漢体これくしょん 日東丸提督のブラ鎮建て直し物語 作:かのんベール
改革4日目の朝。4日目ともなると早朝の起床も慣れてきたようで、余裕を持って集合が出来るようになってきた。
雑談に耳を傾けると天龍がヒーローになっていたようだ。どうやら家電を使えるようにしたのが天龍だと思われているようだ。
「オレじゃねぇって言ってるだろ!」
「あら~、天龍ちゃんったら照れてるのねぇ」
「ちげーよ!おい、提督!」
「なんだ、すごいじゃないか天龍!バカもたまには役に立つな」
「テメェ!後で覚えておけよ!」
噛ませ役の捨て台詞かよ...。
「総員注目!」
長門の号令が掛かったので、今日の予定を告げる
「午前中は訓練の内容に関する会議を行う。午後は課業を実施した後に実際に訓練を行う。長門」
「講師役を引き受けてくれた艦娘は今後の授業の参考にするため、提督の授業をしっかりと聞くこと。以上、解散!」
人になにかを教えるということは、結構得意だと思う。社会常識を教える授業も滞りなく進んでいる。のだが...
「おい、加賀!ちゃんと授業を聞け」
「聞いています」
「お前、午前の会議も明後日の方向を向いていただろう。お前も講師をやるんだからしっかり授業は聞いておけ」
「あなたのような人間の授業など参考にしたくありません」
「いや、別に参考にしなくてもいいから授業はちゃんと聞いてくれよ...。困るのはお前だぞ?」
「別に私たちに社会常識など必要ありません。困ることもありません」
仕方ない。サプライズ的にとっておいたが、最終日の計画を話すしかないか。
「そんなことはないぞ?いいか、他の奴もよく聞け。明明後日は鎮守府外学習がある。お前たちにはショッピングモールで買い物をしてもらう。予算は一人10万円だ」
艦娘たちに動揺が広がる
「それが今月の給料だ。来月以降は毎月18日に3万円ずつ支払われる。今回の10万は特別処置だ。大本営に感謝しろ」
もちろん、大本営は兵器になど給料は支払わない。そのお金は俺の給料からだ。一人当たりの年給が36万。艦娘は全員で25人。年間で900万の予定だ。中佐という階級と提督という役職者、さらには前線の基地での危険手当てで俺の年収は優に1000万を越える。食費も家賃も0のこの環境ならば充分生きていける。車の維持費だけ気を付ければ大した出費はない。残りは両親への仕送りだ。昔は結婚を考えて貯金もしていたが、もう諦めた。25歳にしてこの激務。結婚しても家には帰れないだろう、それどころか彼女をつくることすらこの状況では不可能だ。一体どこで間違えたのだろうか。
始めよりもさらに真剣になって授業に取り組む艦娘たちを見て、現金な奴らだとちょとだけ思いながらも授業を終わらせた。
課業の後は訓練の予定なのだが、今は提督室から訓練を眺めている。始めこそ近くで見学していたのだが、本来ではあり得ないほどの流れ弾が飛んで来るので、諦めて部屋に戻って来たのだ。現場は長門に一任することにした。
昨日提出された書類をデータにして打ち込んでいく。大半は長門がやってくれていたので、思いの外早く終えることができた。
申請された部活動を見ながら予算を概算していく。弓道などのもともと施設が揃っているものならまだいいが、初期設備から全て揃えるとなると予算がかさむな...。
天龍と龍田は卓球か。恐らく俺に負けたのがよっぽど悔しかったのだろう。龍田が薙刀じゃないのは天龍と同じ部活に入るためだろう。
やはり実際に経験した卓球やバドミントン、テニス、陸上が人気だな。他には服飾や料理、茶道、将棋、文芸、社研とかか。まぁ多種多様でいいか。
粗方の仕事は片付いたので、外出することにした。提督の軍服を脱いで、私服へと着替える。が、ここで深刻な問題が発生する。昨日の買い出しにはジャージで向かったのだが、これが結構恥ずかしかったのだ。そこで私服に着替えようと思い至ったのだが、どれを着たら良いのか分からないのだ。普段はジーパンにシャツとかなのだが、そんなラフな格好を艦娘たちに見られでもしたら俺のイメージが崩壊してしまう。
結局悩みに悩んだ末、スーツという無難なところに落ち着いた。久しく着ていなかったが、特に問題なく着ることができた。
ボロボロになってしまった携帯を買い換えて、書店へと向かう。先ずは教師向けの教本を幾つか見繕う。講師役の艦娘に配布する予定だ。次に女性誌も年代別に幾つか購入する。最終日のショッピングの下調べとかに使ってもらう。その他にも艦娘たちの興味を引きそうな雑誌や本を何冊か選んでおいた。
鎮守府に戻った頃にはすっかり夜になってしまっていた。ちょうど夕食と入浴の時間だ。艦娘たちに見つからないようにこそこそと秘書室まで移動する。秘書室のドアをノックする。
「入れ」
「ただいまー」
「おぉ!提督、待っていたぞ。本というのはそれか?」
手に持ってい荷物を長門へと渡す
「すまん、少し遅れた。それを艦娘に渡しておいてくれ」
「提督が渡したらどうだ?きっと喜ぶぞ?」
「いや、敵である提督からプレゼントとかダメでしょ」
「それもそうだな」
長門が愉快そうに笑う。なんだか久しぶりだ。
「あんまり長居でもして見つかったら大変だな。俺は部屋に帰る」
「あぁ。お疲れ様だ」
「お前もな」
買ってきた本の中にはアニメの原作とかも結構あったので、艦娘からは長門の趣味だと勘違いされたらしい。まぁ、長門も俺の影響でアニメはよく見るのであながち間違いでもないがな。
今日からはテレビも設置したし、もしかしたら深夜アニメが流行るかもしれないな。
...設置できたかな?心配になってきたので長門にメールを打って確認する。
まもなく長門から返信が着た。写真が添付されていたので開いてみる。
みんな楽しそうにテレビや漫画といった娯楽を経験していた。天龍が駆逐艦に囲まれながら最後のテレビを設置している。天龍も満更では無さそうだ。こうして目に見えて成果を確認できたのは案外初めてかもしれない。
メールに鍵を掛けて、画像も保存する。満更でもなさそうな天龍を待ち受けにしてからスマホの電源を落とした。
昨日の加賀との一件で少し不安になっていたが、艦娘たちも少しずつではあるが元気を取り戻してきているようだ。艦娘がどんな扱いをされてきたのかは具体的には知らないし、おそらくその傷が消えることは一生ないのではないかと思う。人は過去を乗り越えて生きていくものだし人生とは過去の連続であるから、それでいいのだと思う。だったら俺に出来ることは今を少しでも良いものにすること、それだけだ。
ちょっと気分が良くなってきたので、夜空を眺めながらタバコでも吸おうと思い外まで出てきた。お供は缶コーヒーだ。
丁度いい段差を見つけて腰を下ろす。缶コーヒーのプルタブを起こそうとして一回失敗してしまった。
「おい」
再度プルタブを起こそうとしたところで声が掛けられる
「ここは関係者以外立ち入り禁止だ。誰だか知らねぇが、この天龍様に殺されたくなければとっとと出ていけ」
振り返ると、仁王立ちの天龍がいた。角度的には天龍の下着が拝めるはずなのだが、夜なので全然見えない
「ん?天龍か。まさか提督を部外者扱いか。なんだ、代わりにお前が提督でもやるのか?結構大変だぞ?」
「て、提督!?」
「見れば分かるだろ、ボケたか?」
「スーツなんて着てたら見ても分かんねぇよ!」
あぁ、そういえば着替えてなかったな。
「テメェ昼間どこにいたんだ」
「なに、ストーカー?なんで出掛けたの知ってんだよ...」
「ば...!ちげーよ!ただ車が無かったからな」
怒ったりドヤ顔したり忙しい奴だな。別に自慢できるほどの推理じゃないぞ?
「そりゃあ、お前に壊されたスマホを買い換えてたんだよ」
「本当にそれだけか?」
「なんだ?俺が寄り道しちゃ駄目なのか?」
「ちげーよ。ただあの本を用意したのがテメェなんじゃないかと思ったんだよ」
やっぱり、最近鋭いな...。いや、逆に昨日の一件で俺のことを疑い始めたのか?
「本?なんの話だ?」
「惚けんのか?昨日のトラックでかけてた曲がアニソンとか言ったな。今回の本の傾向もそういうのが多かったぞ。長門の趣味っていてたが、長門の知らない本もあった」
「そりゃあ自分の好きな本だけ揃える訳にはいかないからな、知らない本があってもおかしな話ではないだろ」
「長門もそう言ってたがな、オレはそうだとは思えねぇ」
「だからって俺が用意したってのはもっとおかしいだろ。俺にメリットがない。お前は一体どういう思考回路をしているんだ?やっぱり馬鹿なのか?」
「バカじゃねぇよ!」
「じゃあなんだよ。根拠がないにも程があるだろ」
「勘だ!なんかこう...上手く表現できねぇんだが、なんか引っ掛かるんだよ」
「勘か...。やはり野生動物の感覚を残しているようだな。頭の病院に行くことを勧めよう」
「テメェ!人が真剣に話してるっつーのによ!」
これ以上話すのは危険な気がするので、わめくて天龍を放置して提督室へと戻る。
「おい!コーヒー置きっぱなしじゃねーか!」
「ゴミの処分も部下の仕事だ」
タバコを吸いながら本館へと戻る。
...天龍にコーヒーはまだ早いかもしれないな。根拠はないが、勘だ。案外勘は侮れないものかもしれない。
プルタブ開けるのに失敗しているので、缶コーヒーは新品です。ちょっと分かりにくいかと思って補足。蛇足。豚足。