漢体これくしょん 日東丸提督のブラ鎮建て直し物語 作:かのんベール
みんなのアイドル那珂ちゃんだよー!アイドルは笑顔を届けることがお仕事なんだけど、最近はそんな雰囲気じゃなくなっちゃった...。それもこれも全て提督のせいなんだけどね。
天龍さんが解体されて直ぐに視察員が鎮守府を訪ねて来ました。みんな視察員に攻撃しないようにと理性を保つのが大変そうだったな...。そんな中、やっぱり問題は起きてしまいました。
「おい!お前は確か艦隊アイドルとかいう馬鹿げたことをやっている艦娘だったな?」
提督がプルプルと震えています。どうやら笑いを必死に耐えているようです。
「そうだよー!那珂ちゃんは艦隊のアイドルなんだよー!」
私はめげずに精一杯の笑顔を向けます。提督がニヤニヤしています。早くも心が折れそうです...。最近は提督も悪い人じゃないかもしれないと思っていたのに...。
「なぁ、菊地少佐?こいつ一晩借りても構わないですよねぇ?」
え?少佐?提督は中佐のはずじゃあ...。いや、心配するのはそこじゃないか...。
「視察員さん...いや、磯部少佐。こんな芋臭いガキよりも上玉が居るんですかね?」
「ほぅ!誰だね?」
ガキですと…!
「近くのお店に新入店の娘が今日入るんですよ」
「なんだ、艦娘じゃないのか...」
人をガキ扱いして、自分たちは下の心配ですか...そうですか...
「いえ、よく考えて見てください。私に使い古されたこんなゴミよりも、初々しい女性の方が磯部少佐も心が踊るでしょう?」
「うむ、一理あるな」
「既に予約は押さえてあります。勿論、代金はこっち持ちですよ?」
「仕方ない。君の口車に乗せられて上げよう」
「あの!」
「なんだ那珂。もうお前に用はない、とっとと消え失せろ」
「那珂ちゃんは芋でもガキでもありません!」
「馬鹿な艦娘だな...。折角提督が助けてくれたというのに...」
提督が助けてくれた...?
「さ、さぁ少佐!お車の準備は出来ておりますのでこちらに!」
「提督に感謝するんだな」
感謝...?よく分からないまま提督の車は夜の町へと消えていってしまった...。
◇
電なのです!
最近の鎮守府はとってもどんよりとした雰囲気が流れているのです...。それもそのはずです。天龍さんが解体されてしまったのですから...。
正確には天龍さんは直前で逃げ出すことが出来たようですが、この深海棲艦がたくさんいる海をたった一人で生き延びることは、いくら天龍さんでも不可能なのです。龍田さんはことあるごとに天龍さんを探しに出ていますが、見つけることは出来ていないのです...。
全部電のせいなのです...。電が大本営の人に悪口を言ってしまったのがいけなかったのです。電のせいで天龍さんは...、みんなは...。
天龍さんが解体されて、電が解体されないのはおかしいのです。だから直接提督さんに謝って、そして解体してもらうのです...。
ですが電は扉の前から一歩も動けないのです...。
「やはりそうだったのだな!?」
中から長門さんの声が聞こえてきたのです。そっと耳を扉に付けてみます...
「前からおかしいと思っていたのだ!提督が食事をしているところを一度も見たことが無かったからな」
「たまたまだろう...」
「いや、おかしい。ならば最近になってお弁当を食べているところを見かけるのはどういうことだ!それに最近は提督室にお弁当の残り香がある時もあった!そもそも元々それが無かったのが不自然なのだ」
「いや、節約の為に最近お弁当に変えたから...」
「提督が外食に一度も出ていないことを私は知っているのだがな...」
「なんで知ってるんだよ...」
「観念したらどうだ?」
暫くの沈黙の後に提督の声が響きます
「俺の敗けだ」
「では話して貰おうか」
「俺は艦娘が登場するまでの間、教育係りを担当していた。当然ながら部下からの信頼などは微塵も無かった。俺は部下の立場に立とうと、彼らを理解しようと必死に努力した...。だがそれは到底無理な話だった。深海棲艦が出現しなくてもそれは変わらなかったと思う。幹部の俺には下級士官の見ている景色は理解できない。それでも少しでも俺は部下の立場に立ちたかった」
「その結果が断食か...」
「そうだ。鎮守府の運営は次のように規定されている。
原則として艦娘には食事を与えること。但し物資が不足している際にはこの限りではない。
俺は部下の立場を理解しようと努力してきた。しかし結局は部下に恨まれながら死地へと送り出すことしか出来なかった。次こそは艦娘の立場を理解出来る提督になろうと、最前線の辛さを少しでも理解するために食事は捨てた。これは死んでいった部下達へのせめてもの罪滅ぼしでもある」
そこまで聞いた電はみんなのところへ走り出しました。提督は電たちが思っているような悪人ではないのかもしれないのです!天龍さんのことは未だに整理が付いていません。ですがみんなの提督暗殺計画は止めなくてはならないのです!そうしなければ後悔することになる気がするのです!
◇
提督に大破された私が部屋に戻った時には既に天龍ちゃんの荷物は処分された後だったわ。あの提督は私から形見すらも奪っていたのね...。許せない。でも天龍ちゃんを諦めるのはまだ早いわね。天龍ちゃんは解体されていない、今も広い海のどこかで一人寂しく私を待っているに違いないの。今日も天龍ちゃんを見つけることは出来なかったけれど、私は天龍ちゃんを信じているわ。天龍ちゃんは不死身なのよね?
込み上げる涙を必死に堪えながら部屋の掃除をする。もしかしたら天龍ちゃんの私物がパンツ以外にも残っているかもしれないから...。
「これは......ノート?」
表紙には天龍日記の文字が書いてあるわね。日記!?まさかこんなところに天龍ちゃんがいたなんて...。
私は天龍ちゃんの日記を噛みしめるように最後まで読んだ...。けど、このモヤモヤした気持ちはなんなのかしら。いや、原因は分かっている。提督ね...。この日記の半分が提督の観察日記になっていた。残りは私と駆逐艦のことね。それにしても提督が本当はいい人だなんて...悪い冗談ね...。
◇
「では第一回提督考察会議を始めます」
那珂ちゃんと電ちゃんの希望で開かれることになった会議だ。但しこの二人では会議を進行することが難しいということで私、大淀に白羽の矢が立ったのだ...。龍田さんは協力的では無かったけれど、駆逐艦のお願いで天龍さんの日記を貸して下さいました。なんでも提督観察日記なのだとか...。
私たちは時間を見つけては会議を重ねていった。勿論提督にバレないように細心の注意を払ってだ。
結論から言ってしまえば、実は提督は悪い人ではなかった、という見解になった。証拠も充分に揃っている。既に答えは出ていた。しかし誰もがその事実を受け入れようとしない。頭では理解していても、心では納得していないのだ。その原因はひとえに、天龍さんの解体にある。大本営の命令であり、逆らうことが出来なかったことなのも分かっている。分かってはいるが、やはり仲間を手に掛けた人間を受け入れることは到底無理な話であった。
しかし、それも解決されることとなった。その事件は唐突に訪れた。
それは出撃した仲間からの通信によって、真っ先に私の元へともたらされたのだ。
天龍さんが近海で発見されたのです!
視点切り替えに再度挑戦しました。次回、最終回!