うん。またなんだ。
全てが燃えている。僕のすべてだった物が、容赦なく燃え落ちて行く。
「ミラ!! そっちは!!」
「ダメ!! こうなったら突っ切るしかないよ!!」
戦闘娼婦の二人の片方に抱えられ屋根から地面に降りる。
聞こえてくる悲鳴と怒声。
「母様!! 母様!!」
「坊!! 今は逃げるの!!」
「でも!!」
火球が降り注ぐ。魔法の流れ弾が歓楽街を焼く。
「あぐっ!! ちくしょう!! あいつ等見境無く戦ってやがる!!」
「ソラ!! 足がっ」
「大丈夫よ、坊。これ位、迷宮で慣れっこだからね。だから、今は逃げるよ? いいね?」
焼けてしまった足から異臭を放ちながらも気丈に振る舞い、僕に優しく話しかけて来るソラに僕は何も言えない。
僕にはこの場を切り抜ける力がない。何もできない子供なのだ。
「うん」
「よし、良い子だ。流石、ウズメの子供だ。」
「ソラ、此処を突っ切るわよ。付いて来れる?」
「上等!!」
僕は彼女達に抱きかかえられ炎の中に駆け込んだ。
そこから先は覚えていない。僕達は知らない冒険者に襲われた。僕が居なければ彼女達は容易く切り抜けられただろう。唯でさえ、僕と言う足手纏いを抱えた上に、空は右足を、ミラは左腕を焼かれていた。
僕はそこで逸れた。
迫りくる火炎と肺を焦がすような熱波。
理不尽だ。
僕はやり過ごす為に水を求めた。子供の体力は知れていて、この戦場と化した場所からは逃げられないと嫌でも理解できた。
穴を掘る。僕が寝そべれば隠れれそうな位の浅い穴を。
近くにあった死体を引きずって、穴の蓋にした。
知らない冒険者と娼婦。
苦悶の表情だった。
この人達も、理不尽により殺されたのだろう。
流れ出る、もう冷たい命の通貨が僕の全身を濡らす。生臭い鉄の臭いが現実だと訴える。
母様は死んだ。僕を護って、彼女達に僕を預けて。
彼女達は死んでしまっただろう。
あそこはもう、略奪の場だ。この三年でこの都市の良いも悪いも教えられた。
だからこそ、知っている。これは抗争だ。二大ファミリアを追い落とす抗争に。弱小の小悪党どもが残飯漁りに来たのだ。
糞が・・・糞が糞が糞が!!
抗争を起こしたファミリアを恨みはしない。乱立するファミリアの力関係、神同士の事情、何よりも、この都市の営みを理解して居ればごく当たり前の事なのだ。
許せないのは・・・小悪党どもと何もできない子供の自分だ!!
(畜生・・・チクショウ・・・ちくしょうっ!!)
血が乾き、喧騒が聞こえなくなった頃、僕は穴から這いずりだして住んでいた場所に向かった。
炭と化した家は所々が生焼けで、それだけが異常なまでの現実感を表していた。
そして、柱で在ったであろう太い炭の隙間からのぞく、身体を折り曲げた様な・・・嘗て母だった者を見つけた時、僕は限界を悟った。
「あ・・・ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
煙が歓楽街の空を覆い。鉛にも似た陰鬱な色で少年を覗いてた。
苦難こそが命を輝かせる。
試練が技を鍛える。
佳境がその智を冴えわたらせる。
さぁ、さぁ、未だ泣く幼子よ。
此処は迷宮都市オラリア!!
冒険者が犇めく、修練の場!!
全ての厄災は此処から始まった!!
さぁ、さぁ!! クエストは、試練は、未だ果たされず!!
黒き龍は遥かに!!
さぁ、幼子よ!! 剣をとりて勇者の一助となるか? 智を廻らし、数多の英雄を先導するか? 何もせず、ただただ嘆くか?
幼子よ。理不尽には理不尽でしか立ち向かえない。道理を不条理で捻じ曲げてしまうしかない!!
幼子よ。想いたまえ。
そうある様に、そう、そう在れる様に!!
弱者は喰らわれ、強者が生き残る。それが冒険者の定めなりや。
幼子は、泣きはらした目で一度頭を下げた。
(生きよう)
生を願い、立ちあがる。
何故ならば、少年は空っぽでは無いのだから。確かな愛を注がれて生きて来た。親という庇護の元に在った。在れた。
どれもこれもが自分の所為ではないと知っている。
自分では何もできなかったと理解して居る。
(何が何でも生き抜いて・・・)
だが、自分が何かを残せる事は知っている。今日、消えてしまった大切な物の残滓に縋る様に見えるかもしれない。
だが、それ以上に、継いだ物が在る。
それを舞った人は幼子に言た事が在る。教えた事が在る。
『坊、いや、もうアルやね。隠し名は本当に信じれる人にしか教えたらアカンで? そう言うもんや、昔からなぁ。だから、無暗に名乗ったらアカン。そして、無暗に争ってもいかんのや。どっちも痛い思いをするだけやからな?』
あぁ、本当に痛い思いしかない。
『アル、本当に綺麗な・・・美しいモノはなぁ。全てを止めれる。頭から水を浴びせられたようになぁ。だから、アンタも大きく成ってややこをこさえたら、見せてやりぃね? アンタの舞いを、私の舞を、古人から継がれてきた舞いを』
うん。だから、見っとも無くても生きて生きて、約束を護るよ。誰かを魅入らせる事のできる舞を、心震わせる感動と言う名の何かを・・・この都市に刻み込むよ。
だから、これだけは持って行くね?
漆喰の箱焦げた箱を開けば、雅な扇が三つ。どれも微妙にガラ違う、母が何時かの為に用意してくれた扇。これだけは持って行こう。
これだけは放さずに連れて行こう。今日の灰と共に。そして・・・もし、出来たのなら・・・
理不尽を、不条理をねじ伏せられるようになってやろう。
僕は生きる為に何でもしてやる!!
斯くして、少年は自分が知る限り、自分の様な存在が居ても可笑しくない場所を目指す。
その場所の名をダイダロス通りと言う。
さて、彼の幼子。名をアルヴァイト・アルヴァイター、隠し名は神威 神楽。
今はまだ、孤児である幼子の冒険が今より始まる。
寝ると言った。が、寝れなかったので酔いに任せて書いた。後悔は若干している。朝起きられるだろうか?
次こそ寝るぞ。今なら寝れる気がする。