さて、気分転換に仕上げました。若干変な展開に違和感を感じるかもしれませんが、花音ちゃん可愛い、が全てです。
評価、感想。お待ちしております。
◇◇◇
羽沢珈琲店。
「蒼真君が構ってくれない………ね」
溜め息を吐いた千聖。
芸能活動も波に乗り、毎日が忙しい中での折角の休日。初めは家でのんびり過ごそうかと考えていた千聖だったが、親友からの連絡を受けて、此処、羽沢珈琲店にいた。
約束通りの時間帯に親友さんは現れ、建前を全てふっ飛ばしてのいきなり本題に入ったらこれだ。
「ほ、本当に困ってるんだから!!」
「でもね?花音、私にそれを相談するのはちょっと違うと思わない?」
「どうして?」
「ど、どうしてって………」
相談相手・松原花音の疑惑の視線が千聖へと迷いなく突き刺さる。
花音にようやく彼氏が出来て、大人の道へ一歩ずつ確実に成長したと思っていたがこういう所は未だに変わらないと千聖は結論付けた。
「………まぁいいわ。で、さっきのはどういうことよ?」
「それが………蒼真君が最近、全然私と会ってくれなくて………」
「あ、そう」
「千聖ちゃん!?」
花音の相談内容は正直、芸能界一筋の千聖にとって微塵も興味がない話題ではあった。花音で無ければ、即座に蹴っていたことだろう。
「そんなこと言われてもね?花音と蒼真君、二人だけの間の問題に私が関与出来るわけないじゃない」
「そ、そんな事………ないよ?」
「はぁ………」
「お願い!!千聖ちゃんだけが頼りだから!!」
千聖の中で何かが引っ掛かる。
「もしかして………他の人にも相談したの?」
「あ………う、うん………彩ちゃんとか………」
「………だからなのね」
「どうしたの?」
「ううん、こっちの話よ」
数日前に気味が悪いほど彩がニヤニヤしていた日があり、不思議に思っていた千聖だったが此所で原因が判明した。
十中八九、彩は相談を受ける建前として、本音で花音と蒼真、二人のイチャイチャ話を聞きまくったに違いない。
「彩ちゃんはどう答えたの?」
「当たって砕けろって………どういう意味か、分かるかな?千聖ちゃん」
「え、えぇ………」
花音の相談事が最後の自分に回ってきた理由を悟った。花音の人選チョイスにも多少、理由が含まれる事だけは確かである。
これはもう答えるまで逃れられない、と諦めた千聖は仕方ない、そう花音の幸せの為に仕方がないのだと心に言い聞かせる。
「要はあれね。蒼真君に相手をしてほしい………つまり、思う存分に甘えても良い許可的な何かが欲しいのね?」
「う、うん………そこまで言ったかな………?」
「蒼真君がここまで彼女さんを放っておく理由は分からないけど………そうね。私がぱっとすぐに思い付く原因は―――」
花音が息をそっと飲む。
「そもそも仕事が忙しい」
「た、確かに………」
蒼真は現在、プロのドラマーとして全国の会場でライブを繰り広げている。加えて、バンドの作曲も同時進行でしている。その仕事量は計り知れない。
「次に蒼真君の性格上、花音から自然と甘えてほしいのかもしれないわね」
「は、恥ずかしいよ~」
「何年付き合ってるのよ、あなた達。いい加減慣れなさい」
「千聖ちゃんが厳しい………」
ぼそっとした呟きが聞こえてくる。でも、我慢だ。
千聖でも何となく分かるが、蒼真は音楽には積極的だが恋愛となると消極的になってしまう性格のはず。
そして、花音の恥ずかしがり屋。言わずとも常に奥手な花音はつい押されると黙ってしまう。とは言え、蒼真と恋人の関係になったみたいにやる時にはやる女の子だ。
二人の性格が重なりあうとすれ違いも出てくるだろう。
「そして、これは殆んど無い可能性だけど………蒼真君が花音に飽きてしまったパターン」
「ふぇぇ………」
花音に渾身のダメージが入る。
「何も変なことじゃない。世間のカップルによくあるマンネリ化って現象ね」
「千聖ちゃん、詳しいね………」
「………そんなこと無いわよ」
花音の指摘に頬を赤く染める千聖。
こういう細かい所にも目をつける花音の観察眼には頭が上がらない。
「兎に角!普段の貴方じゃない貴方を蒼真君に見せつけるのよ!それで万事解決」
「どういう………?」
「蒼真君をメロメロにしたいのでしょ?」
「メロメロ………っ!?」
「私に任せてくれれば、きっと大丈夫。心配しないで、花音。私も女優なのよ。好きな男のハートを掴む極意ぐらいは………ね?」
「ん!?んー!!」
ぶんぶん、と首を振る花音。
だがしかし。スイッチが入ってしまうと制御できない幼馴染みを花音は知っている。寧ろ、花音のこの行動は千聖の魂に火を付けてしまうのではないか。
無慈悲にも花音のその予感は当たることに。
「やるの?やらないの?」
ドン!と眼前に迫る千聖。
花音の思考が渦を巻く。蒼真と今まで以上の深い関係を目指すか。それとも、このまま少し彼と離れたままの生活に満足するのか。
「蒼真君のこと………好きでしょ?」
―――答えはすぐに決まった。
「………や、やります」
◇◇◇
蒼真の家。玄関。
「お、お帰り………なさい」
家に帰ると彼女がいた。非日常の光景だ。
普段の彼女は実家暮らし。そして俺は一人暮らし。でも、彼女から料理等の家事で世話を焼きたいと懇願された、かつ俺の帰宅に毎回合わせるのも面倒なので以前に合鍵を渡したこともある。
なので、まだ彼女・松原花音が俺の帰宅を出迎えてくれるのは納得できる。むしろ、他の男には味わえない彼女の魅力を独り占め出来るのだ。最悪、天に昇天してしまうレベル。
「そ、蒼真君………!!」
「あ、あぁ………花音、ただいま」
「ただいま!?………ふわぁぁ………」
どうにか口にすると、花音も顔を真っ赤にしてしまい、互いに言葉が出なくなってしまう。
仕掛ける側と仕掛けられた側、両方の思考が混乱してしまうという、第三者視点では全くもって意味不明な状況に陥る。
「ご、ご飯にします?」
と、花音が再び仕掛けてくる。
「お、お、お、お風呂にします?」
呂律が崩壊しているぐらい緊張するのなら、わざわざやらなくても。
黙って聞いていた俺の感想はそんな感じ。
「それとも………」
まぁ定番の展開だろう。
無論、この後の台詞を男である俺は知っている。だが、俺からそれを誘うのはまた話が違うからして、どうすべきか。
完全にオーバーヒートした様子の花音。ぷしゅー、と頭上から大量の水蒸気が出てしまいそうな勢い。
「てか、花音さん」
「ふぇ!?ど、どうしたの!?」
呼ぶと凄い慌てた様子で返された。
何を勘違いしたのかは知らないが、俺が呼んだ理由は其処まで重大な事でもない。
「その髪型………どした?」
「あ、これ?たまには気分転換で変えようかなって………」
ツインテールだ。
何時もはサイドテールって髪型で固定していた花音が兎のように高めで髪を二つに括っていた。控えめに言うと天使だ。
追撃のように、花音は私服姿にエプロンを付けているのもまたポイントが高い。
以上の観点より、保護欲が爆発しそう。いや、する。
「可愛いね」
「ふぇ!?………ありがとうございます」
萎縮してどんどん縮こまる花音。
「んじゃ、俺は荷物置いてくるから」
これ以上はなんか不味い。
俺はそんな予感がして、とっととその場を切り上げた。
「あっ………」
◇◇◇
蒼真の部屋。
「………作業が進まん」
ヘッドホンを耳から外す。
どうも作曲に意識が集中しない。最近は特に進みが悪いが今日はそれでも最低ランクの進行具合だ。
おおよその原因は分かる。花音だ。
さっきまで彼女の手作り料理を堪能しており、のんびりとした食事風景であった。が、その前のあれのインパクトが強すぎて脳裏からこびりついて離れない。
俺の彼女があそこまで大胆に出るなんて珍しい。ここのところ、二人の時間が取れていない自覚があったものの、花音にとってそれほど重症になっていたとは。
――もう言ってしまえば早いかな。
「蒼真君~」
声がして、ぱっと俺は振り向いた。
扉を開けたのは花音。風呂上がりなので、まだ髪全体が湿っており、ポカポカと暖気が全身から漏れている。
パジャマを着ているものの、夏場の今ではかなりそれも薄い。本人に悪気が無いとは言え、かなり危ない。
「どうしたん?」
「えっと………特には………」
「そ。なら、俺も風呂に行ってくるわ」
「その、あのね?ちょっと話良いかな………」
「ん?」
花音に呼び止められ、俺はその足を止める。
「蒼真君………
「え?」
―――俺が浮気?誰と?
仕事の関係上、女性とはよく知り合いになる。が、共通してプライベートの連絡先は教えていないし、それを知ってる人は花音とも友達の関係を持つ人が大抵である。
花音は視線を逸らして、ぼそっと呟く。
「最近全然会ってくれないから………私に内緒で誰かと会ってるんじゃないかって………」
「………」
「蒼真君のことだから、私の勘違いかもしれない………でも、やっぱり私、嫌われちゃったかもって不安で何も考えられなくて………」
「だから今日はあんな事を?」
「………うん」
小さく頷いた花音。
「はぁ………もういいや」
俺は溜め息を吐いた。
内緒にして、サプライズしようと思っていたが彼女を不安にさせてしまう逆効果をもたらすのなら即座に中止だ。
俺は俯いた花音の頭を荒々しく撫で始める。
「そ、蒼真君!?」
「俺がここ一ヶ月忙しいのは仕事の休みを纏めて貰うためであって、他意はないから」
「休み?」
「あぁ。この前にふと思ったんやけど、俺ら二人で旅行に行ったこと無かったやろ?」
「そうかな?」
「日帰りはあるけど………泊まり掛けは………ね?」
「え?なら………帰りが遅いのも………」
「休みを空けたせいなのか、スケジュールの調整の余波が一気に来ててな?怒涛に忙しくなった」
「ふぇぇ………」
花音の肩の力が抜けた。だいぶ不安になってしまったらしく、もはや涙目になりつつある花音を俺は優しく抱き締める。
―――ついにそれが止めとなってしまった。
「良かったっ~~!!蒼真君のバカぁ!!ややこしいよ!!」
「それはすまんって。あぁ!?折角、花音、風呂入ったのに」
「知らないもん」
「ありゃま………よしよし」
小さなズレ。
それはどんな深い関係にあろうと生じる絶対的な物。家族であろうと、恋人同士であろうと。
だけど、脅える必要はない。
人は正直に打ち明けたら良い。あくまで俺は俺、彼女は彼女のままであり、他人の気持ちを完全に読み取るのは不可能。
恐怖も多少ある。嫌われたら立ち直れない。それでも、言わない後悔をするのは何よりも後悔だし、それに最大の理由は俺の目の前にある。
「ふふーん♪」
―――彼女の笑う姿だけでも見ていたい。
「んで、何処に行ってみる?」
「う~ん………今は蒼真君に甘えたいかな」
「よし………なら、今はドライヤーで髪乾かそうか?」
「うん」
花音大人編-1-『Misunderstanding』 終
*ポピパ二章楽しみですねー
『マジで天使な補足シリーズ』
・松原花音
→大学三年生。今は夏休みの為、授業はない。高校からのアルバイトを続けており、結構高い地位に着いているらしい。
・「………やります」
→余談だが、これをそっと見守っていた羽沢看板娘も何かを決意したそうだ。
・「ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも―――」
→千聖アドバイス其の一。取り合えず花音の美貌で誘惑してみたらどうだろうかという千聖のちょっとした興味心から生まれた作戦。
・ツインテール
→千聖アドバイス其の二。花音の髪型をサイドテールから変えて雰囲気を変えるギャップ狙いで蒼真を落としていく作戦。無事、蒼真には効いた。
・お風呂上がり
→千聖アドバイス其の三。女の武器の色気を前面に押した、最早ゴリ押しに近い作戦。とは言え、男は相変わらずこれに弱い。
・浮気した?
→千聖アドバイス其の四。気が重い会話の切っ掛けを作ろう作戦。これが本当となれば、あれだけど千聖は予め無いと判断していたので花音にその台詞を言うように指示した。
・Misunderstanding
→勘違い、という意味。