Dreamer of Drummer   作:ソウソウ

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 ◇◇◇

 

 ―――"ベントゥー"。

 

「以上でインタビューは終了です。お疲れ様でした、ソウ様。次の予定までしばらく時間は空きますので是非ごゆっくりしておいてください」

 

 スタッフが部屋を後にする。

 取材を受けていた蒼真はライブハウスの楽屋スペースに一人ポツンと取り残された。

 

「………にしても、腹が減ったな」

 

 時刻は昼過ぎ。

 慣れない早朝のバンド練習に番組の取材と緊張続きの時間をどうにかやり遂げた蒼真。

 その代償は勿論存在する。現在、空腹という形でそれは現れていた。

 

 ―――コンコン。

 

「ん?………どうぞ~」

 

 扉からのノック音。

 蒼真は丁寧に対応した。メンバーであれば遠慮無しに部屋に突入してくるので、来訪者はいつもとは違う部外者だと判断した為だ。

 恐る恐るとばかりに楽屋の扉が開かれる。

 

「蒼真さん、今はちょっと大丈夫ですか?」

「ん?なんだ、麻弥か。取材はさっき終わったし、大丈夫やぞ」

「はい。取材、お疲れ様です。どうでしたか?」

「記者の人、ガチやった」

「それはそうですよ。ちゃんとした雑誌に載りますから」

「まぁ………変な答え方はしてないから大丈夫やろうとは思うけど」

「ふふふ。蒼真さん自慢のドラム話、楽しみにしてます」

「複雑やなぁ………」

 

 単に蒼真は恥ずかしいだけである。

 自分の語った物を同業者に見られるのはさらに。

 

「と、ところで………」

 

 急にしおらしくなった麻弥。

 一体何事かと思った蒼真が麻弥の様子を確認しようとすれば―――

 

「お腹空いてます?」

「空いとる」

「そ、即答!?因みにこの後はバンドメンバーの皆さんと一緒に食べられるご予定とかは………」

「ないかな。あいつら、先に食べてくる言うて俺を置いて、どっか行ったし」

「そうですか!!」

「なんでそんなに嬉しそうなん?」

「そそそ、そんなことっ、ありませんよっ!?」

 

 と言いつつ、隠しきれてない麻弥。

 そわそわしてる感じが気にかかる蒼真であったが、正直に指摘しようと口にすることはなかった。

 

「実は………」

 

 麻弥は背負っていたカバンを下ろす。

 チャックを開け、中から取り出したのは蒼真にとって見覚えのある代物。

 

「弁当箱やん。しかも俺ん家の」

「はい。蒼真さんのお母様から持っていくようにと言われまして………」

「あれ?今日はいらんって言うた筈やのに」

 

 最後の一言。麻弥の顔が青ざめる。

 

「ご、ご迷惑でしたでしょうか………?」

「あーいや、そんなことは………ややこしい言い方やったな。丁度、昼飯をどっかで調達しようかと思ってたから助かるよ」

 

 蒼真は麻弥から弁当を受け取る。

 試しに蓋を取ってみれば、一気に蒼真の鼻孔に食欲をそそる匂いが入り込む。

 

「ん?そういや、麻弥の分はあるんか?」

「えっと、はい。ありますよ」

 

 カバンからまた別の弁当箱が登場。

 絵柄が異なるものの、形や容量は蒼真の物と同じタイプだ。

 

「では、食べましょうか」

 

 両手を合わせ、いただきます。

 蓋の裏にある箸を掴み、弁当の中身を一つ一つどれから食べようか吟味していく。

 その中のひとつ。玉子焼きに視線が固まった蒼真は軽く持ち上げてみる。

 

「………麻弥」

「は、はい!?」

「そんなにこれを見つめてどうした?あ、欲しいやつ?」

「だだだ大丈夫です!!」

 

 ぶんぶんと首を振る麻弥。

 否定するだけなのに随分とダイナミックな反応だな、とちんけな思考を巡らした蒼真はぱくりと玉子焼きを一口。

 

「ど………どうでしょうか?」

「………っん。え?何が?」

「そ、そのですね………玉子焼きが………」

「なんでそんなに麻弥が気にするんだ?………気にする?………気にする。成る程………」

「へ?」

 

 じっと玉子焼きを凝視。

 そして、蒼真は静かに納得した表情へ。

 普段通りの母親特製弁当だと思い込み、特に意識してなければきっと気付かなかっただろう。

 微かに黒く焦げた箇所の存在。

 一応、料理慣れしている母親がするとは思えないミスが発覚。

 

「うん、美味しい。ちゃんと俺好みの味付け」

「そ、そうですか………!!」

 

 蒼真の素直な感想に麻弥は曖昧な返事。

 だが、そのやり取りの裏に互いの思考のバトルが繰り広げられていたのは当の本人達だけにしか分かり得ない。

 

 ―――チャンス、到来です!!

 

 そして、心理戦はラウンドツーへ。

 攻撃を仕掛けるのは勿論、麻弥。事前に決めておいた作戦を遂行すべく、緊張で跳ね上がる心拍数をどうにか落ち着かせた。

 箸で自身の弁当の具の一つ、ハンバーグを掴んで持ち上げる。ちゃんと左手は下に添えて。

 

「そ、蒼真さん!!」

「え?急に何や、って………それも食べろってこと?」

「こっちの味の感想も頂きたいので!!」

「いや、俺の弁当にもあるんやけど?」

 

 若干、説明がヤケ糞気味。

 ぷるぷると震える箸の先端を蒼真の碧色に染まる瞳がしっかり捉える。

 

 俗に言うこれは―――"あーん"。

 

 異性の口へ食べ物を放り込む仕草。

 知識はあれど、実際にやってみれば全然想像と違う感情に現在進行形で襲われている麻弥。

 蒼真の冷静な突っ込みは届かない。

 顔がトマト以上に真っ赤な彼女。このまま放置、なんていたずら心も芽生えつつ、箸の先端にあるハンバーグを半分だけパクリと食べた。

 

「………めっちゃ上手い」

 

 しっかり味わった後、漏れた一言。

 ほっとしたのか、重荷が一気に取れた麻弥もまた返事がすんなりと出てくる。

 

「良かったですね!」

「これ、麻弥が作ったんやろ?」

「そそそそんなことは!?ちちち違いますけどぉ!?」

「ほら見てみぃ」

「………分かります?」

「分かる」

 

 きっぱりと断言した蒼真。

 てっきり上手く誤魔化していたつもりの麻弥にこれは痛恨の一打。羞恥心が怒濤のように溢れ出す。

 と、なれば蒼真の顔を見るどころか常に自分のお膝元とこんにちは状態だ。

 

「今朝、蒼真さんのお母さんが台所でお弁当の準備している所に偶然居合わせちゃいまして………そのままの流れで自分も手伝うことに………」

「なんか、ごめんな………」

 

 己の母親のやらかし、想像出来てしまう。

 なんやかんや言われて、気が付けば母親の誘導に手が染まっていた。

 常套手段。

 家族内ならまだしも、赤の他人である麻弥も被害に巻き込んでしまった罪悪感が蒼真を襲う。

 

「謝らないでください。自分もお陰様で色々と勉強になりましたから」

「なら、良いんやけどね」

 

 勉強の内容は主に―――

 

「麻弥もなんか食べる?」

「へ?」

「俺だけ貰うのもあれやし。何が良い?何でも選んで構わんよ」

 

 空気が一変。

 立場の交替の予感に麻弥の動きが固まる。蒼真がこういう性格の持ち主は分かっていたのにどうして予想していなかったのか。

  

「………で、では、トマトで」

「何故、ここで野菜」

 

 不思議に思いつつ、プチトマトを箸で掴む。

 

「んじゃ、行くぞ」

「は、はい」

「………なんか緊張するな、これ」

「言わないでください!!」

 

 余分に緊張が芽生えつつ。

 蒼真の持つ箸の先端、トマトが徐々に麻弥の口元に接近。

 麻弥の腰が少し浮かんでしまう程、迎えに行こうとしている。

 

 そして―――

 

「麻弥ちゃ~ん、さっきからスタッフの人が呼んでるよ~…………あっ」

 

 扉を開けた彩の登場。

 がっつりと蒼真と麻弥の二人の瞬間を目撃してしまった。

 彩の目がゆらゆら揺れる。麻弥の顔が開いた口と共にゆっくりと動いた。その動き始めまるでロボットの如く。

 

「失礼しました~」

 

 ―――ガチャン。

 

「彩さん!!ちょっと待ってください!!蒼真さん、失礼します!!」

「えっ?あっ、了解。弁当は?」

「すぐに戻りますから!!」

 

 彩の後を追って麻弥も部屋を退出。

 部屋の外である廊下からはやたら響く少女の謝罪の悲鳴が聞こえたそうだ。

 蒼真は宙を彷徨うトマトを食べた。

 

「あっ、これも上手い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 後日談。事務所。

 

「買ってきました!!」

 

 イヴが前触れもなくとある部屋に突入。

 唐突な謎の宣言に、部屋の中に居た者が予測できる訳もなく。

 

「わっ!?イヴちゃん!?」

「び、びっくりさせないでくださいよ~」

 

 そこに居たのは彩と麻弥。

 二人とも椅子に座り、テーブルには一つの雑誌が置かれていた。

 

「かたじけないです!!ですが、どうしてもお二人に見せたいものがありまして!!」

「え?イヴちゃん、それは?」

 

 彩はイヴの抱える物体に目が行く。

 

「ソウさんが載ってる雑誌です!!」

 

 ウキウキが隠しきれないイヴ。

 因みに雑誌の取材をあの時、受けたのはアークラのメンバー内では蒼真を含め二人だけだ。

 

「でも、イヴさん。ここにもうありますよ」

「うん。ちょうど見てた所だよ」

「そ、そんな!?」

 

 麻弥がテーブルの上から手に取る。

 その雑誌はまさにパスパレのメンバーが表紙となった一品であった。

 つまり、イヴの持つ雑誌は被り物。

 のはずだが、彩の視線はイヴの掲げ持つ雑誌の表紙に注がれる。

 

「でも、麻弥ちゃん。イヴちゃんの持ってきた雑誌、ちょっとこれとは違うみたい」

「た、確かに………表紙が自分達ではないですね」

「ワタシ、間違えたのでしょうか………?このページにソウさんの写真があったので、てっきり………」

「ちょっと見せてくれる?イヴちゃん」

「はい!」

 

 彩がイヴから雑誌を受け取る。

 証言通り、蒼真の名前とバンド名がページの一部に記載されていた。

 

「ホントだ。蒼真君の写真があるよ。ん?でも、これ本人かな?」

「蒼真さん、他に取材でも受けていたのでしょうかね?自分、聞いてないですけど」

「えっと、記事の内容はと………えっ!?」

「どうしました?彩さん?」

 

 ページを読み進めた彩の表情に変化が。

 青白く顔色が悪くなり、チラチラと麻弥を窺う仕草が多くなって来た。

 

「日菜ちゃんが………」

「日菜さん?何故、日菜さんが出てくるんですか?」

 

 無言で彩は麻弥に雑誌を手渡した。

 眼鏡をくいっと直し、記事を読もうとした麻弥であったが―――

 

「え………………………………」

「今度は麻弥さんがカチンコチンです!!」

「どどどどどうしよう………!!」

「彩さんはニワトリになっちゃいました!!」

 

 微動だにしなくなった麻弥。

 記事の内容は知らないイヴと逆に知ってしまった彩の反応は綺麗に真反対。

 それもその筈。

 雑誌のとあるページに記載された記事。

 その第一文は―――

 

『アイドルバンド"パスパレ"の氷川日菜に彼氏疑惑!?その相手はなんと今人気急上昇中のロックバンド"アークラ"のドラマー!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 麻弥編-4-『デート作戦』 終




*7th.ライブ行きたかった………

『ふーへーへーへーへー補足シリーズ』
・ベントゥー
→麻弥の手作り弁当(本人には即バレ)。
 やっぱり、男心を掴むには料理だって雑誌に書いてたから!(情報提供:彩)。
 協力者、蒼真の母。
 そして麻弥は然り気無く蒼真の好物を母からそれとなく聞き出していた。

・スケジュール
→ある程度は矛盾しないように気を付けてますがほぼガン無視です。適度に整理しておいてください。


・何故、日菜が?
→そこら辺の理由も-5-で説明する予定。


・スキャンダル
→それはまるで文○砲のようだった。


・投稿開始、二年目突入!
→今月の6日をもって、「Dreamer of Druumer」は記念すべき一年をむかえました。
 ここまで、話数が続いたのは初めてであり、色々と語りたいところでございます。が、話の完結も近いので完結後にそちらの方で纏めて書きたいと思います。
 兎も角、これからもよろしくお願いします。後、評価や感想もお待ちしておりますよ。
 Twitterって、やった方が良いですかね?どうなんですかね?
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