多くの人の心情がこと細やかに混ざりあい、大変難しい話となってしまいました。もう少し、自分にそれを表現できるだけの力があれば………。
感想や評価だったり貰えれば大変参考になりますのでぜひ!!
◇◇◇
とある冬の日。
「………雪だ」
曇り空に散る小さな白い雪。
私の重ねた掌にそっと下りて、ゆっくりと溶けて消えてしまう。儚い幻想のように。
新年が明けて、初めての雪景色。
厚着してもなお寒さに震える体につい両手で擦り合わせ、少しでも暖かさを求めてしまう。
白い息をそっと吐く。
―――本日、璃里亜の葬式が執り行われた。
入院してから半年。璃里亜の容態は数回安定した時期もあったが、どれも退院まで回復するには至らず。ある日体調が前触れもなく悪化して、そのまま最期を迎えたと彼女の叔母さんから伝えられた。
一方でその頃、璃里亜の入院生活をしている間の私を含めたアークラのメンバーは普段通りの学校生活を送った。
受験真っ只中の三学期を迎えたクラスの様子はいつにもまして忙しさに拍車がかかっていた印象があった。既に私の入学先は一足先に決まっていたのでのんびり観戦モードである。
なので、周りは勉強に夢中で相手にされない。ふと視線を向けた先、私の隣の席もいつも空席で、寂しい思いを抱いたことは少なからずある。
それがいつからだろう。
璃里亜のいない毎日が当たり前となり、暫く会わなくなったせいか彼女の笑顔を思い出せない日々が延々と続いた。
クラスメイトと世間話をして、卒業間近の軽音部で好きなギターを弾いて、後輩達と気ままにセッションしたりもした。楽しい一時を過ごした。
その賑やかな光景に璃里亜はいない。
やがて―――私の心はもう彼女を必要としていなかったと初めて知ることになった。
複雑な心境だった。
頭では勿論彼女と一緒に音楽をやりたい。ライブではちゃんと合わせるからやりたい放題に暴れてほしかった。
でも、本心では真反対に彼女の暴れっぷりを厄介事と捉えてしまっていた自分も否定できなかった。
「そう言えば………手紙が………」
帰り際に璃里亜の叔母さんから手紙を受け取ったのを今、思い出す。
ポケットから取り出したそれは可愛らしいシールで留めがされてあった。私は丁寧に捲った。
何の手紙か予想はしていた。
主は璃里亜であった。
『可織へ。
えっと、手紙を可織に書くのは初めてだから何を書けば良いのか分からないよ!!って書いてしまって、余計だと思ったけど消すのがめんどくさいからそのまま行くね。
ねぇ聞いて聞いて!!最近、ソウちゃんがよくお見舞いに来てくれるようになったんだよ!!今更、ソウちゃんはボクのありがたみに気づいたのかな?
遅いよ!!プンスカ!!
相変わらず、変なお土産も一緒に持ってきちゃうし!!この前なんてゲームセンターで一発で取れたって言いながら変なピンクの熊人形を渡してきたんだよ?なんて名前かすらも分かんな~い。
逆に光ちゃんはたまにボクの所に来ては無慈悲な報告ばっかりしてくる。授業の進み具合なんて、ボクにはさっぱり………。勉強なんてイヤだ!!―――』
くすり、と笑ってしまう。
愚痴とも取れる彼女の書く内容はイメージ像が鮮明に浮かび上がってくる。
『―――二人ともまだまだ乙女心が分かってないね。でも、沢山の女の子からちやほや言われるからソウ君が調子に乗っちゃってた時期もあったりしたのはちゃんと覚えてる。
あの時はホントに不安だったんだよ!?ボクよりも可愛い子があっちこっち居たから、ソウ君は僕を捨てちゃうかもって考えちゃったり………。
最後まで僕を選んでくれたけどね!!
どやっ!!』
どや顔が無性に腹立つ。
『これを読む時、僕はもういないと思うから可織にはソウ君に対して伝言をお願いしたいかな。後悔してることが一つだけ。
僕があの世に行っちゃうとにソウ君、きっと自分のせいだって責めちゃうかもしれない。でも、僕の事を忘れてくれって言うのは流石に僕自身もちょっと寂しいからソウ君にはこう伝えてほしいかな。
幸せに生きてください―――って。
皆に持病があるって今まで黙っていたのは悪かったと思ってるよ?
え?反省?してないけど?
だって、言っちゃうとソウ君はずっと僕の夢を叶えようとして、自分を壊していっちゃう。それは僕でも赦せない。
僕はただソウ君が後ろでドラムを叩いてくれて、そっと僕の歌声を支えてくれるだけで満足しちゃう軽い女の子だから。
可織にはソウ君にこれから色んな人達と出会って、楽しく音楽と向き合って続けてほしいって伝えて欲しいなぁ。
なんなら新しい彼女も作っちゃったりしても全然OKだけど………あーあ。きっと可愛い女の子なんだろうな。きっと僕なら太刀打ち出来なくて、隅っこで拗ねちゃうぐらいに。生で見たいけど、少しツラい………かな。あ!!可織なら全然ソウ君なんてあげれるよ!!いる?』
ここでようやく私は違和感に気付く。
璃里亜の書く手紙の中身。ここまで全てアークラの日常の様子を記載している。あえて、私の事には一切触れずに、だ。
次の文からやたら消した跡が目立つ事に気付いた私は気持ちを切り替えて読み進める。
『そして、これを読む可織へ。
僕が生きてる短い間に貴女に会えた事が一番の僕の誇りでした。
初対面の印象は今でも覚えてる。幼稚園の砂場で一人遊んでいた体の弱い僕に唯一話しかけてくれたのが可織だったから。
その時の可織の笑顔がずっと大好きで、僕も可織の笑顔を真似しようとしちゃって、そのせいでこんな僕になっちゃったんだよ?知ってた?
昔に比べて、可織の笑う所あんまり見なくなっちゃったね。笑ってた方が良いよ?じゃないと幸せ逃げちゃうし。何より可織の笑顔、可愛いし。そういうのズルいよね。
心残りは………あえて言うなら、僕と可織とでダブルデートが出来なかったことかな。恋愛面では一足先に僕がリードしちゃってね~。うん、可織は可織のペースで来たら良いと思うから仕方ないんだけど!!
あっ。可織の彼氏なんて、ソウ君にはまったく勝てないから!!これ、絶対!!
最後になっちゃったけど、僕は絶対に忘れないから。皆と会えて、アークラでバンドが出来て、理想の友達が出来たこと。僕には勿体無い程恵まれた人生であったこと。全て可織達、皆のお陰。
大丈夫!!きっと可織達ならどんな困難があっても、問題ないよ!!これから僕だけは一緒に隣で答えを探せないけど、離れた場所から応援してるよ。
ほんとのほんとの最後に。
ありがとう。そして、さようなら。
遠堂璃里亜より』
私はゆっくり手紙を折り畳んだ。
「あれ………?」
頬に濡れた感触。
掌で拭うそれを私は理解しようと努める。
それは―――涙であった。
「っぐ………」
ひきつる喉奥。
溢れだした涙を直ぐに塞き止める方法なんて私は知らない。知りたくもない。
「リリー………今まで、ありがとう………!!」
袖で乱雑に涙を拭う。
そして、私は曇天の空を見上げた。
天国で見守ってる彼女に私は最後となる涙でぐちゃぐちゃになった全力の笑顔を見せつけてやったのだ。
◇◇◇
卒業式。
「………うん、揃ったね」
場所は音楽室。
部活の活動場所として、三年間お世話になった此処も今日でおさらばである。
「二人とも卒業おめでとう」
「ん。可織もおめでとさん」
「祝辞良かったですよ」
「ありがとう。あれ、中々に緊張するね」
蒼真と光。
音楽室に居たのは私を含めたこの三人のみ。
「それで呼んだ理由は分かると思うけど、大事な話がある」
蒼真は何も言わない。
まだあの時の喧嘩の仲直りをしていないせいで、向こうは知らないが、私は少し気まずさを感じてしまっていた。
「私、"アークラ"を抜けるから」
「可織さん!?それは………!!」
「別に光君や蒼君を嫌いになったって訳じゃないし、リリーが居ないからって訳でもない」
バンドを抜ける。
私にその決断を下すまでは相当の覚悟を要してしまった。これが普通のバンドならもう少楽に出来たのだろうと思うが、それほど私の"アークラ"というバンドに対しての思い入れが強かったのだ。
光は驚いた反応を示し、蒼真は静かに目を閉じてしまった。
「私が将来の事を考えて、このまま二人とバンドを続けるのは違う気がしたから。進学先も違うから今後は練習しにくくなるだろうし………」
「ですが………」
「光君?私はもう変えないよ」
私の気迫に光はぐっと言葉を堪えた。
バンドをやる同士であるからこそ言葉無しで伝わる思いに光は反論が出来なかった。
ごめんね、と光に罪悪感を思いつつ私は蒼真の顔を見た。
「分かった。ってか、アークラの活動自体を休止しようかと思ってたから問題ない」
「え?休止?そうなの?」
「えぇまぁ………蒼真とはそういう話になってまして………でも、メンバーがまた揃うまでって話では………?」
「仕方が無い。可織が決めたのに俺らが口出しする訳にはいかないやろ」
蒼真はどこか諦めムードを漂わしていた。
言い訳に全て身を任せ、自分はなにも悪くない。そんな風に私は思えてしまった。
卒業式が終わって直ぐに呼び出してしまったので、時間もない。外がより騒がしくなったので私達も戻ることに。
光が先に扉を抜け、蒼真も音楽室を出ようとした。その時に私は彼に話しかける。
「蒼君」
「何や?」
「バンドは………ドラムは続けるの?」
「そりゃ………やるけど」
「リリーからの伝言。"幸せに生きてください"………だって」
「………そっか」
「私が言うのもおかしいけど、誰も悪くないから。だから、蒼君が背負う必要もない余計な責任もあるんだよ」
「………お気遣いありがと。可織だって、とっとと引っ付かないのか?今の俺はそれがちょっと不安やね」
「ん?どういうこと?」
「好きなんだろ、光のこと」
「―――っ!?そんなことないから!!」
「だと良いんやけど。行くぞ」
「あっ、待て!!こんのっぉぉ!!」
蒼真は余計な一言が多い。
璃里亜と過ごした日常はもう帰ってこない。でも出逢いと別れを繰り返し、私はまた歩み続けるしかないのだ。
◇◇◇
現在。カフェテリアにて。
「―――以上が、私が知る全て」
ふー、と知りうる全てを語り終えたマイマウスにご褒美を与えようと私は店員さんに運んでもらったコーヒーカップを口に運んだ。
花音の様子をちらりと伺う。
テーブルをじっと見つめたまま動かない。
「そして、蒼君とリリーとの間で最後に何があったのか、だけど………私は関与してないからまったく知らない」
暗黙の了解と言うべきか。
生前の璃里亜と最後に言葉を交わしたのは他でもない恋人の蒼真だったと記憶を辿る。
その時、二人は一体何を喋ったのか。生憎、私と光はそれを直接蒼真に尋ねるなどという土足で彼の心中に踏みいるだけの勇気はなかった。
ただ、彼が抱え込んだ秘密には気付いていた。それはきっと今も巧妙に隠し続けている。
―――彼ならきっとそうするだろうから。
「………蒼真君は」
「うん?」
ここで花音が口を開く。
「私の知ってる蒼真君は本物の蒼真君ではない………?」
「それはちょっと違うかな。きっと貴方が見た蒼君はほんの一部だけ。云わば、氷山の一角。蒼君の心の水面下を見ようにも本人がそれを巧妙に隠すから、どうしようもないんだよ」
「なら、どうすれば………」
「心の扉を開ける鍵は花音ちゃん。貴方しかいないんだ………うん、多分」
「私が?それに今、多分って………」
花音が恐る恐るに尋ねる。
「私が言っても効果はなかったみたいだけど、花音ちゃんの口から言ってもらえればきっと蒼君も少しは心変わりが出来ると思う」
「そんな大役、私には………!!」
「話を聞いた限りだと、少なくとも蒼君は貴方を女の子として認識してる。だったら大丈夫。高校生からの蒼君を私はまったく知らないから断言しづらいけど………っもう、やっぱりまだリリーのこと、引き摺っていたなんて………男として、どうなの!!」
「そ、それは………あの………」
「まぁ説教はぼちぼち本人にするとして。花音ちゃんには伝えてほしい事を今から洗いざらい喋るから蒼君に直接伝えて」
「そんなぁ………」
「好きなんでしょ?」
「………はい」
「なら、此方からがっつり攻めないとね?」
「………はい」
やがて、私は蒼君の全てを彼女に託すことになる。
きっとこれは責任転嫁という行為に近いだろう。でも、璃里亜本人の希望を汲み取るのであれば、私ではなく花音という新たに彼の心を奪える女の子に彼の幸せを願って貰うべきだと考えたのだ。
―――これで良いんだよね?………リリー。
花音編-4-『Breaker』 終
*花音ちゃん、ようやく出番です………!!
『breakerな補足シリーズ』
・変なピンクの熊人形
→美咲じゃない頃のミッシェル。
・璃里亜との別れ
→可織は璃里亜の葬式では泣かなかった。否、泣けなかった。幼い可織の心ではまだ璃里亜は生きてる存在だと思い込み、安易に死を受け止めきれなかったから。
しかし、璃里亜からの手紙を読み終えた可織は全てを受け止める覚悟をそこで決める。続けて、ダムの決壊のように溢れだす感情に可織は心を奪われながらも、天国にいる璃里亜に向けて満面の笑みを浮かべる。
・花音へ託された思い
→未だに心の何処かで璃里亜の死に捕らわれてる彼を救って欲しいと可織は花音に璃里亜の願いを伝える。
ここから花音がどう行動に移すか、可織は分からないが実際に花音と会ってみて、雰囲気と性格から思いを託しても大丈夫だと判断した。
お気に入りの話はどれですか?「花音編」
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-1-『Aquarium』
-
-2-『Shopping』
-
-3-『Conclusion』
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-4-『Braeker』
-
-5-『Proof』