「教会……教会……やっぱりここしかない」
寝ぼけた眼を擦りながら、真司は机の上に広げた地図のとある一点を人差し指で指す。
背の高いビルが密集している新都。そこから離れ、疎らになってゆく建物からさえも仲間外れの地図記号。
冬木教会。そこに、今この街で勃発している聖杯戦争を監督する者が居るらしい。
呪い師……キャスターの推測ではその監督役とやらが、聖杯の器を所持しているようだ。
「…………」
何故、数日前に教会へ行く士郎たちの後を追わなかったのか。呆然としていたあの時の自分を殴ってやりたい。
聖杯の在処について聞くや否や、直ぐにでも攻め込んでやろうと真司は提案したのだが、キャスターは自らのマスターの命が最優先だと言って頷かなかった。
「はぁ…………」
尚もしつこく食い下がると、巨大な鰐の骨格をした竜牙兵に咥えられて柳洞寺の敷地から追い出された。
出遅れてやって来た士郎や凛たちに、すれ違いざまに呆然とした表情で見送られながら。
今にして思えば、先んじて士郎たちの気配を察知したキャスターが逃がしてくれたのかもしれない。丁度良い囮に使われた可能性も否めないが。
「……………」
ミラーワールドからの帰還と同時に部屋に戻り、布団に入ってからの数時間。
左目と右目の瞼の裏に爛々と浮かぶ聖杯の二文字が、真司を殆ど寝かせてくれなかった。
開き直って布団を蹴飛ばし、今現在は件の教会の道筋を頭に叩き込んでいる。新都の片隅など未踏の地だが、これで大丈夫だろう。
「今日の夜……っていうよりは、明日の夜か」
一息をついてから、真司は窓の向こうを見やる。気付けば、空は既に白みがかっていた。最早、部屋の電気を消しても問題無い。
別れ際にキャスターが言い残した襲撃の決行時間は真夜中の零時。待つだけならば時間は有り余っている。
「取り敢えず、桜ちゃん起きてくるまで横になってよ……」
自宅のある深山町から教会のある新都まで。蛍光ペンを綺麗に走らせた冬木市の地図を小さく折りたたみ、枕の下に差し込んでからベッドに入る。
明日の朝日を以ってして、聖杯戦争を終わらせてやる。気掛かりは尽きないがやる事は一本筋だ。
「………………?」
しかし、瞼を閉じる寸前。微かな物音が真司の耳朶を打った。少なくとも、扉を開ける音ではない。
身体を起こして聞き耳を立てる。音の発生源は、壁を一枚隔てた隣の部屋からだった。同時に、桜の声である事に真司は気付く。
「随分とでっかい寝言だなぁ」
何を言っているのかは分からない。悪い夢を見て魘されているのか。どちらにせよ、さっさと起こしてやるべきか。
そう思った真司は、ベッドから出て桜の部屋へと向かう。近づくにつれて、桜の声も大きくなってゆく。
倒れたあの日の出来事からまだ間もない。立ち込めた不安が先駆け、部屋の扉に手を伸ばす。
「おーい、桜ちゃーん?」
「んうっ……。だ、め……っ」
声を掛けながら扉を開いた直後、桜からそんな返事が返ってきた。こちらから背を向けた体勢で布団を抱き締め、微かに身動ぎをしている。
毎朝のように起こしに来るくせに、逆の立場になると駄目なのか。理不尽な何かを感じたものの、真司はほんの一瞬だけ足を止めた。
「…………やっぱり寝言じゃん」
こんな事いけない。熱い。これ以上は。途切れ途切れに発せられる言葉には何の脈絡もない。
念のために耳を傾けて様子を窺ったが、確実に夢の中だ。真司は早急に判断を下して桜へと歩み寄った。
本当に嫌な夢を見ているようだ。不規則に繰り返される荒い呼吸が寝苦しさを物語っている。
「ちょっと、桜ちゃん。桜ちゃんってば」
肩を揺すってどうにか起こそうとする。すると、真司の声に反応したのか、桜は寝返りを打って振り向いてきた。
汗の粒が額から首筋にかけて滴っている。赤く染まり、熱の籠った頬は茹でた蟹宛らだ。
「……慎二、さん?」
昨日はしっかりと養生させたというのに、また風邪か。真司がそう思ったのも束の間。
桜の閉じられていた瞼が、小さな痙攣の後にゆっくりと開かれた。普段とは違う新鮮な呼称を呟きながら。
「「…………」」
屈んだ姿勢のまま、仰向けになった姿勢のまま。真司と桜は真っ直ぐに見つめ合う。
片や、眉尻を下げて胡乱げな表情。片や、何かの余韻に浸る恍惚とした表情。
「あ、れ……?」
やがて、後者の蕩けた瞳に意識の明かりが点灯される。夢か現か。それを確かめるような手つきで、桜の手先が真司の顔に伸ばされた。
手の平と頬が触れ合う。続け様に細い指先が頬をなぞって首筋を伝い、胸元へと添えられる。
その動作に伴って、うっとりと細まった双眸が徐々に見開かれ、愕然としたものに変化してゆく。
「……起きた? 桜ちゃ———」
「———ひ、ひあああああああっっっ!?」
真司が挨拶を言い切る前に、桜の絶叫が間桐邸の隅から隅まで響き渡った。
静かな早暁を劈く突然の大音量。大混乱した雀たちの羽ばたく音が、ガラス越しに聞こえてくる。
咄嗟に耳を塞いだ真司をよそに、桜は跳ね返るような速度で起き上がり壁に背を貼り付けた。
「だ、大丈夫? 俺の部屋まで寝言聞こえてきてさ。魘されてたみたいだったから、心配で起こしたんだけど」
「っ……っっ…………」
枕を抱き抱えての防御姿勢。先ほど以上に赤くなった頬と、先ほど以上に頻度が増えた呼吸。
桜はそれらを全て枕で隠そうとしているが、顔の上半分は露出したままだった。乱れた前髪の隙間から、これまた乱れた瞳が覗いている。
右に逸らされた視界に押し入る為に、真司は体を傾ける。桜は肩を震わせ、即座に視線を左に逸らした。
「「………………」」
左に傾く、右に逸れる。右に傾く、左に逸れる。メトロノームを再現するかの如き動作で、真司は視線を追い掛ける。
しかし、桜は一向に視線を合わせてくれない。やがて、殻に籠もるように完全に顔をうずめてしまった。
「な、なんか、よっぽど凄い夢見てたんだな。取り敢えず元気そうだし、顔でも洗ってきたら?」
「…………はい、びっくりさせてごめんなさい。それと、沢山寝汗かいちゃったから、先ずは、その……」
「あ、ああ、こっちこそなんかごめんね。ちょっと早いかもしれないけど、朝飯の準備してるよ」
枕越しに発せられるくぐもった声音。身に纏う切羽詰まった雰囲気に、真司は居た堪れない気分になった。
着替えたいから出て行ってくれ。暗にそう言われたので、追い立てられるように部屋を後にする。
「…………駄目だよ……それは」
扉のしまる音と共に、桜の部屋は静寂を取り戻す。囁いた自罰的な言葉とは裏腹に、手の平は先ほどの感触を求めていた。
溜め息とも深呼吸とも見て取れる息づかいで、大きく繰り返す動悸を抑え込む。
そして、桜は火照った顔を枕から離し、再びベッドにぐったりと倒れ込んだ。
朝食を済ませるや否や、真司は大きな欠伸を吐き出して部屋へと戻って行った。
もしも、昼になっても寝ていたら叩き起こしてくれ。そんな自堕落な頼みを言い残して。
普段の桜ならば何かしらの苦言を呈するのだが、今朝の夢の影響で真司の顔をまともに直視出来なかった。
「………………ライダー」
リビングに取り残された桜は、そうなった原因の従者の気配を察知し、椅子に座ったまま首を動かす。
主人に宝具を使うとは一体何事だ。そんな意味を込めた視線だけで、テーブルの対面に現れたライダーを見咎めた。
「サクラ。……昨日と一昨日の、夜の記憶は有りますか?」
「え……?」
しかし、開口一番に発せられたその質問には、ライダーの面持ちには、極めて神妙な雰囲気が発せられていた。
浮ついた悪ふざけや悪戯心などは一片たりとも含まれぬ声音。それに気圧された桜は、自らの記憶を頭の中で確認する。
だが、真司から養生するようにと、半ば強引に寝かし付けられて以降は何も覚えていなかった。
「ずっと寝てた筈……だけど」
「昨夜、深山町に……貴方の魔術と同じ黒い影が現れました。恐らく一昨日の時点でも、新都に」
「っ———! そんなの……」
あるわけが無い。後に続く言葉を紡げなかった。
今朝のライダーの宝具が齎らした夢。昨日の朝に見た龍騎の記憶。それら以外にもう二つだけ、無意識に覆い隠していたものを桜は思い出したのだ。
辛くて、苦しくて、痛くて、怖くて。真っ暗な闇の中、たった一人で彷徨う悪夢を。
その悪夢の最中、必死に自分から逃げる何者かを追い詰めていった事を。
「私……人、殺しちゃったの……?」
喉の奥から込み上げる吐き気を堪えるように、桜は口元を手で塞ぎながらライダーを見詰める。
しかし、ライダーは桜の問い掛けに対して、首を横に振って返答した。
「安心してください。まだ誰も殺してはいない。貴女の影はずっと、……龍騎を執拗に追い掛けていただけです」
「あの人を、追い掛けて。でも、どうして」
「彼自身にも、特に心当たりは無い様子でした。……強いて、私が気になった事を挙げるならば。龍騎は貴女に対しては戦う意思を全く見せなかった事でしょうか」
いつでも反撃が出来たというのに。自分が介入しなければ、龍騎は影に呑み込まれていたに違いない。
続けて発せられたライダーの言葉を受け、桜は思い当たる節を手繰り寄せるが、肝心の理由は掴めなかった。
「……ともかく、猶予が限られている事実が明らかになった以上。業腹ですがあの老人の言っていた通り、この戦いを速やかに勝ち抜くしかありません」
「…………そう、ね」
あの老人。敢えて名前を出さないのは、ライダーなりの気遣いだろう。
互いが互いの記憶をパスを通じて共有しているからこそ、その忠告は桜の心に刺さった。
聖杯戦争が開始される以前から、桜は臓硯に宣告されていた。お前は、いつか怪物になる運命なのだと。その運命を覆せるのは、聖杯の力だけなのだと。
「………………」
自身の心臓の上に左手を添えて、桜は規則的に脈打つ鼓動に意識を傾注させる。そこに埋め込まれた異物の存在が、嫌でも感じ取れた。
今でこそある程度治まってはいるが、龍騎の記憶に触れる以前は酷いものだった。
日に日に、その異物から汚泥のように穢れきった感情が溢れてきたのだから。
「兄さん……」
桜がそれを今の今まで封じ込めていられたのは、掛け替えのない人の澄み切った笑顔があったからだ。どこまでもこの身を案じてくれる献身があったからだ。
「それと、もう一つ。……そのシンジについてお聞きしたい———」
桜の囁きを聞き取ったライダーが、突発的な質問を言い終える寸前。間桐邸に張り巡らされた結界が、何者かの侵入を通告した。
桜とライダー、そして真司。ごく限られた人物のみを受け入れるよう、厳重な調整を加えた結界がだ。
「真っ向から、しかも夜じゃないのに堂々と乗り込んで来るなんて……大した自信ね」
間もなく、玄関の呼び鈴の音がリビングを掻き鳴らした。居るのは分かっているぞ。そう言わんばかりに、均一な拍子で鳴らされる。
鬱陶しい。繰り返される呼出に桜の相貌は険しい形へと変貌してゆく。
「…………追い払いましょうか」
主人の苛立ちを敏感に感じ取ったライダーが、静かに門前払いを進言する。
しかし、桜はかぶりを振って提案を断り、黙り込んだまま玄関へと向かった。
扉の向こう側の侵入者に気配を曝け出す為、意図的に大きな跫音を立てて。
「どなたかは存じ上げませんが、鍵は空いていますよ」
こちらから扉を開け、呑気に出迎えるような愚は犯さない。そちらから開けろと冷ややかに告げる。
傍にライダーを控えさせながら、桜は相手の出方を窺う。やがて、蝶番が軋みを上げ、扉が緩慢と開かれた。
「…………!」
外から射し込む眩しい逆光。明順応してゆく桜の双眸は、見覚えのある少女の姿を徐々に捉えてゆく。
驚愕はどちらのものが上だったのか。桜は予想外の侵入者に瞼を見開き、対する侵入者は桜とライダーを何度も見比べる。
「……間桐と遠坂の間には、相互不可侵の盟約が結ばれていた筈ですが」
「今更そんなもの、お互いが魔術師として関わらなければ別に気にしなくてもいいんじゃない? それとは別に、今は聖杯戦争の真っ只中なんだから」
室内の温い空気が、屋外の冷たい空気に侵食される。その狭間に立っていたのは凛だった。
彼女の直ぐ傍には、サーヴァントであるアーチャーが自らの主人を護衛する為に控えている。
「にしたって、なんで気付けなかったのかしら。間桐のサーヴァントはライダーかもしれないとは思っていたけれど、よりにもよってあんたが私と衛宮君を襲っただなんて」
戦いとは無関係な学校の人間を命の危険に晒してまで。凛の愁いを帯びた視線が桜を射抜く。
腹の奥底に積もり積もった罪悪感。それを決して口から洩らすまいと、桜は不敵な微笑を取り繕う。
「それこそ、別に気にしなくて良いじゃないですか。結局誰も死ななかったんですし。それに、私は遠坂先輩たちの命まで取るつもりじゃなかったんですよ」
「あんなに大規模な結界張って、その言い草は説得力ないわよ。あんまりにも悪辣な策を講じるものだから、てっきり間桐臓硯がライダーのマスターなんだって勘違いしちゃってたわ」
「………………」
あの臓硯にやり口が似ている。言葉の端に込められた意味を悟った桜は、対面の凛を鋭く見据えた。
間桐に貰われた人間でもないのに何が分かるのだと。奥歯を強く噛み締めながら。
「……大事な大事なお父様の言いつけを、生まれて初めて破ってまで、此処まで来た理由はそれだけですか。
暫しの間を置いて、桜自身も驚く程の強まった語気の口撃が羅列される。
やがて、凛の表情は桜の意を汲んだのか、僅かな瞠目の後に切り替わった。
「っ……確かにそうね。あんまりにも驚いて、本来の目的が頭から抜けてたわ。……あんたの家の妖怪爺に聞きたい事があったの。今回の聖杯戦争、色々とイレギュラーが多すぎるものだから」
「あの仮面の騎士……龍騎についてでしたら———」
「———それもあるわ。だけど、重要なのはそっちじゃない。あんたも既に知ってるかもしれない…………っくしゅん!」
「………………」
突発的な可愛らしいくしゃみが、桜の言葉を遮ってまで紡ごうとした言葉を中断させた。
今朝から随分と冷え込んでいるので無理もない。寒さには慣れているので、別段気にした事は無いが。
そんな事を桜が思っていると、凛は気を取り直すように咳払いをした。同時に白い吐息が口から漏れ出す。
「……玄関の扉、寒いので早く閉めてください。病み上がりなものなので、風邪がぶり返したら兄さんに怒られちゃいます」
赤くなった頬や鼻元がとても寒々しい。その様子に、凛に対する警戒と心配の比重は後者へと傾いた。
凛が言葉の続きを発する前に踵を返し、桜は元居たリビングへと向かってゆく。
「え、え?」
罠を警戒して帰るのならば、それでも良い。勇んで上がり込んで来るのならば、紅茶でも一杯だけ淹れてやろう。
霊体化するよう、桜は傍の従者に軽く目配せをする。すると、ライダーは呆れたような所作で小さく肩を竦め、その姿を消した。
「……アーチャー」
「ああ。……姉妹水入らず、とはいかないだろうが、ゆっくり話すと良い」
ライダーの霊体化を見て取った凛は、自らのサーヴァントにも霊体化を促す。
そして、肺の中の空気を全て入れ換えるかの如き深呼吸と共に、間桐邸へと足を踏み入れた。
水気の残る長い髪をタオルで綺麗に拭いながら、桜は自分の部屋の扉を開ける。
宵闇の時を経て久しいガラス越しの空は真っ暗。間も無く聖杯戦争の時間となる。それを確認して、カーテンを閉め切った。
「……姉さん」
机の上に置かれたままのリボンを手に取って、桜は半日前の、つい先ほどにも思える出来事を思い返す。
お目当ての臓硯はもう二度と家に帰って来ない。そう伝えて反応を窺うと、凛は真司秘伝の紅茶に舌鼓を打ち、うっかりと口を滑らせた。
「………………」
黒い影の討伐という目的を。彼女らにも、一昨日の夜に目撃されていたらしい。
人智を超えた存在たるサーヴァントにさえ手に負えない、正真正銘の怪物なのだと、凛は注意を促すような面持ちで語ってきた。
「……正真正銘の怪物、か。……結構傷ついたなぁ」
凛に動揺を悟られずに済んだのは、日頃から真司を騙し通してきた演技による賜物か。自虐的な思考と共に、桜は左側の垂れ下がった髪をリボンで結ぶ。
聖杯を手に入れるまで、もう眠らない。意識を失ったが最後、再び黒い影の出現を許してしまうかもしれないのだから。多少の無理は魔術による暗示で誤魔化せる。
「……そろそろ、行こう」
ポールハンガーに掛けられたコートに袖を通し、桜は部屋を出る。完全に消灯された廊下。その一寸先には夜闇が広がっていた。
「………………」
聖杯戦争を速やかに勝ち抜く。最早、その為には桜の側から仕掛けなければならない。
静養していた二日間、他の陣営同士の潰し合いを期待していたが、龍騎の存在がその進行に歯止めをかけている。
こちらの戦いに割り込んで来た彼を率先して叩くのも有りだ。救われた恩を仇で返すのは忍びないが。
「…………兄さん、もう寝てるかな。もし、起きてたら……不味いよね」
外へと出掛ける前に、不意に真司の顔が見たくなった。聞く者の居ない建前を呟きながら、桜は慣れ切った歩調で隣の部屋へと向かう。
扉に耳を当てて音を探る。少なくとも、身動ぎする気配は皆無だった。
朝の意趣返しの予行演習。夜に身を投じる為の予備儀式。そんな意図が込められた桜の手は、静かに扉の取っ手に伸びてゆく。
「———あれ?」
しかし、部屋の扉は向こう側から鍵がかけられ、固く閉ざされていた。
開けっ広げな性格の真司には似つかわしくない。拒絶を示すかのような施錠に対して、桜は言い様のない疎外感を覚える。
「こんな時だけ、そんな風に感じるなんて……」
随分と都合が良いものだ。彼を蚊帳の外に置いているのは自分の方だろう。
息を吐いて不意に浮かんだ感覚を追い出し、桜は扉の隙間に自らの影を滑り込ませた。
バレなければ無問題。寝ている真司の部屋にこっそりと忍び込んだ回数は、三桁以内では収まらないのだから。
そうして、閉ざされた扉はいとも容易く解錠される。思った以上に鮮明な音が、向こう側の空間と桜の居る廊下に響いた。
「………………」
大きな音を立てて尚、衣摺れ一つも聞こえない静まり返った部屋。
嫌な不安と悪い予感に駆られて、桜は扉をゆっくりと開く。いつも通りの豪快ないびきを立てて眠っている筈の、大事な人の姿を求めて。
みだらでふしだらな夢を見せられた桜。軽挙な不法侵入によって、ついに真司の正体に迫るの巻。
龍騎も放送開始から十七周年ですね。ジオウも龍騎編放送開始が二月三日と重なっていて胸が熱くなります。
……ついでに、早いもので拙作も投稿開始から何気に一年近くが経過してしまいました。
鈍亀のような歩みでも、いつかは完結のゴールテープを切る意気込みであります。
感想、アドバイス、お待ちしております。