平成最後の冬でもあります。病気には気を付けて、過ごしましょう。
評価、感想、お待ちしております。
では、どうぞ。
◇◇◇
リビング。
「お兄ちゃん………行っちゃうの?」
ぐさり、と刺さる兄心。
純真な上目遣いからのうるうると揺れた瞳。祈るように握られた両手。
これ程妹のもとを離れる兄にとって、心苦しい物は無いだろう。
「………85点」
「やったぁ!!最高得点だ!」
チャレンジャー、あこ。
見事に妹要素全開の究極コンボを繰り出し、先行の悠希の点数"80"点を上回る。
事の成り行きを見守っていた悠希も雲行きが怪しい表情になっている。
第二ラウンド―――"妹台詞対決"。
妹として兄を陥没させる台詞を実際のシチュエーションと共に放つ。それを審査員が百点満点方式で採点するだけの物。
先攻の悠希はエプロン姿で「兄さん、晩ご飯が出来ましたよ」と家庭らしい一面をアピールに挑んだ。
俺としては正直ぐっと来るものがあった。でも、一応審査員としての友希那がこの一言を溢す。
『妹よりも、どちらかと言えば………奥さんじゃないかしら』
そして、悠希自身もそれを認めた様子。
悠希は歯を食い縛り、悔しそうな態度をするがこれと言った反論は出来ずじまい。
今回のテーマはあくまで"妹"。意図がずれてしまえば、減点対象となってしまうのは仕方がない。
「もう一回です!」
「良いよ~。それでも、あこの点数は越えられないから!」
「くっ………!!今すぐに立場を逆転させてやります………!!」
両者の承認により、続行。
再び悠希のターンとなる。
口元に手を当てて思考に浸る悠希はじっと考えてから何かを閃く。
「兄さん」
「ん?」
「少し寝てもらっても良いですか?」
「寝る?良いけど」
「向こう側に向きながら」
「こう?」
「はい。それと私が何をしても最後まで起きないでください」
―――何されるんだろう。
変な期待に胸を膨らませる。
ソファにあったクッションを枕代わりにして、俺は床に寝そべる。
「では、始めます」
宣言をする。
ここから採点の基準となる。また、あこの関与も無駄な行為と見なし、反則とされる。
「お兄さん、朝ですよ」
そう言い、俺の肩を揺らす。
なるほど、早朝の時間帯をシチュエーションに選んだようだ。
寝坊気味の兄を起こす妹。うん、いい。
「全く………いつも起きませんね」
そりゃあ、そういう指示ですから。
すると悠希は何を思ったのか、ごそごそと動き出す。俺は背中を向けているので、見えない。
「はわっ!?」
あこの驚愕した声が聞こえる。
お陰で不安が一気に募る。と、背中に謎の密着した感覚が現れた。
これは、一緒に寝ている………?
ぼそっと耳に届いたこの台詞。
「ふふ………お兄さんの匂い………」
ヤバい気配がした。
己の意地とかつてない悪寒に俺は堪らず、上半身を上げてしまう。
「あっ………」
「悠希?何しようとしてんだ………?」
「兄さんに抱き付いてました」
「まさかのストレート返球」
「ダメ………だったでしょうか?」
悠希にとって渾身の演技。
うるうる、と彼女の瞳が等しげに揺れる。やはり、兄という生き物は妹に弱かった。
「………89点」
「やりました………!!」
ぐっと拳を握る悠希。
兄妹だから可能とされる至近距離のスキンシップ。高得点にならない訳がない。
「あこもやる!」
「あ~そうやな。そう言えば、あこの番もあったな………」
「ソウ兄は立ってて!」
既にあこの脳内ではプランが構築されているようだ。迷いなく、シチュエーションに近付ける為の指示を出していく。
俺は他に指示もなかったので、棒立ち。
「じゃあ、行くよ!」
ここから他人の関与は受けない。
何が来るんだろうと推測していると、あこはいきなり突撃してきた。
―――
「うひゃい!?」
「お兄ちゃん!!あこ、今日のテスト満点だったよ!!」
満面の笑み。
そして、何かを期待する視線。台詞と差し出してくる頭から要するに撫でろということだろうか。
「お、おう………頑張ったね」
「うん!!」
「………で?」
「ぎゅー」
あこが力強く抱き付いてくる。
ぐりぐりと頬を俺の胸元に押し付けてくるのだが、正直訳が分からない。
甘えたがりな妹という解釈で良いのだろうか。
「あこ、引っ付きすぎよ」
「え~!!友希那さん、良いじゃないですか~」
「駄目よ。Roseliaとしての自覚をしっかり持ちなさい」
「そんなこと無いです!!ですよね、ソウ兄?」
「あん?うん………どうだろうな………」
確かに有り寄りの有りだけど。
友希那の強制中断で不満気味のあこがそのまま俺に向けて来た。
「今のあこのは何点ですか!?」
「えっ?そ、そうやな………」
俺が点数に迷ってる、その時であった。
「………?」
ぐすっ、と漏れた鼻水音。
まさかと思った俺はそちらに視線を向けた。状況を鑑みて、思い当たる可能性を脳内に浮かべながら。
そこで見た。悠希が涙目になっていた。
彼女が涙を浮かべる明確な理由は分からない。単なるあこへの嫉妬か、はたまた俺自身による何かに原因があったのか。
「悠希………?」
「泣いてません」
「えっ?そうは言ってもさ」
「………泣いてへんもん」
頑なに言い張る妹。
これが単なる悠希の意地なのは理解していた。泣く行為はあこの手前、敗北を認めたと同義であるから。
昔から悠希は泣き虫だった。
俺と同じ関西弁を使う。そのせいで同級生にからかわれ、毎晩俺のベッドに潜り込む時期もあった。
中学生に進級と同時に、話し方も一新。お陰で泣き虫癖は鳴りを潜めたと思っていた。だがこの通り、人間の本質はそう簡単には変わらないらしい。
「あこ、ちょっとごめんな」
「あ………はい」
あこも素直にどいてくれた。
俺はソファから立ち上り、悠希の前へと歩み寄る。その間も彼女は視線すら合わそうとしない。
ゆっくりと優しく彼女の頭を撫でる。
「これが只のゲームだってのは悠希も分かってるやろ?」
「………」
「そんな落ち込まんでも。心配せんでも、俺の妹はずっと悠希。それだけは絶対に変わらない」
「………分かっとる」
「だったら何で泣きそうになってるんだ?」
「………分からん」
首を横に振りながら答える悠希。
悠希も気持ちの整理が追い付いていない。
突如襲来した謎の妹もどきに自分の好きな兄を持っていかれたなんて事態、誰が想定しておくのだろうか。
「私………部屋に戻ります」
そう告げ、悠希はリビングを後にした。
「ソウ先輩………!!あこ………!!」
「気にせんでええよ。あんな悠希も久しぶりに見たし、その度にすぐ元通りになっとるから」
「ごめんなさい………」
責任感に飲まれるあこ。
あこが悪いと責めるのはお門違い。些細なすれ違いが生じただけの話。
「あこ」
「友希那さん?」
「飲み物でも飲んで、一旦、区切りをつけましょ」
いつの間にか消えていた友希那。
胸元にはお盆を持ち、コップが四個載せられていた。
ありがたい配慮なのは違いない。
けど―――
―――何処からそれ持ってきたん!?
◇◇◇
玄関。
「ソウ、今日は楽しかったわ」
時刻は夕方。
本題の歌詞作りはさておき、友希那とあこは帰りの支度をしていた。
本人はこう言うが俺としてはちょっと消化不良気味だ。歌詞のアドバイスとか全くしてない。
というか、話題にすら上がってない。
友希那が満足げな表情でいるのだから、多分大丈夫なんだろうけど。恍惚なまでに頬が緩んでる。
思い出し笑いならぬ思い出し緩みかな。
「あこも楽しかったです!」
「そっか………またいつでも来て良いからね」
「はい!」
「言われなくてもまた来るわ」
「姫さんには言ってへんのやけど………猫目当てか。ホント、響の事好きすぎる気がする」
「余計なお世話よ」
友希那の眼光がヤバい。
「それと………あこちゃん」
「はい?」
「今日はあれやったけど………悠希とは今後も仲良くしたってな」
「あっ、はい………でも、あこ、嫌われちゃったかもしれないですし………」
悠希の姿はない。
一度二階のにある自分の部屋へと戻ったきり、再び階段を下りる気配はしなかった。
彼女自身、何か思う所もあったかもしれない。思春期で難しい年頃だろうから、そっとしておくつもりだけど。
―――と、その時。
「あこ、それはあなた次第よ」
友希那の視線の先は俺ではない。
その向こうにある。そして、発言の意図から汲み取ると。
気まずそうにしながらも悠希が玄関にまで足を運んで来ていたのだ。
「悠希?」
俺の問い掛けには反応せず。
悠希は俺の隣に来ると、真っ直ぐに宿敵あこを見つめた。
「あこさん」
「は、はい!!」
「今度は余裕で私が勝ちますから」
「ふぇ?」
そして、まさかの勝利宣言。
予想外の発言にあこも貯まらず府抜けた返事を繰り出した。
「あ、あこだって!!負けないもん!!」
「そうですか。でしたら、次は―――」
―――
運命的な出逢いから相対した両者。
きっと、無理に勝利を選んでまで入手する程には価値がないプライドだったかもしれない。それでも譲れない立場というのがお互いにあった。
今回は中断という形で幕が降りてしまった。つまり、まだ勝負は続くということ。
「
「―――っ!!勿論!!」
そして、昨日の敵は今日の友。
悠希が差し出したその手にあこは感極まりながらもぎゅっと握り返す。
戦果は友情。ライバルは親友。
一先ず、俺は無事に二人が平穏に終わった事に安堵したのであった。
「ねぇ、ソウ」
「ん?」
「最後に響ちゃんを撫でたいのだけど………」
「見事に懲りんな。歌詞の方はいいんか?」
「えぇ………題材はちゃんとここにあるじゃない」
あこ編-3-『疑惑のシスター』終
*お気に入り数400突破!ありがとうございます!
『めっちゃでもない補足シリーズ』
・悠希の兄を起こすくだり
→実際にやったことある。
・何処からそれ持ってきた!?
→A.響ちゃんに教えてもらった。
・悠希の悩める心
→過去にも兄を女の子に盗られたような経験を持つ兄大好きな彼女にあこと蒼真が仲良くしている光景は少々来る物があった。
その後、一人でしっかり考え抜き、あことは一人のライバルとして認めて付き合うに決めたのであった。
・「えぇ………ちゃんと題材がここにあるじゃない」
→これが後の"PASSIONATE ANTHEM"である。………嘘である。