、奴の斜め後ろで叩いているオレですら感じているぐらい。きっと奴の前から観ている客はそれ以上だ
―――奴の出すオーラを。
和太鼓が上手い?答えは否。
良くて、中の上。ドラムをやってるお陰でリズム感のセンスは抜群であるが和太鼓奏者独特の腕の動きや太鼓の音出しは流石に再現するに至っていない。
とは言え、これはあくまでアマチュア、プロ視線からの場合であり、素人からは未知の領域。なので観客には細かい違いなど分からないだろう。
となれば、和太鼓を同時に数人演奏開始すれば観る方の視線は誰に注目しようかと迷い、自然と右往左往するのが普通。でも、オレが客側をちらり視線を向けても誰とも目が合わない。
それもそうだ。全員の視線を独占しているのはセンターを確立している奴と宇田川のダブル締太鼓なのだから。
―――ドンドドンドドドン。
シンクロした打音はまるで鼓膜を突き進み、心臓へと直接震動させる錯覚を覚える。まさに太鼓の真の迫力はこれだ。
宇田川がこのレベルまで達しているのはまだ分かる。あいつもそれなりに努力して今の地位へと立っているのだから。
でも、奴は絶対に違う。練習も期間は一ヶ月ぐらい。それも初心者スタート。オレとの練習時間は雲泥の差だ。
―――なら、どうして?
答えはすぐに出た。
きっと奴は世間体では"天才"の一種だと扱われる。楽器の天才ではない。何でも出来るタイプの天才でもない。
―――"魅せる"天才だ。
特に優れているのは"音"。人を魅了する音の出し方を奴は無意識に実行している。ただ演奏が上手いだけではきっと奴の演奏とはまた違った物になる。それぐらい、明確な違いがオレには見て感じ取れた。
誰も真似が出来ないその奴だけの持つ技量に観客はひたすら奴の動きの隅々まで見いるようになっているのがその証拠。
ただ、奴の才能を羨ましいなんてオレは思えなかった。あんな危険で賭けに等しい代物、オレごときの凡才が扱える訳がない。
「ふぅ………」
どうにか曲が終わり、一呼吸。
夕暮れに近い時間帯とは言え、炎天下の昼間の影響で体感気温はとても高い。
オレも既に全身汗びっしょりなのだ。前の二人は相当の熱を全身に浴びていることだろう。
―――次の曲の合図が出た。
バチを構える。これがラスト。
演奏が始まる直前、奴の背中を無意識にオレは見てしまう。遠目から見ても髪の毛がびしょびしょであった。
オレはまだ奴の真髄を知らない。だからなのか、現段階で既に魅せる才能の頭角を出しているが、恐ろしいことにそれさえも氷山の一角にさえ思えてくる程に奴の背中は逞しいと感じた。
―――あいつ、本当に高校生かよ。
曲が披露される度、増える拍手。
歩く足を止めて、視線をステージへと向ける者がステージ上のオレから段々と目立つようになる。
これら全てが奴と巴の成せる業であるのなら妬みを越えて尊敬の意を示したいぐらいだ。
―――ドドン!…………。
楽器の演奏なんて本人からすればあっという間だ。勿論、楽器の括りには太鼓も含まれる。
「「ありがとうございました!!」」
センターの二人が代表して一礼。
これまでにない沢山の拍手喝采が二人に送られた。中には相当感動したのか席から立ち上がり拍手する者さえ見掛ける。
兎に角、オレは思った。
―――山吹蒼真。奴は将来、化け物になると。
◇◇◇
本番、終了後。
「巴………お疲れ」
汗びっしょりになり、タオルを首にかけながらも俺は会場のスタッフから支給されたスポーツドリンクを片手に巴の元へと向かう。
巴は和太鼓演奏でくたくたに体力を消費したらしく、ベンチに腰を下ろしていた。
「あぁ………ありがとうございます」
少し頭を下げ、巴はドリンクを受け取る。
キャップを開けたそれをイッキ飲みの勢いで巴はどんどん飲み干していく。
「あんまりいきなり飲み過ぎると逆に体に悪いんやぞ」
「蒼真先輩………随分と余裕ですね」
「そんなこたぁない。俺だって立ってられるのもやっとやし」
実際にやってみて分かるが、和太鼓演奏は体力の消費が半端ない。ごっそりと体力を奪い取られたかのようだ。
「てか、敬語に戻ってるぞ?」
「もう本番は終わりましたから。先輩にタメ口は恐れ多いです」
「気にせんでええのに」
本人のこだわりなら仕方ない。
「それで、初演奏はどうでした?」
「そやね。バンドの時と同じでこう………巴と何処かで繋がって一緒に太鼓を叩いたみたいで楽しかったな」
今となるとその繋がる感覚は思い出せない。
でも、確かにあの時の俺は隣にいた巴の動きを見なくても理解していた。太鼓の音を通じて彼女の魂が伝わってきたのかもしれないし俺の単なる勘違いの可能性だってある。
拳を握りしめ、じっと見つめてると巴はふと言った。
「確かにアタシも蒼真先輩と繋がった気がします」
そして、彼女は軽く笑った。
その満足そうな彼女の笑顔を俺は初めて見た。
可愛いや綺麗とはまた違う、その笑顔に俺は一瞬とは言え見惚れてしまった。
「巴は普段から笑ってる方がいいな」
「えっ!?それはどういう………」
「ん?聞こえた?今の忘れてくれ」
「いやいや、ばっちし聞こえましたけど………」
あー知らん顔。
「ちょっと良いか」
声をかけられそちらへ向く。
そこにはかつての練習終わりで俺と巴の関係を聞いてきた年上の若者がいた。
「演奏、良かった」
「えっ?あ………どうも」
「また機会があればやろう」
それだけ、と彼は背中を向けて去った。
俺は訳が分からずに、出来たのは彼の背中をじっと見つめているだけ。ともかく褒められたのだけは理解できた。
「なんや?」
「あんなこと言う人だとは………」
巴にもお初にかかる光景だったらしい。
と、ここでズボンのポケットが軽く震える。スマホに連絡が来た知らせだ。
「巴」
「どうかしました?」
「妹が呼んでるから俺もう行くわな」
「妹が………仕方ないですね。お疲れ様です。代役とは言え、蒼真先輩と一緒に出来て楽しかったです。ありがとうございました」
「俺こそ良い経験になったよ。んじゃ、またライブハウスとかで会えたら良いな。あこちゃんにもよろしく言っといてくれ」
巴とその場で別れ、俺は指定された場所へと向かうことにした。
―――祭りはまだまだ続く。
巴編-1-『和太鼓』 終
*他にも描写したいシーンはありますがキリがないので此処までにします。
『ほ・ほ・補足シリーズ!!』
・「―――アタシ以上に緊張する子―――」
→つぐみ。
・語り部の彼
→本人は気付いてないが、人の才能を見極める才能を持つ。将来の職業はどっかの有名なプロダクションのプロデューサー………かもしれない。
・蒼真の才能
→演奏は上手くないけど、何故か見てしまうタイプの天才。だが、蒼真はそこにドラム練習の努力もしてしまい、技術面でも完全無欠に近いドラマーを目指している最中。
・作者の結果発表(ドリームフェス5/5)
→一発目の十連。
………星四なし。
二発目の十連。
………外れ。
こうなればやけくその単発!!
………虹演出!?しかもシルエットはあこちゃん!?
―――「おねーちゃん、アイスだよ。はい、あーん」
………あこ違いだぁぁぁぁぁ。
ですが、あこちゃんをゲットした事には変わりがないので、前回の宣言通りに特別編を早急に仕上げていきたいと思います。
因みに星四確定ガチャではスキーの麻弥ちゃんでした。あざっす!!
・作者の語り
→5thliveのチケット両日取れずの自分。一足先にリサ役の遠藤さんをライブで観てきました。演じてるアニメキャラは違うものの、ライブでは一番大きい声量につい感慨深い何かが胸を締め付けてきました。
Roseliaのベース頑張ってください。
*これまでに評価してくださった、たかとしん様、桜みやび様、minoppy様、浜のヤナギ様、デッドホーン様、carta様、kurisava様、ユール様、わるわる様、ライム@カミナヅキ様、ありがとうございました!!