◇◇◇
駄菓子屋。
「ほら、遠慮せずに食べなさい。こんなに暑いと若くても大変だから」
ベンチに座るあことお婆さん。
お婆さんはすぐ背後の店から冷たい物を探すと入店し、しばらくしてから手にアイスを掴んで出てきた。
どうも孫の世話をするみたいに普段から他人の世話好きな性格の持ち主らしい。
「ありがとう!!お婆さん!!」
「元気があって良いこった。さぁさぁ、存分にお食べなさい」
ペロリ、と舌が触れる。
ひんやりとした感触が夏の日差しに照られた身体にはとても心地良い。
美味しそうに食べるあこにお婆さんはシワのある笑顔を浮かべて見守る。
「それにしても、あの子にこんな可愛い友達もおったとはねぇ………」
「………?」
感慨深く頷くお婆さん。
だが、あこには何の話なのか心当たりがない。勘違いという線も有り得る。
「
「えっと………へ?」
「名前が確か………ソウ、だったかしらね?いつも、この時期になると来てくれるのよ」
「はっ!?蒼真先輩の事ですか!?」
点と点が繋がった感覚。
あこはこのお婆さんが蒼真の墓参りに来た今回の件と関係のある人物だとこの時に理解した。
蒼真は元カノの墓参りに来たと言った。
つまり、このお婆さんはその人の保護者的な存在に。
「蒼真先輩は元気です!!あこにも優しくドラムやゲームでも沢山お世話になってます!!」
「そうかい、そうかい。なら、アタシの気持ちも少しは楽になるってもんだよ」
「楽………?」
「孫が亡くなってからずっと彼は独りで勝手に自分を追い詰めていないか、不安で仕方がなかった。あの時、一番悲しい思いをしたのはアタシでもなく、彼だからね」
遠くを見つめるお婆さん。
脳裏に情景を浮かべ、懐かしく描く様子はお婆さんの口から紡がれる言葉一つに刻まれている。
「あこは………蒼真先輩の昔の話は全く聞いてないです………」
ポツリと出たあこの一言。
「ありがとうね」
「ふぇ?」
「アタシには数年前まで姪っ子が居たのよ。いつでも笑顔を振り撒き、元気しか取り柄がない女の子」
お婆さんは語り始める。
初めは不思議そうにしていたあこも黙って聴く姿勢に徹し始めていく。
「元気が良すぎるあまり、周りに迷惑をかけてしまう事も日常茶飯事。アタシが何度注意しても聞く耳を持たずじまいでどうしようか悩んでしまうぐらいにはね。その時だったかな。彼が現れたのは。
彼と一緒にいる時のあの子は不思議と良い子に育つようになったの。あまりにも順調すぎて、不思議に思ったわ。けど、あの子の彼を見る目を見てすぐに分かった。アタシも同じ経験をしていたもの」
「どうして?」
「お嬢ちゃんはしたことがあるかしら?恋」
「恋………恋!?」
「ふふふ、まだこの話は早いかしら?」
「そ、そんなことは………!!」
ぷしゅーとあこの頭上から湯気が放出。
「あの子は恋をしていたのよ、他でもない彼に。女の子はね、好きな人の前では無力なのよ。いつもは騒がしいあの子がしおらしい態度になるのも合点がいったわ。
彼もとても良い子。優しい性格で気遣いも出来る。何より、あの子を見つめる瞳が慈愛に満ちていたわ。
やがて、二人は付き合う事になった。姪っ子の恋愛に部外者が手を出すわけにはいかなかったアタシはその段階に行くだけでもとてもハラハラしたわ。まだまだ歳じゃないってことね」
「あっ………うん」
「でもね、やっぱり恋に試練は付き物。二人の仲は順調だったけど、神様は許してくれなかったみたい。
遺伝性の病気があの子に発症したの。あの子の親も同じ病気で亡くなってるけど、遺伝しちゃって…………あれほど神様を憎んだのは初めてね。アタシが肩代わりしたいぐらい、何度も願ったわ。
でも………あの子は全てを受け入れた。残り少ない人生だと分かっていても、ずっと笑っていたわ。彼もまたそんなあの子の思いを尊重してくれたのね。ずっと最期まで付き添ってくれた。
あの子が亡くなってから、アタシは彼と会う機会を一度も掴めずにいたの。怖かったのね。彼がアタシを顔を見れば、思い出してしまうかもしれないって理由に逃げて」
お婆さんの決断が悪い訳ではない。
むしろ、あこでも共感出来る部分があるだけに単純に彼から逃げてしまったお婆さんが悪役になるとは思えなかった。
「唯一の心配は彼があの子の死を引き摺っていないかどうかだけだった。でも、その様子だと問題はなさそうかしら。むしろ、女の子の墓参りに別の可愛い女の子を連れてきちゃうぐらいだもんね」
「えっと………今日は無理矢理あこが先輩に連れてきてもらっただけで………」
「それでもよ。迷惑かもしれないけど、これからも彼の側に居てあげて。あの子のように気持ちを隠すのが癖になっちゃってるから、きっと何処かで壊れちゃう日が来るかもしれない。その時は支えてあげてくれないかしら?」
「はい!!勿論です!!」
「良い返事ね。これならアタシも心配なく任せられそう」
そして、お婆さんは立ち上がる。
「アタシ、もうそろそろ行かないと」
「えっ?もうですか?」
「残念ながらそうみたい。それじゃあ、最後にこれだけ。彼の事は任せたわよ、あこちゃん」
「うん。任せて、お婆さん!!」
お婆さんは何処かへと歩き始める。
その背中を眺めながら、ずっと手を振るあこであったが―――
◇◇◇
「あこーーー!!!」
遠くから聞こえる蒼真の呼び声。
あこはそちらに視線を向ける。
「蒼真先輩!!こっちです!!」
「はぁ………やっと、見つけた。じっとしてろって言ってなかったっけ?」
「ご、ごめんなさい………」
「ん?そのアイスはどうしたんだ?」
「そこのお店で買いましたよ。さっきまでそこでお婆さんと喋ってました!!」
「お婆さん?」
「はい!!ほら、向こうを歩いて………歩いて………」
振り返り、その先を指差す。
だが、無人のゴツゴツとした道が伸びるだけである。
「あれ?蒼真先輩、向こうに誰か居ませんでした?」
「誰も見てへんよ。今おるのは俺達だけ」
「あれ?あれれ?」
とある夏の日。
「確かに居ました………居たもん!」
「どんな人やったん?」
「えっ?先輩の元カノの叔母さんって言ってましたけど………」
「は?絶対に有りえへんぞ、あこ。俺の記憶だと確か、その人は―――」
―――去年、亡くなったって聞いとるけど………。
あこ編-4-『真夏のラバー』終
*季節が真逆!!(投稿時、二月)
『こんなはずじゃ………捕捉シリーズ』
・お婆さん
→花音編-4-で登場済み。時系列的には三年後の再登場となるが、口調は大幅に変化している。
本当に三年後なのだろうか………?
・「アタシ、もうそろそろ行かないと駄目ね」
→なんか迎えに来た………的な?