◇◇◇
とある練習スタジオ。
「でーはー!第一回麻弥ちゃんデート大作戦会議を始めたいと思いまーす!」
彩が高々に開催宣言をしている。
ともかくどうしてこんなことになってしまった、と麻弥は頭を抱えていた。ただし、実際に両手を頭に置いている訳ではない。
パスパレ恒例の早朝練習も終わり、いつもの撤退かと思えば今日は一味違う展開に。確信したのは彩が唐突にこんな事を言い出し始めた瞬間。
現在、此処にいるのは彩とイヴ。それに日菜と麻弥を含めての四人。千聖は仕事があるために早々に撤退した。
「はいはーい!質問!彩ちゃん、いきなりどういうこと~?」
「安心して。説明はこれからだよ、日菜ちゃん」
ふんす、と漏れる鼻息。
無駄な演技が入った彩が指示を出す。すると、イヴがスタジオにあったホワイトボードを運んで来た。
「お待たせしました!アヤさん!」
「ありがとう、イヴちゃん。後は私がやるから、座ってても大丈夫だよ」
「押忍!お先に御免致します!」
「ご、ごめん………?」
謎台詞を放った本人は満足そうにしている。使い方、合ってるのだろうか。
無闇に追及せず、彩はただ首を傾げる。
「ごほん………では、―――」
そして、説明が始まる。
―――簡潔にまとめると。
恋する乙女代表、大和麻弥。
彼女の恋の手助けを全力で果たすのが今回の目玉かつ最大の目標である。
「知っての通り、麻弥ちゃんは奥手な性格だからなかなか自分からアピールする事が難しい………なので、ここは私達の出番が必要って訳なのです!」
「本人の前で言いますか………?」
「もっち。手伝うのは当たり前だけど~、肝心の相手は誰なの?」
「ブシドーですね!」
目的の明確な提示。
日菜がそれを要求したと同時に麻弥の顔がはわはわと赤みを帯びていく。
でも、流石に他人の秘密をあっさり漏らす程、彩の口が緩い訳では―――
「アークラの蒼真君!!」
「彩さん!?言っちゃうんっすか!?」
「あー、やっぱりかー」
「日菜さん!?」
衝撃発言。しかも連発。
麻弥の予想はことごとく、しかも最悪な意味で打ち破られていく。
やっぱりってなんだ。やっぱりって。
「ソウさんがどうかしたのですか?」
「イヴさんはそのままでいてください………」
唯一、イヴだけは理解しておらず。
その純真な心だけは失わないでくれと刹那に願う麻弥であった。
「運の女神様も私達に味方しているから、きっと大丈夫!!」
「目指すはラブのラブだね!」
「ちょっと何言ってるか分からないっす」
「ちょうどこれからアークラの練習風景をレポートする予定になってるから、それまでに幾つか作戦を練ろうと思ってるんだけど………皆、どう思う?」
「賛せ~い!!」
「えっと………はい!良いと思います!戦術次第で勝負の行方は変わると聞いたこともありますから!」
「イヴさん………ちょっとずれてますよ」
敵なんて居ない。勝敗などもない。
放置してくれて構わない麻弥の心情はガン無視で次々に進んでいく謎の作戦会議。
彩はマジックペンの蓋を開け、ホワイトボードにでっかく"蒼真君攻略作戦案"と書き上げた。
それだと、解釈が凄いことに。
「それではここに開催を宣言します!」
「いぇーい!!」
段々と麻弥は思い始める。
この二人は自分達が恋愛する乙女を弄って、呑気に楽しみたいだけなのでは、と。
―――というか。
そもそもの発端は今朝に至る。
密着二日目の日程はこれから午前にアークラのバンド練習の風景の撮影と取材。そのまま昼を挟み、午後から場所を変えて、メンバーの個人インタビューとなっていた。
麻弥は蒼真の家で一夜を過ごした。生憎、彼と同じ部屋で就寝―――なんてロマンチック展開はなく、蒼真の妹である悠希の部屋で仲良く寝させてもらった。
真夜中に初対面に近い二人きりの状況だったので若干の不安面も抱えていた。が、共通の趣味が判明した事もあってなのか、すぐにその不安も解消され、その晩はぐっすりと眠れた。
まさか、妹さんが演劇に興味があったとは。今度、実際の演劇に招待してみるのも悪くないかなと麻弥は頭の片隅で考えていた。
―――閑話休題。
事の始まりは一本の電話。
相手は他でもない彩本人から。内容は単なる業務連絡で、練習時間が三十分遅れてのスタートとなっただけ。
一見、問題がないように思える。
しかしながら、麻弥が電話に出たタイミングで偶然にも寝起きの蒼真が通りかかった。
おはよう、と癖毛を気にしながら挨拶をした彼。麻弥が通話中なのも、本人が寝ぼけぎみなのかスルー。これが仇となる。
早朝に電話中、スマホから漏れて聞こえる男の声。彩がそれを聞き逃すなんてへまを犯す可能性は容赦なく潰され、即座に猛烈な追求が開始される。
数秒もしない内に麻弥は全てを打ち明けた。
―――蒼真さんの家に泊まった、と。
そこからの展開は想像で補えるだろう。
唯一、麻弥が意外だと思ったのは最初に知った彩が何故か千聖だけにはこの事実を黙っておいた点。
十中八九、芸能界に詳しい彼女に恋愛関係の話題を持ち掛けてしまえば、その瞬間、千聖から厳正な対処を求められ、彩が心底やりたいとされる現在進行中のこれを行えないから言わないで置いたと思われるが。
この事実を千聖本人に知られれば、正直、かんかんに怒られそう。
「案がある人!」
「あれ?彩ちゃんからは何もないの?」
「えっ?………も、勿論あるけど!まずは皆の意見も聞こうかなって………」
「じぃー」
「………はい、何も考えてない………です」
「素直でよろしい」
日菜の無言の威圧に根負けした彩。
恋愛に興味津々の彩であるが、アイドルに人生をかけつつある身分なのでそもそも恋愛経験が皆無に等しい。
故に具体的に異性を夢中に落とし上げる方法など知る由もない。
「因みに日菜ちゃんは何かあるの?」
「わっかんなーい」
「ええー!?」
「だって、男の人を好きになったこと無いもん」
「そ、そうなんだ………」
天才という異名を持つ日菜。
前提として彼女の隣に立てないと、彼女にまず異性としてすら認識されない。これまでにそれを成し遂げた者が居ないというのは日菜の発言から汲み取れる。
もしくは日菜自身が気付いていないだけかもしれない。が、どちらにせよ、麻弥へのアドバイスはあまり期待が出来ない。
だとすれば、もう一人。
残されたイヴに視線が集まる。
「ワタシの顔に何か付いてますか?」
結果はご覧の通り。
ここまでバンドのよしみとして同席していた麻弥もそろそろ時間的に限界が迫って来ている。
「彩さん」
「うん?」
「ジブン、もう行ってもよろしいですか?」
「えっ?だ、駄目だよ、麻弥ちゃん!!主役が居ないと話が進まないから!!」
「ですが………時間が押してますし」
「後、五分だけ!ううん、十分だけでも良いから!!」
「地味に増えてますね」
「お願いだって~!!麻弥ちゃんも蒼真君とは仲良くなりたいでしょ~!!」
「そう言われると………」
もはや、どっちがどっちなのやら。
半泣き状態の彩に抱き着かれてはどうしようもない。渋々、麻弥はもう少しだけ居ることにした。
誰も案が浮かばないのが現状。このままでは結局、無駄な時間を浪費しただけになってしまう。
「はい!」
「イヴちゃん!!どうぞ!!」
「麻弥さんと蒼真さんがもっと仲良くなる方法を考えれば良いのですね?」
「その通りだよ!イヴちゃん!」
ふむ、と考え込むイヴ。
パスパレでも特に考えが読めない彼女の珍しい長考に日菜や彩も自然と次の言葉を静かに待っていた。
「思い付きました!」
麻弥は思う。
彼へに対しての恋に近い思いは少なからずある。日に日に増して、時折、胸が締め付けられる事もある。
少し前はただ彼と機材談笑するだけで満足していた。好きな事を語り合える仲間と出会えて幸せであった。
いつからだろう。
彼の向ける仕草に自然と目が追い掛けてしまう。彼と視線が合うと直ぐに逸らしてしまう。ドラム姿につい目が離れなくなる。
近いと胸の動悸が激しくなるけど、遠く離れると寂しく感じてしまう。彼へ連絡する時は一字一句何度も読み返すし、返信が来るまではとても不安になってしまう。
そして、ある日、唐突に分かってしまう。
きっと、これが
だから、これだけは言いたい。
「
―――それだけは絶対に違う、と。
-4の2- へ続く。
『ふへへへへへへへ』
・「あー。やっぱりかー」
→人の恋には敏感な日菜。日菜ヒロインを書いてるハーメルン小説家の皆さん、是非ウチとコラボでもしませんか?
・「ちょっと何言ってるか分からないっす」
→サンド○ィッチマンの決め台詞を引用。
因みに作者はハンバーガーの店員コントが好きです。
・千聖に内緒
→大体の場面でこういう扱いです。お話的にはありがたい存在です。
・「決闘をしましょう!」
→イヴちゃん、まじ天使(作者、洗脳済み)
・作者のぼやき
→決闘(読み方:×けっとう→○デュエル)