でも………金がぁぁぁぁぁ。
◇◇◇
スタジオCiRCLE。ステージ前。
「ちょっ!?何もそこまではっきり言わなくても………」
彼の一言に時が止まった。
直ぐ様、リサが少しでも反論をしようと試みるがそれは出来なかった。
何故か。それはリサ以外のメンバーが一斉に顔を伏せたからである。
「まだ自覚があるだけましやな」
「えっ………皆………」
「はぁ………やっぱり、ベースだけか」
先程の演奏はいつも通り。そう感じていたリサにとって、今の状況は予想外過ぎる展開である。
「取り合えず、一つ目。これは各パートごとに違うから順に言うわな」
後頭部に手を当てた彼が言う。
「まず、ベース。特にサビまでの入りで、もたついてるのが気になる。加えて全体的に音のバランスが悪い。次から音の強弱を意識すること」
「え?分かったけど………」
そして、次。
「ギターさん。序盤と終盤で勢いが変わりすぎ。最後らへんで集中力切れてる感じが、あんまり良くないからそこを直すこと」
「………はい」
「キーボード。毎回の入りが少し遅い。緊張してるんやと思うけど、それが逆に悪い意味で目立つから注意な」
「………分かりました」
「ドラム。スネア、バスドラの叩きが弱すぎる。それとリズムキープが全然出来てないな。アウトロでゆっくりなりすぎだ」
「うん」
「そして、ボーカル。でも、ボーカル自体は専門外だからそこまで気にしなくて良いんやけど、素直な感想としてはそうやな………覇気がない。前回のお前らのライブをちゃんと見たわけではないんやけど、それでも分かる。覇気が無さすぎる」
リサの不安な瞳が友希那に注がれる。
「まぁここまでは正直どうでもいいんやわ」
「えっと………どういう意味かな?」
「ぶっちゃけ、こんな細かい指摘は自分のバンドでも滅多にせぇへんし。これほど演奏に注目したのもお久しぶりレベルやな」
「つまり、それをしてくれたのは私達"Roselia"だからって事?」
「そう。お前ら、巷では本格派の実力バンドって言われるほどやぞ?直々に本人の頼みとあらば、やらない訳にはいかんやろうし………でも、その前にさ、一つ確認な。お前ら」
ーーーバンド………舐めてんの?
その瞬間、リサに衝撃が走る。
一体、何が原因で彼をそこまでさせてしまったのかが分からない。何より、他のメンバー四人が今の言葉をすんなり受け止めていることが不思議で仕方がない。
「ごめん、ベースさん、名前なんやったっけ?」
「私?"今井リサ"。リサって呼んでね」
「………リサだけが合格範囲内だ。他の奴らはぎりキーボードが圏内に入るか入らんか。それ以外は論外」
黙って、唇を噛み締める友希那のその姿にリサは何も言えなかった。
「次から二つ目に入る。ひとまず、分からん事が多すぎる。少なくとも合同ライブの時のお前らは文句なしの最高のライブをしてた。でも、さっきのは今までのRoseliaとは断然大違い。観客に音楽を舐めてんのかって思われても当たり前レベルの演奏やったぞ」
今の彼は怒っている。
そう感じれている余裕があるのもリサだけかもしれない。
それほどまでに彼女達は追い詰められていた。
「何をそんなに焦ってんの?」
友希那と紗夜がそれに反応した。
「焦ってなんていないわ」
「そうです!私達はもう十分ーーー」
「実力はあるってか?ほんとか?」
「「………」」
黙りこんでしまう二人。
「確かに、特にお前ら二人の上手さは凄いわ。認める。生半可な努力じゃ、その上手さに追い付くのは無理やろうね。でもね、そんなもんはな、残念なことにそこら辺探せば何処にでもおるもんなのよ」
リサもそれは知っている。
楽器の上手さだけ見れば、世間には有り余るほどの実力者がごろごろしている。その中で勝ち残る必要があるのがRoseliaのこれからの宿命とも言い取れる。
悪く言えば、その世界を目指そうとする人物が直ぐに辿り着いてしまう嫌な現実でもある。
「上を目指してんのなら、今のままやと全然やね。というよりか、もうその壁にぶち当たって止まってるって感じか」
「………えぇ、その通りよ。いくら練習しても私達がバンドとして前進していると思えないの」
「そりゃそうでしょ。俺でさえ分かる程なんやし」
「恥を偲んでソウに頼みたいの。Roseliaがその先の一歩を歩むにはどうすれば良いのかを」
「だーかーらーそれが駄目やねんて」
「………???」
理解不能とばかりの反応を示す友希那。
「ほんとに分からんの?あの姫様が?」
「むぅ………」
こればかりは蒼真本人も手助けを出せない。このままでは相当な時間がかかるだろう。
というより、もう身近にヒントとなる存在がいるであろうに。友希那と紗夜は気付いていないようだ。
「まぁいいわ。次、キーボードさんとあこちゃんね」
「は、はい………」
「はい」
楽器の前で萎縮する燐子。
そして、あれほど真剣な顔でいるあこの表情をリサは初めて見た。
「二人の場合、演奏中にだけ、恐れを感じた。これは俺の予想やけど、自分のミスやそれによって引き起こされる何かに恐れてる気がする。さっき俺が指摘した箇所も根本的にはこれが原因やろうな」
「それは………」
「事情を知ってる俺だからある程度納得はできるけど、ライブ本番でそんな態度が通用するとは思うなよ。そんなに自分が弾くことに恐れをなすんなら、バンドを辞退した方がよっぽどまし」
「蒼真先輩………っ!!」
「だからって無理してやりきれ、とまでは言わん。流石に俺もそこまで鬼野郎じゃないし、音楽の世界においてそれは邪道やからな」
燐子とあこ、そしてリサはオーディションという形でRoseliaに志願して、認められ、加入が決まった。
リサは友希那の幼馴染みという立場上、燐子、あことはまた違った気持ちでオーディションに望んだので二人の心情ははっきりとまでは知らない。
最後に告げた彼にあこが激しく動揺するその理由も、リサには理解できなかった。
「後は………言わなくてもええか。さて、リサさん」
「うん、何?それと、"リサ"でよろしくね」
「リサさーーー」
「リーサ!」
「………リサ。これ以上俺がいても意味がないからもう帰るわな。大丈夫、まりなさんには帰り際に来てもらうよう言っとくから、すまんが後の事は任せても構わんか?」
「色々とやっちゃった感がプンプンするんだけど………分かった。後は任せて」
彼は静かに此処から去って行った。
パン!、と鳴り響くリサの一括。
「さて、皆!次、何の曲やろうか?」
バンド全体を見渡し、リサは思う。
ーーー随分と踏み荒らしてくれたね、ソウ………と。
◇◇◇
スタジオCiRCLE。
「それでRoseliaがあんな風になっちゃってたのね。あの時は本当にびっくりしたわよ」
「………その件についてはホント申し訳ないです、はい」
数日後、俺はまりなさんからあの日の状況説明を求められた。隠す理由もないのですんなりこと細やかに話す。
あの日を逃げるように去った俺は正直、彼女達に対して言い過ぎた感も拭い切れなく、神妙な心持ちで過ごしていた。
とまぁ、想像ついてしまうが、彼女達とはそれっきりまったく出会ってない。
「蒼真君、それほど気にしなくても良いと思うよ。彼女達なりにも思うところがあったみたいで練習にもこれまで以上に精が出てるわ」
「やと良いんですけどね」
まりなさんとの世間話も俺の個人練習終わりに毎回しているが、こんな俺を心配するような事を言われたのは初めてです。
「蒼真先輩!」
と、背後から元気な少女の声。
黒髪のツインテールに真っ直ぐこちらを観る紫陽の瞳。
スティックケースを右手に持っている。
「お、久しぶりやね、あこちゃん」
「はい!一週間ぶりですね!蒼真先輩!」
満開の笑顔を見せてくれるあこ。
「あこちゃんも練習帰り?」
「そうです!あ、まりなさん、次のスタジオの予約をしたいんですけど大丈夫ですか?」
「勿論、大丈夫。ちょっと待っててね」
まりなさんはスタジオの管理を記入する用紙を取りに奥へと行ったようだ。
あこと二人きりになる。無言で待つわけにはいかないので。
「最近のドラムの調子はどう?」
「調子ですか?バッチしです!………って言いたいんですけど………蒼真先輩に言われたことに届くにはまだまだ先の話です………はい」
「そうかぁ。やっぱりあの時は正直に言い過ぎたよな………すまん」
「え!?いえいえ!!いえいえ、ですよ!!先輩!!」
猛スピードで首を横に振るあこ。
「蒼真先輩に言われてRoseliaの皆さんも練習により励むようになったんですよ!あ、今まで練習してないとかじゃなくてですね!雰囲気が変わったというか………兎に角です!」
「………ありがと、あこちゃん」
懸命に話すあこ。
そんな彼女の姿に俺は無意識に彼女の頭に手を置いていた。
「えっ………あっ………はい………」
ゆっくりと彼女の頭を撫でる。
あこ本人はこれを大人しく受け入れている事から嫌ではないようだ。
「あこちゃんはまだまだ上手くなれるか可能性を十分に秘めてる。もしもやけど、困ったことがあったら、すぐに俺に相談してくれて構わんからな」
「………ありがとうございます」
「こんな時間か。俺、もう行くわな」
「あっ………」
俺は彼女の頭から手を離す。
名残惜しいような声が漏れ聞こえた気もしなくもないが触れないのが吉だ。
「んじゃあ、またね、あこちゃん」
「蒼真先輩、お疲れさまでした!」
後輩の挨拶を最後に俺はスタジオを後にした。
今回の件を通じて、俺がRoseliaにどう影響を与えたのか。今は分からずともいつかは分かるはず。
その時が来るとなれば、そうだな。ライブで魅せてくれる彼女達の本気の音楽を通じてだと良いな。
◇
スタジオCiRCLE。受付前。
「おまたせ~。あれ?蒼真君は?」
「蒼真先輩ならさっき帰りましたよ?」
「えー蒼真君もついでにスタジオの希望教えてほしかったのに。もぅ」
「どうしてです?」
「あれ?あこちゃん、知らないの?蒼真君が個人練する時間。スタッフの間ではちょっとした名物よ」
「い、いえ。知らないです………」
大体、二時間、一時間が相場。それ以上だと、からだ全体に疲れが来てしまう。
でも、彼の場合はそうではなくて。
「………六時間よ」
「ふやぁい!?………流石、蒼真先輩、凄いです………」
「あ~、あこちゃん。あのね?蒼真君含めてあのバンドは特殊過ぎるから参考にしない方がーーー」
「あこ!絶対に負けないです!」
「………聞いてないわね」
宇田川あこ編-1-『最強のドラム』 終
もうそろそろ-4-の予告編もだすつもりです