テスト期間に突入してしまってたので投稿が遅れてしまいました。すいませぬ(実はまだテスト終わってない)。
一方で、土日にかけて凄いルートで台風が接近してますので特に西日本にお住まいの皆さん、お気をつけてください。自分も気を付けます。
感想、評価、大歓迎。お待ちしてます。
◇◇◇
楽屋。
「んで、藍斗」
時は飛び、ライブ当日。
ライブ会場へと現場入りした俺達は楽屋で各自リハーサルに向けた準備をしていた。
対バン相手のアフロは現在、リハーサルの真っ最中である。
「おー。なにやー?」
「お前、また何かやらかしたやろ?」
「………マジで?なんかしたのか?俺」
「心当たりはない………と」
気苦労が絶えないとはまさにこれ。
打ち合わせはベースの光が担当しており、こいつの事情の後始末は正直どうでもよい。ただ、相手が相手だけに互いの思いを不明瞭に流すのは少し不味い。
「向こうのメンバーから聞いたけど、お前、ボーカルに喧嘩みたいなの売ったらしいね」
「………いつ?」
「少なくともこのライブをやるって決まる直前にはその話をしたんやない?」
「あれか?でも、あいつとはただ単に歌が上手いなって話しただけやぞ?」
「どんな風に言ったか覚えとる?」
「確かなぁ………"お前の声は鋭く刺さって心苦しくなる"って言った気がしたな………お?違うか?」
「藍斗、それさ」
「おう」
「悪口にしか聞こえねーぞ」
「マジか!?」
やっぱり、そうだ。
藍斗の言葉足らずのややこしい表現にきっと蘭は解釈を間違えてしまい、結果的にこの対バンライブが企画されてしまった。
藍斗が言いたいのは多分こう。
「俺やったら………声が特徴的に伸びていてちゃんと芯もしっかりしてる。同じボーカルとしては羨ましく感じてしまう………ってニュアンスだと思ってるがどう?」
「おうおう、まさにそんな感じ………って、まさか!?アフロのボーカルちゃんは蒼真の言った通りに思ってないのか!?」
「誰がいきなりそんな風に解釈すんねん!!俺や光ならまだしも、まだ仲が良くない奴等には無理」
「そうなのか………」
「兎も角、リハーサルが終わったらちゃんと謝ってこい」
「分かった」
ふう。これで後はライブだけに集中できるぞ。
リハーサル中の巴に後で確認してもらえるようにスマホで連絡を残しておき、俺はライブ前の精神統一に取り掛かるのであった。
◇◇◇
"SquareRoad"。楽屋。
「蘭~?大丈夫~?」
ステージ衣装に着替えたアタシ達。
いつもとは一味違う空気感に気持ちが飲まれそうになりつつ、ライブに向けて精神統一をしていた。
モカが部屋の隅にいた蘭の元へ寄る。
「大丈夫」
「そうかい、そうかい」
淡白な返しにモカは何故かおばちゃん口調。
マイペースな彼女に緊張という概念はないらしい。正直、羨ましい限りだ。
会話に参加しようとひまりが来た。
「にしても、蘭」
「何?ひまり」
モカがニヤニヤと笑みを浮かべる。
「さっきの何をすれば良いのか分からない蘭、可愛かったよ!!」
「………うるさい」
「あー照れてるー」
「うるさい、二人とも」
ひまりの台詞は数分前を差す。
リハーサルを終えて、楽屋に戻ろうとしたアタシ達を待ち構えていたのはアークラのボーカル、藍斗さんだった。
蘭が警戒心ありありで睨み付けるもんだから、つぐみとアタシでどうにか落ち着かせる。
と、藍斗さんは一歩蘭の目の前で来ると、アタシ達の予想の範疇を越えた行動に出た。
―――土下座をしたのだ。
華麗、と思った。
あまりにも自然な動作につい食い入るようにその動作を見てしまった。あのレベルは今後の人生で見れるかどうかさえ分からない。
これにはあの蘭も困惑の表情を出していた。ひまりが言っているのはこの時の蘭だ。
「でも、蘭ちゃんの勘違いで良かったよ」
「納得行かない」
「でも、蘭、藍斗さんはずっとこんな感じらしいから諦めた方が早いぞ。ほら」
藍斗さんから事情を説明され、蘭が顔を真っ赤にした場面であのシーンは終わる。
楽屋に戻った今でも、冷静になった蘭には性格が邪魔をしてなのかまだ怒りは収まっていない。
アタシはスマホの画面を見せた。
「ともちーん、これは?」
「蒼真先輩から」
「え~と………蒼真先輩も苦労してるんだね………」
画面を覗き込むひまりとモカ。
先程届いた蒼真先輩からのメッセージがそこに表示されている。
内容は簡潔に纏めると、藍斗さんがややこしい言動で迷惑をかけてしまった。すまない。ライブは存分に楽しんでいこうっと言った感じだ。
初めは興味津々と眺めていた二人だが、段々と別の方向に興味が移る。
「にしても、巴、蒼真先輩とよく連絡取り合ってるの?」
「まぁ………程ほどに?」
「まさか、トモちんが………!!」
「な!?そんなに驚くことでもないだろ!!」
二人にはアタシが蒼真先輩と連絡を取り合っているのが意外と思われたらしい。
遠慮がちに蚊帳の外から顔を出してきたのはつぐであった。
「皆、何の話をしてるの?」
「つぐさん………これですよ、これ」
悪い商売人の如く、つぐの懐へ潜るモカ。
今日のモカはいつにもまして色んなキャラが飛び出してくる。
「え!?巴ちゃんが!?」
「モカ?」
「へへへ」
「はぁ………つぐ、モカに騙されないで。まだ決まった訳ではないから」
「そうなの!?」
「蘭、そのフォローもあんまり意味ない気がするよ………?」
賑やかになる楽屋。
普段通りの光景に戻り、アタシはほっとしていた。嫌な胸騒ぎも杞憂に終わりそうで良かった。
良かったはずだった。
―――この時のアタシ達はまだ知らない。
「Aftergrowの皆さん、準備お願いしまーす!!」
―――スタッフから声がかかり、ステージへと向かうアタシ達にまさかあんな試練が待ち受けていたなんて。
◇◇◇
本番。
「………ありがとうございました」
曲が終わり、一言。
だけど、ステージへと返ってきたのはパチパチと鳴る疎らな拍手のみ。
―――蘭………。
ドラムに囲まれた巴はボーカルとして信頼を一番に寄せる背中を見つめていた。普段なら逞しいと思えるその背中も今は淋しく見える。
観客からも一切声がなく、巴を含めたメンバー全員が展開の行方を黙って見守ってしまう。お陰で静寂な空間が出来上がってしまった。
この雰囲気になった原因は単純明快。
序盤は順調そのものだった。此処のライブハウスではガールズバンド自体が珍しく、観客の盛り上がりも中々の掴み具合いの中でライブがどっと進んだ。
問題は3曲目"ScarletSky"の途中。
二番のサビに突入した瞬間に、ベースのひまりに異変が起きた。
―――ベースの音がまったく出なくなったのだ。
故障か、もしくはアンプとの接続が悪くなったのか。はっきりとした原因は分からない。ライブで経験したのは初めての異常事態であった。
当事者である焦ったひまりはパニックに身を任せて、思わずやってしまった。音量を下げずにシールドを引っこ抜いてしまったのだ。
この行動がどう影響するかは一目瞭然。アンプから繋いでいたシールドを音量等を元に戻さずに抜くと、耳が痛くなる大音量のノイズが発生する。
それはバンドの音を遥かに凌駕した。
そして、背後から襲ってきたそのノイズに他のメンバーも驚いてしまう。
完全に演奏が止まってしまった。
『アクシデント発生!!』
待機していたスタッフが数名対応に走る。
まさかのトラブル。不安からどよめきも聞こえてくる。
不幸中の幸いなのか、再びアンプに繋ぎ直したベースはまた息を吹き返すことに成功した。
『ひーちゃん、どうしたの~?』
ここでモカがMCを開始した。
誰からの合図でもなく、本人の意思でこの時、モカはマイクに近づいたのだと思う。
モカのマイペースを存分に活かしたMCはこの場ではとてもありがたかった。軽くやらかしたひまりを弄りつつも、モカは場を繋いでいく。
―――やがて、ライブが終了する。
途中で災難に見舞われつつも、Aftergrowはライブをどうにか全てやり遂げた。
ただ………途中で起きたハプニングに持っていかれた盛況は一気に鳴りを潜め、最後まで戻ってくることはなかった。
◇◇◇
ステージ前。
「蒼真先輩………」
巴はステージの下から見上げる蒼真へと近寄った。
Aftergrowの出番は成功とは程遠い、失敗に近い形で終わってしまった。それは彼も承知の上のはず。
後手に回ったアークラは巴達の気持ちも露知らず、容赦なくライブで大いに観客を沸かせることに成功していた。
「ん?どうした?」
「今日はすみませんでした………」
巴は頭を下げる。
トラブルで沢山の人達に迷惑をかけてしまった。ライブ会場の士気をその行為で多いに冷めさせてしまい、後続のアークラにも少なからず悪影響が及んでしまった。
何より同じメンバーとして、巴はあの時、何も出来なかった。咄嗟の対処にモカは喋りで、蘭は最後まで歌いきり、つぐみは全力で合いの手をやり遂げた。
巴だけが恐る恐るドラムを叩いた。変わったのは限られた人のみしか気づかないであろうほんの微かな音の表現力。
次のトラブルの標的が自分かもしれない。そんな予感が脳裏をよぎったせいで。
悔しさと罪悪感が巴の心を包んでいた。
故の謝罪であった。
「何が?」
ところが彼は首をかしげた。
嘘でも冗談でもない、彼の純粋な疑問から飛び出た仕草であったと巴は思った。
「アタシ達のライブでアクシデントがあって………蒼真先輩達にも何かと迷惑をかけたんじゃないかと………」
「あーあれね。お前達が迷惑をかけたなんて、そんなことは無いから。確かにスタッフ達は慌てたかもしれんけど、ライブにアクシデントなんて当たり前なんやしあんな些細な失敗で気にすることはないね」
「ですけど………」
「巴はライブの醍醐味って何やと思う?」
「醍醐味………ですか?アタシにとってはバンドメンバー五人が一つになれる瞬間………だと思います」
「うん、確かにそれもある。でも、俺が出す答えはちょっと違う」
蒼真はステージに目を向けた。
「俺はライブの時にしか観れない景色を観たいんだ。オーディエンスが揃って腕を振ってくれる、俺のドラムに手拍子をノリノリで打ってくれる、とか。その場所の、その時にしか映し出せない景色を俺は楽しみにしとる」
そして―――
「アクシデントもまた俺からしてみれば一興だな。昔よりはだいぶましになったけど、俺らもトラブルなんてもんは今でもよくあるし。ルーズのギターの弦が切れまくってついに口笛でメロディーを奏で始めたこともあったな。藍斗のマイクが不調で壊れて、結局マイク無しで歌いきったライブもやった。
どれも生のライブだからこそ生まれて観れた。スタジオに引き込もって練習するのもいいけど、俺はライブならではの臨場感が好きやから、ドラムを叩いていて………喋りすぎたな」
「そんなこと無いです………アタシには少し難しいですけど」
「どうして?」
「今日、はっきりと痛感したんです。いざって時に何も出来なかった自分を。今、振り替えると、後悔や反省ばかりで………アタシにドラマーは向いてないとさえ思うように………」
アクシデント発生時。巴は何もしていない。否、出来なかった。
あの時、演奏が止まった時、観客の目が一挙に全身を巡るように感じとれるようになり、思わず背筋がぶるりと震えた。
恐怖とさえ思えるあの空間に巴は怖じ気づいてしまい、気付けば時間はあっという間に過ぎていった。
―――無力。お前は無力だ。
脳裏を過る言葉。幼馴染の集う場所として結成されたAftergrowのドラマーとして、本当に居ても良いのだろうか、なんてさえ邪な考えもポツリ、ポツリと。
「そんなもんやろ」
彼はそう言い放つ。
「俺と光は経験が特殊やから参考にならんけど、トラブルに初めから冷静に対処出来る奴はほんの少数だ」
巴は思った。彼に励まされてばかりだと。
いや、この彼の甘えに漬け込もうとしている自分がいることに気付いた。
「それに無理して巴が頑張る必要もないぞ」
「え?」
「今日みたいなのがまた起きたとしても、得意な奴に任せればいいやん。モカとかちょうど得意そうやし任せてみてもノリノリでこなすぞ、あいつ。まぁ端から見れば、無責任かも知れんけど、巴には巴だけしか出来ない役目もちゃんとある。最低限、それだけでも完璧にこなせば、誰も文句だけは言えないしな。なんなら、俺が言わせなくしてみせるぞ?」
「………それで本当に良いんですか?」
「あぁ。ドラムは楽器隊の一つ。バンドの音を支える。俺達の役目はそれだけ。後は全力で楽しむのみに神経を費やす………なんてね。これ、俺の持論。要するにさ、巴―――」
「はい」
そして、蒼真は優しく笑った。
巴にとって彼の言葉は忘れられない大事な言葉として刻まれることになった。
「ちょっとぐらいの失敗で落ち込む役目なんてのは残念ながら無いんだ、
―――余談。
「因みに票数はどうなったと思う?」
「アークラが圧勝………でしょうか?」
「んや。俺らが勝ったのは正解。でも―――」
「え?」
「僅差での勝利だ。ここまで追い詰められたのはマジで久しぶり。うん、とっても楽しかった」
「信じられないです………どうしてでしょうか?あんなことがあったのに………」
「だからこそだよ巴、ライブって奴はこういうのがあるから面白いんやないか?」
巴編-2-『ライブ対決』 終
*(2018.07.27)今更ですがUA数50000、お気に入り数300件突破、ありがとうございます。
『ホ・ソ・クッ!!』
・勝負の行方
→アークラが僅差で勝利。
アフロのライブはトラブルがありつつも、動揺せず歌いきった蘭の不動の歌声に心を打たれた者が多数続出したお陰で票数が伸びた。
またアークラ側もいつもは蒼真が担当のセットリスト、光が担当の演出も藍斗が代わりに担ったせいでいつもと違ったニュアンスになり、戸惑った人も多かったのが原因の一つに挙げられる。
怒濤のように話が進んで終りましたが、蘭と藍斗よりもメインは巴と蒼真なので二人以外の場面は省略ぎみに(適当に)進んだ結果です。
・ひまりのその後
→楽屋で一泣き。その日は反省心に押し潰されながも、次の日にはすっかり元通りになるというポジティブさを存分に発揮していた。
・巴の後悔
→今回のライブで顕著に巴が感じたのは己のアドリブ力のなさ。
とは言っても、トラブル発生時に咄嗟に動き出せるのは至難の技に近い。
ライブは経験がものを言う世界。誰にも何が起きるのか分からない世界。
だから、楽しい。
*リクエスト募集中。詳細は活動報告に。