「バンドリ ~先輩に拾われた僕~」より
作者:ユール様です。
こちらで描写していないシーンもユール様の小説で執筆されていますので、お時間があればぜひそちらも見て下さい。
*【バンドリ ~先輩に拾われた僕~】はこちら。
https://syosetu.org/novel/147139/
では、どうぞ―――
◇◇◇
ライブハウスCiRCLE。受付前。
「ローダンセ?………ですか?」
習慣の個人練習の帰り際。会計を済ませて、いざ退散と意気込んだその時。まりなさんの口から出た言葉に俺は聞き覚えがないので尋ね返していた。
英語の類いだろうか。それともドイツ語?
どちらにせよ、俺にとってあまり耳にしたことがない言葉に変わりはない。
まりなさんはしっかり頷く。
「うん。バンドの名前」
「………あんまし知らんのですけど」
「あれ?聞いたことない?」
まりなさんの反応からして、どうやらその名前は巷では有名らしい。俺、そんなに世間知らずだったのだろうか。
「数年前にコンテストとかで大暴れしていたバンド。今の蒼真君達ぐらいには賞を総嘗めしてたかも」
「数年前だと………俺がまだ此処に来てなかった時期ですね」
二代目アークラもまだメンバーすら集まっていない頃だ。そりゃあ俺が知らない訳である。
「え?あ~そういえばそうかも。と言うよりも蒼真君が来たのは去年ぐらい?あれ?ちょっと分かんなくなってきた………」
「んで、まりなさん、なんでそんなバンドの名前が今?」
「それがね?そのバンドが活動してから一年ぐらいで解散しちゃって………」
「あー………よくある音楽性の違いって奴ですかね?」
「そこら辺の詳しい事情は本人達に聞いてもらうとして、でね!最近またRhodantheが活動再開となったのよ!」
まりなさん、俺の質問に辛辣過ぎやしませんか。そんな心を抉るような質問を本人に聞けるわけが無いでしょ。にしても声から表情から見ても、随分と嬉しそうですね。
そのバンドの解散理由の詳細は闇に紛れたままだが、まりなさん談だとその理由も解消され再びバンドとして始動したとのこと。
「今度、彼女達が企画するライブをすることになってね。そこに蒼真君のバンド"アークラ"もゲスト枠としてどうかなって?」
「ライブの誘いはありがたいんですけど、良いんですかね?多分、俺以外の奴らもまったく知りませんよ?」
「そこは大丈夫よ。私からの推薦だし、それに―――」
「それに?」
「ベースの大空ちゃん、此処で働いていてね、同じ職場の蒼真君のこと知りたいという本人たっての希望ということで」
「………ここで働いてる?マジですか。会った記憶がないんですけど」
「蒼真君が全然シフト入れないってなった時期にちょうど大空ちゃんが新しく引き受けてくれたからかな?基本的には大空ちゃんの休みに蒼真君が仕事に入ってるね」
「へぇ~」
初耳だ。
よく考えれば、俺が仕事に出なくなる分の埋めを誰かが担当しているのは当然のこと。
挨拶ぐらいはしておきたい。あわよくば、助言も貰えれば完璧。
「にしてもローダンセ………ですか。どんなバンドなのか全然想像が出来ないですね………」
「あ!もしかしてだけど………Rhodantheのドラマーなら蒼真君に分かるかも知れない!」
「誰です?」
「"富里 葉津陸"ちゃん」
「………うーん」
「駄目?」
「いや、どっかで聞きましたね………」
特に下の名前。
―――葉津陸さん。
この妙にしっくりと胸に残る感覚がある。だとすれば、絶対に俺はこの人の存在を人生で一度は耳にした記憶があるのだ。
絞り出すように思考を巡り合わせるが、答えは出てこない。駄目だ。思い出すにしては材料が少なすぎる。
「それでライブの方はどうするの?」
「………出させて貰えるならやりたいかと」
「他の子達には相談しなくても良いの?」
「面倒なんで良いです。最近、ライブでやってみたい曲も貯まってきたので丁度良い機会かと。それに………」
「ん?」
「いえ、もし日程の都合上で出れなくなったら、すぐに知らせますから」
「なら、私から取り合えず連絡しとくね」
―――Rhodanthe。
どうやら俺らがそのバンドの後釜ポジションらしい。そこまで拒絶感があると言う訳ではないが、得たいも知れないそれに似ていると言われて、あまり気分は良くない。
でも、お相手の実力はもうお墨付きだそうだ。
自然と俺は両手をぎゅっと拳に握っていた。
―――………久しぶりやな。こんなにライブする前から気持ちが昂るなんて。
俺はCiRCLEを後にしたのであった。
◇◇◇
ライブ当日。会場。
「おはようございまーす」
挨拶は基本。
リハーサルの為、遅めの朝から現場入りした俺達、アークラはスタッフとの顔合わせを着々と済ましていく。
今回のライブ会場はアークラの本拠地とも呼べるライブハウスだ。スタッフの人達も顔馴染みのある面子ばかりなので気も楽になる。
「蒼真、俺達は先に楽屋に行っておくぞ」
「分かった。これも適当に楽屋に置いとってくれ」
「おー了解ー」
藍斗にツインペダルのケースを渡した。
音響や照明を担当する人に、今日のライブのセットリストやこちらから纏めた照明の要望を予め知らせておきたい。その用紙がスタッフ曰くあるらしいので此処でメンバーと別行動をして、俺はそれを取りに向かう。
探し物はすぐに見つけた。後はペンで記入すれば良いのだが、肝心のペンを俺は持ってきていないことを思い出す。
真面目なベースの彼なら持ってるだろうと俺は考え、ステージ前を横切り楽屋へと足を運んだ。
―――その時だった。
「はぁはぁ………やっと着いたぁ!!」
「少しは息を整えてから話しなさいな」
「確かに結構な時間、歩いたね」
他のバンドだろうか。
兎も角今は軽くお辞儀だけはしておいてそそくさと退散しよう。どっちにしろ全てのリハーサルが終了次第、バンド全体の顔合わせもある。
基本、其処でお互いのバンドやメンバーの顔を知ると言った感じ。
「あっ………今の」
「大空?どうしたの?」
「ううん、何でもない。僕達も楽屋に行こうか」
俺は彼女達の存在に気付くべきだっただろうか。今回のライブに出るバンドは限られていて、ある程度どのバンドか想像が付いたことを。
そして、一人の視線が俺の背中にがっちり定まっていたことを。
まぁ………初邂逅は案外呆気ない物だ。
◇
―――ライブ開始、15分前。
「麻弥ちゃん?いつもよりそわそわしてるけど大丈夫?」
「そ、そうですかね、彩さん………」
「ワタシ、楽しみです!!今日のライブは天と地の争いですから!!」
「えーと、そうなるとどっちが天なんだろう?まぁどっちでもいいや。るん!ってきたほうが勝つだろうし」
「日菜ちゃん、勝ち負けなんて今日はないのよ………にしても本当に麻弥ちゃん、大丈夫なの?」
「………あのRhodantheの皆さんと蒼真さん率いるアークラが対バン………これを落ち着いていられるわけないじゃないっすか!!」
「ついに麻弥ちゃんが壊れた!?落ち着いてぇ!!」
―――"Pasttle*Palettes"、会場到着。
「それにしてもこの二つのバンドが対バンするなんて………ソウ君凄いなぁ………」
「今思えば意外な組み合わせ」
「どっちもコンテストに出れば優勝間違い無しレベルのバンドだしな………香澄?お前、何してんの?」
「え?勿論、そらさんかソウ君を探してるよ!!」
「香澄ちゃん?流石に楽屋に居て、会えないと思うけど………」
「あぁっ!!いたぁ!!」
「「「えっ!?どこ!?」」」
―――"Poppin'Party"、到着。
「初めて来たけど此処も良いわね!次こそは私達の番よ!!」
「儚い………」
「見てみて!あっちでドリンク交換出来るみたい!!」
「ちょっと~、今日はあまり目立たないようにお願いしますよ~。私達、観客で来てるんですから~」
「美咲ちゃん」
「どうしました?花音さん?」
「私、喉乾いちゃって………」
「ど、どうぞ?あ、花音さん、真っ直ぐにあっちですから」
「うん。ありがとうね」
―――"ハロー、ハッピーワールド!"、到着。
「らーん、飲み物何が良い?」
「何でもいい」
「そんなこと言うと、モカはとんでもない物を持ってくるぞ」
「………やっぱ自分でいく」
「蘭ちゃん、緊張してるみたい」
「今日のバンドはどっちも蘭にとって因縁深いバンドだからねー。巴は?」
「アタシ?どっちかって言うと興奮してる。いつでも準備はバッチしだぜ」
「………こっちはこっちでヤバイかも」
―――"Aftergrow"、到着。
「人、多い………!?」
「りんりん?大丈夫~?」
「白金さん、宇田川さん。ドリンク券は落とさないようにしてくださいよ」
「はーい」
「………はい」
「友希那?さっきから静かだけど、何かあった?」
「………何でもないわ」
「そっか………今度は私達が向こう側のステージに立とうね」
「………えぇ」
―――"Roselia"、到着。
ライブ開始まで残り5分を切った。
決して交わらないその思いを抱えたまま、時は一刻と進むのであった。
◇◇◇
ライブが始まった。
『さぁ行くよー!!』
エンディングを飾るのは過去に賞を総嘗めした経歴の持つ実力派バンド"Rhodanthe"の皆さんによる演奏だ。
演奏の順番は当日の公平な籤引きによって決定される。アークラはリーダーの運の引きの強さにより一発目、オープニングアクトを任命された。
緊張はしていなかった。場数を越えたこいつらにとって最後の主役は手慣れたも同然。特に弱音等は吐かず、呑気に頑張ろうと拳をコツンと合わせていたぐらい。
そして、俺を含むアークラのメンバー全員はラストライブ開始頃には楽屋にいた。小さな中継テレビを観ようと、各自ソファや椅子等の好きな所に座り、ライブの様子を観ている。
「………上手いな」
「ガールズバンドのレベルじゃないよね」
ボーカルとギターがそう話す。
二人の言いたいことは十二分に俺に伝わる。
ギタリストさんは余裕を持ってギターを弾いてる姿が印象的。その分、周りのケアもしっかり行うから縁の下の力持ちばりに活躍していることを意味する。
―――あの人は"岩井星渦"さんだったかな。
そして、次にキーボードの存在感よ。
鍵盤関連は全くもって初心者の俺だけど、リズム感覚のセンスなら多少は分かる。
あのキーボードを弾いている人が奏でる音色には一切のズレと迷いがない。その影にはきっと努力の積み重ねがあったのだろう。努力の影が滲み出る程の正確性の高いキーボード演奏はまさに目を離せない物へとバンドの地位をまた一段と昇格させる。
―――彼女の名前は"柳戸美海"さん。
一見、社会人の象徴のOLさんにしか見えないのだが、ステージに立つ姿はバンドマンの背中、熟年者が出すあの背中にしか見えなくなった。
ふと視線の注目はど真ん中へ。
「ボーカルさん、暴走してんな」
「なぁ………オレもあれぐらい良いか?」
「お前はもっと別の意味で酷いな」
「誉め言葉として受け取ってやろう」
こちらのボーカルはあれとして、あちらのボーカルさんは元気溌剌な歌声が特徴的。かつ変幻自在に音を変えるその繊細な技術は彼女本来の独創的な世界を造り上げる。
ふと、ベースの彼の目がこちらに。
「蒼さん」
「ん?」
「………あいつと似てますね」
「………そうやね」
その呟きは俺も感じていた。
ベースの彼と俺は無意識に彼女の歌う姿に昔出会った別の人と面影を重ねてしまっているらしい。
そんなボーカリスト、"岩井星渦"さんは声優を生業としているらしく声の扱いに関しては群を抜いている。また、女子にも関わらず声量が半端ない。
さて、次は―――"富里葉津陸"さん。
撫子少女の象徴とも取れる黒髪の大人びた可憐なスタイルが印象的なドラマーさん。
俺のドラムスタイルは繊細かつ迫力満点と称される事がありがたい事に多い。対して、葉津陸さんは俺の意見としては大胆なのに清楚な音でドラムを叩くドラマーさんだ。
彼女のドラムを叩く姿はどこか幻想的なオーラを醸し出す。なのに、演奏だけを見れば高等テクニックも幾つか多用し、演奏全体のレベルをごっそり持ち上げているのだ。
分かる人には分かる。彼女が叩いてるドラムがあるからこそ、Rhodantheの他のメンバーが安心して自らの役目に没頭していると。
と、ここで俺はデジャブを感じた。まるで似たような感想を誰からか聞いたような、そんな曖昧で不確かな感覚みたいな―――
「あ、思い出した」
「何が?」
「ドラムの人。さっきまでどっかで名前に聞き覚えがあったけどどうしても思い出せんくてな………確か、麻弥ちゃんが尊敬してたドラマーだ」
そして―――最後はベース。
"明原大空"さん。まりなさん情報だとバンド解散原因の張本人の一人である。彼女の性格は控えめで真面目だと俺は聞いていたが………。
ライブでのベースを持つ彼女は無茶苦茶ぐいぐいと前へ来ている。もはや喧嘩腰にも近いその姿勢にベースとギターのポジション、逆じゃないのか疑惑が俺の脳内で浮上した。
あれが真面目とか控えめなんて冗談だろう。ほら、今だってベースのソロパート完璧にこなしちゃった。
まりなさんが俺に嘘を教えたようには思えない。だとすれば、あの大空さんって人は楽器を持つと軽く性格が変貌してしまうタイプの可能性もある。
ライブも終盤。これでラスト宣言をした曲も大盛況の内に演奏を終えてしまい、完全にセトリを全てこなした彼女達がするのは最後の締め。
『今日はありがとねー!!!』
その一言を最後にライブは幕を閉じた。
―――アンコール?あの盛り上がり具合だとあるに決まってるね。はっきりとは知らんけど。
◇◇◇
出演者の楽屋。
「お疲れ様です」
俺はそう声をかけた。
その声に反応した一人の女性がこちらへ振り向く。
「あ、お疲れ様です」
彼女は"明原大空"さん。
今回の主役のバンド"Rhodanthe"でのベースを担当していた人だ。
ライブでの印象と打って変わって今の彼女はとても落ち着いた印象があった。マカロン食べてたし。
「これ、来月のシフト表になりますよ。まりなさんからです」
「はい?あー………ありがとうございます」
一瞬、ポカンとした反応をする大空さん。
俺だって、いきなり知らない人から関係者のみに配布される物が渡されたら同じ反応になってしまうだろう。
「もしかして………蒼真さん………ですか?」
「はい。アークラのドラムをさせて貰ってる山吹蒼真です」
「やっぱり………ご存知かもしれないですが、僕はRhodantheのベースをさせてもらってます、明原大空です」
「明原さん、よろしくお願いします」
「大空で良いですよ。こちらこそよろしくお願いします」
挨拶は大事。
ここから俺は事前にまりなさんから聞いていた話題から話を広げていく作戦に出る。
「今更ですけど、CiRCLEではいつも俺の代わりだとか?でなんやかんや仕事を任せちゃってなんかすみません」
「いえいえ、そんな事はないですよ?むしろ感謝してると言いますか………蒼真さんのことはまりなさんからお話だけは聞いていましたので………まさかこんな対バン相手として出会えるとは予想外でしたけど」
「案外、世間は狭いもんです」
「その通りですね」
この人、ホントにライブの時とは別人だ。
二重人格と説明されてもすんなり納得してしまうぐらいの豹変ぶり。
「自分、年下なんでタメ口でも全然OKですよ」
「そう?なら、お言葉に甘えようかな」
「はい、遠慮なくどうぞ。今回のライブを見て、大空さんの凄い迫力とのギャップに驚いてる最中ですから」
「あはは………よく言われる。蒼真さんこそ、ドラムの音には自然と惹き付けられるような気がして、つい夢中になってた。まだ高校生なのに凄いね」
「まぁ………練習してますから余裕です」
「そこは遠慮するとこじゃないかな~?」
彼女はにっこりと微笑む。
そこから俺は大空さんと共通する話題で言葉を交わしあった。
CiRCLEを拠点とするガールズバンドの子達だとか。特に騒がしい猫耳少女&お金持ち暴走少女の対処方法や癖の強い子達との接し方など。
同じ仕事をする上での困り事や余談も語るに尽きないレベルで盛り上がる。俺も他に仕事の愚痴を言える相手が居なかった事もあって、つい口が開いてしまった。
―――数分後。
「あ、こんな時間。もう行かないと」
「ん?あー俺の方もそうですね」
「最後になるけど今日は対バンしてくれてありがとう。僕達"Rhodanthe"にアークラの演奏はとても刺激になったよ」
「こちらこそです。Rhodantheさんの昔から変わらず、更に演奏を磨きを上げてくる部分にはアークラの奴等も闘争心に火が付いたと思いますから」
「あはは、やっぱり蒼真さん達を誘って良かった。また別の機会にも誘って良いかな?」
「勿論ですよ。なんなら主役を奪いに行くつもりで参戦させてもらいますから」
「それは楽しみかな。それじゃあ、僕は先に失礼するね」
「はい。今日はお疲れ様でした」
「うん、お疲れ様でした」
そうやって、大空さんは楽屋を後にした。
数分と言う短い間のみの会話であったが、俺の収穫した物は期待以上の成果であったから満足している。
暫くして、アークラのメンバーが楽屋へ戻ってくる。俺はいつもの日常へ戻るのであった。
―――"アークラ"と"Rhodanthe"。
本来、交わる事なき二つのバンド。
果たして、また俺らは彼女達と再会する日は来るのだろうか。
その一期一会の出会いこそ、音楽をやる上での醍醐味の一つでもある、と俺は思っている。
コラボ編-1-『Rhodanthe』 終
*ご感想お待ちしておりまーす。
余談ですが、ギターとベースのお二人、初台詞おめでとう!