漢体これくしょん 日東丸提督のブラ鎮建て直し物語 作:かのんベール
改革三日目。
鎮守府は激動の二日間を終えたため、今日のスケジュールは緩めだ。艦娘たちも次から次へと規則が変わっていったので、一旦頭の整理をする時間が必要だろう。
「今日はさまざまな資料の提出日の前日だ。基本的に資料の提出は早ければ早いほどいい。締め切りギリギリで不備が見つかった場合、修正している暇などないからな。資料の提出が遅れると、後に続く仕事が次々にストップすることになる。一日の遅れは最終的には何倍もの遅れになる。よって、今日は溜まっている書類の整理に時間を当ててもらいたい。講師役の件についても長門から確認が来ると思うので、返事を決めておいてくれ。長門」
「講師役に関しては個別に館内放送で呼び出すので、秘書室まで来てくれ。以上、解散!」
今日は艦娘が暇なように、提督である俺も比較的暇だ。具体的には職種の人事名簿の打ち込み、マニュアルの作成、社会常識を教えるための教科書作成などだ。だが、どれもある程度は既に進んでいるので、そこまで急ぐ必要はない。
仕事に取り掛かる前に鎮守府を軽く散歩していると、金剛を見つけた。
「おー、金剛。なにやってるんだ?」
機嫌のいい俺は拒絶されるのを覚悟で話し掛ける。
「見て分からないのデスカ」
「あぁ、洗濯か。なにか溢したのか?」
「溢さなくても服は汚れるネ。着た切り雀の不潔な提督とは一緒にしないで欲しいデース」
いや、近くのコインランドリーで洗ってるから。まぁ、正確には週末にまとめて出す予定だ。
「いや、手洗いするほど汚れないだろ。その服は洗濯機禁止なのか?」
「別に洗濯機でも洗えマース」
なんかいつもよりドスが効いた返答が来てしまった。
「じゃあ洗濯機で洗えよ。バカなの?死ぬの?」
ちょっと応戦してみる。
「あなたたち提督が売り払ったのデース。どの口が言っているのデスカ。とっても不愉快ネ!」
「お、おぉ。そうだったな...」
まさか...!
全速力で艦娘の寮へと向かう。慌てて共有スペースへと駆け込むと......
「ない…...」
本来あるはずの冷蔵庫もレンジも電気ポットも洗濯機も、全てが無かった。
迂闊だった…。本館のロビーにはちゃんと備品が揃っていたから油断していた。見えないところの設備は全て金に変えられていたのか...。参ったな...。直ぐにでも設備を戻してやりたいが。
「おい、クソ提督!寮に駆け込んでくるとはどういう用件だ!あぁん?駆逐艦たちが怯えてるじゃねぇか」
「おぉ、天龍か。ちょうど良いところに来た。お前、午後からの予定は開けておけ」
「は?なんでだよ」
「雑用だ」
「なんでオレがそんなことしなくちゃならねぇんだよ!テメェが一人でやりゃあいいじゃねぇか」
「そうか...残念だ。それじゃあ駆逐艦に頼むしかないかぁ」
「あ?」
「結構重労働だからなぁ。潰れてぺちゃんこにならなければいいなぁ」
「ちょっと待てよ!」
「なんだ、天龍。お前はもう部屋に戻っていいぞ?」
「誰がやらねぇって言ったよ!」
「ん?雑用を引き受けてくれるのか?」
「あぁ、オレが雑用だろうがなんだろうがやってやるよ!」
「んじゃ、一時に迎えに来るから。それまでに昼食は食っておけよー」
「分かったらとっとと出ていけ」
「いや、寸法測らないと」
「寸法?」
冷蔵庫と洗濯機のスペースをメジャーで測る。
ちなみに提督の七つ道具はメジャーの他にもドライバーセットとか100均で買った万能ナイフとかがある。そのうち提督の標準装備として大本営に提案してみよう。
寸法を確認してから、近隣の大型家電量販店へと向かう。店頭の在庫は以外に少ないので何軒かはしごしなくてはならない。順番としてはケーズ、コジマ、山隈、だな。単純に近い順だ。ちなみに個人的な感想だが山隈電気の接客は家電量販店の中で群を抜いて悪い。まぁ、店舗によって全然印象は違うと思うけど。一つの店舗が駄目だと系列の店舗全てに悪印象を与えてしまう。従業員は自分の店舗のことだけを考えていては駄目なのだ。系列店の数少ないデメリットの一つだな。
なんて下らない量販店への評価を下しながら、注文を済ませていく。今回は親切な定員さんに当たったため、納得のいく商品をスムーズに選ぶことができた。取り敢えず店頭に在庫のある商品の契約を済ませる。
電気ポットは3つで1万円。うん。
電子レンジ2つで2万5千円。うぐ...
冷蔵庫は2ドアのタイプを選んだ。2つで10万円。うぅ...
テレビは多分もともと無かったと思うが、ないと可哀想なので買っておく。37インチのテレビ12個で42万円。ぐはぁ...!
洗濯機は少々高めのものを勧められてしまった。女子は衣服に気を使うと思うので、不満が出ないように奮発しておく。5個で50万円。oh…
なぜここまで端数が綺麗かというと、さっきっからいちいち俺がダメージを食らっていることと関係する。そう、経費が落ちなかったのだ。理由は前と同じだ。
今まで大丈夫だったのなら大丈夫。
そのため、こうして自腹を切ることになってしまったので、ちょっとだけ値下げ交渉したのだ。幸いにも、大量に家電を買う上客だったので快く値下げしてくれた。本当に感謝が絶えない。
それでも合計金額は105万5千円だ。ポイントが相当溜まってしまった。正直嬉しくもなんともない。
俺はカードを持たない主義なので、ATMからお金を引き落とさなくてはならない。ちなみに一度に引き落とせる上限は100万円なので、2回に分けて引き落とさなくてはならなかった。こんな経験は初めてだし、これで最後だと思いたい。
鎮守府に戻ると真っ先に車庫へと向かう。選り取り見取り、というか緑しかないのだが、トラックを見て回る。軍のトラックは軍事機密の宝庫だったりする。これはほんの一例だが、ヘッドライトをつけなくてもレーザーを照射することで暗闇の中であっても走行できたりする。が、見た目がいかにもなので今回は却下だ。そうして見て回ると、お目当てのトラックを発見した。なんの変哲もない、いすゞの2tトラックだ。2tがどれくらいか想像つかない場合は
トントントントンヒノノニトンのCMの最後に出てくるトラックがそれなので、参考にして欲しい。ちなみに普通免許でも2tトラックは運転可能だ。まぁ俺は大型免許を持っているんだがな。軍に入ると大型免許を取らせてくれる場合が結構あるのだ。ちなみに大型免許は21歳以上が受験資格だ。
今日は無駄な解説が多いなと思いながらも、トラックを寮の入り口まで持っていく。
入り口で軽くクラクションを鳴らすと、艦娘たちが窓からこちらを警戒しながら覗いてくる。もう一回鳴らすと駆逐艦がビクッてした。面白いのでもう一度鳴らそうとハンドルに手を掛けたところで天龍が出てくる。
「何回も鳴らすんじゃねぇよ!一回で聞こえるっつーの」
「あぁ、ウサミミ着いてるしな」
「ウサッ!?テメェ、この天龍様をバカにするとは、よっぽど死にてぇらしい「プップー」」
あ、ビクッてした。
「テメェ~!」
羞恥と怒りで顔を赤く染めている。
「早く乗れ。血圧が上がるぞ?」
「誰のせいで!」
悪態をつきながらも大人しく助手席に乗り込む。
「ちゃんとシートベルト着けろよー」
俺がシートベルトを着けるのを真似して天龍もシートベルトを着ける。
久しぶりのトラックに少しだけテンションを上げながらトラックを発進させる
「はーしれ、はしれー!いすゞーのトラックー!」
「うるせぇよ!無駄に耳に残る歌なんか歌うんじゃねぇよ!」
いや、それって歌に失礼じゃね?
「じゃあ音楽でもかけるか」
「音楽ぅ?」
ちゃんとFMトランスミッターも用意してあるのだ。久しぶりにアニソンメドレーと洒落込もう。
軍のトラックはナンバーが通常とは異なるため隠しても直ぐにバレてしまうので、天龍に堂々と艤装を展開させて荷物を運んでもらった。
帰りにマツキヨで洗剤を購入する。あと、生理用品とかその他諸々は天龍に任せた。
「天龍も一応女だから任せて大丈夫だろう。...女だよな?」
「テメェ、やはり死にたいようだな」
「店内で騒ぐなよ?いいから早く買ってこい」
「本当にいいのか?」
コイツは変なところで遠慮するな。習性なのか?
「いらないものは買うなよ?」
「分かってるよ」
俺は優柔不断なので、飲料コーナーでウロウロしていると天龍がかごを一杯にして帰ってきた。まとめ買いか...。
やめて!財布のライフはもう0よ!
「天龍はなに飲む?」
「いや...オレは別に」
また謎の遠慮か。
「いや、労働の対価は必要だろ」
「そ、そうか?」
まぁ何時間も重労働させておいて対価が飲み物98円とは、訴えられるな。
「つってもなにがなんだかオレには分からねぇな」
「じゃあMetsのグレープフルーツだな」
「旨いのか?」
「あぁ、選ばれし者の知的飲料だ」
「は?」
「お前にジト目は似合わないぞ?」
「うるせぇよ!」
マツキヨの割引クーポンをちぎっている最中に哀れむ視線を天龍から受けた気がするが、気付かなかったことにした。
実在する企業を貶めるような内容はNGなんだそうです。山隈電気wwwwwwたとえアルバイトであっても教育は大切ですね