Dreamer of Drummer   作:ソウソウ

9 / 84
 タグ追加:クロスオーバー、けいおん!



-5の2-

 ◇◇◇

 

 ライブハウス"SquareRoad"。

 

「うわぁ………早く着き過ぎちゃった」

 

 "Poppin´Party"ドラム担当。山吹沙綾。

 彼女は目の前の建物に立ち、スマホで現在時刻を確認していた。

 いつもとは違うライブハウスへの訪問。

 その理由の解明はもう一人、沙綾の隣で息を切らす人物に託された。

 

「早い………!!香澄の奴、いつも、いっつも走りすぎだ………!!」

「まぁまぁ有咲。お陰様で待ち合わせ時間までまだ少しあるし、それまでは体力を回復させたら?」

「………そうする」

 

 "Poppin´Party"キーボード担当。市ヶ谷有咲。

 彼女に至ってはしんどそうに何度も呼吸を繰り返している。

 それもそのはず。有咲と沙綾はつい先程まで全力ダッシュをしていたのだから。

 

「ありさー!!さーやー!!中で待ってても良いって!!」

 

 元凶はこいつ。

 ライブハウスの自動ドアから顔をひょっこり出した猫耳の髪少女。

 "Poppin´Party"ボーカル担当。戸山香澄。

 遠目から目的地であるライブハウスを視認するなり、猛スピードで駆け出した彼女の後ろ姿に有咲は慌てて追いかけてしまう。

 その弊害として、この体力の異常消費。

 だがしかし。有咲は呼吸を整えつつ思う。香澄は論外だとして、どうして同走していた沙綾まで平気そうにしているのか疑問にあった。

 相当な距離を走ったと自負するのだが。

 

「みたいだね。有咲、私も先に行っておくよ?じゃ!」

「お、おい!勝手に置いてくな………って、あれ?沙綾、やけに機嫌が良いな………」

 

 歩く足元が若干浮わつき気味の沙綾。なんならスキップと変わりない動き。

 その後ろ姿に有咲はふとデジャブを覚えてしまった。それもつい最近の出来事に。

 以前に感じたのは確か―――

 

「………なるほど」

 

 ―――山吹蒼真と沙綾が会話してた時だ。

 

 有咲は建物の看板を見る。

 このライブハウス"SquareRoad"は彼の所属するバンドの拠点地。言い替えれば、彼の愛用する大切な場所。

 故に、有咲は全てを理解してしまった。

 まだ己の知らない彼の世界へ踏み入る瞬間を沙綾は密かに堪能していたに違いない。

 

 これは………黙っておくべきか。

 

「有咲~?どうしたの~?」

「いや!何でもない!!すぐ行く!!」

 

 これをネタに彼女をからかう選択肢もある。

 が、有咲は賢明である。そうすれば、結局は立場が逆転して恥ずかしい目に遭うのは自分だと分かっていた。

 どちらにせよ、乙女の秘密は苦労案件に間違いはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 スクエア。待合室。

 

「さて。今日の予定も終わったし、これからどうする?」

 

 あれから一時間後。

 訪問した用事、次回イベントの打ち合わせも難なく終了となり手持無沙汰となった三人。

 彼女達にライブイベントの説明を担当したのは此処のオーナーであった。どうやら細かい所は完全放置の面白そうなら何でも組み入れるタイプの人らしい。

 その性格もあってか、想定していたよりも幾分か予定に空白が空いてしまった。

 このまま帰宅するのも有咲的に大賛成だが、沙綾がわざわざ尋ねたのだからそうは問屋が下ろさない。

 有咲の目にはウキウキとする香澄。それに悪巧みしている悪大官にしか見えない沙綾。

 

「見学しよ!!」

「言うと思った………けど、いきなり見学なんてしたらスタッフさんどころか他のバンドにも迷惑だろうが」

 

 香澄の暴走が特に懸念される。

 他のライブハウスまで来て、醜態を晒す事態にだけは絶対に避けたい有咲。悪い噂は耳に届きやすいと言われるし、ポピパにマイナスイメージが定着するのだけは何があろうと回避推奨。

 デメリットは思い付くだけでも、沢山。

 自身のライブで全力が出しづらい。今回の対抗ライブイベントでポピパが足を引っ張る。またポピパの利用しているCiRCLEにまで悪影響が広がるかもしれないのだ。

 と、説得するはずの有咲。虚しくもこんな香澄の理解度では難解な解答をすんなり聞くはずもなく、反論が跳ね返る。

 

「でも~、私達といっしょに出るバンドがどんなバンドか気になるもん!!」

 

 ふむ、香澄は情報収集をしたいとの事。

 実質、その意見は一理ある。敵バンドの詳細を知ったから、とこちらが対策を準備するのはまたちょっと路線がずれるけども。というか、その行為自体にあまり意味自体はない。

 

 只―――知っていると知っていない。

 

 たったそれだけの差異でもライブへの心構えは案外と変化してしまう。その方角は良い方だったり、悪い方だったりと様々だ。

 

「てか、そもそもその人達が今日、此処に練習に来てるとは限らんだろ」

「はっ………!!」

「今、気付いたのか」

 

 手掛かりは一切なし。

 香澄は探すバンドの大体の人物像を事前に聞いているらしいが正直宛にならない可能性が大。

 実質、ゼロからの捜索となる。

 と、有咲の案がついに採用されるまで浮上してきたタイミングでいつの間にか姿を消していた沙綾が登場する。

 

「香澄、良いもの貰ってきたよ」

「さーや!!何を?」

「じゃーん。見学用のパス」

「おぉ!!」

「お、おまっ………!!」

「これである程度は回っても大丈夫らしいって。流石に個人スタジオの中とか覗いちゃうのは駄目だけど」

 

 奈落へ滑り落ちた有咲の希望。

 沙綾の華麗な裏切りにより、絶対窮地に追い込まれた。このままでは香澄と沙綾とで見学パターン。

 懸念材料に対し、沙綾が付いてると言えど、対処仕切れる自信が有咲には既にない。

 

「何処から回ろうか?スタッフさんのお勧めは奥のライブスペースらしいよ」

「やっぱり構造とかは"CiRCLE"と似てるのかな?」

「どうだろ?今丁度バンドが演奏中でご自由に中に入って観ても良いらしいし。確かめに行ってみる?」

「行く!!」

 

 香澄の弾んだ返事。

 大きく有咲は息を吐いた。もう過去の事例から彼女は学んでいる。既に手遅れかつ自身は香澄の暴走から逃げようのない事実に。

 目的地はライブスペース。"CiRCLE"にあるライブスペースと似たような空間らしい。

 

「よーし!!………どっち?」

「こっちだよ」

「レッツラゴー!!」

 

 沙綾からパスを受け取り、有咲はそれを首にかけた。

 元気底無しの後を追うように三人は歩を進める。

 そんな中、今日はまた一段と意図の読めない沙綾の背中を追い掛ける有咲であったが、唐突にその沙綾が振り向く。

 

「ど、どうした?」

「有咲、無理だけは駄目だからね」

「は?し、してねぇから!!」

「そっか。香澄は暫くあのままだろうし………何かあったら私に言ってね」

 

 そう言い残した沙綾。

 そして再び前へ視線を戻し、有咲は何も言い返せないままポツンと歩き続けていた。

 香澄に手を貸したり、有咲に心配の言葉をかけたり。普段の沙綾と比較すれば、不思議な行動が目立つ。

 この場所の影響なのか。はたまたは、恋の前には頭が真っ白ってやつなのか。

 

「着いた!!」

 

 そして―――数十秒もせずして。

 防音扉が塞ぐ一つの巨大なスペースが眼前に広がるであろう廊下の先端まで来た。

 有咲は何となく耳を澄ませてみる。奥から微かにだがアンプを通したギターの音色が聴こえてきた。

 

「練習………本当にしてるみたいだな」

「流石に直接、中に入ってみないとどんな人達なのかまでは分からないね」

「だったら!!行くよー!!」

「ちょっ!?ゆっくり開けろよ!?」

「そりゃあ!!」

 

 ―――バーン!!

 

 有咲の忠告も虚しく。

 香澄の元気一杯までに解き放たれた扉は会心の衝撃音をお見舞いした。

 沙綾よ、笑ってる場合ではない。

 中の様子を確認。扉付近からすぐ右は壁。どうやら自分達は部屋の隅辺りに出たようだ。

 逆に左に目をやれば、人が沢山入れる空間がそこにあった。観客の為に用意された場所という見解で間違いはなさそう。

 そして、メインのステージ。部屋の一番奥に一段土台が上がった場所がある。

 ドラムセット。ギターアンプにベースアンプ。キーボードやスタンド台。恐らく、此処がステージであり、尚且つ本番で曲を演奏する場所。

 

「あれは?」

「香澄?」

 

 何かを見つけた様子。

 

「居た!」

 

 指差す香澄に有咲はその先を見つめると、ステージに辿り着く。そして、五人の少女達の姿もあった。

 

「お?どうした?悪魔の襲来か?」

「へ、変な事言うな!!」

「見学の方………でしょうか。首にパスがかけてありますし」

「あらあら。珍しいこともあるものね」

 

 ステージの上で輪を囲む彼女達。

 各自、飲み物を片手に握っており、練習の合間にある雑談中であった様子。

 よく見れば、紅茶のカップを各々持っている。

 ロングヘアーの黒髪の少女がぼそっ、と。

 

「待て………いや、この状況見られたら不味くないか?」

 

 そして―――

 はっ、と彼女達は此方三人と顔を見合せた。

 静寂に包まれたまま、数秒が経過する。

 動き始めたのはステージ上の一人、ツインテールの女の子がギターの弦を軽く弾いた時。

 

「さぁ!練習するぞ!!」

「はい!!しましょう!!全力で!!」

 

 慌てて立ち上がる二人。

 ショートヘアーの子にツインテールの子。

 まるで蛇に睨まれた蛙のようにぎこちない動きで楽器のある定位置へ配置に付いた。

 

「おい!唯!起きろ!」

 

 ベースを抱える黒髪少女が懸命に呼ぶ。

 肝心の相手は愛用しているギターを抱えたまま地べたに座り込んで微動だにしない。

 お昼寝タイム真っ最中であった。

 

「ふぇ?な、なに!?」

 

 ようやく起きた。

 

「曲を演奏するので、今すぐ準備してください!」

「は、はい~!!な、なんかごめんね………あずにゃん」

 

 少女はぺこぺこ頭を下げつつ。

 また随分と癖のあるギターを使うんだな、と有咲の意識がそちらに向く。

 どこか香澄と共通点が多そうな茶色ボブカット少女。急かされるせいで準備する手元が覚束無い。

 

「演奏聴かせてくれるのかな?」

「楽しみだね、有咲!」

「分かったから。演奏中は黙って聴いてろよ」

「勿論!」

 

 関心の力は大きい。

 あの香澄も素直に大人しく清聴に従事してくれるらしい。

 

「で、では!聞いてください!!"ふわふわ時間(タイム)"!!」

 

 寝起き少女はボーカルを担当。

 曲名を宣言しつつ、彼女はギターのフレットにピックを当て、鳴らそうとした。

 

 ―――その時だった。

 

「あっ………」

 

 ギターの弦がぷっつり断線。

 ただ、ギタリストにとってはよくある光景だ。弦も使い方が悪いとすぐに使い物にならなくなる。

 兎も角、これではギターのリフが弾けない。

 他のメンバーの不安そうな視線を集めたボーカルの彼女。

 

「唯先輩?」

「え?唯?弦が切れちゃったのか?」

 

 ―――うるうるうる。

 

「これは………ある意味、才能かも」

 

 俯いた瞳に潤みを帯びて。

 沙綾の冷静な解説を片耳に、有咲は何だか不吉な感覚に背筋を凍らす。

 そして、彼女の悲しみに満ちた声が会場を木霊する。

 

「ギー太ぁぁぁああああ!!」

 

 この時、有咲は悟った。

 

 ―――この謎の出会いは絶対に大波乱を起こす前兆になるのではないのか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -5の3- へ続く。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。