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◇◇◇
収録スタジオ。
「さて………観ている皆さん、お久しぶりです」
こほん、と一咳置いた麻弥。
其処は今も昔も変わらない麻弥がいつも使っているスタジオ。椅子に座る麻弥の背後には彼女が愛用するドラムが鎮座している。
「本日は特別回。いつもよりも時間を延長してお送ります。では行きましょう」
恒例となっているコールへ。
「毎週夜8時からお送りしています!"ドラム図鑑"!今日の司会進行はパスパレのドラム担当"山吹麻弥"です!」
―――『やまぶき………だとぉ! 』
―――『結婚おめでとー!!』
―――『おぉ!結婚しても、これはやるんですね!』
麻弥の結婚発表で世間は騒ぐ。彼女達を祝福する記念ライブも先週やり遂げた麻弥であったが、この番組は通常運転で始まっていた。
画面上では麻弥を祝ったり、夫を妬む、もしくは普通に出てきた麻弥に驚きの声を上げるコメントが流れ出る。
「では、参りましょう!今日のゲストはこの方!」
「へーい、毎度お馴染みの麻弥の夫でーす」
カメラ外から入ってきたのは蒼真。
麻弥からは視線を少し逸らせば見えていたので、特に驚くこともない。
特別回とのことなので、大まかな予想は視聴者側でも付いていたのかコメントには。
―――『夫婦回ですね』
―――『拝みます』
―――『今回はドッキリしないんですねー』
時々触れてはいけない物も流れる。
ある程度纏めると、麻弥へのドッキリがなくてがっかりした、との意見が大半だ。
「ちゃんと自己紹介してください」
「ぐっ………山吹蒼真です。"アークラ"のドラマーです」
「はい、よく出来ました」
時は同じく、スタジオでは夫婦のやり取りが繰り広げられていた。メディアでは滅多に取り上げられないその光景に多くのファンが感激している事を当の本人達が知る由はない。
こてんぱんの如く、嫁に叱られた蒼真は反撃とばかりに不敵な笑みを浮かべる。
「ところで、麻弥」
「はい?何でしょう?」
「誰が今日のゲストは俺
「え?」
―――『出た!!後ろ!!』
はっ、と気づくも時既に遅し。
「であえーー!!」
まさかの江戸時代、到来。
「ひゃっ!?」
背後からの巨大な叫び声に麻弥の悲鳴が飛び上がる。にやにや、とした蒼真は麻弥の背後の人物と目を会わせ頷き合う。
「やったね」
「いぇーい!蒼真君!上手くいったよ!」
その人物は蒼真とハイタッチ。
ピンク髪に周りを自然と笑顔へ移行させる笑顔の持ち主。そして、パスパレのボーカリスト。
「………彩さん、ですか」
「ごめんね~麻弥ちゃん。私、こういうのやってみたくて♪」
てへぺろ、と舌を出す彩。
「皆~観てる~?パスパレピンク担当!真ん丸お山に彩りを!丸山彩です!今日は最後まで楽しんでいきましょー!」
事態を飲み込めない麻弥を余所に彩は画面に向かって自己紹介。これも彼女が芸能活動で培ってきた成果である。
―――『おぉ、神よ。私はまた見れた。』
―――『彩ちゃんだ!!可愛い!!』
―――『期待を裏切らないソウさん。流石』
コメント欄でも彩の登場を喜ぶ声が多数上がる。そして、再び麻弥の可愛い悲鳴が飛び出した光景を見れた人は歓喜を、逃してしまった人は残念さを己のコメントに入れていた。
少し頬を赤らめた麻弥は不機嫌そうな空気をプンプンとばかりに放ち出す。
「え?彩さん?どうしているんです?今日は撮影の筈では?」
「えぇっとね………麻弥ちゃん。あのね、撮影は真っ赤な嘘です♪麻弥ちゃんを安心させるための作戦です♪」
「………」
「それで、何故来ちゃったかと言うとね、今日のドラム図鑑は山吹夫婦を徹底的に質問攻めにしよう!ってテーマだって。その進行を私が麻弥ちゃんの代わりにするために呼ばれたって感じだね!」
彩の言い分に麻弥は無反応。
「蒼真さんはこれをご存じで?」
「俺が仕組んだことに決まってるやろ」
蒼真はどや顔で言い切った。
「………蒼真さん」
「おっ?おっと………これは………」
「あの?………私は?」
じりじりと迫る麻弥。後ずさる蒼真。
―――『修羅場来たぁぁぁ!!』
―――『www麻弥ちゃん強しwww』
―――『おろおろしてる彩ちゃん可愛い』
これは流石にやり過ぎたのか、と蒼真の脳裏をよぎる。最悪の展開も予期して置かなくてはならなかった。
徐々に間を詰めた麻弥はゆっくりとその言葉を口に告げる。
「お詫びに………そうですね………
「ふぇ?………ここでか!?配信中やけど!?」
「しないのなら、明日から蒼真さんのご飯は作りません」
「マジですか………それはやばい」
麻弥が暴走した。
「え?え?麻弥ちゃん?」
「男は覚悟が肝心。恥は一瞬………」
「蒼真君!?あの………流石に冗談だよね?え?とってもお顔が近い気が………思いっきり撮られてるよ!?―――あ」
次の瞬間。
二人を映していた画面が番組お馴染みの静止画へと切り替わるのであった。
◇◇◇
収録スタジオ。
「………大変お見苦しい所をお見せいたしました」
切り替わる画面に突如映るのは謝罪姿の麻弥と俺。
夫婦の営みは時と場所を考えろ、と嫁共々裏でマネージャーからこってり搾られていた。何故、俺まで巻き込まれるのか不思議だが、麻弥の夫だろうが、と一言で片付けられた。
無論、視聴者は誰一人として気にしていない気配。むしろ、もっとやれと大歓迎ムードに近いのだが、けじめはけじめである。
「それでは、お二人ともお座りください」
「………彩さん」
「はい?麻弥ちゃん、どうされました?」
「司会、似合わないっすね」
「まさかのいきなりの辛辣なご指摘!?」
台本を片手にクールに進行する彩。
普段の慌てぶりが彼女の大半を印象付けているので、今の姿は確かにカッコつけてる感がプンプンしてる。
麻弥と俺はスタッフに用意された椅子へと腰を下ろした。
「まず、お二人様、結婚おめでとうございます」
「うん、ありがと」
「ありがとうございます」
結婚発表かつ記念ライブ以来、こうやって二人で何らかのメディアに出演するのは初めてである。
人気アイドルバンドと人気ロックバンドのドラマー同士が結ばれたので、一時期多くのネットやニュースで取り上げられ、世間は騒然とした。だが、それも一瞬で収まり、徐々に歓迎雰囲気一択になったのは俺にとってありがたい展開であった。
あまりにもすんなりいく理由を俺は何気なく調べたことがあるが、どうやら俺と麻弥の関係性については元より互いのファン同士で考察を議論していたようなのだ。
そして、まさかの結論が"静かに見守ろう"という。平和的過ぎるまさかの解決方法に俺はその時、静かにパソコンを閉じたのであった。
気づくと、彩は静かに目を閉じていた。
「そんな新婚ほやほやのお二人に質問を募集しようかと考えてましたが………」
「が?」
「既に私の手元に質問が書かれた紙がこのとおり!沢山来てますよ!」
「そりゃあ………良かったな」
彩が漫然の笑みでひらひらと見せつける紙にひきつる蒼真の頬。
「では、行きましょう!」
1―――プロポーズはどっちから!?
「一発目から随分と慌てんな」
「蒼真君、ちゃんと答えてくださ~い」
「バレてら………俺からやね」
「ですね。ジブンもその時は急だったので緊張する暇もなかったっす」
「どういうシチュエーションだったの?」
「彩さん、もう口調が戻ってますよ」
「え!?あっ、ごめんなさい!!」
「もうこの際やし、いつも通りで良いよ。俺らもやりにくいし」
「そ、そうかな?なら、いつも通りで行くね」
「その方が良いって。ほら、彩ちゃん、次の質問」
「あっ、うん。そうだね………って!ちゃんと私の質問にも答えてよ!!」
「くっ、無理やったか………」
「駄目でしたね」
「二人とも?」
悔しそうにする俺。話の路線を変えようと試みたが惜しい所で彩に気づかれてしまった。
麻弥は俺の企みにただただ苦笑い。
だったら、別の方法で誤魔化す。
「そう………あれは一昔前のこと―――」
「リビングで夜、二人きりで呑んでたときっすね」
「麻弥ちゃん………!?」
「蒼真君、思ったより夢がないね」
「分かってらー!!会話の成り行きでそうなったんやい!!」
「ジブンも嬉しかったことには変わりなかったんすけど、あまりにもあっさりしちゃったので………妥協案として指輪と誓いの言葉を先月の記念ライブで貰いました」
「あれ、凄かったね!!見てるこっちも恥ずかしいぐらいだった」
「そんなにか?」
ちらり、とコメントを確認。
―――『私もあんなプロポーズしてほしい!!』
―――『普通、何万人の前で言えねぇよ………』
―――『裏で指輪渡してたんですね』
ふむ、そうか。そういうものか。
「私、指輪渡す所は見てないけどいつ渡したの?」
「アンコールの前にちょっとね」
「彩さん、最後までステージに居ましたから、時間的に遅かったっすね。イヴさんや日菜さんとは指輪を嵌める最中のジブンとがっつり目が合いましたよ」
「嘘ぉ………」
「ははは、残念やったな!!」
「次の質問、行くね………」
「彩さん、落ち込みすぎですって」
「指輪の贈呈なんて人生で一度として見れるかどうかだよ!?それを見逃してたなんて………」
2―――結婚式はするの?
「するね」
「しますよ」
「あの頃の皆と会えるって事かぁ………楽しみ~」
「おい、司会者。思い出に浸ってる場合かい」
「具体的な日程や場所は言えませんが、ジブンと蒼真さんの仕事の関係者や友人、ご家族を年内までには結婚式に招待しますよ」
「えっ!?麻弥ちゃん!!ウェディングドレス着るの!?」
「そ、そうなんですよ~!!」
只の雑談と化している。
スタッフサイドから何も出てこないと言うことは問題なしで宜しいのだろうが、普段通り過ぎて配信中とは思えない空気ぶり。
―――『むっさ、行きたい!!』
―――『行きたい!!見たい!!』
そんなコメントが大多数。
麻弥と結婚に至るまでに悩むことも多かったがこうやって人々に祝福されるのを間近に感じて、俺は選択を間違えずに済んで良かったと安心していた。
「あ、視聴者の皆さんも安心してな。パスパレの番組が密着に入るみたいやから、いずれ結婚式の様子も放送されると思うし」
「うん。私かもしくはパスパレの麻弥ちゃん以外の誰かがカメラを片手に密着するかも」
「それ、仕事になるんやろうか」
「「………」」
彩と麻弥は黙って目を逸らした。
3―――バンドは続けますか?
「勿論、続けるね。アークラはフェスとかからも多く出演の声がかかってるし」
「パスパレもまだまだジブンは止めないですよ。彩さんの歌声、ジブン大好きっすから」
「っ~~!!麻弥ちゃ~ん!!」
「ちょっ!?飛びかからないでください!?」
「私もパスパレのドラムは麻弥ちゃんじゃなきゃやだ!!」
「まぁ………時がくればあれっすけど」
「っ!?がーん………」
「自分で言うのね」
頬をほっこり赤く染めた麻弥と青ざめた表情の彩。これが現在のパスパレだ。
時、ってのはあれだ。結婚の次に欲しくなるあれを言っている。やることはやってるのだがまだ互いに気不味い。
4―――幸せですか?
「愚問やね」
「ジブン、最高に幸せです。蒼真さんとは些細な出会いから始まり、こうして二人結ばれた。それだけでも満足出来るはずでしたが、ファンの皆さんにもおめでとうのお声をたくさん下さって………本当に幸せです」
「パスパレファン、特に麻弥ファンの男には悪いけど麻弥と結婚して良かったと思ってる。麻弥には色々な面で支えられてきた。そして、これからも俺はその恩返しって感じじゃないんやけど麻弥と一緒に、幸せにしていきたいと思っとるね」
「はい、お待ちしてますよ」
「蒼真君!!」
「ん?」
「"Pasttle*palettes"からメンバー代表として丸山彩が尋ねます!!山吹蒼真君!!麻弥ちゃんを今後一生幸せにする覚悟はありますか?」
「………あぁ勿論」
「よろしい!!もしもの事があれば、私達の中でも特に千聖ちゃんが黙ってないからね!!」
「彩さん、それは流石に怒られますよ?」
「や、やっぱり?」
謎の茶番劇が始まる。事実、俺はパスパレの一人を我が物にしてしまうのだ。少しぐらい付き合わないとな。
「結構喋ったな」
「そうっすね」
「私は全然話し足りないよ~」
「彩さん、元気っすね」
「もうそろそろ休憩を挟む感じか」
カンペにも締めをするよう指示が。
「………あっ、私だった」
完全に役割を忘れていた彩。
誤魔化そうと笑顔を浮かべているが、全てを映す配信では無駄な足掻きである。
「で、では、皆さ~ん。ドラム図鑑放送50回記念スペシャルも一旦休憩となりま~す。この後はあの記念ライブのスピンオフ映像などもあるそうなので首を長くしてお待ちくださ~い。ではでは、皆、またね!!」
―――ライブ配信は終了しました。
麻弥大人編-2-『ライブ配信』 終
*未だに筆者はRoselia2章を読み終えるのが怖くて4話で止まってます。
『そんな気がする補足シリーズ』
・山吹麻弥です!
→………ついになっちゃったか。
・彩ちゃん登場
→何かと出番が多い。蒼真とは仲が良い方。
・「ふぇ?………ここでか!?――――」
→おおっと、主人公の中にいた花音ちゃんが出てきてしまったようだ。
・スピンオフ
→需要があるのなら暇を見つけて書きます。