神をその身に宿す者   作:N瓦

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 原作と比べて一番強くなったのは王馬くんだと思う。原作より割と強い。次いで一輝。他は大差無い。
 ……黒乃ってサイタマに敬語使うかな。初対面だし、黒乃だって大人だから社交の場では敬語くらい使うかなーと思って書いたけど、果たして。
 


落第生の師Ⅲ

 

 

 

 

 理事長室に浮かび上がるスクリーンには、つい先程行われた模擬戦の映像───その中でも特に、決着のシーンが流れていた。

 

「彼の攻撃で巻き起こった風圧だけで第一訓練場の観客席、そして林がまるごと吹き飛んだ……と」

「……はい」

 

 映像は訓練場に設置されたカメラによって撮られたものである。多少画質は粗いものの、サイタマの異常性は十二分に確認できる。

 

 ステラ屈指の伐刀絶技《天壌焼き焦がす竜王の焔》をパンチ一つで消し去り。直後、残像すら残らない速度で彼女に肉薄する。

 そして拳を寸止めすると同時に、衝撃波が発生し───そこで画面はブラックアウトした。恐らくそれによるカメラの故障だろう。

 

「これを見ては信じる他無いが……些か理解し難い光景ではあるな」

 

 現在、一輝とステラ(一応サイタマも)は黒乃に説教をされている真っ最中だった。黒乃がデスクに座り、机を挟んで一輝とステラが話を聞いている形となる。

 しかしこの破壊の張本人であるサイタマが一番ふてぶてしく、来客用のソファに座っている。……その態度があまりにしっくりきているため、誰も突っ込まなかったが。

 

「私の能力があったから事なきを得ましたが……どれほど広い範囲を吹き飛ばしたか自覚していますか───サイタマさん」

 

 そんなサイタマをジロリと見た黒乃の言葉自体は丁寧なものだが、口調は反論は許さないと言わんばかりのものだ。

 

「あー…すまん」

「サイタマ先生が素直に謝った…!」

「いや、俺だって謝ることくらいするからな?それに誰がどう考えても俺が悪いだろ、この場合」

 

 発言自体は真っ当なのだが……如何せん彼の態度は相変わらずデカい。

 

「まぁ、結局誰も怪我してなかったんだし、それで良かったじゃねぇか」

「訓練場をぶち壊した張本人が、よくもまぁぬけぬけと言えるわね…」

「ははは……」

 

 サイタマの開き直りに、一輝は乾いた笑いしか出なかった。

 

 因みに結果だけ見ると、サイタマの言う通り被害は皆無であった。

 人的被害についても同様だ。余波が飛んだ方向は林だった上、それにこの期間は学生が少ない。その為、そもそも林の中で訓練をしている学生も居なかった。

 修復に関しては《世界時計》の二つ名を持つ黒乃が全て解決させた。破壊された観客席と林の"時"を巻き戻し、破壊される前の状態を復元させたという訳だ。

 

「ふぅ」

 

 黒乃が吸っていた煙草を一度(ふか)して、一輝とステラに話しかける。

 

「……こうして君たちに話しているのは、私が破軍の理事長だからだ。それは分かるな?」

「はい」

「たまたま今は学園にいた生徒は少なかったとは言え、彼らの安全を守る義務が私にはある」

 

 もしサイタマが拳を振るった方角に寮があったら、大惨事もいいところだ。

 

「黒鉄」

「はい?」

「貴様は彼の実力(ちから)を目で見て、そして知っていたんだろう?」

 

 一輝は暇そうにボーッと座っているサイタマの方をちらりと振り返ってから答える。

 

「えぇ、まあ。()()()()には知っているつもりです」

「……にも関わらずだ。模擬戦の前、私に一言も話を通さなかった。もし言っていたら、生徒の安全を脅かすことは無かったはずだ。違うか?」

 

 もし一声掛けていた場合、彼女が模擬戦に立ち会っていただろうからだ。黒鉄一輝が見込んだ師匠の強さを説明した上で模擬戦を行うとなれば。黒乃とてそれなりの対応をするだろう。

 一方、全て一輝の落ち度である───とも一概には言えないのが事実だ。サイタマが力をセーブすれば良かっただろうと言われればそれだけのこと。

 しかし今、論じているのは単に「事前報告の有無」についてのみ。こればかりは一輝に非がある為、彼も首肯するしかない。

 

「……そうです」

「そうだな」

 

 一輝の言葉を聞くと、黒乃は軽く笑みを浮かべて宣告した。

 

「───だから私は、()()()()()に罰を課すことに決めた」

 

 "二人"とは一輝とサイタマでは無く、一輝とステラのことだ。

 

「えぇ!?理事長先生、私もですかっ!?」

「当然だ、愚か者。ヴァーミリオンも黒鉄から話自体は聞いていたのだろう?」

「うっ……そこは、そう…ですけど」

 

 確かに聞いていたがそれ以上でもそれ以下でも無い。

 一輝の話だけを基に創り上げられた『サイタマ』という究極・無敵・最強の三拍子が揃った虚像と、強さを一切匂わせない『サイタマとのギャップを前に、「模擬戦のことを理事長には前もって報告しなければならない」という考えが浮かぶものか───などとステラは心の中で悪態を吐いた。

 

「それで罰の内容とは一体?」

「何、それほど身構えるようなものじゃない。───お前達には破軍学園が所有する、合宿施設の掃除を行ってもらうだけだ」

 

 ヴァーミリオンは掃除は得意なんじゃないのか?と言って、黒乃はケラケラ笑う。

 恐らく入学式直後に起きたあの出来事───つまり珠雫と共に、校舎にある全ての女子トイレの清掃を課されたことを指しているのだろう。

 

「出発は早いぞ。明日の朝だ。今日中に用意は纏めておけ」

「少し急すぎませんか?」

「これは毎年生徒会のみで行っていることでね。清掃を行う期日が丁度明日なのだよ。ま、善意と思って今年は君たちも手伝ってくれたまえ」

 

 今日から一週間、学内選抜戦はレストであるし何の不都合もあるまい。……ステラが、密かに一輝とのデートを画策していたことを除いては。

 

「理事長先生!そ、それならサイタマにバツはないんですか!?訓練場ぶっ壊したのってサイタマじゃないですか!」

 

 だからこそステラはささやかな抵抗を試みる。せめて。せめてサイタマも道連れに───と。

 

「えぇ……ここで俺に話振るのかよ」

「当たり前じゃない!壊したのは紛れもなくサイタマなのよ」

 

 サイタマは()(この)んで掃除をする質ではない。故に突然の方向転換に苦い顔をするも───無常にもステラの願いが届くことはなかった。

 

「ふむ……ヴァーミリオンの言い分のみ聞けば確かに正論だが、残念ながらそれは有り得ないな」

 

 黒乃曰く、サイタマが部外者であったということが大きいようである。訓練場が壊れっぱなしならばまだしも、黒乃の能力で復元されたのだ。

 その状況で、部外者であるサイタマに処罰を与える権限は黒乃には無かった。それに、彼に悪意があった訳でもなかろう。

 

「お、俺は何も無い感じかぁー…………なら帰るわ」

 

 これ以上ここにいると何だかんだで、また面倒くさいことに巻き込まれる可能性もあると踏んだのか。これ以上波風立てまいと、サイタマはソファから立って帰る用意を始め。

 

「……これだとT()K(かけ)G(ご飯)食えねえじゃん…」

 

 三つの卵パックが入ったレジ袋を見て、悲しそうにため息を吐く。

 

「ふむ……では、黒鉄とヴァーミリオンも退室して結構」

 

 サイタマに乗じてか、黒乃は一輝達にも退室を許可し、

 

「わかりました。では失礼しました」

「掃除、手は抜くなよ」

「うっ……はい」

 

 一輝とステラは真っ先に出ていったサイタマを追いかけ、黒乃に一礼してから退室した。

 

 

 

 

 

 

 それを黙って見ていた黒乃は一言呟いて。

 

黒鉄の師匠(サイタマ)、か。…………少し、当たってみるか」

 

 ───デスク上のパソコンで何かを調べ始めた。

 

 

***

 

「サイタマのせいでイッキとの休日が台無しじゃない!」

「まぁまぁ落ち着いて、ステラ…」

「……そうは言うけど、私は折角イッキと久しぶりのデートをしようと思ってたのにぃ……」

 

 黒乃との話を終えた彼らは、サイタマを見送りに破軍学園の正門前まで来ていた。ステラは相変わらず肩を落としていたが。

 ここで一輝が「ところで───」と話題を転換し、サイタマにとある質問を投げた。

 

「サイタマ先生、いつまで日本に()られますか?」

「あぁ……特に考えて無かったわ。多分半年くらいじゃねぇの」

「半年……と言うことは、八月も日本に?」

「多分な」

 

 一輝がそれを確認をした目的は───

 

「でしたら、先生。七星剣舞祭を是非、観に来ていただけませんか」

 

 無論、まだ出場が決定した訳では無いし、その保証もない。

 ───しかし黒鉄一輝はステラ・ヴァーミリオンとの約束があるのだ。彼はきっと、出場してみせるはず。

 

「七星剣舞祭?何それ」

「そこからなのね……」

 

 ただサイタマはその祭典が何たるかを知らないわけで……。

 呆れたステラが軽く説明する。曰く、日本学生騎士の頂点を決める武の祭典であり。現段階では、学内での選抜戦という形でその代表を選んでいるのだと。

 

「へぇ。それで一輝は代表を勝ち取れんのか?」

「───はい。()()()()()()()()破軍の代表になります」

 

 だからこそ一輝は、サイタマへ自身の覚悟を示す。保証はどこにも無いと先程言ったが───彼には確かな自信と決意がある。

 

「そっか。なら頑張れよ」

「はい。ありがとうございます」

 

 それ以上言葉を重ねないサイタマ。心配しないのは一輝のことを弟子として確かに信じているからで。

 基本的に無関心・無干渉のサイタマは───心の内では、一輝が出ると言った祭典を楽しみに思っていた。

 

「じゃあ帰るわ。見送りサンキューな」

「わかりました。では」

 

 サイタマが踵を返して門から出て行く姿を一輝とステラは見届ける。

 

 

 

 

 

「……なんだか、めちゃくちゃな人だったわね。いろんな意味で」

「まぁそうだね。でも、だからこその"サイタマ先生"って感じがするよ」

「サイタマがどんな人かってこの数時間で何となく分かっちゃった……って、サイタマ、こっちに歩いて来てるわよ?」

「あれ?本当だ。どうしてかな」

 

 つい数秒前見送ったはずのサイタマが戻ってくる。何か忘れ物でもしたのだろうか、と思ったがどうやら違うようで。

 

「一輝、一つ聞き忘れてたわ───お前、何歳(いくつ)上か知らねぇけど兄さんいるよな」

「え」

 

 彼が戻って来たのは一輝に質問するためだったらしいが、しかしその内容は一輝にとって斜め上であり。

 そして───ステラにとっては、サイタマという師匠がいたと聞かされた時と同様の驚きがあった。

 

「えぇぇえええ!!イッキってお兄さんいたの!?そんな大事なことを、彼女であるアタシに隠してたの!?」

「ち、違うから!わざわざ言う必要も無いかなって思っただけだよ!」

 

 サイタマ先生隠蔽疑惑という前科(?)があるため、弁明は必死だった。

 一輝が隠していた訳では無いと説明したのは当然であり。何故なら、一輝にとって、兄とは当分会うことは無いと思っていたのだから───。

 

「ふぅ〜〜〜ん」

「い、嫌な言い方だね……」

「べっつにぃ?」

 

 とりあえず一輝の弁明だけは呑み込んだステラは、半目でその理由を聞く。

 

「で、隠してたわけじゃないってのは信じてあげるけど何でなの?」

「……兄さんの名前は黒鉄王馬って言ってね、僕の一つ上なんだ」

 

 そこから軽く黒鉄王馬という黒鉄家長男の話をした。

 同世代で唯一のAランク騎士である彼が、小学生のときにリトルリーグ世界大会を優勝で飾ったこと。更に、日本という箱庭の中では強さを目指せないと思い立った為か───こればかりは一輝の推測ではある───、中学校に上がる前に日本を飛び出したということも。

 

「流石イッキのお兄さんってところね……。どんだけ貪欲なのよ」

「そうだね、そこは僕も尊敬してるよ」

 

 強さの追求という一点においては、一輝より遥かに貪欲である。そこが王馬の凄いところだが。

 

「それでサイタマ先生。王馬兄さんとはどこで?」

「………………忘れたわ。一年半くらい前だったかなー、確か。まぁ、お前となんか似てたからたまたま覚えてただけなんだわ」

 

 聞くだけ聞いて特に覚えていない辺りサイタマらしい。しかし、最後に付け加えたことはステラ達を確かに駆り立てて───。

 

「……きっと王馬兄さんはかなり、強くなっているはずだ。若しかしたら、サイタマ先生と会った時既に、ステラより強かったかも知れない」

「っ───。……サイタマ。今日の私と比べて、その時のイッキのお兄さんはどうだったの?」

「そん時は、確かにステラより強かったぞ」

「……そうなのね」

「多分だけどな」(ボソッ)

 

 強さがどうだったかなんて覚えてるわけねぇだろ───。

 そんなこと、一輝の師匠として言える訳ない。内心、汗をダバダバかきながらサイタマはとりあえず肯定しておいた。

 

「まぁそれだけだ。今はもっと強くなってるんじゃねぇの」

 

 サイタマはとっくに忘れたことだが、最後に二人はとある会話を交わした。───それが王馬を更なる強さを求める契機となったことだろう。

 

「クロガネ……オウマ」

 

 根拠はどこにも無い。

 

 しかし近いうちに王馬と相対する。

 サイタマの話を聞いたステラの直感が、そう教えてきた。

 

「じゃあ頑張れよ、一輝」

 

 そう言って、今度こそサイタマは帰って行った。

 

 

【続く】

 

 

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