お気づきかもしれませんが、主人公の口癖は「気にすんな」です。ボケてもあまりつっこみが来ないせいでその口癖が定着してしまうという悲しい過去付きです。
-1の1-『モデル撮影』*
◇◇◇
とある日。事務所、会議室。
「えぇーー!!!!」
叫び声がこだまする。
声の張本人に対して、被害に巻き込まれた様子の四人の少女達はたまらず耳を手で塞いでいた。
「麻弥ちゃん………どうしたの?」
堪らず、近くにいた千聖が声をかけた。
「びっくりしたぁ………」
「何事ですか!?」
「何々?面白いことでもあった?」
各自、"Pastel*Palette"のメンバーが先程の出来事に好奇心を示すかのように集合した。
ボーカル、"丸山彩"。
キーボード、"若宮イブ"。
ギター、"氷川日菜"。
ここにベースの"白鷺千聖"とドラムの"大和麻弥"を加えた計五人が、今世間で話題持ちきりのアイドルバンド"Pastel*Palette"である。
「それが………今度の撮影なんですけど………」
スタッフと先程まで打ち合わせをしていた麻弥。その時に、原因があったみたいでゆっくりと彼女は話し出す。
「メンバーごとにテーマが違うあれね」
「私は………"メイド"だったかな」
「私は"ブシドー"です!」
「そうね………確か、私は"お姫様"で、日菜ちゃんは"スポーツ少女"だったわね?」
「うん、そうだよー」
既にモデル撮影自体は何回か体験しているパスパレのメンバー達。故に今回は一風変わって、各自テーマに沿った撮影を行うと数日前に聞かされていた。
勿論、麻弥もテーマを聞いているはずなので今更驚くようなこともないはず。
「それがジブンの場合は"デート風景"で………」
「おお!」
「日菜ちゃん!」
目が怪しく光った日菜に彩が気付く。
「正直、恥ずかしいのですがこれも仕事と覚悟してたんですよ」
「そうね。私達パスパレにとっても大事な活動の一環だもの」
「それが先程、撮影するにあたってどうも相手が必要と判明したらしくて………」
「相手?」
「それって………つまり彼氏役ってことかしら?」
「………はい」
「「「「………」」」」
メンバーの表情が微妙になる。
麻弥は元々アイドル志望でこの業界に入ってきている訳ではない。単に機材が大好きな少女であって、恋愛面に至っては初心者以下。
だが、今回の撮影のテーマは"デート"。既に彼女の心の許容量がオーバーしていることは他の全員が言わずとも感じていた。
「ジブン………あまりそういう事はしたことないので上手くいくかどうか………」
「スタッフさんからどういう人と撮影するとかは聞いてるの?」
「いえ………あくまでジブンメインの撮影なので、まだ決まってないようでして………でも、少なくとも俳優さんとは聞いてます」
「ん………」
「千聖ちゃん?」
考え込む千聖に彩が首を傾げた。
明らかに何かを企んでいる。だが、それがどういう物なのかは想像がつかない。
男の人との撮影。もし自分がその立場になったとなれば、緊張してしまうのは確かだ、と彩は思っていた。
「麻弥ちゃん」
「はい?何ですか?」
「麻弥ちゃんと仲が良い男の人とかいないかしら?」
「え!?ど、どうしてっすか!?」
「その人に頼むのよ。少なくとも緊張はある程度ほぐれると思うわ」
「だけど、それって一般人さんにお願いするってことになるんだよね?大丈夫なの?」
彩の疑問も、もっともである。
対する千聖の反応は冷静であった。
「雑誌に載るのは麻弥ちゃんだけだから問題ないと予想がつくわ。それで麻弥ちゃんとその人に注目が集まりでもしたら、結果としては、雑誌の利益に十分効果があったということになるから一石二鳥でもあるわね」
「えー凄い自信だね。でも、私達だけで決めちゃって大丈夫なの?」
「自分で言うのもあれだけど、悪くない提案を出したつもりよ。スタッフさんに話せばすぐにでも通ると思うわ」
話を進める千聖と彩と日菜。
それを口出しできず、無言で見守ってしまっている麻弥に心配そうに近づくのはイブであった。
「マヤさん、大丈夫ですか?」
「えっ?あっ大丈夫ですよ!イブさん。心配かけてすみません」
「なら、良かったです!」
イブの無邪気な笑顔が眩しい。
「それで、マヤさんには男の相手?はいるのですか?」
「その言い方はちょっと違うような………」
イブの変な言い回しに苦笑いで返しつつ、麻弥は考えていた。
いることにはいる。男性であって、さらに自分と話も合う人。
ーーーと、三人が同時に頷いているのが麻弥の目にはいる。
「なら、早速話をつけに行ってくるわ。それでいいわね?麻弥ちゃん」
「あ、はい!………え?千聖さん?」
千聖の唐突なふりについ反射で返事をしてしまった。
気付いたときには既に千聖は部屋を後にしていた。麻弥の頬がひきつる。
「良かったね、麻弥ちゃん!」
「段々面白くなってきたよ!」
「マヤさんのお相手、会えるの楽しみです!」
麻弥もこう言われて分からない訳にはいかない。
一先ず、落ち着いて纏めよう。
次の撮影において、彼氏役が必要となった。ただ、いきなり初対面の男の人と例え嘘でもデートのような事をするのには抵抗がある。
なので、特別に麻弥の知り合いの男性にゲスト出演してもらおう………とパスパレの中で結論がついたらしい。
「え、えぇーー!!??」
本日、二度目の悲鳴。
◇◇◇
撮影スタジオ。
「………これは………まじかぁ」
おっと心の声が漏れてる。自重、自重。
スタッフに案内され、ここに辿り着いたのだがこういう環境は初めてなので少々気が引いている。
俺がここに来ている理由は一本の電話からである。
つい先週にドラム同士の麻弥ちゃんから電話があったのだ。しかも、第一声が「助けてぇくだざい!」と来たもんだ。相手がパニックだと、逆に自分は冷静になってしまう現象を実感した。
その後、詳しい事情を聞かせてもらった。雑誌の撮影でデートをテーマとするが、麻弥ちゃんの相手役に適役がいないので俺に助けて欲しいとのこと。
一通り聞いた感想としての一言。麻弥ちゃんの所属するパスパレのメンバーさん、随分と大胆ですね。麻弥ちゃん、電話のとき既に泣きそうだったぞ。
「あ、蒼真さん!お待ちしてました!」
おっと、ここで本人の登場である。
撮影する場所は本格的な撮影スタジオのようだ。今回のテーマに沿って、何もないスペースにベンチが一つポツンと置かれている。背景は合成でもするのか真緑の壁に統一。
「あ、麻弥ちゃ………ん」
「蒼真さん?どうされました?」
いや、言葉が詰まっただけや。
原因は麻弥ちゃんの格好。白いワンピース姿とか滅多に見ない。それもデートに向けて張り切った女の子が選ぶような。
そういえば、今日はそんなテーマだったな。
「麻弥ちゃんの服、お似合いだなって………思っただけやから気にすんな」
「え?あ、そうですか………ありがとうございます………」
麻弥ちゃん、ポカンとしたかと思えば頬を少し赤らめて小声になりながらも言ってくれた。
無言が続く。普段の俺なら静かな空間でも平気なタイプだが、とにかく気まずい。
ふと自分の格好を見て思い出す。
「そう言えば、俺、制服なんやけど………大丈夫?」
「あ、別室に着替えありますよ!案内しますね!」
そんなこんなで麻弥ちゃんは意気揚々と歩きだす。
さて、今日の撮影はどうなるのだろう。俺はちょっとした好奇心と共に彼女を追いかけた。
-1の2- へ続く。
五人の1話の中では一番ラブコメしてるかも。