『愛している』
『私もよ、あなた』
ぽりぽり。ぱりぽり。
映画の中で、主人公は恋人と電話をしている。もう片方の手には銃。今まさに、十年前に殺したはずの戦友との決着の最中なのだ。
そして宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンはそんな映画を見ながらコタツでせんべいをかじっている最中だった。
「憧れるわね、こういうの」
ばりばり。
「え、メリー。十年前に殺したはずの戦友に追いかけられながら地球を半周して殺しあうのに憧れちゃう派?」
ぽりぽり。
「そんな派はない。分かって言ってるでしょ、蓮子」
映画はそのままアクションシーンへと入る。
「地球の反対側から愛してるとか言われてみたいって言ったのよ」
「まあ結構ロマンチックだけど、私としては愛の告白は直接言ってほしいなあ」
「電話は直接じゃないの、蓮子?」
「じゃないわ、メリー」
「こだわるわねえ」
どーん。
「あ、爆発した」
「リア充だからじゃない」
「この映画が作られたときにそんな言葉ないわよ」
「ちなみにめりーさんはりあじゅうですか」
「冬休み初日に女友達とせんべい食べながらコタツでマイナー映画見てる時点でお察し」
「かわいそうに」
「ちなみにれんこさんはりあじゅうですか」
「おさっし」
「かわいそうに」
二人は同時に脱力した。
「私はともかく、メリーは結構そういう話あるんじゃないの? 金髪美少女だし」
「そのフレーズ、自分に使われるとキツイものがあるわ……。まあ、ないわけじゃないけど」
「へー、そう」
「食いつきなさいよ」
「むしゃむしゃー。ぽりぽりー」
「そっちじゃないわ」
「で、呼び出されたの? 電話だったの」
「メールだったわ。三秒後に『臆病な人は嫌い』って返してやったけど」
「容赦ないわね……」
ぽりぽり。
「で、直接呼び出されたい派の蓮子はどうなの」
「そんな派はない。私が大学でどんな扱いされてるか知ってるでしょ、メリー」
「変人一号」
「分かってるじゃない変人二号」
「だったらなおさら、直接じゃなきゃイヤなんて贅沢言ってらんないでしょ」
「だって、電話はただの音声を伝える道具なのよ? 一度信号化されて電波に乗って、それが受信側で再現されているだけなの。だから厳密に『直接』言葉を伝えられるのは肉声だけなのよ」
「リアリストなんだかロマンチストなんだか」
「科学者は皆ロマンチストよ。そのロマンを語るためにリアルで武装するだけ」
映画はハッピーエンドののちエンドロールに突入している。
「ねえメリー、例えばさっきの地球半周のアイラヴユーだけどさ、一番早く伝えるにはどうしたらいいと思う?」
「そりゃ電波でしょ。衛星を使えば……えっと」
「地表を光ファイバで通せばそっちのほうが早いわよ」
言われてみればそうだ。メリーはポンと手を打った。
「あ、そっか。でも多分これが一番早いわよね」
「ファイナルアンサー?」
「蓮子は違うの?」
「ちっちっち。そうやって地球を回りこもうとするあたり、メリーはリアリストなのよ」
「テレパシーでも使うの? それか超光速通信?」
「それは科学者じゃない、ロマンで武装した普通のロマンチストよ」
蓮子は下を指さした。
「私だったら直下に穴を掘ってそこに光ファイバを通すわ。これでメリーの案よりπ/2倍早い」
「いやいや、どこが科学者なのよ。思いっきりロマンで武装してるじゃない」
「分かってないわね。理論上可能なことを言ってるんだから、リアルで武装しているのよ」
「だったら超光速通信だって将来的には可能でしょう?」
「あくまで予測が立っているだけよ。それより地球に風穴を開けるほうがずっと早いわ。掘削技術、トンネル建設技術、耐熱素材、圧力や重力のシミュレーション……。解決すべき問題は山積みだけど、逆に言えばその山を片付ければ、π/2倍速く地球の裏側に愛してると伝えられるのよ。何をどうすればいいかも分からないテレパシーや超光速通信なんて、遅すぎて待ってられないわ」
今日の蓮子は相変わらず無茶苦茶だが、まだ易しい方だとメリーは思った。
しかし、それよりも喫緊の問題がある。地球の裏側ではなく、ほんの1メートル先に。
「なるほどよくわかったわ。ところで科学者さん? コタツから出ずに映画のDVDを替えたいという私のロマンを、リアルで武装して叶えてくれないかしら」
「……それは難しい問題ね」
冬が更ける。
コタツから脱する手段を人類はいまだ知らない。