翠眼に映るは   作:ゴルくん

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初投稿になります。ゴルくんです。あらすじの通り、山田先生が好きなので彼女をヒロインに据えたくてこれを書き始めました。よろしくです。


プロローグ

 ある日、ある少女は言った。これは宇宙に行く力なのだ、と。少女は大人たちに訴えかけ続ける、このマルチフォームスーツの性能を見てくれ、と。しかし、大人たちは聞く耳を持たない。当時の少女はまだ20歳にも満たなかった。そんな少女の戯言を聞く大人など一人もいなかったからである。仮にその少女の言う通り優れていたとしても、所詮は少女の妄想という一言で片づけられてしまっていた。少女がマルチフォームスーツを発表し、大人たちに受け入れられないまま1か月が経とうとしていた。その間も少女は訴え続けていたが、そのうちに性能を示せば自分の話を聞いてもらえる、と思い始めるようになる。

少女は考える、どうすれば自分のマルチフォームスーツを認めてもらえるか。どうやって性能を示せばいいのか、を。少女は紛れもなく天才だった。天才の考えは常人とは逸脱していた。彼女は自分の各国の軍事基地をハッキングし、彼女のいた日本に向けて、2341発以上のミサイルを日本に向かわせた。各国が混乱に陥る中、現れたのが白を基調とした装甲に全身を覆われた兵器だった。それはミサイルの半数以上を打ち落とした。各国はその性能に驚愕し、破壊もしくは鹵獲しようと大量の戦闘機や戦艦を投入した。その兵器はそれらすべてを無力化した。死者を出すことすらもなく、である。これが後に言う『白騎士事件』である。

 そうして少女の目論見通り、彼女の作った兵器は確かにその性能を示したのだった。そして、各国は、その兵器に高い関心を持った。彼女の思惑と唯一違ったことは、彼女の作ったマルチフォームスーツは既存の兵器をすべて置き去りにする新たな兵器として受け入れられたことであった。こうして一つの時代が始まった、宇宙での使用を目的として開発されたマルチフォームスーツから兵器としての運用を目的とするパワードスーツ『インフィニットストラトス(通称IS)』によって。

 

 

 

 

 ISの発表によって世界に与えた影響は大きい。その最も大きな一つが女性の地位向上だ。その理由は、ISが女性にしか扱うことのできない兵器だったためである。現代の兵器を超える力を持ったISを扱えるのが女性だけとすれば、女性の力が強くなるのは必然と言えるだろう。そして日本では、歴史上初めて女性首相が誕生した。時を同じくしてアメリカでも初の女性大統領が就任するなど、その傾向は顕著であった。そうして力を得た女性たちによって今や男性は虐げられ、女性のために尽くす存在である、という考えが一般に広がっていった。女尊男卑の世界が誕生したのである。

 

 

 ISの研究には莫大なお金がかかる。そのお金を捻出するために、政府は国家予算を割くのは当然だった。日本有数の企業はISの研究、開発に出資を惜しまなかった。そのため、出資の打ち切りが存在していたとしても、だ。出資を打ち切られた企業の一つが、『國北漆器』だった。この『國北漆器』は、伝統工芸品である國北漆器を作っている。売り上げも悪くはなく、順風満帆といっても差し支えない企業といえた。しかし、女尊男卑の世界に変わり、それは影を落とすことになる。理由は簡単で、男が作っていたからである。今更男が作ったものになんて興味ない、とそんな理由で売り上げは激減し、更に『國北漆器』はたった1年でボロボロになった。しかし、その一人息子である、|国北翠≪くにきたすい≫は、まだ15歳の少年だったが、父親の漆器作りの手伝いをしていた。翠は幼い頃から父親の漆器が好きだった。自分の名前と同じ翠色の漆器、これが綺麗と言われ、買ってもらえるのが嬉しかった。通販で買った人もネットで見たのと同じで凄く綺麗です、と書かれた手紙が来ることも珍しくはなかった。そして、そんな物を作れる父親のことを尊敬していた。いつかはこうなりたい、と思うようになった。

 

「ねえ、父さん。國北漆器(ウチ)の経営って危ないよね?」

 

  翠はわかっていることを改めて口に出す。そして、それを口に出すことによって、潰れるかもしれないという重圧が彼にのしかかった。

 

「んー? まあそうだねぇ、すぐにとは言わないけど、いつかは潰れるかもなぁ、でもまぁ大丈夫だろうねぇ」

 

 翠はその言葉になんとも言えない表情をしながら先ほどの重圧から解放されたように感じた。父の態度があまりにも楽観的すぎて少し噴き出してしまう。

 

「なんか父さん見てるとそうは思えないよ」

 

「だって、お前が立て直してくれるって父さんはわかってるからな、ハッハッハッ」

 

「そんな無責任な…。できるわけないのに」

 

 父の楽観的プランに自分が立て直すということが組み込まれていて、今度は別のプレッシャーを感じ、がっくりと肩を落とす翠だった。

 

「だってお前は母さんに似て頭がいいからさ、デザイン力だってあるし、私は翠がISに関わってほしいと思ってるよ。そうしたら、翠は就職できて、ウチは宣伝されて一石二鳥だろう?」

 

「いや、だからさ。ISは女性にしか動かせないんだって、どうやって俺が宣伝するのさ」

 

「別にISを動かす必要はないだろう、技術職だよ。それだったら男でもできる。後はホラ、ISのデザインさ!オリジナルのISデザインを作ることが出来たらお金だって入るし、ウチがスポンサーにだってなれる。んん~、私ながらいい案じゃないか」

 

 はぁ、と翠は溜息をつく。父の妄想はよくあることだが、今回は特に酷い、と翠は思う。上手くいくわけがない、というのが翠の考えだった。今は女尊男卑の世界、男が地位を獲得するための行動を女性が容認するだろうか、とすら思う。そこまで考えたところで、父が急にまじめな顔をして、翠に語りかける。

 

「なあ翠、お前は良く逃げていたね。私が漆器の何たるかを教えてやる! と意気込んだ時とかは、家出までしていたな」

 

「そりゃそうだよ、当時の俺は、まだ漆器の良さがわかってなかったんだから、漆の匂いも苦手だったし、でも漆器を見るのは好きだった。自分と同じ名前の色だからかな。それが褒められるのが嬉しかったよ。だから、俺は父さんの手伝いをしようと思ったんだ」

 

「思いのほか私の指導が厳しくて逃げ出しもしたね」

 翠はそう語る父の横顔をチラリと見る。父は作業の手を止め、懐かしむように顔を上げ、目を細めていた。

 

「あった、あった。怖かったんだよ、漆器に関しては父さんが父さんじゃなくなるみたいで、さ」

 

「でも、翠は戻ってきたね。辛かったらやめればいい、と私は言ったが」

 

「うん、父さんの指導は厳しくて、辛くて、何度も逃げ出したけど、やっぱり逃げるような弱い自分には負けたくなかったんだ。それに父さんのことは……その、なんだ……尊敬、してるから」

 

「ああ、ありがとう。私には、それがよく伝わってきていたよ。私はそれが嬉しくてね、つい厳しくしてしまうんだ。翠の技術は私には及ばなくても一流になったと言えるよ。そこで、だ。私も売れないものを作っても悲しい。翠が憧れてくれたこの技術を腐らせたくはないからね」

 

「でも、援助は打ち切られてしまった」

 

「その通りだ、だからこそ翠には本気で立て直してほしいと考えている。さっき言ったことは茶化していたが、私の本音だよ。男は別方面で戦える、と示して欲しい」

 

 見上げていた顔をいつの間にか翠に戻し、鮮やかな翠色をした瞳でジッと見ていた。翠は声を出そうとしたが、中々声が出なかった。翠は今の父親と二人で漆器を作る時間が好きなのだ。未だ15歳とは言え、学校が終わってから友人たちと遊ぶわけでもなく、父と一緒に漆器を作る。そんな当たり前を崩してくれ、と。他ならぬ父親自身に言われたのだ。心が決まらず、声帯を震わせようとしても、パクパクと口が動くだけで震えてはくれない。何も言えなかったのである。沈黙が5分続いた時、父親が口を開く。

 

「嫌ならいいんだ、私も無理強いをするつもりはないからね。何よりこれは私のエゴだ。息子を巻き込むものではなかったね。色々理屈を並べても、最終的に私は自分の生活が心配なだけなのだからね」

 

 その言葉に翠は今まで震わせることのできなかった声帯を最大限震わせて反論する。

 

「違う!! 違うよ! 父さん! 自分の生活を心配することの何がおかしいもんか! 俺が迷ったのは時間だよ、間に合うのかって、本気でそう思ったんだ。売り上げが良くない以上今までの貯えがあっても、いずれは底を尽きるんだ。それに俺がISの勉強をするためには、最近できた専門学校に行かないといけない。来年度開校するIS学園は女子学園だから、俺は入学できないし、ISのことを学べる専門学校は男女共学かどうかもわからない、大体が新設校なんだから。それに学費も高いよ! 現実的に無理だって思ったからなんだ! 俺も父さんの力になりたい! でも」

「そうか、なら仕方ないな。頭のいい翠がそういうならば、きっとそうなのだろうね。私がただ一つ言えることは、お金のことは心配はいらないよ。伊達に江戸時代から続いてないさ。貯えはあるんだ。お前ひとり育てるくらいわけないよ。まあ、節制が必要だけどね」

 

 翠は顎に手を当てて考え、ぶつぶつとつぶやき始める。

 

「それじゃあ、時間はある……のか。でも……」

 

「翠、明日また聞いてもいいかな?」

 

「えっ、明日?」

 

「ああ、私も浅はかだったよ、こんな大事なことたった5分で決めろという方が無理な話だった。だからじっくり考えてくれ、何だったらもっと待とう。翠の人生は翠の人生なのだから。私が口を挟む必要はなかったんだ。だが、私のエゴも一つのアイデアとして心の片隅に置いておいてほしい」

 

「わか……った。ちょっと考える」

 

「ありがとう」

 

 その後、親子の間に会話はなく、黙々と漆器の作業を続けていた。そして、気づけば時計の針は10の文字を指していた。

 

「すまない、翠。もうこんな時間だ、早くご飯を食べて寝るとしよう」

 

「ごめん、父さん。今日はもうしばらく作業したい気分なんだ。一人でやらせてくれないかな?」

 

 翠は一人でずっと考えたいということなのだろうと、父親は察し、わかった、あまり遅くならないようにね、と告げ作業場から退出していった。そして、一人分の作業の音しか響かない作業場に翠はいた。

 

(父さん、はきっと俺のことを考えていたんだろうな、俺を育てるくらいの貯えがあるってことは、俺が育つまでの貯えしかないってことになる。そして、新たな収益が見込めない以上、俺が大人になった時、『國北漆器』を継いでも結局売れないままだ。そうしたら貯えが底をついた俺はホームレスになっちゃうのか? じゃあやっぱり、父さんは自分のエゴのためなんかじゃないんだ、俺のことを考えて……)

 

 そこまで考えて、翠は目頭が熱くなった。大粒の涙がポロポロとこぼれ始めるのに時間はかからなかった。翠はこれ以上涙がこぼれないように手で抑える。しかし、涙は抑えた手すら濡らして、あふれ出す。

 

(ありがとう、父さん。父さんはいつも俺のことを考えてくれてた。だから、尊敬して、憧れた父さんに誇れるようになるには、漆器の腕を磨いて父さんを超えるしかないって考えていたけど、違ったよ。父さんの息子は世界のトップ男性IS技術者になってやる!)

 

 その決心と共に、涙を拭った。目尻は少し赤いが、もう涙は流れてはおらず、翠の目は輝いていた。これから自分が起こすことに大きな期待を持って。

 




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