漢体これくしょん 日東丸提督のブラ鎮建て直し物語 作:かのんベール
鎮守府祭当日。
艦娘たちは朝早くから荷物の搬入作業に取りかかっていた。勿論俺もだ。トラックの荷台をテントの裏側に繋げて、必要な分だけを店頭へと並べていく。因みにテントは昨日の夜中に艤装を展開して自分で組み立てた。早朝にトラックを取りに行く際に天龍を見かけたが、一人で軍手をしていたのでもしかしたら俺のテントを組み立てようとしていたのかもしれない。たとえ相手が俺のような提督であっても、あいつは優しいのだ。その優しさが問題にならないことを祈るばかりではあるが...。
それにしても開門までまだ時間があるにも関わらず、既に多くの人が集まって来ているようだ。俺は準備が終わっているのでそっちに行くことにした。途中で本部に寄ってパンフレットも貰っておく。
「皆さんお忙しい所お越しいただき誠にありがとうございます。提督の菊地と申します。大変申し訳ございませんが開門まではもうしばらくお時間がございますので、それまでパンフレットをお読みになってお待ちください」
別に言われたわけではないにも関わらず、邪魔にならないように歩道に一列で並んでいる客にパンフレットを渡していく。皆軽くお辞儀をしてパンフレットを受け取ってくれた。艦娘が作ったものだと伝えたら、クリアファイルに丁寧にしまってしまった。いや、読まなくちゃ駄目だよ?
「すみません、この那珂ちゃんという艦娘アイドルは握手会やサイン会は予定していないんですか?」
「申し訳ございません。そのような予定は聞いておりません」
「そうですか...」
まだ会ってすらいないのにこの落ち込み様か。しかし握手会にサイン会か...。それぞれ千円と二千円といったところか。ツーショットチェキなんかもよさそうだな。ちょっと那珂に提案してみるか。
「分かりました、那珂に確認してみましょう」
「本当ですか!?」
「えぇ。まあ、有料にはなるかとは思いますが」
「大丈夫です!軍資金は充分にありますから!」
「コミケよりも?」
「......はいっ!」
一瞬呆気にとらわれたようだが、直ぐにいい返事を返してくれた。どうやらドルオタ兼、アニオタだったようだ。
因みに横須賀鎮守府の提督がアニオタであるとスレが立ってしまったのは言うまでもない。因みに艦娘も影響されてアニメとか見てるんじゃないか?という推測も上がっていたようだが、正解だ。
来場客とのコミュニケーションもある程度取れたところで自分の持ち場へと戻る。
程なくして鎮守府祭がスタートした。最初の30分は特にイベントもないので来場客は各々の屋台へと並び始める。早速写真の撮影を頼まれている艦娘もいるようだ。今回は艦娘の同意の元でならば撮影を許可した。ステージに関しては全面的に撮影可である。
今まで軍の人間としか接したことのない艦娘たちは初めて向けられる人間からの好意に驚いているようだ。事前に社会常識に関しては学習しているので取り乱す者は少ないが、やはり慣れないことに戸惑っているようだ。艦娘に接する人間の態度も基本的には良好だ。どちらかと言うと、コスプレイヤーやアイドルを被写体としてきたような人間が多いようで、マナーはしっかりと守ってくれている。艦娘が困っている際には警備の艦娘が対処している。天龍などは最早駆逐艦の守り神と化しているな。いや、お前は本部のテントで待機の予定だろ...。
「ポスターを各一部ずつ、あとカレンダーもお願いします」
「ありがとうございます。合計で40800円になります」
因みに在庫は大量にあると伝えてあるので俺の店はそんなに混雑していない。なるべく転売を防ぐために、各製品につき一セットまでとしているので売り切れる心配もないので、先ずはグッズよりも生の艦娘という訳だ。
「41000円からお預かり致します。200円のお返しになります」
「提督さんが出店しているんですね」
この客は既に疲れてしまったのか俺と雑談することにしたようだ。テントの脇にあった椅子にちゃっかりと腰かけている。もうちょっと痩せるか、体力付けようね。なんなら軍隊入る?
「えぇ、執務室にいてもつまらないですからね。私も参加させて貰おうかと思いまして」
「それもそうですね。それにしても艦娘は全員が可愛いんですね!」
男が興奮気味に話しかけてくる。
「それにみんなとても優しい。僕なんかにも丁寧に対応してくれました」
若干自虐入ってるんだが...。
「最初は艦娘っていうのは、とてつもない力をもった恐ろしい兵器としか思っていませんでした」
「じゃあ今日あなたは兵器を見にきたんですか?」
「ははっ、まさか!女の子と聞いたから駆けつけたんですよ!まぁ半信半疑でしたが...」
「でも来て正解だったでしょう?」
「えぇ!今やネットもちょっとしたお祭り騒ぎですよ!」
「そのようですね、私も仕事中ではありますが読んでますよ」
「あ、提督のような偉い人もそういうの読むんですね」
「スレ立てたりしますよ」
「艦娘可愛すぎワロタ、とか?」
「いや、そんなスレ立てたらただの兵器に欲情する変態扱いされてしまいますよ」
「確かに...。でもこれからは違うと思いますけどね!」
「ええ、そうですね...」
これで国民の意識も変わっていくハズだ。大本営としてはこの事態は本意ではないだろう。しかし、この許可を出したのは大本営の広報課だ、責任はそこにある。勿論、色々と姑息な手段を使って認可を出させたのだが、あくまでも責任は広報課だ。間違えても俺ではない。それに、こうなってしまえばいくら大本営と言えども止めることは出来ない。最悪の場合は俺の首が危ういが、国民の艦娘への関心は高まっている。俺が民間人に戻っ後に問題提起をすれば、協力者は大勢現れるだろう。そう、可愛いは正義なのだ!
客の男には冷たいお茶を飲ませてやったら体力回復したようで、また店へと繰り出していった。そろそろステージが始まるのもあるだろうけど...。
どうやら那珂ちゃんステージの午前の部が始まったようだ。ちゃんと練習の成果が出ているようで、ダンスも歌もかなりの完成度だ。地下アイドル限定とはいえ、元はドルオタの俺が言うのだから間違いない。それは他のドルオタを同じようで、那珂のステージは大賑わいだ。
が...、みんながステージに注目している隙に駆逐艦がローアングラーの餌食になっているようだ。まったく、俺の電ちゃんを涙目にするとは...。これはキツイお仕置きが必要なようだ。警備の艦娘はステージの整備に出払っているため、電を助ける艦娘も、俺を見ている艦娘もいない。俺は素早く艤装を展開し、その艦娘としての力を最大限に発揮して地面を踏み込む。ダンッ、と大きな地響きがなるがステージの爆音で気付いた者はいない。俺は一足にしてローアングラとの距離を詰めると、着地と同時にカメラを踏み潰した。Nikon製のなかなか高級なカメラのようだが、そんなことに躊躇いはない。因みに同時に手も踏み潰した訳だが、それこそ躊躇いはない。手加減してやったので骨が折れただけで済むだろう。手を木っ端微塵にしなかっただけ感謝されても良いくらいだ。
「あぁぁぁぁあ...」
どうやらあまりにも突然のことに軽く悶絶するくらいしか反応ができないようだ。多分思考が追い付いたときに絶叫するレベルの痛みだろうな。
まあ、地面に這いつくばっていたお前が悪い。通行人が間違えて踏んでしまっても文句は言えないだろう。
悶絶している馬鹿は長門が医務室へと運んでいった。俺も艦娘である以上人間よりも艦娘を大切にするし、そこに人間の道徳はない。男の手が回復するか否かはさほど気にならなかった。やはり艦娘になって人間時代とは身だけでなく、心も変化してしまったのかもしれない。だだし電などは男のことを心配していたし、他の艦娘は俺のように道徳を失ったりはしていないだろうが...。
道徳が残っているのならば俺にも少しは優しさを分けてくれてもいいんだよ?
受験って終わったら終わったで忙しいんだな...