Dreamer of Drummer   作:ソウソウ

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 思い付いて、忘れない内に仕上げました。

 ifの話となっておりますので今回は特別編第一弾として。今後も他のドラマーの子達の特別編も余裕があれば投稿していきます。
 将来あり得るかもしれない世界の一つとお考えくださればありがたいです。ぶっちゃっけ、ただの作者の妄想ですので適当に流してください。

 それでも良いのであれば………どうぞ!



麻弥大人編-1-『ライブ報告』

 ◇◇◇

 

 ライブ会場。

 

「ありがとー!!!」

 

 彩の精一杯の感謝の言葉に、観客の何万人が答えようとして手持ちのライト棒をピンクに照らして振り続ける。

 それにより、真っ暗に浮かび上がるピンクの光はまるで絨毯の如く会場を埋め尽くす。

 

「また会おうな!!」

 

 そして彩の隣に立つ藍斗の声はマイクを伝わり、会場一体に響き渡る。やがて、わーと大音量の歓声が返ってくる。

 年齢や出身に性別。全てが同じではない人達が集まっている此処ではそれらは無関係と変わる。

 心は一つとなっていた。

 

 ―――"Pasttle*Palette"vs"アークラ"。

 12月25日。会場、東京ドーム。

 

 クリスマスに開催されたこのライブは今では音楽界トップを走り抜ける二つの人気バンドによる対バンであった。

 普通の対バンとはうって変わって、ステージは二ヶ所設置されており、本番では二、三曲ずつ曲を交代で披露されたというガチの対決形式。

 予定されたプログラムも無事に全てが終了。現在の会場では演奏を全力でやり遂げたパスパレ、アークラのメンバー達に向けた終わらない拍手や歓声が轟いていた。

 

「ありがとぉーー!!」

「また来るからぁーー!!」

「彩ちゃーーーん!!」

 

 興奮が押さえきれない。全てを吐き出すかのごとく叫び続ける人も多く見られた。

 パスパレ側のステージで手を振っていた彩もやがて手を下ろし、深く頭を下げて一礼。

 他のメンバーも全てステージから降りており、隣にいたアークラメンバー最後の藍斗も既にステージ裏へと歩みを進めていた。

 

「ありがと………皆ぁ………」

 

 頭を上げた。涙声になりながもはっきりと彩は口にする。

 そして彩はステージを後にする。

 最高の演奏を魅せてくれたステージが今ではやり遂げたお陰か置かれている楽器も誇らしげに見える。

 

 ―――………アンコール!!アンコール!!

 

 ふと始まった。

 一体何処から。そんな疑問は余所に、心は一つとなった皆がすることは最早決まっていた。

 

『アンコール!!アンコール!!アンコール!!アンコール!!』

 

 初めは小さな声。徐々に、徐々に周りの人々が一緒になって声を出していく。数秒もすれば、怒濤の声量へと変貌する。

 誰もが、望んでいた。これで終われないと心が叫んでいた。

 

 ―――刹那、全ての光が消えた。

 

 アンコールの声が一気に鎮まる。

 何かが始まる。そんな予感がして、うずうずしてしまう。

 観客の期待を答えるかのようにスポットライトがある場所を照らし出す。

 一つはパスパレステージのある上手。

 一つはアークラステージのある下手。

 二つのスポットライトはゆっくりと動き出す。目指すは二つのステージが交わる中央部分。日菜とアークラのギターがソロの時に立ってギターを弾いた場所。

 スポットライトに照らされながら、姿を現したのは他でもない今回のライブで最大のキーパーソンでもある二人のミュージシャン。

 

 "山吹蒼真"と"大和麻弥"。

 

 蒼真は目の前の麻弥を見て、そっと微笑む。ライブをやり遂げた二人はくたくた疲労困憊になっており、汗びっしょり。

 控えで着替えてきたとは言え、まだまだ熱気や興奮は収まることを知らない。

 

「いよいよやね、麻弥」

「そうですね、蒼真さん」

 

 そして、二人は自然とその手を繋ぐ。

 蒼真は会場で販売されるシャツを着ていた。麻弥もまた彼とは別タイプのシャツを着ている。

 二人が目にしたのはまるで浮島の如く会場のど真ん中に設置されている特設ステージ。ライブの途中にあるアコースティック演奏でも使われた。

 その時に使われた機材は長年お世話になったスタッフによって撤去されており、特設ステージには何もない。

 二人は特設ステージに向けて、ステージ同士を繋ぐ通路へと一緒に足をつけた。

 

「おめでとぉーー!!」

「羨ましいぞぉーー!!」

「麻弥ちゃん、綺麗だよぉーー!!」

 

 男性陣からは嫉妬を含む雄叫び。女性陣からは祝いの言葉を授かりながらも二人は歩みを進める。

 二人だけが出てきた理由はある物を見ればすぐに分かる。

 

 ―――左薬指にあるお揃いの指輪が光った。

 

 特設ステージへと着いた二人。

 マイクスタンド一つが其処には置かれていた。何ともあっさりしたものだ。

 

「あーあー。出とう?」

 

 蒼真がマイクを空いていた手に取る。

 観客の反応でしっかりマイクの音声が届いていると確認した蒼真はゆっくりと喋り始める。

 

「さて………今日と言う日を迎えられて俺は大変嬉しい………この一言に尽きます。今までもこう………胸に来るライブは何度かあったんやけど、ここまで辛く、そして嬉しいライブが出来たのは初めてのことでした」

 

 ぎゅっ、と強く握られる手。

 隣を見てみると、眼鏡をかけていない麻弥が優しく見守ってくれていた。

 

「今日のライブでは今まで培った全てを出しきり、最高の時間を味わさせてもらいました。それも含めて、俺が此処にこうして立てているのは応援してくれるお前らがいてくれたお陰であり、そして………」

 

 会場は無音に包まれた。

 

「麻弥がいたからです」

 

 ………それは爆発であった。

 

 蒼真の言葉を切っ掛けに外へ放たれたのは祝いの言葉達。何万と言う数のそれが蒼真、そして麻弥の耳へと届く。

 

「実は出会った当初の俺はさ、麻弥を勝手にライバルとして接してきたんよ。それがこうして見れば、今、俺と生涯一緒に歩んでくれることになっとるとは………人生分からんもんやな」

 

 ひゅーと誰かが囃し立てる。

 

「でも、これだけは言える。将来の全てを使ってでも、全人類を敵に回してでもさえ、俺は麻弥を最後のその日まで守りきり、泣かせたりはせず、幸せにしてみせる。そして―――一人の女性として麻弥を未来永劫愛する、と」

 

 蒼真の決意を嘲笑う者などここにはいない。

 全員が二人の味方であった。

 

「麻弥もなんか喋る?」

「え?ええっと………そ、そうですね………」

 

 急にマイクを向けられた麻弥はもたつきながらそれを手に取ってしまう。

 

「ジブン、一応アイドルの身分であるにも関わらず、こういう挨拶の機会を設け貰えたことには感謝しかないです。ありがとうございます」

 

 ―――そんなことないよー!

 ―――可愛いよー!麻弥ちゃん。

 

 観客からたくさん届く優しい声援に思わず涙腺が緩んでしまう麻弥であったがどうにか堪える。

 

「………本当にありがとうございます。ジブンもちゃんと蒼真さんと一緒に人生を歩いていきたいと思っています。あ、でも、パスパレもアークラ共々まだまだ未熟な部分を直して、もっと良いライブをしていきたいとも思っていて………あれ?何言ってるのか無茶苦茶になってますね。あはは………ジブンが言いたかったのはこれではなくて、えっと………」

「麻弥、ごめんな。後で文句は聞くから」

「え?蒼真さ―――」

 

 そして、麻弥の唇が蒼真の唇で塞がる。

 数秒後には、鮮明に頬を赤へと染め上げた麻弥が中継カメラに映し出されていた。

 

「落ち着いた?」

「は、はい。ありがとうございます………」

 

 蒼真が照れる麻弥の頭を優しく撫でる。

 唐突なイチャイチャに、あちこちから黄色い声が飛び交った。然り気無く、ステージ裏からも。

 

「最後にこれだけ言います。ジブンも蒼真さんのこと………愛してます………思ってた以上に恥ずかしいですね、これ………」

「もう今更遅い」

「………なので、そういう訳です。ジブンと蒼真さんのこと、これからも末永くよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 

 麻弥は頭を下げ、蒼真もそれに続く。

 二人に対して祝福の拍手が送られ、会場は祝福ムードに包まれていた。

 

 ―――と、次の瞬間だった。

 

「………なぁ麻弥」

 

 円型の特設ステージ。その中心辺りの足場が下がっていく。打ち合わせにないその仕様に蒼真の本音が漏れる。

 しばらくして再び上がってきた足場。

 そこに鎮座していたのは二つのドラムセット。それぞれ蒼真と麻弥が愛用しているドラム達だ。優秀すぎるスタッフも別の意味で困ってしまう。

 

「これは、聞いてないですね………」

「よな………」

 

 麻弥も事前の打ち合わせでは耳にしていない。明らかに裏の誰かの意図が働いている。

 観客からしたらそんな事情を知る訳もなく、ドラム叩いてー!と声が次々上がっている。

 

「蒼真さん、どうします?」

「やるしかないやろうなー」

 

 会場のムードは最早それ一択。

 

「麻弥、いつも通りのセッションでいこう」

「了解です」

 

 ドラムの近くに寄ると、円の外側に向けて置かれている事が分かる。スネアにはそっとスティックが添えられている。

 蒼真と麻弥が二人同時に観客の前でドラムを叩くのは初めての事だ。それを考慮して、こんなサプライズを今仕掛けられたのだろうか。そんなことを蒼真は考えていた。

 渋々と言った感じで蒼真が椅子に座り、麻弥が後から別の椅子に座る。

 

「後で犯人懲らしめとこ………」

「程ほどにしておいてくださいね?ジブンは今ワクワクしてますし………蒼真さんはもっとこうやってドラムを叩いたりして一緒にいてくれないと駄目です。じゃないと、ジブンが拗ねちゃいますので」

「ふっ………麻弥も言うようになったな」

「もう勝負は始まってますから」

 

 背中合わせの二人。

 この先、二度とお目のかかる事のないであろう特別なコラボによる二人の最初で最後のセッションに心が自然と踊ってしまう。

 

「よし、いくか―――」

 

 蒼真のハイハットのカウントで。

 

 ―――いざ、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 "Pasttle*Palette"vs"アークラ"。

 対バン形式、ツーマンライブ。

 202X年。12月25日。東京ドーム。

 

 “Happy Wedding Universal Live”。

 

 ―――for "山吹蒼真"and"大和麻弥"。

 

「………チケットは即完売。ライブも大盛況で終わり、メインイベントである二人の結婚もテレビや新聞で大々的に報道される。さらに同時にリリースされた新曲はオリコンランキング一位を独走中………凄い人気だな………」

「さらにだよ!お姉ちゃん!アイドルの結婚にも関わらず、特にファンからも目立った反対はなく、二人はラブラブな結婚生活を送るだろう………だって!」

「うん。ライブ、すごかったもん。あれを見せられちゃ反対しようとしてた人も口出し出来ないね」

 

 そっと、それを閉じる。

 

「………おめでとう、二人とも」

 

 

 

 

 

 麻弥大人編-1-『ライブ報告』 終

 




*アンケートあるので活動報告の方、よろしくですー

『妄想全開の補足シリーズ』
・パスパレvsアークラ
→アークラは主人公の所属するバンド。どちらもプロとして活動している。アークラは全国ツアー全ての公演のチケットが完売し、パスパレはテレビで彼女たちを観る日はないとされる程の人気ぶりである。


・麻弥ちゃんの結婚報告
→ネット界では元々二人の熱愛疑惑が出ていた。というか、共演してる番組では仲良さげアピールを二人が無意識にしちゃっていたので両者のファンの間では、暗黙の了解となっていた。


・ドラムセッション
→後々、ファンの中では伝説のシーンと称される。セッション後にパスパレ、アークラ全員で新曲一曲を歌いきり、アンコールは終わりを迎えた。


・最後のシーン
→君達のもやるから、ちょっと待てって!やるから!待ってて!だから、凄い目でこっち睨みながら近付いて来ないで!

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