Dreamer of Drummer   作:ソウソウ

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 言い忘れてましたが、予告編-5-はないです。
 最終話となる予定なので、先入観無しで見てほしいからです。

 ―――では、どうぞ。



-4の3-

 ◇◇◇

 

 総合病院。304号室。

 

「おっ、おひさ!」

 

 部屋に入ると聞き慣れた声が。

 私の目に映るのは真っ白を基準とした部屋模様。清潔感溢れる空間にポツンと置かれた一つのベッド。

 声の主、璃里亜はそこに寝そべる形でいた。私の気配に気付いたのか、上半身は起こしている。

 

「リリーやい………なんて呑気な………」

「その件についてはほんとにごめん!!」

「まぁ元気そうで何よりだけど」

 

 璃里亜の明るい顔を見てると心配していた私が何だか馬鹿らしく思えてくる。

 

「体の方は大丈夫?」

「ボクは大丈夫だよ?でも、退院はまだ出来ないみたい………」

「そうなんだ………」

 

 一瞬垣間見えた、璃里亜の悲しそうな目。

 

「ソウ君は凄いよね………」

「リリー?」

 

 ぼそっと呟くそれに私は反応した。

 璃里亜は小さく頷くとゆっくり話始める。

 

「ボクって歌うことしか取り柄がないから。ドラムに作詞作曲もこなすソウちゃんに追い付けなくて………彼女として、ちゃんと出来てるのかなぁって思っちゃった………」

 

 私は何も答えなかった。

 

「期待に答えられそうにないや………」

「リリーはちゃんとソウ君のこと、好き?」

「可織?急にどうしたの?」

「私のきまぐれだから気にしないで。それで、どうなの?」

 

 すると、璃里亜はそっと目を逸らす。

 

「好きだけど………」

「なら、それで良いんじゃない?」

「え?」

「期待に応えるとか隣に立つとか。余計に考えちゃうかもしれないけど、要はその人の事を好きかどうかが大切なだけ。それだけで十分じゃない?」

 

 驚いた様子でこちらを見る璃里亜。

 

「えへへ………可織に言われちゃうとは。うん、その通りだね!!」

「………もう時間だから、私帰るね」

 

 満面の笑みについ照れ隠しが。

 椅子から立ち上がる私に璃里亜は不満の態度を示した。

 

「え?もう?しょうがないな~。今日は来てくれてありがとね、可織」

「どういたしまして。また来るよ、リリー」

「じゃあねー」

 

 全力で手を振る璃里亜。

 私はそんな璃里亜に軽く手を振り返し、病室を出たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 璃里亜の家。

 

「うん、皆、揃ったわね」

 

 あのお見舞いから数日後。

 私を含め、アークラメンバーの三人は璃里亜の住む家へとお邪魔している。

 リビングのテーブルに座る私達にバシッと手を叩いたのは彼女の保護者である母さんだ。

 

「それで………話とは?」

 

 私に昨日、何の前触れもなく来た連絡。

 内容は璃里亜の大事なバンドマンの皆さんと一緒に家に来てほしいと、だけ。他に一切の記載はない。

 不思議に思いながらもこうして私達は今日を迎えた訳だ。

 

「皆さんに伝えなければならない事があります。勿論、璃里亜ちゃんに関することで」

 

 私達は黙って頷く。

 

「まず、そうね………可織ちゃん」

「はい?」

「可織ちゃんには黙っていたのだけれど………私、璃里亜ちゃんの本当の母親ではないのよ」

「………え?」

 

 理解が追い付かない。

 彼女とは私が小さい頃からの付き合い。私と璃里亜が遊ぶ時にはいっつも優しく見守ってくれていた。

 母親のような優しさに私は二人目のお母さんとさえ感じていたこともあるぐらいにお世話になった人物。

 実際は璃里亜と彼女は親子の関係ではなかった知られざる真実を今、彼女の口から聞かされた。

 

 ―――つまり、璃里亜の母親は別にいる?

 

「血筋がないって訳じゃないのよ?璃里亜ちゃんと私の関係は遠い親戚。璃里亜ちゃんのお母さんからのお願いがあって、私が保護者代わりになっていたってわけ」

「え?じゃあ本当のお母さんは何処に!?」

「………璃里亜ちゃんを産んで、数ヵ月後に亡くなったわ」

「っ………!!」

 

 何かが込み上げてくる。

 たまらず口元を手で隠してしまった。視界の端にいる蒼真や光も口には出さないものの、驚いた仕草を見せていた。

 知らなかった。言葉が出ない。

 

「死因は遺伝性の病気。先生の説明は難しくて全部を理解するのは私には無理だったけど………」

「そんな………」

 

 救いようがない結末。

 天真爛漫なあの笑顔にそんな運命が隠されていたなんて。

 

「遺伝性………」

「はっ!?………ってことは、叔母さん………嘘ですよね?」

 

 光の呟き。私の頭に雷が落ちた衝撃。

 想像した自分を殴りたくなるその結論に私の声は震えてしまっていた。

 

 ―――嘘だよね………?嘘だよね!?

 

「………残念だけど、今回の検査で判明したわ。璃里亜ちゃんにもお母さんと同じ病気が発症している可能性が高いとのことよ」

「そんなぁ………」

 

 ―――璃里亜が死ぬ。

 そんなの信じたくない。私の心は認めたくないと叫んでいた。

 

「そうよね………いきなりで皆、困惑しちゃうよね………」

 

 叔母さんもきっと悲しいはず。

 璃里亜は叔母さんにとって愛しの我が子のように育ててきた娘なのだから。

 

「ちょっと、小腹にちょうどいい軽いものを作ってくるわ」

 

 そう言い、叔母さんはリビングからキッチンへと移動する。

 テーブルに残されたのは私と光、蒼真の三人。

 

「………」

 

 空気が異様に重い。

 まだ大人とは程遠い私達。経験も少なく、どう乗り切れば正解なのか誰も分かりはしない。

 

 ブルル、ブルル―――

 

「うん………?」

 

 スマホが震える。

 こんな設定に覚えはなく、不思議に思った私はスマホのロックを解除した。

 メールだった。

 中身を読み進めていく私であったが、とある一文に目が止まった。

 

「ねぇ………」

「どうしました?」

「合格だって」

「何が?」

「オーディション………でも」

 

 ―――一次予選、通過。

 

 つい先月受けたオーディションの結果がこのタイミングで通知されたのだ。

 素直に喜ぶべきか。

 それとも―――

 

「次の本番はいつ?」

「えっ………」

 

 蒼真はそう尋ねてきた。

 私は耳を疑った。

 本来のバンドなら二次予選通過を目標とするだろう。でも、今のアークラはバンドとして成立していない。

 迷惑をかけない為にも、早くオーディション辞退の件を責任者に伝えるのがベストと私は思っていた。

 対して、蒼真は真逆の考えを示した。

 

「蒼君?まさか………出るつもり?」

「あぁ。やるに決まってるやろ」

「蒼君!?本気で言ってるの!?そんな場合じゃないでしょ!!今は練習よりも蒼君はリリーと一緒に居るべきなんだって!!」

 

 つい声を張り上げてしまう私。

 その光景に彼の瞳の色が一瞬で変わった。

 

「やからこそ、もっと俺達は進まないといけないんやって」

「何で!?今のアークラは何も出来ない!!リリーが揃って、初めて活動を再開するんでしょ!!」

「それやと遅すぎる。璃里亜の夢を叶えるには今はそれしか―――」

「………夢?夢だって?」

「可織?」

「私には今の蒼君にその夢を叶えられるとは思えない!!」

「はぁ!?それこそありえへんよ!!俺がこんなだけ努力してやってるんやぞ!!これまでの成果を全部泡に流すだけは絶対にさせたくない!!」

「―――こんのっ!!!」

 

 激昂した私は衝動に身を任せてしまう。

 その結果、彼の胸ぐらを掴み、眼光を鋭くして睨む私がそこに誕生した。

 嫌われても構わない。もう私には我慢の限界を越えてしまっていた。

 

「可織さん!?」

 

 慌てる光。

 

「私だって蒼君が最近は特に、バンド活動を頑張っていたのは知ってるよ!!」

「なら!!―――」

「でも!!それに加えて!!私は蒼君が頑張ると無理をしてでも隣で走ろうとするリリーがいたのも知ってる!!この意味、分かる!?」

「………」

「リリーが倒れたのも、その病気が原因かもしれないけど!!本来なら後数年は大丈夫だったはずだったらしいよ!?でも、現実はこうなってしまった!!蒼君はちゃんと理解してるの!?リリーの容態が悪化した最大の理由はストレスと過労だって!!担当の先生から聞いた!!変に走る蒼君に追い付こうと必死になってたんだよ!?………あの子は!!」

 

 蒼真は何も答えなかった。

 ただ私の胸ぐらを掴む腕を引き離そうとしていた彼の腕に篭る力は段々と小さくなって行く。

 怒気を削がれた私も落ち着きを取り戻した。彼の服を掴んでいた手を離す。

 

「"笑顔で満ち溢れた最高の景色を視てみたい"………それがリリーの夢だって。二人が付き合った頃の蒼君はそう言ってたね」

「あぁ………やから俺は大きなステージで沢山の観客の前でアークラがライブをやれば、見せてやれると思っていた………」

「あの時の私は何となく聞き流していたけど、今思えば、蒼君が道を踏み間違えたのもその頃だった」

「俺が間違っていた………?」

「うん。蒼君は二つ、重大なミスを犯した」

 

 私は己の考えうる全てを告げる。

 彼にはまだ取り返しがつく。失う前に少しでも。

 

「一つ、私と光に一切の相談をしなかったこと。話してくれさえすれば、ちゃんと私達も協力した。光、そうだよね?」

「え、えぇ………はい。そりゃあ」

「ほら。蒼君だけじゃない。皆の夢はバンドの目標でもある。無下に一人で抱える必要はないんだよ。私とリリーと光、そして蒼君が揃ってようやくアークラが成立する。誰かが突っ走るバンドは真のバンドじゃない」

「………あぁ」

「二つ目、リリーの夢を叶えようとしすぎて、蒼君はリリー本人をまったく見ていなかったこと」

 

 ふと脳裏をよぎる。

 璃里亜の悪い時に出る口癖があったという前兆があったが私はその判断を後回しにしてしまったこと。

 もし、あの時、彼に璃里亜が危ないと助言さえしておけば―――と、もしもの話が何度も頭の中で浮かんではすっと消えていく。

 

 ―――今更、遅いのだ。

 

「………でも、これについては私も悪いと思ってる」

「可織は関係ないやろ………」

「そんなことない。私もリリーの調子が変だったことには気付いていた。いや、気付いていたにも、だよ。でも、私は誰にも言わなかった。まだ大丈夫だろうって後回しにしてしまった………」

「………可織さん」

「これから私達がするべきなのは何か。限られた時間はもう戻らない。それらを肝に命じて、アークラの行き先を決めないと………」

 

 突如、訪れた日常の崩れ。

 最初はほんの小さなひび。誰も気付かない小さな小さなひび。

 やがて、ひびは亀裂へ。またしても気付かない内に。

 

 ―――私にとって、アークラは居場所。

 

 アークラが崩壊へカウントダウンが始まろうと私は決して壊させはしない。

 私と璃里亜が愛して、蒼真と光が築き上げてきた財宝がアークラというバンドなのだ。

 でも、今のアークラには今世紀最大の危機が迫っている。積み重ねた物が一瞬で崩される光景だけは見たくない。

 叔母さんとのやり取りを噛み締めるかのようにゆっくりと思い出す。

 

 ―――リリーと一生会えない………か。そうなれば、きっと泣いちゃうんだろうな………私。

 

 静かに私は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -4の4- へ続く。

 

 




*評価、感想、お待ちしてます。

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