神をその身に宿す者   作:N瓦

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 スタートはアニメ5話くらい。話の基本的な展開の大枠はリメイク前と同じ(と言うより、原作と同じ)ですが、絡みが増えて、心情描写を増やしたりしました。


七星剣舞祭 代表選抜戦
落第生の師Ⅰ


 

 

 

 学生騎士を育成する機関の一つ、破軍学園には実に優秀な学生騎士が在籍している。

 その中の三人。特に注目されている───《落第騎士(ワーストワン)》と《紅蓮の皇女》、《深海の魔女(ローレライ)》の目の前には、何とも不思議な光景が広がっていた。

 

「それにしても、気が付いたら人がいっぱい増えてるわね」

「当然です。お兄様に教えを乞わない輩こそ愚者です」

「……そこまで言わなくてもいいんじゃないかな」

 

 総勢四十名と言ったところか。彼らが皆、目を閉じながら片脚立ちをしている。何故、彼らがそのようなことに取り組んでいるかと言うと、それが訓練の一環であるためだ。

 そして一見奇妙にも思えるが、この訓練の意味を疑う者は一人もいない。彼らは、Fランクながら体術と剣技のみで学内選抜戦───八月に控える七星剣舞祭に向けて破軍学園では代表の選抜戦をしている───において無傷の連勝をしている男の指導を受けに来ていたからだ。一部では「お師匠様」などと呼び、敬う者もいる。

 

「あと十秒だよ、みんな頑張って」

 

 当の男、《落第騎士》黒鉄一輝が彼らに声をかける。"目を瞑りながらの片脚立ち"と聞けば簡単に思えるが、意外にも四苦八苦する者は多い。即ち自身の体を正確にコントロール出来ていないという訳だ。

 一輝は設定時間の経過を確認し、休憩するよう伝えた。

 

「うん、一旦終了にしよう。五分くらい休もうか」

 

 休憩の言葉に黒鉄塾受講生(?)の面々は息を吐く。例え疲労がなかろうと、「休憩」の二文字がそうさせるのだろう。

 特訓が一区切りついたところで、彼に の特訓風景に密着取材をしていた同級生の日下部加々美が近寄ってきた。

 

「黒鉄先輩、こんな感じのトレーニング方法って先輩のオリジナルなんですか?」

 

 同級生である彼女が一輝を"先輩"と呼ぶのは、一輝が昨年度、留年したためである。ステラ、珠雫らより一歳年上というわけだ。

 

「うん、そうだね。僕の師匠はこういうことを何も教えてくれなかったし、トレーニング方法はなんて言うか……独特だったから。まぁ、古代中国や日本の武道に関する文献とかを調べて、良いとこ取りした感じかな」

「なるほ……ど?」

 

 相槌を打ちながらも、一輝の発言に違和感を覚えた加々美。サラッと大切なことを言ったような……。

 そんな彼女を置き去りにするように説明を続ける一輝であるが、

 

「この片脚立ちもね───」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよイッキ!!」

「え、何?」

 

 そうは問屋が卸さない。実際に片脚を上げて解説をしようとした一輝に、ステラが物凄い剣幕で迫った。

 

「……何か変なこと言った、かな?」

 

 見ればステラの隣の珠雫も驚愕の色を浮かべ。ならば彼らがそんな表情をするその原因は自分にあるだろう。

 

「イッキ。さっき言ったこと、もう一回言ってみて」

「か、片脚立ちは古代中国において───」

「それよりも前です!」

「珠雫まで…僕の鍛錬の基本は文献を基に組み立てもので……」

 

 ここで先程の発言を思い出した加々美。

 

「───あぁ!黒鉄先輩、さっき『師匠』って言いませんでした!?」

「それよ!」「そうです!」

 

 情報として流れてくるのが一瞬すぎて、何となく聞き流してしまったのの。それは決して聴き逃して良い類の話ではないことは明らかである。

 

 

***

 

 

 一輝の彼女たるステラ、妹である珠雫、そして記者魂全開の加々美は勿論のことながら。黒鉄塾受講生の彼らすらも、一輝の一言で表情が豹変する。その大半は驚いている様子。

 それもそのはずである。剣技において右に並ぶ者はいない《落第騎士》に師匠がいた───

 

「これは特大スクープですよ!!!」

 

 そんな話、吃驚仰天ものだろう。

 加々美がスクープだと騒ぐのも無理は無い。興奮からか、「要チェックや!」と関西弁で一輝に迫っている程だ。

 

「そんなに大騒ぎするほどのことじゃないと思うけど……」

「大騒ぎすることよ!!それに、どうしてそんな大切なことをアタシに教えてくれてなかったの!?」

「貴女なんて二の次です。それよりも、妹である私にこそ、教えてくれなかったのは何故ですか!?」

「あ、あはは。二人に言ってなかったっけ?」

「言ってないもん!」「聞いてません!」

 

 問い詰めるステラと珠雫は、先程から妙に息が合っている。そんな彼女らに対して、当然一輝であっても笑って誤魔化すことはできなかった。

 

「ご、ごめん!本当にステラと珠雫に隠していた訳じゃないんだ!それだけは信じてください!」

 

 隠していたと勘違いされてここまで彼女らを怒らせたならば、これは即謝罪一択だ。こういう状況(とき)の女は強い。……そして、悲しきかな。女の度量にもよるが、大概男が悪いことになる。

 破軍の番記者もまた、そんなスクープを逃す筈もなく。

 

「なんだか黒鉄先輩が二股かけた感じの謝り方ですけども……まぁ、それは置いておいて。先輩のお師匠さんってどんな剣士なんですか?」

 

 加々美の疑問は当然のものだ。

 一輝は、経験から培った最強の特技を持つ。剣という術理の根幹を掌握し、その剣がどこに辿り着くのか──つまり流派の究極奥義の在り方まですべて暴き出し。その上でその剣技を自らのものにするのだ。

 

 ───それが《剣技模倣》。

 

 今の一輝がその師匠から何を盗んだのか。誰もがそれを知りたかった。しかし、一輝からは返ってきたものは全くの的外れの解答であり。

 

「師匠は剣士じゃないよ」

 

 彼の解答は予想の斜め上を行った。

 

「師匠はね、()()()()()()()贔屓目に見ても一流……いや二流ですら無いし、ランクは僕と同じFなんだ」

 

 あの《落第騎士》の師匠であり、さぞ高名な剣豪だと思いきや、それ以前に剣士ですらないと来た。その上伐刀者として三流だと言う。

 そんな一輝の師匠の話を、黒鉄塾受講生も興味津々に聞いている。

 

「え……なら、どうしてイッキはそんなのに弟子入りしたのよ」

 

 誰もが気になった弟子入りの理由は、

 

「───僕と師匠との間に()()()超えることの出来ない壁を感じたから、かな」

 

 剣技では無く、自らと彼とを隔絶する壁。実力の溝だと一輝は言う。

 

 それならば。大剣豪であり、同時に大英雄と呼ばれる《闘神》に弟子入りすれば良かったのではないのか。───そんな疑問を持つも、それは違う。

 一輝は学生の身ではあるが、こと実戦においては文字通り日本トップクラスだ。驚くことに、それは国内リーグのプロを含めた話である。事実、ハンデがあったとは言え、世界ランク元三位の《世界時計》を下している。

 無論実力差はあるものの。剣技のみを切り抜けば、一輝は《闘神》と闘ったとしても大敗には至ることはない。

 一輝もそれを分かっており。彼らと一輝の間に()()()超えられない壁があるかと言われれば───答えはNoだ。

 

 そんな一輝が決して超えられない壁があると言ったのだ。つまりその師匠は、Fランクながら、彼をしてそう言わせるほどの傑物であるという証左に他ならない。

 

「イッキは今でもそう感じるの?」

「……正直、勝つことはかなり厳しいと思うよ。冷静に見て、"本気"の師匠相手に()()()()()()()()……ってところかな」

「なっ───」

 

 実力差が開いた伐刀者同士なら、確かに傷を与えられずに終わる戦いもある。それでも、日本有数の破軍学園において、上から数えた方が早い一輝が僅か一秒しか相対できない。そんな話があると言うのか。

 先程も言ったが、一輝は白兵戦に長けた伐刀者だ。世界ランク現三位の《夜叉姫》を相手取っても、彼が開始一秒でねじ伏せられることは有り得ない。

 

 だが《落第騎士》の師匠はそれが可能なのだと、彼自身が言う。一輝の洞察力は卓越しており、それ故今の言葉の信憑性は極めて高い。

 

「───それは一度戦ってみたいわね」

 

 だからこそ、《紅蓮の皇女》は手合わせを望む。愛する男が師と仰ぐ者が如何程なのか───。

 しかしそれは一輝の口から難色を示される。

 

「えぇと……それは難しいかな」

「え、そうなの?」

「師匠は今日本にいないんだよ」

「だから今まで私達も会えてなかったってことですか?」

「うん。そういうことになるね」

「なるほど……道理で私の情報網に引っかからないわけだ」

 

 逆に自分と会っていたら───例え密会だったとしても───、彼女にはすぐにバレそうだなぁ…と心の中で少し思った。

 

「それではお兄様の師は、お兄様を置いて海外で遊んでいると言うことですか?」

「珠雫の言い方に刺があるけど……師匠が海外にいるのは遊びじゃないよ。うん。遊んでいるわけじゃないんだけども……なんて言うか……」

 

 言い淀む一輝。

 

「はっきり言いなさいよ……今更驚くことがあると思ってるの?もう何も怒らないわよ。イッキだって私達に隠してたって訳じゃないんでしょ?」

 

 そんな彼の背中を押すように、ステラが優しく笑いかける。見れば珠雫も何だかんだで怒ってはいない。彼女達は、一輝が師の存在を本当に隠していたわけでは無かったのだと分かっているのだ。

 

「そう、だね」

 

 ───彼女らの顔を見て一輝は決意して言った。

 

 

 

「師匠はね、()()正義の味方(ヒーロー)をやってるんだ」

 

 

 

 一輝の発言から数秒の静寂の(のち)

 

 

 

 

 

 

 

「「───はぁ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 先程まで一輝にプレッシャーをかけまいと優しい表情をしていた彼女らは、一転。"最高に理解できない"という顔でそう言った。

 

 

「……だから言いたくなかったんだ」

 

 そんな一輝の悲しみに包まれた呟きに反応してくれた者はいなかった。

 

 

【続く】

 




 次は狸に連れていかれるくらいまで飛びます。
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