感想などもお待ちしておりますので、ガンガン送ってくださいな。
◇◇◇
羽沢珈琲店。
「それは一つの物語として完結しているんだ」
ルーズはきっぱりと告げた。
曲において、作る側が最も伝えたい思いを込めるのは必然的に歌詞となる。
それは言葉だからこそ相手に通じる唯一無二の手段であるからだ。歌詞を紡いだ声は真っ直ぐ聴く者の心へ届けられる。
蘭もまた歌詞への思い入れは強い。
いつも通りの日常で描いた当たり前の気持ちやふとした悩み。見えてそうで見えない部分もちゃんと正面から言葉にする。
故に正面突破の王道とも言える音楽性が生まれ、さらに五人の演奏がそこに加わることで融合の過程を経て、"Aftergrow"の良さが誕生するのである。
「物語?ストーリー?」
「うん。一曲の歌詞が一つの短編小説になってるって言えば良いのかな」
「た、確かに………言われてみればそんな風に見えてくるかも………」
「つぐみ?それは?」
「えっ?あっ、歌詞カードだよ。何か参考になるものがあると良いかなって昨日準備しておいたんだけど………」
「どの曲かな?ミスつぐみ、見ても良いかい?」
「うん。はい、どうぞ」
一つのメモをルーズが受け取る。
視線を隅々まで動かした彼はそれだけで満足したらしく、すぐにそのメモはつぐみに返却した。
「その曲も確か、一つの物語があったはず」
「つぐみ、アタシも見せてもらっていいか?」
「………アタシも」
「なら、テーブルの上に置いておくね」
テーブル中央に置かれたメモ。
メモに記載された文字の数々を巴と蘭は読み進めていくがその表情は曇りがちになりつつある。
分かりにくい。否、巧妙に錯乱させていると言った方が正しい。
「基本的に歌詞の解釈に正解という定義はないよ?蒼真本人も人によって見えてくる物が変わるように作詞してるって言ってたし」
「これは………蘭には無理だな」
「余計なお世話」
「蘭ちゃんの歌詞も私、好きだよ!!」
つぐみが謎のフォロー。
「………ありがと」
「本題に入るね。まず前提として、これから話すのは僕の単なる仮説だというのを把握しておいて欲しい。そして、聞いてもあまりいい気持ちにはならないとも」
「それって………」
「少なくとも蒼真がこれまで書いてきた歌詞全てに通じる話なんだけど………ハッピーエンドで終わる曲はゼロ。バッドエンドが殆どを占めるんだ」
悲しい結末。
歌においての大半は自分の心情や誰かへと向けた応援メッセージ等が占める。ごく稀に最悪な印象を裏付ける歌も存在するが、世間一般的には楽しく、ちょっぴり切ない雰囲気の曲が好まれる。
蒼真はそういう曲を作るのが苦手。
自分の気持ちを素直に吐けない彼は新たに唄を物語の舞台に引き上げ、そこに第三者の主人公を確立させて代弁させるのだ。
「その曲の場合だと………人間を駒として、この世界自体を一つのゲームで楽しむ神々のストーリーがメインだね。よくある設定のように思えるけど―――」
ルーズが歌詞の一つを指差す。
「―――ここ。人間の自殺ですらも神様は単なるNPCの選択肢の一つとしてしか見ていない。加えて、曲の終盤にはゲーム自体に飽きたのか、世界そのものもあっさりと切り捨ててしまったという神の残酷さも見てとれるかな」
「よくよく見てみると………酷い世界線ですね」
「こんなの序の口だよ。怖いのはこれが現実に起こり得そうな所にあるんだ。だからこそ、曲も曲として成り立つのだけれど………」
「どういうことですか?」
現実に起こりうる。
つまり、それは我が身に降りかかる出来事へと変貌する可能性が少なからずあるということ。
蘭は率直に尋ねる。
その蒼真の秘めた真意と自身の感じた思いを照らし合わせる為に。
「簡単に説明するね。この世界では、神様は人間を道具として扱っており、いくら使おうが神様自身は人間を単なる消耗品程度にしか見ていない………ここまではOK?」
「はい」
「巴ちゃん、大丈夫?」
「さ、流石に分かるぞ………」
「一人怪しいけど進めるね。さっき言ったけど、僕達にもこの考えは適応されるんだ。具体的にはそうだね………食物とか」
「大体は理解した。でも、納得は出来ない。それとこれとは完全に話が別でしょ」
ルーズのヒントに蘭が食らい付いた。
真っ先に反応したのは他でもない巴だ。ただし、不思議そうに首を傾げている。
「………ん?………え?」
「巴ちゃん落ち着いて!私もあんまり分かってないから!」
「いや、つぐみこそ落ち着けよ」
はっ、としたつぐみ。
困惑して慌ててる様子は全くない巴は見事に冷静なツッコミを返した。
「納得するかどうかその人次第。蒼真はただひたすらに自分の気持ちを歌詞に込めてるだけだよ。僕に言われても、ね?」
「っ………そう、ですね。すみません」
「蘭ちゃん………」
蘭が押し黙った。
ここでどれだけ反論を述べようと、当事者でないルーズには無意味と化す。気持ちを冷静に落ち着かせた蘭も理解した。
「とまぁ、ここまで歌詞作りの観点から僕なりの解釈と言うか、考えを言ってきた訳だけど………そもそもの前提として言い忘れてた事が一つ」
席を立ち上がったルーズ。
その場にいた全員の視線が集まる緊張の中、ルーズはゆっくりとその口を開く。
「僕達"アークラ"は恐らく君達"Aftergrow"とは真逆の精神を持ったバンドだ」
「へ?」
「いつも通り………その言葉を柱に活動してるんでしょ?」
「は、はい………」
「アークラは違う。むしろ、いつも通りという言葉を毛嫌いするかもしれない」
「どうして………でしょうか」
普段なら怒りの感情も芽生えたかもしれない。
だが、ルーズの険しい表情からその真意はまた別にあるかもしれないと悟った蘭は恐る恐ると質問を聞き返した。
「平凡な日常の破壊………それがバンド結成当初の目標だったんだ」
まだまだ続く。
「ただただ普通の毎日を友達とバカやって過ごすってのも悪くは無いんだけど………でも、ふと何気無く誰も見たことない景色を求めてしまったってのがバンド結成の切っ掛けかな」
「それは………分かるかもしれないです」
「巴?」
蘭の予想に一番遠い巴が反応した。
「それは―――」
「はぁぁーい!!ちょっとまったぁ!!」
「ひまり!?」
ひまり、唐突な乱入。
いきなりの大声にびっくりした蘭の威圧気味な視線を受けつつも、ひまりは元気よく主張する。
どこが、とは言わない。
「暗い話ばかりでつまんない!もっと楽しい話をしようよー!」
「ひまり………時と場合を考えてくれ。今はそういう―――」
「あっ、僕は新作のケーキ一つで」
「えっ!?か、畏まりました!すぐにお持ちしますね!」
先程までの緊張感が嘘の如く霧散。
ルーズはつぐみにオーダーを頼み、注文を受けたつぐみは意気揚々とキッチンへ行ってしまった。
新作のケーキは確か、つぐみの自信作だったので味の感想が貰えると嬉しくなったのだろうか。
「蘭も何か言ってくれ!」
「つぐみ。私もいつものをお願い」
「はーい」
「………そんな」
味方が消えた巴。
そんな哀愁漂う背中にそっとモカが近寄り、手を置いた。
「ともちん、また今度~」
「この私の中のモヤモヤはどうすれば良いんだ………」
またしても、ひまりが挙手。
「折角なので、ルーズ先輩に色々と聞いても良いですか!?」
「勿論さ。ガンガン来たまえ!」
「じゃあ―――」
つぐみが居た席に座るひまり。
一休めにと巴は半分に減っていた飲み物を口に含んだ。
「蒼真先輩って付き合ってる人は居るんですか?」
「―――っ!?ごほっ!?ひまり!?なんて事を聞くんだ!!」
あまりの展開に喉をつまらせた。
「え~。だって気になるもん。蒼真先輩、バンドの中だと一番モテそうだし」
「そ、そうなのか………?」
「嘘っ!?巴、知らないのっ!?蒼真先輩って、普段はクールなのにドラムを叩くとカッコいいでしょ!そのギャップが堪らないって女の子、案外多いんだよ?」
「………何?巴、もしかして狙ってる?」
「いやいやいや!!なんでそうなるんだよ!?」
話路線は徐々に恋ばなへ。
「ずっと気になってたんだけど、巴って蒼真先輩の事、好きなの!?どうなの!?」
「近っ!急にそんな事言われてもなぁ………」
「有りか無しかでは~?」
死角からまさかのモカの援護射撃。
「あ、有り………なのか?悪い人では無いし………」
「モカ!これは!」
「え~と。これは事件性ありですな」
「確保!」
問いに問い詰められた結果。
巴がどういう解答をしたのか、後はご想像にお任せしたい。
◇◇◇[おまけ!]
「お待たせしました~。こちらが新作のケーキとなっております」
「ありがとう、ミスつぐみ。ところでさ」
「はい?」
「いつになったら、質問の答えをさせて貰えるのかな?」
「質問ですか?どんな内容の?」
「一言に纏めるなら、蒼真に恋人がいるか否かって感じ。まぁ居ないんだけどね」
「そ、そうですか………!!だとしたら、ルーズさんは………」
「うん?」
「失礼しました~!!」
-4の2-『本音魂』 終
*星四、最近特に全くあたりません………
『補足シリーズ』
・「人間を駒として、この世界自体を一つのゲームで楽しむ神々のストーリーがメインだね。よくある設定のように思えるけど―――」
→実際にあります。めっちゃ有名なバンドの曲をモチーフとしてますので、分かる人には分かるかと。
・「はぁぁーい!!ちょっとまったぁ!!」
→ぶっちゃけ、難しすぎて話に飽きてたひまりさん。言い換えれば、作者もこれ以上の解説は諦めたとも言う。
と同時に、アークラとアフロの音楽に対する姿勢の違いの話もまた次回に引き継ぐ事になるかと。
・最後のおまけ!
→ルーズメインの作品も近々公開予定です。
ヒロインは決まってますが、この子がヒロインの話も読みたいと希望があれば是非メッセージを送っていただければ検討します!