◇◇◇
事務所。会議室。
「日菜ちゃん、これはどういう事かしら?」
緊張が張り詰める空気が場を占める。
コの字型に配置されたテーブル。部屋唯一の扉から一番遠く、壁際にある椅子に鎮座するのは一人の人物。その者は―――
―――"氷川日菜"。
対して、向かいの席に腰を下ろすは―――
―――"白鷺千聖"。
「え?何の話?急にそんな怖い顔して、どうしたの?」
「とぼけないで、日菜ちゃん。自分でやらかした重大さに気づいてるわけ?」
「話の意図が分かんなーい」
千聖が日菜の元へ詰め寄る。
テーブルに両手を激しく置いた千聖の鋭い眼光が日菜に突き刺さる。だが、当の本人は知らぬ風を守り抜く姿勢を出す。
「千聖ちゃんが………マジだよぉ」
「まさに鬼ですね!」
「しっ!ここは自分達は黙って見守るのが一番っす」
そして、部屋の端から見守る三人。
彩は千聖と日菜のバチバチ火花に身体を縮ませ、イヴは相変わらずの平常運転。
麻弥もまた二人の行く末を見逃すまいとじっと視点は一つに定まったまま微動だにしていない。
「日菜ちゃん。貴方が蒼真君とのツーショット写真がネットで騒ぎになっているのは知ってる筈よ。それを承知でもう一度尋ねるわ。本気で分かってるの?」
「分かるも何も、そもそも千聖ちゃんこそ何か勘違いしてない?」
「え?」
「私とソウ君が二人きりでいるって状況も別に不思議じゃないでしょ。一般人ならまだしも、この時はソウ君も一緒に同じ仕事をしてたようなもんだし」
「そ、それもそう………ね」
千聖が押し黙ってしまった。
話題に上がった写真とはまさに蒼真と日菜がツーショットで写っていた物。だが、その背景は単に仕事終わりに帰るシーンを切り取っただけ。
一番問題なのは日菜ががっつり蒼真にしがみついてしまっていた事。一見すれば、デートする二人がイチャイチャしてるだけにしか見えない。
「でも、日菜ちゃん」
「うん?」
「肝心な事を忘れてるわよ」
「肝心な事?」
「えぇ。今回も前回みたいにパスパレメンバーだけで済ませれば良かったのだけど………残念ながら蒼真君も世間一般からは非難の対象にされてるわ」
「え?何で?蒼真君も一応一般人扱いだから大丈夫じゃないの?」
「そうね。私も蒼真君が非難を浴びる理由が分からないのよ」
普通なら日菜の意見がご最も。
バンドマンなど日本の中でも無数に存在する。まだプロとして本格的に活動していない蒼真は芸能界ではまだ一般人扱いとされる。
―――だが、これには盲点が存在する。
「ち、千聖ちゃん………!!」
「あら?どうしたの?彩ちゃん」
「蒼真君………ううん、正確には言うとソウ君はネット界ではとっても有名な方でございまして………」
「え?」
「あはは!彩ちゃん変な口調!」
「つまりは………蒼真君は扱い的には芸能人と殆ど変わりないぐらい………かと、です、はい」
知名度は近代では芸能界と同等にネット界隈でも上げる事が可能となっている。
某有名動画サイトで活動するだけの人が現在では芸能人以上に世間に認知されてるパターンもまたあるようにネットの勢いは右肩上がりである。
千聖はそういう方面には疎い方であった。
故に日菜のスキャンダルが発覚したと知った時も予想以上に騒ぎが大きくなるとは思ってもいない。
人の噂も七十五日。時間が経てば、自然消滅するとてっきり。
「彩ちゃん………具体的にはどのくらい、蒼真君は有名なのかしら………?」
「ど、どのくらい!?私もちょっと噛った程度でさすがにそこまでは………」
「そう………ところで麻弥ちゃん」
「は、はいっす!!どうされましたか!?千聖さん!!」
うわっ―――完全な飛び火だ。
冷や汗だらけな麻弥の隣でひっそりと存在感を消そうと躍起になっている彩はそう思った。
ここまでの最中、二人から飛び出た主張。
日菜はあくまで仕事の一環で二人きりになっただけ。そこから噂に尾びれ背びれが定着して事態が複雑になっただけ。
対して、千聖はアイドルという立場である以上、男性と二人きりという状況は極力避けるべき。何故ならこれは相手を信頼出来るかどうかが話の論点ではなく、そういう関係性だと世間から一度でも認識されてしまえばもう取り返しがつかないから。そうなれば、両者ともに只事では済まされないと千聖は懸念している。
一見―――どちらも正しいと言える。
少なくとも彩はそう考えていた。
普段からSNS関連に関わっていたからこそ、蒼真がネットでの活動をしていた事も耳に入っていた。それが余計に問題を拗らせるとは思っていなかったが。
プライベートでも友好関係を築く蒼真に迷惑を掛けてしまっただけでも既に彩の心中で罪悪感が芽生えている。その焦りからなのか、余計に彩は解決案が思い浮かばなくなってしまっていた。
希望の糸口は麻弥に託された。
「麻弥ちゃんは蒼真君に関しては私達の中で一番知ってるはずよね?」
「え、えぇ………同じドラマーですし、何より自分が尊敬する人っすから。それに………」
「それに?」
「あっいえ、何でもないです」
麻弥の表情に一瞬曇りが見えた。
頭の片隅で気にしつつも千聖は冷静に解決へ向けての糸口を辿っていく。
「蒼真君がネットで行ってる活動も分かるかしら?」
「はい。自分も視聴者の一人なので。特に有名なのはドラムの演奏動画、初心者向けのドラム講座とかでしょうか。どれも再生回数は十万を越えてます」
「確か、私達パスパレのMVは………」
「蒼真君より少し多いくらいかな?あっ、でも全動画の再生回数の合計となると余裕で負けちゃうかも………」
「………っ!?」
千聖が舌を巻いた。
パスパレはグループ。しかもプロとしての誇りも端くれなりにある。
対して、向こうは個人活動。なのに此方と肩を並べる程の動画再生回数を保持している。芸能界で有名だからと慢心するのは愚かな行為に等しい。
「まだ本格的にメディアに取り上げられてないだけでも幸いと言っていいわね………」
現段階。
蒼真と日菜の騒動はとある雑誌に記載された記事一つのみ。
テレビ等でそういうニュースが放送された様子はない。これは事前に千聖がスタッフを通じて調べた結果だ。
ここで日菜が話題を少し転換する。
「それでさぁ、ソウ君本人は何て言ってるの?」
「そこで再び麻弥ちゃん!!」
彩が咄嗟に振り向く。
他の者も同じ結果に至ったのか、麻弥を除く全員の視線が一同に集まった。
ぶんぶん、と全力で首を振る麻弥。
「いやいやいや!!聞けてないですって!!自分もさっき知ったばかりなので!!」
「なら、聞こうよ」
「へ?日菜さん?」
「日菜ちゃんの言う通りね。私達の今後の方針を伝える為、それに蒼真君の今の現状も知っておくべきよ」
「た、確かにそうかもしれませんが………」
彩もまた頷く。
唯一、麻弥だけが納得できずに渋った様子で己のスマホを眺める。
「どうされました?麻弥さん?」
イヴがそっと近寄る。
「切腹ですか?」
「えっと………このタイミングで連絡してもご迷惑では無いかと………」
「大丈夫です!!武士はどんな時も非常事態に備えます!!」
「蒼真さんって武士だったんですね………」
いざ、覚悟を持って。
「では………押します」
麻弥はそっと通話ボタンを押した。
-5の2- へ続く。
*8月のRoseliaのライブ初参戦、楽しみ!
『花音ちゃん誕生日おめでと!!』
・5月11日
→花音ちゃん、お誕生日おめでとうございます。ふぇぇぇ。
・日菜と蒼真のスキャンダル
→パスパレ内では緊急事態ですが、世間からは案外それほど大事には捉えられていません。
その理由も次話である程度解決させる予定です。
ここで皆さんに注目して欲しいのは麻弥ちゃんの行動です。彼女がどう思っての発言か、推測しながら読み進めればより楽しめるかと。
この小説はフィクションです。
・再生回数
→ドラム関係以外に気分でゲーム実況も投稿したりしてるという噂。
・「切腹ですか?」
→他になんかピッタリな台詞を思い付いた方、お待ちしてます。
・一方で………
→次はその頃の蒼真の様子をお送りします。