朝焼けから夕焼けを経て溶け落ちた雪が、点々と水滴を垂らしながら水溜まりを作っている。今日は比較的温暖な気温だったからか、昨夜の雪景色は跡形も無い。
水溜まりを踏みしめ、小さな飛沫を散らし。龍騎は湿ったアスファルトの上をやや早足気味で歩く。直ぐ傍らに桜を伴って。
二人の目的地は、深山町の外れに位置する柳洞寺。キャスターの居場所に関して、真っ先に思い浮かんだのはそこだった。
「あのさ、桜ちゃん。やっぱり危ないかもしれないから、今からでもライダーさんと家に帰って……」
「………………」
人の気配が無く、空き地が続く路上。軽く周囲を見渡した後に、何度目かも分からぬ提案をする。
しかし、桜は返事もせず首を横に振るのみ。考える素振りすら見せずに、龍騎の提案は却下された。
単独行動が許されるならば、鏡の中で安全な移動ができるというのに。交差点を左折しつつ、名残惜しく思う。
「………………」
桜を助けた後に、再び聖杯戦争を止めに行くという魂胆。ライダーの告げ口が切っ掛けとなり、家を出る寸前で勃発した一悶着を思い返す。
勝敗の行方は語るまでも無く、桜は物言わぬくっつきボンボンと化した。このままでは、この次の行動に大きな支障をきたすだろう。
「……その、真司さん。ここを横切った方が近道になると思います」
「うん?」
不意に手を引かれ、龍騎は引き留められる。桜の人差し指に視線を誘導された先で、とある物体が目に入る。
それは、安全第一と記され、黒と黄色の斜線が交互に入った仕切りだった。
鉄筋とコンクリートの基礎、建物の骨組みや重機が置かれた工事現場。桜はここを横切るつもりらしい。
「……まあ、今は人目が無いみたいだし大丈夫か。……にしたって、随分と広い敷地取るんだなぁ」
数秒の逡巡の末、龍騎は桜と共に仕切りを跨いで工事現場へと不法侵入する。鉄骨を露出させたままの建物が何棟も、二人を出迎えた。
駐車場を含めた敷地は幅広く、大規模な集合住宅が建てられるに違いない。そんな見立てをしつつ、建設資材の間を通り抜けてゆく。
「………………」
家を出て以降、戦々恐々とした雰囲気が伝播しているのだろう。隣を歩く桜の面持ちには、どこか余裕が無い。
生きるか死ぬかの瀬戸際。積み建てたものが崩れ落ちる恐怖に抗ってまで、彼女は付いて来た。
「っ………………」
この身を案じてくれる恩に報いたい。そう思えば思うほど、相反した目的を抱えているような感覚を覚える。
生者を害する死者を、桜を聖杯にしてしまう元凶をこの手で始末しろと。何処からか声が響く。
気づけば、敷地の終わりに差し掛かっていた。この工事現場を越えたなら、後は柳洞寺まで道沿いに一直線だ。
「──────」
そうやって、幻聴を無視して一念発起した瞬間だった。夜に似つかわしくない黄金の光が、足元にある水溜まりを反射して瞬いたのは。
電極を差し込まれたかのように、背筋が粟立つ感覚。龍騎はその感覚に身を委ね、振り向きざまに左腕を振るう。腕を覆う手甲を用いて、迫り来る刃先を弾き返す。
「…………え?」
火花が飛び散り、甲高い金属音が響き渡る。桜の背中を刺し穿たんとした凶刃が、建築物の鉄骨に突き刺さった。
呆けた表情を浮かべる桜の肩を掴む。庇うように自身の背後へと移動させ、龍騎は対峙する。
いつかの日、間桐邸の前にて声を掛けた既知の人物へと。底冷えする笑みを張り付けた未知の脅威へと。
「……あんたが何日か前に言ってた猶予ってのは、もう終わっちまったのかよ」
「ああ、悪くない余興だったぞ。お前という異分子が聖杯戦争に紛れ込み、無知蒙昧ながらに立ち回る様は」
羽虫を潰すかの如き気安さ、挨拶代わりの奇襲。そのようなもので、大事な人を奪われかけた。発した言葉の端々に、抑えきれぬ赫怒が篭る。
しかし、男性の相貌は微塵も揺るがず。綽綽とした笑みと歩みで龍騎を詰ってくる。続けざまに、彼の赤い双眸が桜を見据えた。
「ふむ、アレが馴染み始めているにも関わらず、未だ誰一人として殺めておらぬとは。随分と利口に躾けられているではないか」
「っ……! わ、私は、もう───」
「───これからも、絶対に誰も殺させやしないし、死なせもしない」
どこまでも不遜な言い回しが癪に障る。そう思いながら、龍騎は前に踏み出した。桜へと意識が向かぬように、矢面に立つ。
根拠のない直感が、幾度となく連なる者と対峙した経験が確信をもたらす。眼前に居るあの男は、居る筈の無い八人目のサーヴァントなのだと。
それが示す答えは、たった一つ。このサーヴァントは過去の聖杯戦争を勝ち残ったのだ。尚且つ、その猛者は桜の聖杯を狙っているのだ。
【SWORD VENT】
【GUARD VENT】
デッキからカードを二枚引き抜き、ドラグバイザーへと装填。無機質な機械音声と共に、青龍刀と盾が龍騎の元に召喚される。
そして、龍騎が示した応戦の意思に龍の雄叫びが呼応する。アドベントを使うまでも無く、ドラグレッダーが空から舞い降りてきた。
「くく……誰も殺させぬか。そこの奇怪な長虫といい、よく吠える」
そう言い、男性が歩みを止めた途端。彼の背後から黄金の波紋が七つ出現し、煌々と夜闇を照らした。
鋭い切っ先が波紋の中から覗く。龍騎はその光景に思わず息を呑み、警戒の度合いを更に高めてゆく。
気付いたのだ。二日前、ランサーとの戦闘を中断させた介入者が誰なのかを。
思い出したのだ。数多の金銀財宝に溢れた宝物庫を。その下に隠された夥しい数の得物を。
「そら、凌いでみるがよい」
振動、発光、射出。直進する剣と槍を盾で防ぎ、旋転する鉈と斧を青龍刀の横薙ぎで弾き落とす。
そこから、ドラグレッダーが吐き出した火炎によって後続の武器が迎撃された。
「っ───!」
最後の一つを除いて。炎を貫いて迫り来る斧槍を、龍騎は反射的に回避してしまう。
だが、龍騎が声を発する寸前。ライダーが霊体化を解き、桜の前に姿を現した。
そして、間髪入れずに短剣を振るい、桜へと向かった打ち漏らしを凌いでくれた。
「薄汚い反英雄を引っ張り出しているようではなぁ……。先ほどの大言壮語を撤回するならば、今のうちだぞ?」
値踏みするかのような視線に、嘲りが加わる。ズボンのポケットに深々と入れられた両手は、有り余る余力と慢心を誇示している。
桜を守りきれるかどうか以前に、勝負の土俵にすら立てていない。あの黄金の宝物庫の中では、更なる武具が待ち構えているというのに。
勝負の土俵に上がるには、歴然とした戦力差を少しでも埋めるには。龍騎は男性を見据えたまま、腰のカードデッキを意識する。
「……絶対嫌だね」
やがて、両手に構えた青龍刀と盾を握り締め、最強のサーヴァントと自分自身に対して拒絶の意を示す。
これまでの戦いの大半が、誰かから誰かを守る為の戦いだった。決して、自分が誰かを害する為ではない。
だからこそ、龍騎は自らが想像し得る最適解に従う。後ろに控えたライダーに対して、口を開く。
「ライダーさん、このままあいつを相手にするのは駄目だ。……俺がここに残るから、桜ちゃんを連れて逃げて」
「…………分かりました」
桜の身の安全と龍騎の実力に対する信頼。相手との有利不利を秤にかけ、逡巡した末にライダーは渋々と頷いてくれる。
あとは、あのサーヴァントが易々と逃がしてくれるかどうか。黄金の波紋の出現を警戒するが、周囲に兆候は訪れない。
「し、真司さん───」
「───
桜が何か言う前に、昨夜の就寝前に交わしたやり取りを蒸し返す。息を呑む微かな音が、龍騎の耳朶を打った気がした。
サーヴァントを強制的に律する命令権、令呪。その足元にも及ばぬ単なる言葉が、二の句を継がせぬ程の効力を帯びる。
これこそが、龍騎が企てた一度限りの保険だった。行使するタイミングは想定より早かったものの、この場が凌げるならば一切構わない。
「………………」
事ここに至って、重ねる言葉など皆無。背を向けたまま、桜を黙殺する。
数秒間の僅かな間を置き、地を蹴る音と抵抗する声が耳に入る。
ライダーに無理矢理攫われるような形で、桜は連れられて行った。
「……なあ、龍騎とやら。お前の後に居たアレは、言うなれば信管が誤作動を起こした爆弾だ。そうまでして守る道理が何処にある」
生きとし生ける者全てに仇為す聖杯と、死を越えたお前の強き魂では価値が釣り合わぬというのに。
桜とライダーが立ち去るのを許容した交換条件と言わんばかりに、男性の口からそんな疑問が投げかけられた。
一体どこまで見透かしているのだ。驚愕を仮面で押し隠しながら、龍騎は言い返す。
「俺はあんたの事全然知らないから、嫌な例えしか出来ないけど。……あの場所に貯め込んでる財宝を一つも残さず台無しにされたら、あんただって絶対許せないだろ」
今度は自分からあの宝物庫に突っ込んで、実際に台無しにしてやろうか。そんな無謀な売り言葉を。
すると、見据えた双眸が少しだけ見開かれる。狂喜を現すように、口角が吊り上がってゆく。
やがて、堪えきれぬと言わんばかりに、男性は腹を抱えて哄笑を上げた。
「我の蔵に入ったお前が、よりにもよって、あの粗悪品と我が持つ全ての財を同列に語るとはなぁ……。まともに戦っては勝てぬと見て、我を笑い殺す気にでもなったか……?」
周囲の景色が金色に包まれた。明順応した視界に、先ほどの倍以上の波紋が映り込む。
苛立ちながらも、嘘偽りなく言い放った言葉。それが心の琴線を刺激してしまった。
そして、彼はその売り言葉を買うつもりなのだ。己が持つ、宝具という大枚で。
「良い、良いぞ。その愚かしさを以って、これまでの不敬を許してやろう。我の宝具を堪能させてやろう。……だが、我が飽きるまで死ねぬと思えよ」
「……どっちみち、戦わなきゃ生き残れないんだな」
戦わなければ、生き残れない。生き残らなければ、あの子を守れない。だというのに、意識を戦いに傾ければ傾けるほど、違和感が強くなる。
守る為に戦う。受け入れた筈の矛盾が、この期に及んで龍騎を苛む。殺意を殺意で跳ね返せと、周囲の鏡面から幻聴が聞こえた。
「──────」
剣や槍を弾丸とする銃身が、龍騎とドラグレッダーに突き付けられる。凶悪な形を成した尖鋭が、続々と顔を覗かせてゆく。
徐に挙げられた手が、空気を左右に断つようにして振り下ろされた。持ち主の合図に従い、喜悦に満ちた殺意が撃ち放たれる。
再開された猛攻の余波に耐え切れず、鉄骨で組まれた建物が完成を待たずに崩れ落ちる。呆気なく、これから訪れる結末を暗示するかのように。
「離してっ……離してよ、ライダーっ!」
「……喋らないでください。舌を噛みますよ」
握りこぶしを背中へと叩きつけ、膝で腹を蹴り。桜はライダーの俵担ぎから全力で逃れようとする。
しかし、非力な少女の願いは聞き届けられない。小揺るぎもせず、ライダーは夜道を疾駆してゆく。
「あの人が、真司さんがどんなに強くたって……っ!」
自らの正体を明かして以来、真司は死に急いでいるようにしか思えなかった。一人にさせてはならないと感じたからこそ、桜は無理を押して同行したのだ。
だというのに、昨日交わした口約束で動揺させられた。その隙をライダーに突かれ、真司と離れ離れになってしまった。
「どうしても、離すつもり無いなら……っ」
あそこに戻るのは、あのサーヴァントと対峙するのは怖い。それでも、真司が居なくなるのはもっと怖かった。
最後の令呪を使ってでも。右手の欠けた紋章を見やり、桜は強制的にライダーの足を止めようとする。
だが、口を開く寸前。桜があと一つの命令権を使うまでも無く、ライダーは突如として停止した。
「………………!」
ライダーの肩から降ろされた時点で、桜は気が付く。背後で頻りに鳴り響いていた戦闘音が止んでいる事に。
きっと、上手く逃げおおせられたのだ。鏡の向こう側に避難さえすれば、誰も手を出せないのだから。
間も無く合流出来ると、桜は真司の無事を信じて疑わない。周囲を隈なく見渡し、彼の姿を探す。
すると、何かが落下するような鈍い音が聞こえてきた。自然と音の方向に視線が移ってゆく。
「───え」
そこには、桜にとっての希望が倒れ伏していた。無造作に、路傍の石ころのような様相で。
そこには、桜にとっての絶望が立っていた。無遠慮に、石ころのようなそれを足蹴にして。
そして、勝った者はこちら目掛け、敗れた者を蹴り転がしてくる。思考よりも先に、身体が動いた。
抱え起こし、名前を呼ぶ。半ばまで砕けた鎧の破片が、指の隙間から落ちてゆく。
肩を揺らして、名前を叫ぶ。咽せ返って吐き出された喀血が、桜の服を汚す。
「シンジ……!」
「どうした、もう立ち上がれないのか? 飽きるまで死なせぬと言っただろう。この我に多少なりとも食い下がったのだから、もっと楽しませろ」
街頭の光を反射する金色の甲冑。掻き上げられ、逆立った金髪。サーヴァント本来の戦装束を身に纏った黄金の王が、悠然と歩み寄って来る。
彼は桜やライダーに目もくれず、龍騎に対して呼びかける。しかし、龍騎はそれにも応えず。途切れ途切れな呼吸を繰り返すのみ。
「……切り札を切らせるつもりだったが、少々追い詰め過ぎたようだな。……であれば、そこのガラクタに悲鳴を上げさせれば良いか」
あの言葉が真実ならば、目覚めるだろう。赤い双眸が、桜に目星を付けた。
そこまでしても目覚めなければ、それまでだろう。倦怠を晴らす玩具に、見切りを付ける為に。
物語の終わりを告げる王の威光が、煌々とした牙を剥く。そこにあるものは、愉悦のみ。
「はあっ……っっ、っっ……はぁ……」
心臓が鼓動を繰り返すたびに、沸騰した血液が身体の節々まで循環する。肺が呼吸を繰り返すたびに、灼けついた空気が気道を焦がす。
ありとあらゆる痛苦に正気を磨り減らしながらも、桜は辛うじて命を繋いでいた。諸刃の剣である黒い影の力を、全開まで解き放って。
「──────」
夜闇よりも深い漆黒が暗然と蠢く。白昼を生み出す黄金が燦然と輝く。しかし、繰り広げられていたものは、戦いとも言えぬ一方的な淘汰だった。
黄金の波紋から射出される数々の宝剣。それを漆黒の膜が取り込み、切っ先を翻し吐き出そうとする。だが、碌に制御も効かず、黒く染まった剣が所構わず撒き散らされた。
その内の一つが真横を通り過ぎ、桜の肩を切り裂く。歯ヲ食いしばって痛みに耐える。悲鳴を上げぬように、万が一にも真司が目を覚まさぬように。
「っ…………っっ!」
桜を守る盾となる者は、もう居ない。サーヴァント殺しのサーヴァントと呼ぶべきかの王は、ライダーを歯牙にもかけずに屠ったのだから。
きっと、死んではいない。だが、生きているだけだろう。真司と共にいたドラグレッダーも、彼女と同様の状況に違いない。
理不尽に抗う為の手段は、もう桜自身の力だけ。禁忌を手懐け、眼前の相手を斃すしかないのだ。相手が、この力を見くびっている内に。
「……潮時か。存外、彼奴の評価も当てにはならぬなぁ。……それとも、
見込み違い、期待外れ。そんな声色を伴った言葉が、唐突に発せられた。
真意を測りかね、その視線に沿って自身の膝元を一瞥する。そうして、気が付く。
「ぁ──────」
居なかった、守ろうとした人が居なかった。影の沼が、桜を起点に広がっていた。
只々、貪欲に。宿主以外のありとあらゆる生命を取り込み、力の糧にせんとして。
泥濘に手を突っ込み、沈んだものを引き上げようとする。だが、指先と掌は気持ち悪い泥の感触を捉えるだけ。
「──────」
影は宿主の生存を最優先とした。桜の意思を無視して、真司を死にかけの手ごろな餌として認識したのだ。
龍騎の力ならば、即死には至らない。しかし、立ち上がる事さえままならぬ彼が、もう一度影から脱出するのは無理だ。
きっと、もう二度と戻って来てはくれない。張り詰めた心の糸が、断ち切れた。
過負荷に耐えきれなくなった意識が暗転する。ブレーカーが落ちる瞬間のように。
暗い、深海の底に似た虚数の世界。目を閉じていても、目を開けていても変化の無い光景。桜は身じろぎもせず、ただ膝を抱えて蹲り、後悔に耽る。
なんで、私の周りにある世界は、こんなにも私を嫌っているんだろう。目眩を覚える程の不条理が、幼き日に抱いた諦観を蘇らせる。
唯一、その諦観を忘れさせる例外が有った。後ろめたい生い立ち、汚れ切った心と身体。それらを知って尚、受け入れてくれた人が現れた。
自分を嫌い続けた日々の中で、自分よりも好きになれた人が現れたのだ。檻の中に閉じ籠もっていた手を取って、外へと連れだしてくれたのだ。
「……でも」
しかし、その人が居なくなれば、真司が泥に沈めば。桜にとっては等しく地獄だった。檻の中も、檻の外も。
崩されて、積み上げようとして、今度は跡形も無く砕かれる。割れた破片は戻らない。
凪いだ水面のような静謐の中、何者かの気配を感じた。項垂れた顔を上げ、桜は正面を見据える。
「──────」
黒い影。心臓が鼓動を繰り返すたびに熟成された欲望の具現。房状の触手が、徐に広げられてゆく。
もういいだろう。こっちにおいで。影の奥から這い出た腕が汚泥を滴らせ、桜へと手招きをしてくる。
絶望に屈するな。この身を受け入れ、報復を果たせ。欲望が甘美な囁きを繰り返す。
「あは、あはは……。もう、どうでもいいや」
蜜に釣られた虫のように、桜の足は動き出した。覚束ない足取りで、ゆっくりと影に歩み寄って行く。
奪われ、耐え忍び。結局失うばかりの、無意味な人生だった。ならば、最期だけでも一矢報いよう。
その行いを悲しみ、咎める人は既に居ないのだから。そうして、桜は泥だらけの手を取る。
「───君の手は、絶対に汚させやしない」
その寸前。何者かの手が、桜の肩を掴んで後ろへと引き倒した。まるで、自暴自棄な行動を咎めるように。
どうして、こんな私の為に、貴方は戻って来るの。すれ違う瞬間に垣間見えた仮面に、桜は声を漏らす。
しかし、桜の問い掛けに返答する事無く、黒き龍の騎士はカードを一枚引き抜いた。
霊魂のような青白い炎が、カードの力に呼応して周囲に迸る。昏き世界を照らし上げ、轟々と燃え広がる。
その炎は、黒い影を苛烈に焼き尽くす。その炎は、桜の意識を優しく包み込む。
【───SURVIVE───】
くぐもった機械音声が、烈火の如き意思を叫ぶ。我が身に、決して違えぬ誓いを立てる。
生き残るために戦うのではなく、戦うために生き残るのだと。命ある限り戦い、壮絶に散るのだと。
かくして、間桐桜は手に入れた。閉ざされた未来を切り開き、この命を救う最強のヒーローを。
かくして、間桐桜は失った。諦めていた世界に火を灯し、この心を救ってくれた大事な人を。
TV版予告の「戦わなければ、生き残れない!」からの、劇場版予告の「命ある限り戦い、壮絶に散る」のキャッチコピーの変化が好き(隙自語)
満を持してのリュウガ登場。慎二に憑依してるのに、鏡像の真司に乗っ取られるという意味不明な状況になっております。
仮面ライダーとサーヴァントの死闘が書きたかった。でも、龍騎にそれは絶対無理だから、リュウガに出張ってもらいました。
第一話を投稿した時点から、書きたくてしょうがなかった脳内妄想たちを次回のお話でぶちまけます。今月以内、三週間以内に。
感想、アドバイス、お待ちしております。
9/29
今日中に更新するのでもう少々お時間ください。妥協はしたくないのです。