漢体これくしょん 日東丸提督のブラ鎮建て直し物語 作:かのんベール
鎮守府祭は特に大きな問題もなく終えることができた。最後の片付けも行事の余韻を楽しめるので俺は結構好きだ。今日の売り上げや今後のグッズの販売、一般人の艦娘に対する友好的な態度などを思ってホクホク顔でテントを折り畳む。
「おい」
振り向くと、なにやら難しい顔をした天龍が立っていた。
「あぁ天龍か。貴様のようなノロマでも一応は鎮守府祭を無事に終えることが出来たようだな、おめでとう」
「お、おう」
いや照れるなよ。今結構酷いこと言ったぞ?
「で、用はそれだけか?誉められに来ただけならば用は済んだだろう、とっとと帰れ」
じゃないとまた龍田が...。
「ち、ちげーよ馬鹿!」
「じゃ、なんだ」
「いや、電のことなんだがよ」
「なんだ?メモリーは俺が粉々に粉砕したから心配しなくても良いぞ?」
「いや、なんで助けたんだ?」
げっ...。
「助けた?自惚れるのもいい加減にしろ。俺が艦娘を助ける訳が無いだろう」
「で、でも実際に」
「あれは地面に人間が転がっていたから踏み潰しただけだ、ストレス発散というものだ」
「じゃあメモリーをわざわざ砕いたのはなんでだ」
「それはついでにというやつだ。俺の所有物の写真を許可なく撮るなど万死に値するからな」
理由が取って付けたようなものだが、誤魔化せるか?
「みんなが噂してたのと同じか...」
まさかこんなギルガメッシュばりの理屈が通るとは...。うわさのレベルェ...。
「それだけか?なら早く持ち場に帰れ」
ほんと、そろそろボロ出ちゃいそうだし、龍田来そうだし。
「いや、あとひとつある」
お前は右京さんかよ...。
「なんだ?」
「カメラを踏み潰したことだ」
おぉう...。
「前にオレを吹き飛ばしたこともあったな」
「あれはお前が誤爆しただけだろう」
「とぼけるな!あれは間違いなく提督室の中からの攻撃だった!」
「お前の思い違いだ」
「じゃあ今回の件はどう説明するつもりだ」
「そんなに知りたいなら教えてやる。あれは安全靴のよるものだ」
「安全靴?」
「あぁ、鉄芯が入った工場等で使うとても頑丈な靴のことだ。それを履いていたからだろう」
「なんでそんなもんを履いてたんだ?」
「お前らがはしゃいでいて少々目障りだったからな、それで貴様らの足を踏みつけてやろうと思っていたんだよ」
「嘘をつくな!前任ならばともかく、テメェはそういったことをやらねぇじゃねぇか!」
「お前は俺に幻想を抱きすぎじゃないか?お前が気付いていないだけで結構艦娘には厳しく当たってるぞ?それこそ八つ当たりしている」
「ならオレの前ではどうしてやらねぇんだ!」
「龍田が怖いから」
これは本心だったりする。
「...もういい。オレが馬鹿だった」
そうだ、俺に期待するな、夢を希望を抱くな。俺はお前たちの敵なんだからな。もう後には引けないんだ。今でこそ鎮守府は明るくやっている。だがそれは危うく儚いもので、少しの力で崩れてしまう脆いものなのだ。その力が何であるかは俺には検討も付かないが、それが俺という共通の敵の消失によってもたらされることは想像に難くない。自意識過剰かもしれない。だが、俺が辛いからといって彼女たちの幸せを壊すかもしれないことを行うことは気が引けた。彼女たちの笑顔をもう二度と無くさせてはならないのだ。
どうにも天龍といるとそれを忘れそうになってしまう。やはり距離を置かねばと思うのはこれで何度目だっただろうか...。
天龍との接し方について考えながら今日の売り上げを計算していると、長門から艦娘分の今日の売り上げ金が運ばれてきた。経費などを差し引いてもかなりの売り上げだ。正直、学園祭などとは比べ物にならない金額だろう。グッズの売り上げもかなりのもので、ネットでの評判もかなり良い。継続的なグッズ製作の受注を考えねばなるまい。取り敢えずの資金調達の目処が立ったことに安堵の息をもらす。とはいえ、それでもまだ足りないのだから本当に困らせてくれる。まあ、最大の敵は大本営な訳で鎮守府祭の昼には電話をしてきたのだから迷惑な話だ。結論から言えば俺の首は皮一枚繋がったという感じだ。艦娘に対する世間の好意的な反応は大本営にとって芳しくないのは分かりきったことなのだが、グッズ製作の売り上げを伝えてからの反応は素晴らしいもので、途端に話の分かる御仁となってくれた。結局グッズ販売を全国規模に拡大、その利益を重役に横流しすることで決着が着いた。大本営としては逆に追い詰められているのだが、個人の利益の方が大切なようだ。
早速明日から各製作所に商品の作成を発注しなくてはならない。製作コストや発注数、販売所への発送数、ネットでの受注手続き、在庫の保管、売り上げの計上etc.考えただけでもキリがない。横領する以上は経理課に任せる訳にはいかないからな。グッズ製作に関しては広報課に協力してもらうとしよう。那珂が大賛成してくれるだろうからな。まあ、グッズを作るのは俺の為でもあるし頑張るとしよう。提督室のカレンダーは既に交換済みだ。流石にポスターを貼る訳にはいかないので、それは私室に貼っているが...。
後日広報課へと事の次第を説明しに向かった。
「もちろん那珂ちゃんは大賛成だよ!他のみんなも私が説得しておくから!」
とのことだった。前までは名字を菊地にされたことを恨んでいたみたいだが、初ライブの感動でそんなことは忘れてしまったようだ。
「本当か?それは助かるな。そういえば早速お前の非公式ファンクラブが立ち上がってるみたいだがいいのか?」
「本当!?どこにあるの!?今すぐ那珂ちゃんが挨拶に行かなくっちゃ!」
「まだネット上での集まりなだけだ。だが既に相当数の会員が集まってるみたいだぞ?」
「そ、そうなの!?次のライブが楽しみだなー!」
まあ、会長がどこに居るのかと聞かれれば提督室なんだがな。それにしてもこいつはエゴサとかしないんだろうか?
その日から何度もグッズ製作の打ち合わせやアイデアの提案、次回のライブ予定の打ち合わせなどを行った。最初は俺が広報課へと出向いていたのだが那珂がことある度に提督室を訪ねてくるので、最近は提督室での打ち合わせがもっぱらだ。
「ねぇねぇ提督ー!」
今も応接用の椅子に座ってるし。
「なんだ?」
「提督も那珂ちゃんのファンクラブに入りなよー!」
「ぶっ!」
お茶が気管に...!
「大丈夫!?」
どうやら心配事してくれるくらいには好感度が上がっているらしい。さっきもファンクラブに勧誘してきた位だし...。ん?それって不味くない?
「いや、あまりにも唐突だったんでな。そもそも俺なんかが入るような...」
「那珂ちゃんは提督のことを少しは認めてるん「ふざけるなっ!」だから...」
なんだか久しぶりに怒鳴った気がする。
「ど、どうしたの?」
「貴様、俺を認めているとか言ったな?」
「う、うん」
「とても不愉快だ」
「え...?」
「何故お前が上から目線で俺を評価している」
「そんなつもりは...」
「それに貴様のような出来損ないと馴れ合うつもりは毛頭ない」
「...っ!」
「分かったら出ていけ。そして二度と帰って来るな」
「もう提督なんて知らないっ!」
泣きながら那珂が部屋を飛び出していった。もう二度と帰って来ることは無いだろう。
「なにしたんだ?」
開けっ放しにされた扉から天龍が入って来た。
「ん?那珂を虐めただけだが?」
「テメェ...。やっぱりお前も...!」
「だからそうだと何度言ったら分かるんだ。そもそも何の用だ」
「なんでもねぇよ!」
天龍まで出ていってしまった。いや、だから扉をだな...。
「酷い提督だな」
「あぁ、長門か」
「うむ」
今日は来客が多いな。
「天龍は提督と仲直りがしたかったらしい」
「仲直り?」
そういえば鎮守府祭の際に距離を置いたんだったな...。
「どうも那珂とばかり仲良くしていることに嫉妬してたみたいでな」
「そんな馬鹿な...」
「よく提督室の前を彷徨っていたからな、間違いないだろう」
仲直りしようとしていたのは事実のようだな。まぁ、嫉妬云々はよく分からんが...。
「提督はいつまでその演技を続けるつもりなのだ?」
「戦争が終わるまでだな」
「本当はもう限界が近づいていることには気付いているのだろう?」
「だが貫かなくてはならない」
「その必要がなくてもか?提督の願いは艦娘の笑顔だったはずだ。不必要に艦娘を悲しませるのは本意に反するのではないか?」
「必要な犠牲だ。決して不必要などではない...」
「私は提督が苦しむ姿を見るのが辛い。もう少し艦娘を信頼してやったらどうだ?」
「俺は部下を信頼しているが?」
「艦娘は提督が思っているよりもずっと強いということだ」
それだけ言うと長門は仕事に戻ってしまった。
いや、扉を......。今回は閉じてくれたようだ。
天龍大破に関しては濁している感じです。艦娘に抵抗する手段を持ち合わせていることを匂わせつつ、自分の正体を隠している感じです。その設定が大切な訳でもないんですが分かりにくいかと思いましたので...。