物理的にも諺的にも目が眩みそうな金の光の中。龍騎は徐に瞼を開けてゆく。
やがて、明順応した瞳はその光の正体が夥しい数の金銀財宝で形成された地平である事に気付いた。
普段ならば目を輝かせて見惚れてしまうのだろうが、今はそんな場合ではない。取り残されてしまったキャスターの元へ戻らなければ。
龍騎は財宝に塗れた光景に視線を巡らせ、脱出口の有無を確認する。上下も左右も曖昧となった四次元空間を漂いながら。
これ見よがしに眼前を通過する宝石は一瞥もせずに探し続けていると、頭上に黄金の波紋が現れた。
波紋が渦を巻いて身体を吸い込んでゆく。そして、龍騎の望みを汲んだように外へと出してくれた。
「———っ!?」
高度数百メートルの遥か上空から。そんな無慈悲な条件付きなのだが。
途轍も無い風圧を全身に浴び、頭から真っ逆さま。重力に引き寄せられ、落下する速度も秒刻みで加速して行く。
地面との衝突にこの身体は耐え切れるか。龍騎はどうにか冷静さを保って切り抜ける手段を模索する。
先ほどの戦いで使い損ねたストレンジベントを切るべきだ。降って湧いた手段と同時に、右手をドラグバイザーに添えようとした。
「ま、マジかよおおぉぉ……!」
そこで龍騎は……真司は初めて認識した。知らぬ間に変身が解けていたという事実を。最早、衝撃に耐え切る以前の問題だった。
為す術も無く、無地柄のスウェットの袖を握り締めながら激突。地面という名のキャンバスに凄惨な赤き絵の具の花々を咲かせる。
「ふぐぬっ!」
そのような事は無かった。地面の冷たい感触を顔面で受け止めつつ、真司は綺麗な一点倒立の姿勢で硬直する。やがて、姿勢を維持し切れずにうつ伏せに倒れた。
与り知らぬ不思議な力が働いたのか、なんとか助かった。この身が生きている事を確認するように荒い呼吸を繰り返す。
「ここ、何処だろう。……とんでもなく立派な中庭だけど」
息が出来るという喜びを充分に堪能した所で起き上がり、真司は周囲を見回した。
満遍なく敷き詰められた石畳。四つ置かれた大きな花壇には、これまた満遍なく咲き誇る季節外れの白い薔薇。そして、それらを囲う巨大な建物は城のようだ。
「とにかく、誰かに見つかる前に戻らなきゃ……」
やんごとなきお方の住まいである事を理解した真司は、速やかな退出を考えた。だが、この場所に連れて来られる寸前に聞こえた男の言葉を思い返す。
聖杯の場所まで導いてやろう。背後からランサーとの戦いに乱入して来た男は、確かにそう言っていた。
彼の言葉が真実ならば、聖杯を破壊するチャンスなのではないか。その考えに至った時点で、真司の思考は後退の二文字を切り捨てた。
「……聖杯がこの城に有るってんなら」
真司は室内へと続くガラスの扉に目星を付け、そちらへと歩み寄る。そして、ズボンの左ポケットの中にあるカードデッキを掴み取った。
しかし、ガラスの鏡面に映る自分の姿。その背後に映り込んだ白い少女の鏡像が、真司の手の動きを咄嗟に引き止めた。
「———あれ、意識を逸らしてたのに見つかっちゃった」
「き、君は……!」
一体、いつからそこに居たというのか。真司は身を翻して扉に背を貼り付け、気配も無く現れたイリヤを視界に捉える。
このような夜更けなのだから当たり前だが、彼女は寝間着に身を包んでいた。
「こんばんは、招かれざるお客様。……こんな格好で出迎える事になるなんて申し訳ないけど、シンジも無断で城内に侵入しちゃったんだからおあいこよね」
「……こ、こんばんは」
イリヤは自らの寝間着を見下ろしてから、眦を緩めて真司を見つめる。若干嬉しげな面持ちには侵入者に対する警戒心など皆無だった。
そんな少女とは相反するように、真司は挨拶を返しつつ冷や汗を流してイリヤの一挙一動に傾注した。
「今夜はなんだか胸騒ぎがして眠れなくってね、なんとなく星を眺めようと中庭に出たら貴方が降ってくるんだもん。すっごくびっくりしたわ」
「……俺の方がびっくりしたよ。突然空に生身で放り出されて死ぬかと思ったし」
今現在も、命の危機に瀕しているが。だんまりでいるのも印象が悪いと思った真司は、唾を飲み込んで急ごしらえの相槌を打つ。
「ふーん……。それはそれとして、ちょっと寒くなってきたかな」
「うおぉ……っ」
イリヤは軽く身震いをした後に軽快な足取りで脇を通り抜け、扉を開けて室内へと入って行く。
そして、真司の警戒を知ってか知らずか、隙間から顔をひょっこりと覗かせて手招きをした。
足の向き先を何度も変えて躊躇いを示す。この城がイリヤの家であるという事は、一つの揺るがぬ事実を示しているのだ。
此処に聖杯は無いのだと。参加者が目当ての優勝賞品を抱えたまま戦うなど、馬鹿げているのだから。
「……ついて来ないの? セラもリズも今は寝てるから見つかる心配は無いけど、中庭からじゃ外には出られないし———」
そう思っていたというのに、イリヤは見透かしたような表情を浮かべて耳打ちする程度の声音で囁く。真司の前提を真っ向から覆す言葉を。
「———聖杯、探そうとしてたんでしょう? ……私とのお話に付き合ってくれたら、教えてあげるかもしれないよ?」
「っ…………」
イリヤの視線と真司の視線が交錯する。蠱惑的な感情を含み細められた双眸と、当惑的な感情を含み細められた双眸。
十数秒間の睨み合いの末に、真司は歯切れの悪い返事と共に首を縦に振った。
「まさかシンジが初めてのお客様になるなんて思ってなかったわ。でも、お兄ちゃんを迎える事前準備と考えればそれもありね」
「……士郎も相当広い家を独り占めしてたけど、流石にこのお城には敵わないかなぁ」
縦にも横にも、奥にも広い豪華絢爛な様相の廊下。閑静な空間に二人分の会話と足音が発せられる。
上機嫌且つ軽やかな足取りで前を歩くイリヤとは対照的に、後ろを歩く真司の足取りは鈍く重たいものだった。
連綿と続く絵画や彫刻等の芸術品から視線を逸らし、真司は窓ガラスの向こう側へと意識を向ける。
所狭しと立ち並ぶ針葉樹の森林。その森林を越えた先には深山町と思しき街明かりが見えた。
「そっかー。独り占めしてたって事は、今はセイバーと一緒にあの家で暮らしてるんだもんね。それももうすぐお終いにしちゃうんだけど」
「……セイバーちゃん、やっぱり殺す気なのか。あのバーサーカーって奴に命令して」
浮ついた言葉の端に物騒な気配を感じた真司は、イリヤの小さな背中へ視線を戻した後に問い掛ける。
その問いを受けたイリヤは長い髪を揺らして振り返り、後ろ向きに歩きながら己の殺意を肯定した。どこまでも朗らかな笑顔で。
「………………」
改めて遣る瀬無い。善悪の判断もつかない純粋無垢な子どもが、殺し合いに駆り出ているという現実が。この少女を叱る者は誰一人居なかったという現実が。
「……にしても、シンジは魔術師ですらないくせに私のサーヴァントや聖杯戦争の事は知ってるんだ。一応はマキリなのね」
興味津々といった様子でイリヤは歩調を緩め、後ろを歩く真司との距離を詰めてくる。マキリという不可解な単語を言いながら。
その言動に正体を暴こうとするような意図を感じた真司は、思わず顔を逸らして足を止めた。
「それ、一昨日も言ってたけどマキリじゃなくて間桐だよ。……まあ、俺の事なんかどうでもいいでしょ」
「……ふーん。でも、どうでもよくなんかないわ。貴方はお兄ちゃんの友達なんだし、一昨日は楽しいお話を沢山聞かせてくれたし」
どうでもいい人だったら、私の城に入った時点でバーサーカーに潰させてたし。イリヤはそう呟いて前に向き直り、廊下の半ばに有る扉の側で足を止める。
「此処が私の部屋。本当はお兄ちゃんを最初に入れたかったんだけど……。シンジはお客様第一号だから特別に許すわ。光栄に思いなさい」
「お、お邪魔します……」
部屋へと入るイリヤの後に続いて、真司も戦々恐々とした面持ちで入室する。
照明の消えた広い部屋。しかし、窓から差し込む月明かりと暖炉から灯る火明かりが、その代替を果たしていた。
机を挟むように対面に置かれた椅子。イリヤは奥側に座らされた熊のぬいぐるみを抱え、入れ替わるように席に着く。
「イリヤちゃんの部屋、沢山ぬいぐるみがあるんだね。その熊がお気に入りなの?」
イリヤに促され、真司はおずおずと手前側の椅子に座りながら辺りを見回す。
大小様々、種類豊富な動物のぬいぐるみがこの広々とした室内には所々に有る。
ぬいぐるみたちは皆一様に椅子に座らされ、ガラス玉の瞳で見慣れぬ来客を捉えていた。
「うん、可愛いでしょ。それにこの子はとってもフカフカなんだから」
「うわっぷ……確かに、こりゃ凄いフカフカだね」
唐突に正面から投げ渡されたぬいぐるみを顔面で受け止めながらも、その毛皮の心地よさに驚愕する。
イリヤの物でなければ、男としての矜持を捨て去ってよければ、いつまでも頬擦りしたくなる程度には心地いい肌触りであった。
一抹の名残惜しさを感じつつ、真司はぬいぐるみを返そうと手を伸ばす。
すると、イリヤは肩から垂れ下がった銀色の髪を指で掬いながら払い、笑みを深めた。
「———っ!?」
反応する頃にはもう遅い。真司を中心軸に据え、尾羽の付け根から糸を垂らして高速旋回する二羽の光る鳥。
イリヤが瞬く間に創り出した使い魔は、瞬く間に真司の身体を椅子に縫い付けた。ワイヤーじみた強度を誇る糸は、身動ぎさえも許さない。
「シンジはマキリにしてはとっても素直だよね。襲う素振りも逃げる素振りも見せないで、私の言う通りについてくるんだから」
つい我慢出来なくなっちゃった。悪戯が成功した喜びを口元で示しながら、イリヤは机の上に肘をついて拘束された真司を見据える。
しかし、見据えるだけで何も仕掛けて来ない。視界の端では、床に転がり落ちたぬいぐるみを使い魔たちが協力してベッドの枕元に運んでいた。
「す、素直だって思うなら縛り付ける必要ないじゃないか」
「駄目よ。ちょっと目を離した隙に居なくなったら嫌だし……なんだかシンジ、奥の手持ってそうだもん」
図星を突かれた真司は、イリヤから目を逸らしつつ思案する。その奥の手は現在ポケットの中。取り出す為の手は動かない。
更に奥の手、ドラグレッダーに助けを求めるか。しかし、あの加減の効かない龍を呼べば、城を巻き込んだ戦いが勃発するだろう。
「っ……はぁ……。まあいいや」
そうなれば、聖杯の在り処どころの話ではなくなる。真司は諦めたようにかぶりを振った。
そもそも、イリヤの話に付き合うという約束を先ほどしたのだ。身体の自由を奪われたとはいえ、それを反故にする段階ではない。
昨夜、暗殺者や黒い影に連続して追い詰められた経験が、真司の危機感を若干麻痺させていた。
大丈夫なのだと内心で己に言い聞かせ、真司は前を向き会話の姿勢に入る。
「それじゃあね、それじゃあね———」
真司の妥協を皮切りに、イリヤは嬉しそうな表情で色々な事を語り始めた。なんの取り留めも無く、自分の好きなものや嫌いなものを。
その話を聞き続ける限り、イリヤは魔術師の身分である事を除けば印象通りの普遍的少女趣味な少女だった。
やがて、話に一つの区切りがつき、真司は話題の提供を兼ねてイリヤにふとした疑問を口にする。
「そういえばイリヤちゃんはさ、日本に来る前はどんな風に暮らして……」
しかし、その疑問を言い切る直前。真司は心の端で警戒していたが故に、イリヤの面持ちに暗いものが混ざった事を目敏く察知した。
日常の影に潜み、暗躍する魔術師の家に生まれた少女。明るく楽しい思い出よりも、辛く苦しい思い出が過半を占める事など容易に予想出来た。
「……うーん。こっちに来る前は殆ど外に出してもらえなかったから、それらしい話が思い浮かばないなぁ。好きな絵本とかだったら沢山話せるんだけど」
「………………」
謝るべきなのか、素知らぬ振りをするべきなのか。どちらも選べなかった結果、真司は思わず口を噤んでしまう。
不自然に途切れた会話と入れ替わるように、暖炉に焚べられた薪が乾いた音を立てて弾けた。
「むう、そんな急に黙らないでよ。……私からすれば、可哀想なのは一族の悲願も果たせなくなったシンジの方なんだから」
「一族の、悲願……?」
真司の沈黙に同情的なものを感じ取ったのか、イリヤは不服げに頬を膨らませる。そして、意味深長な言葉を吐き出した。
首を傾げてその言葉を反芻する。だが、真司には何一つとして心当たりが無い。
「……そっちの事情はあんまり知らないけど、多分マキリは出涸らしの貴方にはこれっぽっちも期待してなかったのね」
本当に可哀想になってきたから私が教えてあげる。イリヤは真司に対して微笑みかけながら話し始めた。
十年近くもの間ひた隠しにされてきた、間桐という魔術師の家の実態を。
冬木の街で勃発した七組の陣営による命の奪い合い。聖杯戦争。その戦いの成り立ちには、三つの魔術師の一族が密接に関わっていた。
アインツベルン、遠坂。そして、
「そんなの、そんなの嘘だろ。だったらどうして、俺がマスターに選ばれてないんだよ……っ」
御三家とやらが聖杯戦争を始めた。それに準じて御三家とやらが優先してマスターに選ばれる。イリヤはそう言った。
すかさず真司はイリヤに追及をする。四肢と共に椅子を激しく揺さぶって。椅子の足が床を叩き鳴らし、動揺を示す音が部屋に響く。
「決まってるじゃない。マキリは貴方の代で魔術師としての資格を失ったんでしょうから。魔術回路すら無い人間にマスターは務まらないわ」
「魔術、回路……」
飄々とした態度で真っ当な返答をするイリヤに、真司は二の句が継げなくなった。
「でも、マキリが易々と聖杯を諦める訳ないし……。貴方の代わりにマキリの魔術師として戦う人が居る筈よね」
イリヤの何気ない呟きが、真司の胸中に何よりも恐ろしい予感を齎らした。それと共に室内が夜の闇に包まれてゆく。
風に乗って流れて来た分厚い雲が空を覆う。窓から差し込む月明かりが消えた。
積まれた薪が完全に炭化し、煙を上げて燃え尽きる。暖炉の周囲を照らす火明かりが消えた。
「ねえ、シンジ。貴方には居るんじゃないの? 他所の家から引き取られて来たお兄さんかお姉さん、それとも弟さんか———」
———妹さん。
仄暗い闇の中で発せられた言葉。その言葉がとある少女の姿を、紫の双眸を脳裏に次々とよぎらせる。
少女は怯えを孕んだ瞳で、惨憺たる心情を宿した瞳で、今にも泣き出しそうな潤んだ瞳で。しかし、一様に真司を見据えていた。
「桜、ちゃん……」
途切れ途切れの掠れた声音で、真司はその少女の名前を囁く。だが、少女は何も答えない。
やがて、混乱する思考が生み出した虚像は、儚さを湛えたまま虚空へと去って行った。
「 へえ、シンジの妹さんはサクラっていう名前なんだ。綺麗な名前だね———」
「———イリヤちゃん」
話の流れを無理矢理断ち切るように声を上げた。両手に握り拳を作りながら対面のイリヤを見やる。
不満げに曲げられた口と不服げに吊り上がった眉。機嫌を損ねたのは明白だった。それでも、真司は態度を改めようとせずに要求を告げる。
「悪いんだけど、さっきの話が本当かどうか確かめたい。もう家に帰りたいんだ。……これ、解いてくれないかな」
イリヤの視線と真司の視線が交錯する。しかし、中庭での駆け引きの再現には至らない。
真司は首を横に振る。断固とした拒絶の意を示すように、瞼を強く閉じながら。
「……お話しに付き合ってくれるっていう約束、破るんだ。でもいいの? もう少し付き合ってくれたら聖杯の事も教えてあげるつもりだったのに」
「確かに、それが俺の目的だったよ。でも、今一番優先するべきなのは聖杯なんかじゃない。……今直ぐあの子に会わなきゃいけないんだ」
このままでは取り返しのつかない事が起こるぞ。一刻も早くあの少女の元へ戻れ。
第六感とも呼ぶべき筆舌に尽くし難い感覚が、真司の頭の中で懇々と警鐘を打ち鳴らしていた。
「……聖杯なんか、か。何でも願いが叶う聖杯よりも優先されちゃうだなんて、そのサクラって女の子はとっても幸せ者ね」
妹思いの素敵なお兄ちゃんが居て。イリヤはそう言って椅子から立ち上がった。
真司の思いを聞き届けてくれた様子で、何度も頻りに頷いて。強張った両手の拳と全身の緊張を解き、思わず安堵した。
「ふぅ……———」
懸念は尽きないが先ずは家に帰ろう。仮に桜が魔術師だったとしても、説得をして戦いをやめさせよう。きっと、優しいあの子ならば分かってくれる筈だ。
これから先への不安を床に向けて吐き出し、真司は机を迂回して歩み寄って来るイリヤを見上げる。
しかし、四肢を縛り付ける拘束が解かれる事は無かった。イリヤの眼が真司を鋭く射抜く。
「——————」
「何か勘違いしてたみたいね。……最初から逃がしてあげるつもりなんか無かったわ。シンジはシロウを誘き寄せる為の撒き餌にならなくちゃいけないもの」
一対の赤い煌めきは真司の
「ふわぁ……。話し込んでたらすっかり眠くなってきたな。でも、寝る前に招待状を書かなくっちゃ。私のお兄ちゃんと、……ついでに、貴方の妹さんにも向けて」
可愛らしい欠伸とご機嫌な鼻歌を歌いながら、イリヤは踵を返して部屋の隅にある書き物机へと向かった。
羽ペンと黒インク、便箋と封筒を携えた鳥の使い魔たちが隊列を成してイリヤの後へと続く。物言わぬ真司を置き去りにして。
身体という拠り所を失くした意識は、一つの既視感を覚えた。そして、それを手繰り寄せるように過去の記憶を垣間見る。
幾重にも連なる南京錠によって固く閉ざされた鉄の扉。その開かれた先に広がる不気味な石造りの階段。背後から現れた桜。
自分は、過去に間桐家の真実を暴きかけた。しかし、それは他ならぬ桜によって阻まれたのだ。奇しくもイリヤが用いた魔術と似た手段で。
今更思い出した所で何の意味も無い。その意識は、羽を捥がれた鳥の如く奈落の底へと墜落していった。
十年近くにも及んだ桜の努力は、純正品の聖杯ちゃんの気まぐれによって一夜にして水泡に帰しました。桜側の正体バレに伴い、本格的な山場が近づいてきております。
……捗らない書き溜めは常に山場の真っ只中なので、次回の更新は来週ではなく四月の十四か二十一日になります。もっと速筆になりたいなぁ。