ifストーリー第二弾の特別編。今回は沙綾がヒロインとなっています。
始めに言っておきます。歴代でだいぶ甘々な内容になっちゃいました。いぇーい。私自身も爆発してしまえと何度思ったことか………笑。
それでもいいのなら、ぜひどうぞ。
沙綾大人編-1-『同棲生活』
◇◇◇
山吹家。蒼真の部屋。
「………」
椅子に座り、パソコンと向き合う俺。
作曲作業に没頭中の俺は相変わらず曲作りの途中で行き詰まっていた。
さて今はというと、大学を卒業して既に数か月の月日が流れている。俺自身の所属するバンド"アークラ"も有名なプロダクションと契約を交わし、在学中にプロデビューを果たしていた。
元から知名度はそれなりにあったお陰で、プロ初のアルバムもなかなかの売り上げを見せているようだ。そうマネージャーから意気揚々と言われた。
気が早いことに次回作にも結構なレベルの期待をあちこちから寄せられているらしく、そうとなると単に嬉しいやら同時にプレッシャーもあって、複雑な気分だ。
ライブも他のメンバーの実力、スタッフの助力などもあって、チケットはあっという間に完売だそうで。ありがたい。
「ここが問題やな………」
今、俺が製作する楽曲は二つ。
一つは秋シーズンに放映が始まるアニメの主題歌の予定だ。マネージャー曰く、そのアニメ関連のディレクターから抜擢された、とのこと。
後、一つは―――
―――その時、着信を知らせる音楽が鳴った。
俺の目線は手元のキーボード横、ブルーライトで光るスマホ画面へと移る。そこには電話を知らせるマークと相手の名前が表示されていた。
―――"山吹沙綾"。
無視出来る相手ではない。後で直接ぐちぐち文句を言われるよりかは素直に電話ぐらい出てやろうと思い、俺はスマホを手に取る。
『あ、もしもし?』
「もしもし。さーちゃん、どした?」
『えっーと………あのね。明日暇でしょ?』
「そう………やな。明日は予定もない」
『私も明日休みが取れてね。それで何処かにデートに行こうかなって。最近、忙しくて全然行ってないでしょ?』
「デートねぇ………」
俺と沙綾はそういう関係だ。
『駄目?ソウ君、最近忙しいから休みたい時にゆっくり休みたいよね?』
「んや、行こうか。デート」
『ホント!?』
「気分転換したい所やったし、全然いける」
『うん。そういうことなら分かった。あ、これ何だろう………ちょっとごめんね、ソウ君。電話切るけど、続きはまたね?』
「はいはい、了解、了解」
返事が適当!と沙綾の怒り声が飛んでくるのを見越して、俺は切断ボタンを早めに押す。
沙綾と二人きりのデート。俺が仕事にプライベートの時間を相当喰われてるとは言え、沙綾にそんな言い訳は出来ない。暫くデートもお預けだったのでここらで一息入れておくべきだろう。
パソコンの画面を消して、俺は両手を上に上げて背筋を限界まで伸ばす。伸びきった筋肉が良い快感を出してくれている。
「入るよ~」
コンコン、と扉がノックされる。
俺が返事をする前にその人物は部屋へと侵入してきた。俺はその人物が誰かはもう予想がついてるので、特に注意はしない。常習犯なのでとっくの昔に諦めている。
「ソウく~ん」
座る肩にどっさりと体重がかかる。
しかも俺の鼻孔は女の子特有の甘い匂いを捉えていた。よくよく意識すると背中に柔らかい感触も。
だが、これも毎回。俺は肩から出てきたその手を優しく握るが、呆れるから止めてくれと思わせるほどの声を出す。
「さーちゃん………さっきのは何?」
「デートのお誘い」
「いや、わざわざ電話じゃなくてもだな」
そう。沙綾とは現在、同棲中なのだ。
だからさっきの電話も正直に言えば意味が殆どない。
「電話の方が新鮮でしょ? 私達付き合って数年過ぎてるし、たまにはこうでもしないとねー」
「………いや、さーちゃんはいつになっても変わらないから楽」
「ちょっとー。それ、褒めてるのー?」
「褒めてんだって………てか、この感じ………お前、もう呑んでるな?」
「えぇー、呑んでなぁいよ!」
沙綾の呂律がやや不安定。
飲酒は法律的に余裕でクリアしてる俺達であったが、普段からお酒はあまり呑まないタイプである。
特に俺がそうだ。苦手ではないけど、酔えない体質なのかあんまり好きではない。
「あ、今日貰ったお酒………あれ、テーブルに置きっぱなしやったか………?」
大人の付き合いの一環として。普段からお世話になっております、と付き合いの長い友人から渡された代物だ。
高級そうな箱に入っていたので、落とさないように取り合えず安全なとこに移動させて、そこに置いた記憶はある。が、それっきりで俺の記憶は途切れている。
もし、沙綾が好奇心で箱を開けてしまい、その酒を口にしてしまえば、今のこの甘えん坊モード沙綾も納得が行く。
「ねぇー、ソウくーん。チューしてよー」
「はいはい………大人しく寝てろ」
「する気、ないでしょー」
「電話では酔ってなかったと思うんやけどな………やけに酔いが回るの早い………」
肩越しに暴れる沙綾を落ち着かせる。
沙綾は酔ってる時の記憶はちゃんと事後になってからも明確に覚えている。
それで、沙綾は今までにこれと似たような行動をしており、後から一人勝手に悶絶する姿を俺は数回目撃している
「ぎゅー」
さーちゃん、首元が絞まってます。
山吹家の長女であり、下に弟と妹を持つ沙綾は自然と幼い頃から下の面倒ばかりを見ていた。母親も病弱とあってなのか、普段からお世話をする方へと回る習慣がある。
これはあくまで俺の予想だが、その反動で沙綾は甘えると言う行為を知らない。誰かに甘えられる、は得意。でも、その逆となると未経験に近い沙綾は出来なくってしまう。
「………ソウ君がいる~」
そして、今は俺がいる。甘えても許してくれる人がいる。
でも沙綾にとっては方法が分からない。選んだ選択肢は酔っぱらうこと。酒の力で沙綾はそれを乗り越えようとしているのではないか。
ここまでが俺の予想だ。
本人に伝える気はないが、沙綾自身もうっすらと感じてきてはいると思う。
「さーちゃん」
「んー?なにー?」
「明日は何処行くか決めてんの?」
「決めてないよー?」
さて、悩み何処だ。
安定のデートスポットを回るべきなのか。反対の思考を持つのなら穴場もありかもしれない。楽器店とか。
………まぁ不機嫌そうな沙綾が目蓋の裏に映るよね。
折角だし、遠出もしてみようかと俺が色々と思考を巡らしていると沙綾の俺を抱き締める力が強くなる。
「ソウ君………」
「さーちゃん………改まって、どうした?」
「私………ソウ君の隣に立ててるかな?」
感情の起伏が激しい沙綾。
つまり、それは素直な心情を吐き出しているって言う意味にも捉えられる。
「………最近のソウ君、あちこちから呼ばれて………なんだか私から遠くに行っちゃう気がして………」
「………さーちゃん、ちょっと良い?」
俺は沙綾を一度俺から離れるように誘導する。そして、回る椅子を使って沙綾の方へと椅子を回転させる。
両手を大きく広げて沙綾を待つ。
「んっ………」
素直に俺の胸元へと入り込む沙綾。
沙綾をぎゅっと抱き締めた俺は優しく彼女の背中を擦る。
「心配かけてごめん………さーちゃんの事もちゃんと考えてるから。俺の隣にはいつもさーちゃんしか居ないって思ってるから」
「………ほんと?」
「こんな俺好みに可愛い彼女、誰にも渡さない。ずっといてほしいって思っとるから………」
「うん………」
それ以降、俺は黙って彼女の頭を撫で続けていた。
◇◇◇
数分後。
「小腹が空いたな………」
俺の背中に腕を回して離れない沙綾を意識の外に押し出した俺の思考の大半は、お腹が空いた、それだけである。
身動きもまともに取れない。いい加減離れて欲しいものだが酔ってる沙綾が言うことを聞いてくれる可能性は低い。
「お酒ならリビングにあるよ~?」
「やっぱり呑んでるやんけ」
「呑んでないもーん。ぐむぐむ」
お腹に顔を擦りつけないでくれ~。
「ほら、離れて」
「いや」
「………さーちゃん、離れて?」
「絶対にいや」
「愛してるから、今は離れて?」
「いや」
甘えモードの次は頑固モードに突入。
こうなると、沙綾は何をしても頑なに拒み続ける。俺には手の打ちようがない。これまでの全戦も、俺がお手上げ状態で片がついているのがその証。
試しに腕を離そうと引っ張るとそれ以上の剛力で締め付けてくる。何処からこんな力が出てくるのか、不思議なぐらいに。
「何か食べたいんやけど」
「………あるよ」
「何が?」
沙綾の変な答えに俺が聞き返す。
「私」
ようやく離れた沙綾が発した言葉。
俺の全ての動きが一時停止したかのように止まる。
「ソウ君………私を………食べて?」
「………変なこと言ってないでとっとと寝室に行ってこい」
「いや。なら、ずっと抱き付くもん」
再び沙綾は俺に抱き付き腰をがっちりロックする。反攻しようにも俺には先程の沙綾の台詞が脳裏で何度も再生されてしまい、余裕がない。
―――私を………食べて?
つぶらな瞳の上目遣い。パジャマ姿でいる為、男を誘う女性の肌が俺の目にちらつく。そして、何よりその口元は理性を奪う魔性の魅惑を放っていた。
「………ばか」
◇◇◇
一つ言い忘れていたことがあった。
俺の作曲している新曲について、だ。
………テーマは"結婚"。
そう、俺はこの曲が完成すれば彼女に告白をするつもりでいる。それまではどうにか隠さないといけないけど、勘の鋭い沙綾のことだ。慎重に行きたい。
完成がいつになるかは未だ未定。
数か月後なのか、はたまたは数年後になってしまうのか。俺だって想像がつかないのだから文句は受け付けられない。
でも沙綾を離すつもりは絶対にない。
例えばの話。今後、バンドを取るか、または彼女を取るかの究極的な選択肢が出てくるかもしれない。一番最善なのは両方を取ること。だけど、それすら不可能と判断したら、その時の俺は躊躇なく間違いなく沙綾を選ぶ。
バンドの皆には迷惑をかけるのは承知。それでもなお沙綾を選ぶのは俺の人生の大半が彼女に支えられて成り立つものだからだ。
言わずとも俺が出逢った多くの人にも相当支えられてきた。でも、辿り着くその最後にはそこに沙綾の姿が必ずあったのだ。
―――だからこそ、俺は沙綾を人生賭けて幸せにする義務がある。
沙綾本人は俺がここまで没頭しているとは思ってもいないだろう。それでも良い。沙綾が幸せであれば、それが一番なのだから。
「………ソウ君………」
隣に寝る幸せそうな彼女の寝顔。
俺は優しく彼女の髪を撫でるのであった。
沙綾大人編-1-『同棲生活』終
*5月の5thlive、行く人は楽しんで来てください!
『作者はコーヒー必須な補足シリーズ』
・山吹沙綾
→この話では現在22歳。大学に通いながら、蒼真と同棲をしており幸せな日々を過ごす。ポピパのメンバーと同じ大学なので、よく香澄やたえから、からかいを受けるが沙綾が放つ、そのあまりにもなピンク色オーラに有咲が参ってしまう、という副作用も同時に起きている。
・山吹蒼真
→設定では23歳。大学は音響やプログラミングを学ぶために情報系の学科を選択。ストレートで卒業している。沙綾とは大体四年前から恋人の関係になっている。同棲中で、既にどちらの両親からも公認を得ている。
バンドの方は大学三年生の時にプロデビュー。デビューCDは大売り上げを見せており、今後さらにバンド活動が期待されるJロック界のダークホース。
・酔う沙綾
→多分、こんな感じになると作者の
・「………ばか」
→あれれ?沙綾さん?酔いが覚めてます?
・で、二人はあの時何してたの?
→あなたの想像にお任せいたします。