違和感があると指摘されたので書き直しました。訂正版です。
遡ること一年と少々。
《
黒鉄家から飛び出し、一年が過ぎようとした時。とある事件が起こり───そして出会った。
師と敬い、鍛錬を捧げ。いずれ、最愛の女の故郷、その命運を共に背負い立つ事となる最強の男に。
これはその、知られざる
場は、混沌としていた。
銀行の受付カウンターに座り、ニヤついている男。近代兵器という力を振りかざす者。
或いは、声を潜めて泣き続ける女。抱きしめ合って不安を誤魔化そうとするカップルのような二人。絶望からか、思考を放棄した老人。
一言で状況を説明すると───銀行強盗だ。
彼らは一箇所に集められ、少しでも動こうものなら銃火器にて殺される未来は明白。
(……一体、どうすればいいんだ)
その中の一人。この三年後に《七星剣王》に輝く彼───黒鉄一輝ですら、それを前に手詰まりであった。
半年ほど前に彼は家を飛び出し、今は独り立ちしていた。故に両親からの手当てなどは無く。加えて、働いていない彼に稼ぎなど無いに等しかった。
しかし生活が出来ていなかったかといえば、そうではない。親を持たない、或いは親と疎遠となった学生に与えられる奨学金───将来的に返済する必要があるが───を受ければ、義務教育は受けられる。
───しかし、彼が目指すは"修羅の道"。騎士を志す者として、生半な義務教育のみに
その為に彼が始めたのが道場破りだ。日本全国津々浦々。武器は己の肉体と魂の顕現たる
そんな埒外の技量と度胸を持つ彼だが───忘れてはならないのは、当時まだ十三歳であったことだ。独り立ちしたとは言え、国から「一人前」と認められた年齢には届いていない。
彼が持つ判断力や審美眼は大したものだが───
「助けて……助けて、お母さん……」
「大丈夫よ…だい───」
「───ぅるせぇ。殺すぞ」
この状況を打破するには至らない。
例え微々たるものだとしても、安心を求めて抱き合う人質の母子。そこへ突き刺さる強盗犯の冷たい声は、部屋の気温を数度下げたように思えた。
偶々銀行に生活費を引き落としにやってくれば、運悪く引き起こった強盗事件。それだけだったなら、或いは一輝なら単独で解決できたやも知れぬ。
しかしそれは、相手の実力のみを考慮した試算に過ぎず。
実際には抵抗因子を削ぎ落とすための母子と、それらの存在自体が人質となる職員と客がいる。こうあっては、易々と手は出せまい。
───まさに強盗犯の想定通りだというわけだ。
人は終わらない恐怖に怯え、
これは警察や特殊部隊が突入してくる迄続くのか。或いは、それよりも早く見せしめとして一人ずつ殺していくのか───。
極限の緊張の中、この場にいる全ての人間の思考は埋め尽くされていった。
何事も転機は唐突。彼らが銀行を強襲して僅か十分弱───この強盗事件の解決もまた、突然やって来た。
シンと静まり返ったこの場に。
「あ?なんで閉まってんだ?」
外から、何者かの声が聞こえてきた。内と外はシャッターで遮られ───強盗している現場を周りから見られないようにする為にシャッターは全て閉めているのだ───、その者の姿を見ることは叶わない。しかし、預けていた金を引き出しに誰かがやって来たのだろう。
「ちっ……だがまぁ、サツが来たわけじゃねぇよ。
ほっとけ」
「分かりました」
シャッターも閉まっている事だ。外の男は営業が終了した勘違いして、いずれ去っていくだろうから放置したところで毒にもなり得ない───強盗グループの頭と見られる男はそう判断したのだが。
彼の考えを裏切るように、中には危機に陥っている人々がいると確信したのか。
「……ん?これ、
直後───。
「……ッッ!」
グジャリ。生きていればまず聞かないような、そんな音と共にシャッターが
彼が強盗を確信したのは、一重に規格外の聴力によるものだ。すすり泣く声や怯える人質の声が聞こえ───それで尚、閉まっているシャッターに違和感を覚えたのだ。然しながら、力任せに吹き飛ばせば中にいる彼らに被害が及ぶかもしれない。彼はそのような考えに基づいて、シャッターをこじ開けたのだ。
最も。彼がシャッターを軽々しく引き裂いた光景は、中の者達にとっては理解できないものに見えたのだが。
「お、やっぱいるじゃん」
引き裂かれたシャッターの向こう側から出てきたのはニヤリと笑ったスキンヘッド……では無く、どちらかと言うとハゲている男だ。
「なっ!?」
「ってめぇ!」
突然現れた男に一輝も驚くそば、武装兵の数人はマシンガンを構えた。
(不味い!)
彼らからすると。ハゲ男はことが上手くことが運ぶ中、余裕
であれば、最低限の対応を。つまりは、即座に男を排除しなければなるまい。
そのプロセスに思考など存在しない。驚きは当然あるものの、反射的に、そして淡々と不安要素を消しにかかるプロの仕事そのものだ。
同時に黒鉄一輝も動き出すが。
(間に、合わない!)
《陰鉄》を呼び出した後、発砲を防ぐために斬り伏せなければならないのは数人だ。たった一人男に向けて発砲されるより早く。
間に合うはずもなかった。せいぜい斬り落とせて二人。しかしやらない理由は何処にも無い。《陰鉄》を顕現させようとしたその瞬間───。
「え?……は??」
気づけば、禿げている男は銃を構えた内の一人の前に立っており。
直後。一斉に、八人全員が地に倒れた。まるでコメディのように。
だがそれは、決して悪ふざけや冗談の類ではなく。
「銃を人に向けたらダメだって親から言われなかったか?」
軽口を叩いているこの男こそが、武装兵を一人残らず片付けたのだ───それも、一輝ですら追えない速度で。一輝が一歩踏み出した時には既に、武装兵は誰もが意識を手放していたように見えた。
常識外の速さに一輝は粟立つものを覚える。彼とて、全国の道場を破ってきた猛者だ。それと裏腹に、そんな一輝をして禿げの男が醸す雰囲気を考えるなら、そこいらの凡百に見えた。発展途上とは言え、超人的な観察眼を持つ彼をして。
当たり前ではあるが、この状況についていける者は一輝を除いて誰一人としていない。強盗集団のボスも含めて、だ。
彼らからしてみれば、突如外からは声が聞こえ。謎の男が、シャッターを破壊してこの修羅場に乗り込み。まるで止まった時の中を動き回るが如く、一瞬で場の空気を完全に支配したのだ。
───乗じるなら今しかない。一輝はこの空気を利用する。
「来てくれ《陰鉄》ッッ!」
今度こそ強盗グループの長には隙ができた。呆然と立ち尽くす
との距離を一瞬で詰め、彼が持つ銃の身を一刀のもとで叩き斬り───。返す太刀で、首を落とそうとするも。
「ちっ!俺と同じ伐刀者も隠れてたとは───なぁ!」
「っ……(確かに落としたと思ったんだけど…)」
───
「おお、どっちもやるな」
ニヤケ顔で感嘆の言葉を漏らす謎の男が乗り込んできてから十秒と経たない内に、全ての部下が使い物にならなくなったのだ。これで計画はご破算に違いない。
「どけ、ガキ。剣士じゃ俺を斬れねぇよ」
「……僕はそこらの子供じゃないですよ。貴方を斬って───終わらせる」
「そういう話じゃねぇ。俺の能力は《
ボスの言葉から察するに、文字通りの全身硬化の能力なのだろう。そう考えれば先程、《陰鉄》が一度弾き返されたのも納得できる。見ると右手首にはブレスレットが光る。恐らくそれが彼の固有霊装だ。
しかし一輝は舐められたものだ、そう《陰鉄》を構え直そうとするも。
「……なぁ。早く終わらせたいから俺にかかってこいよ」
男の明らかな挑発行為は、火に油を注ぐ結果となった。
「…………誰のせいでこうなったんだ、ア"ァ!?てめぇが来なけりゃ成功してたんだぞ俺はァ!!」
「いや、それ俺のせいじゃないじゃん。そもそも盗みなんてはたらくなよ」
「死ね、ハゲ───ッッ!!」
「……日本語が通じねぇ奴だな」
怒りに身を委ね、魔力放出により身体能力を向上させた伐刀者は。爆発的な速さでハゲ男に肉薄した。
迎え撃つ男は構えを取る───が、まるで武道の「ぶ」の字すら知らないような構えだった。素人そのものとしか見えないそれは、隙しかないように見えた。
だが、只の素人の男がコンマ一秒かからずに武装集団を処理できるかと聞かれれば───断じて、否だ。不可能に決まってる。
ならば彼も何らかの異能を持った伐刀者なのか。B……可能性によってはAランクの。
強盗の主犯である伐刀者は勢いに任せて、振り上げた腕をそのまま頭に振り落とそうとする。
不味い───。《陰鉄》の刃を弾くほどの硬度で叩き潰されては、一溜りもない。
人質達の短い悲鳴が掻き消されるほどの轟音が鳴り。
「え…?」
音が鳴った直後、強盗集団の頭と思しき男の姿はそこに無かった。
「一体、何が……」
「助かった、の?」
いまいち状況が理解出来ずに困惑する人質だが。つい先程と同じく、一部始終を見逃さなかった男がここにいた。
その男、黒鉄一輝は静かに。そしてその顔には驚愕ただ一色を浮かべながら───銀行の
(彼は一体何者なんだ……っ)
二人が交錯する瞬間、ハゲている彼は本当に軽いパンチを繰り出した。喧嘩する時の
しかしそれだけで全てが終わった。
ハゲている男に向けて迫ったはずの強盗グループのボスは、拳が直撃した瞬間。向きを変えて、物凄い速度で天井を破って消えた。
一輝の前に佇む男には傷すら付いておらず。《全身硬化》など初めから、何の影響もなかったというわけか。
いずれ一輝の視線の在処に気づいた人質の一人が騒ぎ立て、客は遂に恐怖から解放されたと知った。
禿げた男が動き始めて一分と言ったところか。たったそれだけの時間で、全ての絶望をひっくり返し、終結に導いてみせた。
客は歓喜に溢れ返り。誰も彼もが喜びを分かち合う。拘束されたのがたった十分程度だったとは言え、この緊張は決して生きた心地がするものでは無かっただろう。
「はぁ……結局金は下ろせ無さそうだな……」
「あ、あの!」
「ん?」
この騒ぎのあとでは、普段通りの営業は有り得まい。彼は意気消沈しながら引き返すが───一輝は彼を引き留めていた。
「貴方のお名前を教えていただけませんか!」
「俺か?俺はサイタマだけど」
そして、続く二言目にて
「サイタマさん!僕を弟子にしてくださいッ!!」
「あ、うん。分かった」
弟子入りの申し出をしていた。
「………え、弟子?」
この時、一輝はまだ知らないことであったが。彼を知る者からはこう呼ばれていたという。
《