サブタイトルが読めない方は、お手持ちのスマホを横持ちに。
そこからサブタイトルの文字をいい感じに拡大して、カードデッキ的なノリで鏡に向けると読めると思います。
二段に連なった鍵盤の上を十本の指が駆け巡る。パイプオルガンが荘厳な音色を奏でる。まるで、新しい命の到来を祝うかのように。
数羽の黒い鴉が、教会の屋根から飛び去ってゆく。まるで、これから我が身へと降りかかる危機を察知したかのように。
そして、その直後。けたたましい金属音と共に、月を覆い隠していた雲が弾けて散った。穿たれた雲間を縫って、黒い何かが突き出た。
「──────」
亜音速の領域に達したそれを、刺し貫かんと追い縋る三又の槍。だが、軽々と薙ぎ払われる。
そして、振り向きざまに炎が迸り、一筋の軌跡を描く。後続の機影は反撃を見舞われたのだ。
青白い爆炎が一瞬、夜空を彩った。炭化した細かな金属片が飛び散り、地面へと落下してゆく。
「くく……」
しかし、機影は尚も健在。薄らいだ煙を切り裂きながら、その姿を現す。
黄金で形作られた鋭利な機体と翠玉の主翼、その上に据え置かれた玉座。
ヴィマーナ。それは、飛行機と呼称するにはあまりにも異質な形状だった。
「……先ほどまでの頑迷固陋っぷりが嘘のようではないか。一度ならず二度までも泥に飲まれれば、負の側面を受け入れざるを得ないようだな」
あのまま沈まずに這い出てきた事自体は、お前自身の意思なのだろうが。
玉座に腰掛けた王は……ギルガメッシュは、愉快気に目を細めて対面を見据えた。
黄金の波紋が夜闇に溶け込んだ黒を照らし、朧げな輪郭を明瞭なものにする。
「──────」
烈火龍ドラグランザー。不死鳥の翼のカードによって、更なる昇華を遂げたミラーモンスター。
それと対を成す深淵の龍が、ヴィーマーナに向かって鎌首をもたげる。巨大な口から炎混じりの吐息を漏らす。
その背に乗った黒い騎手は、ギルガメッシュの言葉に何の返答も反応もせず。
龍を象った銃剣の引き金を玉座へ、相手の眉間へと目掛けて引いた。放たれた光線が軌跡を描いた。
「この我が目を付けた時点で、どう足掻こうが貴様の未来は定まっている。事を急くな」
だが、命中には至らない。物理法則を無視した回避機動を見せつけ、ギルガメッシュは返礼と言わんばかりに宝具を射出。
そうして、雲を越えた遥か彼方にて、超高速戦闘が再開される。ドラグランザーが前腕の刃を振るい、殺到する剣を弾き返す。騎手が再度、光線を放つ。
角度のついた偏差射撃が、ヴィマーナの主翼を掠める。撃ち漏らした宝具の刃先が、騎手の仮面を掠める。天井無しで数を増す波紋に対し、真っ向から挑むのは無謀だった。
「──────」
故に、騎手は退避を開始した。牽制の意を込めた射撃。そこから、敷き詰められた雲海へと一点直下する。
我先にと殺到する背後からの宝具。それを錐揉み回転で躱し、雲の中に身を沈めた。
濃密な霧が視界を遮る。吹き荒ぶ強風が聴音を妨げる。進めば進むほど、上下左右の方向感覚が狂う雲の海。
第六感に従い、黒い龍を駆って迷い無く泳ぐ。そのまま、下弦を描くような軌道から上昇し、再び雲の上に出た。
「───ほう?」
同時に、ヴィマーナの背中を捉える。空中戦において圧倒的な有利な位置を、背後を取ったのだ。
追われる者から追う者へと一転。龍の灼熱と銃剣の光線が交互に、苛烈に撃ち放たれた。
迎撃の宝具が矢継ぎ早に発射され、互いの攻撃は相殺し合う。数の優った宝具が、炎を突き抜け迫り来る。
だが、命中しない。その精度は大きく落ちていた。目の届かぬ背後であるが故に。
「──────」
刃と刃の隙間に、ドラグランザーの巨体を縫い込ませるようにして蛇行する。着々と距離を詰め、ヴィーマーナに肉薄してゆく。
そして、音の壁を破るような速度に至り、機影を直近まで捉えた瞬間。鋭利な鉤爪で玉座を切り裂かんと、ドラグランザーはその剛腕を振り上げた。
「十年ほど前、似たような趣向の戯れで不覚を取った事があってなぁ」
相手こそあの狂犬ではないが、意趣返しだ。間近に迫った騎手に対して、ギルガメッシュは呟く。
嘯くような言葉と共に出現した、複数の小さな波紋。そこから噴霧される発光体。
それは、言うなれば殺傷力を兼ね備えたフレアだった。着弾と同時に、弾頭が炸裂する。爆発が龍を飲み込む。
【GUARD VENT】
かに思われた。濁った機械音声と同時に、ドラグランザーが火炎の鎧を身に纏う。
不定形に揺らめく鎧は、直撃を物ともせず。騎手は再度接近戦を仕掛けんと、爆煙を突き抜けた。
目論見が外れた事に眉を顰めながらも、ギルガメッシュは背後からの追撃に対して回避を取る。
加速に伴う負荷を無視するかの如き直角機動。そこから、反撃に転じる。しかし、射出した宝具は鎧に弾かれた。
「──────」
この堅牢な炎が途絶える前に、あの敵を仕留めろ。騎手の殺意に呼応して、黒龍は雄叫びを上げる。
指先の鉤爪を玉座に振り下ろさんと。腕と尾の刃で主翼を切り裂かんと。生え揃った牙で機体を噛み砕かんと。
自らが持つ攻撃的形態を遺憾なく発揮し、ヴィマーナを撃墜へと追い詰めてゆく。
「ふむ……。並大抵の、それも珍品程度の宝具では歯が立たぬか」
だが、ギルガメッシュの余裕は、どれだけの刃と爪牙が掠めようとも崩れない。
正確無比な思考でヴィマーナを操縦し、冷酷無比な斬撃を巧みに躱し続ける。
やがて、戦いの舞台は遥か天高き雲の上から、地を隆起する山の中へと変遷した。
「──────」
冬木の街を囲む山々を縁取りながら、蒼炎と翠玉の軌跡が交錯を間断なく繰り返す。
それでも、その攻防にも転機は訪れた。数多の宝具の中に、特異な剣が紛れ込んだのだ。
フルンディング。装甲で弾こうが回避しようが、決して追尾を止めない。猟犬のような魔剣だった。
「数少ない身銭を切らせたのだ。返礼としてそれなりの品を下賜してやらねば、我の程度が知れるであろう?」
担い手の無き剣戟が繰り返されるたびに、威力に伴い衝撃が増す。お前の血を啜らせろと、刀身に込められた執念が増す。
このまま看過していては、魔剣が鎧を貫きかねない。前腕の刃で魔剣を弾き返した後に、攻撃対象を変更する判断を下した。
「──────」
僅かな後退からの再突進。どこまでも実直な軌道を先読みし、騎手はドラグランザーを駆って高速後転する。
振り上げられた尾の先端が、鋭く弧を描く。そして、それはサマーソルトのように魔剣を迎え撃った。
度重なる突進による摩耗に加え、繰り出されたカウンターが致命打となり、魔剣は粉々に砕け散る。
「くくく……!」
だが、続けざまにヴィマーナへと躍りかかる寸前。一際大きな波紋が現れた。
あの執拗な魔剣は、騎手の意識を逸らす一時の前座に過ぎなかったのだ。
宙返りの動作から生じた、極僅かな隙。その一瞬に杭を打つように、本命が放たれる。
「──────」
ヴァジュラ。悪しき蛇、或いは龍、ヴリトラを討滅せしインドラの金剛杵。
それは、凄まじい速度の円錐螺旋を描きながら、ドラグランザーの胸元に至った。
接触、衝突。そこから、眩い稲光が紫電と共に瞬く。光の後を追って、けたたましい雷鳴が響き渡る。
邪魔な障壁を穿たんと、回転速度を増す金剛杵。致命の一撃を防がんと、密度を一点に集約する鎧。
その拮抗の余波は騎手にまで及んだ。龍の背から投げ出され、放物線を描いて地面へと落ちて行く。
「──────」
だが、騎手を受け止めた物は地面でも鬱蒼とした木々でもなく、鋼鉄製のコンテナだった。深くめり込んだ身体を起こし、周囲を見渡す。
コンテナ越しに伝わる振動、徐々に移り変わる景色。そして、連綿と続く線路。落下地点は、冬木へ向かって走る貨物列車の上。
己の置かれた状況を理解し、騎手は即座に腰のカードデッキに手を伸ばす。そして、銃剣のバイザーにカードを挿し込んだ。
「お前の判断や行動は確かに迅速だが……。乗り換えた代物がこうも鈍間では無意味だろうよ」
その直後、頭上に生じた波紋の光が照り付けた。ギルガメッシュの宝具が、冷笑と共に降り注ぐ。
最後尾から、先頭車両へと駆けてゆく。元居た場所をなぞるようにして、短剣の群れが突き刺さる。
細かな明滅を繰り返し、短剣が爆ぜる。後部車両から伝播した衝撃が、棹立ちのような脱輪を引き起こす。
足場に働く慣性を利用し、大きく跳躍。そして、騎手は予め装填していたカードを切った。
【ADVENT───】
虚空に真っ黒な風穴が開き、金剛杵から逃れたドラグランザーがそこから現れる。
落下地点を予測した、完璧な位置取りだ。その背に飛び乗ると同時に、騎手は更にもう一枚カードを切った。
【───SWORD VENT】
銃剣に内蔵された刃が抜き身に変形し、炎を迸らせて赤熱する。騎手は身を翻しながら、炎で形成された刀身を背後のヴィマーナ目掛けて振るう。
身の丈を優に超す炎の剣から繰り出された、飛ぶ斬撃。それは、ギルガメッシュの意表を突き、ヴィマーナの主翼と機体を焦がす。
「──────」
そして、斬撃の直線上に有った送電鉄塔が根本から断ち切られ、倒壊した。鉄塔と繋がった高圧電線が引き千切れ、辺り一面に火花を撒き散らした。
やがて、電力の供給が断たれた冬木の街は、深山から新都にかけて順繰りに暗闇へと飲まれる。夜は、殺意と殺意の応酬は、それでも尚終わらない。
街の明かりが、大規模な停電によって消え失せた。建物の窓から漏れる明かりも、自己主張の激しい広告看板が放つ明かりも、道を照らす街灯の明かりさえも。
突発的なブラックアウトに対して、街の往来を行き交う人々は皆一様に立ち止まる。一体何が起こったのだと、異口同音に唱える。
全ての信号が役目を放棄した事によって、新都の円滑な交通網が麻痺した。渋滞に巻き込まれた車の運転手たちが、クラクションを押し鳴らす。
誰も彼もが暗闇に戸惑うなか、一部の者たちは頭上に広がる満天に気付く。月に寄り添う冬の星座たち。夜空を分かつ天の川銀河。文明が放つ光に隠された星々だ。
それは、人々の恐慌など露知らず。堂々と成り代わり、燦々と煌めく。そして、彼らの幾多もの双眸は、幾多もの黄金の流星群を、最期に捉えた。
やがて、星が降る。コンクリートや建造物が、列をなしていた車や立ち止まっていた人々が、宝具の絨毯爆撃によって皆平等に飛散する。
死屍累々。騎手は一変した惨憺たる光景を一瞬見やり、ドラグランザーは悲鳴犇めく大通りを横切ってゆく。その後を、無数の剣槍が追い立てた。
「──────」
ドラグランザーを駆り、丁字路を曲がる。対象を逃した宝具の群れは、突き当りのビルを何棟も粉砕した。
所々に焦げ跡を刻んだヴィマーナは主人の思考を寸分狂わず読み取り、最短距離で屈曲する。
だが、相手を射程に収める事は叶わず。ドラグランザーは影も形も残さずに忽然と姿を消す。
鏡。雲の上にも山の中にも存在しない物体が、この市街地には、場所を選ばずありふれていた。
「……ふうむ、非の打ち所がない最適解だ。……しかし、そちらに有利な戦場が此処だったとはいえ、巻き込む命が些か多すぎたのではないか?」
最終的に、我も有象無象どもを篩にかけるつもりだったが。己の蛮行を棚に上げ、ギルガメッシュは嘲笑する。
誰一人として死なせないのだと宣い、実際に足掻いてきた者の変貌に、極上の愉悦を見出す。
見届けたかった。どれだけの犠牲を重ねても、強いても、決して褪せぬ漆黒の意思。それが潰える瞬間を。
「──────」
これから殺す敵の思惑など、知らぬ存ぜぬ。騎手はミラーワールドの中で機を窺い、仕掛ける。
ギルガメッシュの死角となるヴィマーナの真下。道端に乗り捨てられた車のフロントガラスから。
そして、舟腹目掛けて一気に突貫するが、その不意打ちは寸前で躱された。
「やはり、素直に尾を巻いて逃げはせぬよなぁ……!」
奇襲が失敗するや否や、ドラグランザーが瞬時に身体を反転させて火炎を吐いた。その熱塊を、ギルガメッシュは波紋から取り出した盾で反射する。
すかさずビルの窓ガラスへと飛び込み、手の届かぬ鏡の中へ。矛先を反転させられた攻撃は当たらず、空の彼方へと飛んで行った。
上下左右、縦横無尽。鏡の世界と現実世界を絶え間なく行き来し、ヴィマーナに肉弾戦を仕掛け続けた。強靭な爪牙と刃を捌ききれず、機体は傷を刻まれてゆく。
「──────」
新都の高層ビル群が、非常口として騎手の退避と攻勢を補助する。高層を支える鉄骨が即席の盾としての役目を全うし、その身を捧げて倒壊する。
十年の歳月をかけて復興した街が、秒を読む程の呆気なさで破壊され、十年前の厄災を再現するかのように瓦礫と屍が連なってゆく。
「くくく……ははは……! どうした。徒に時を費やしていては、我よりも先に街が滅びるぞ?」
しかし、戦況は依然として均衡を保ったまま、どちらに対しても傾かなかった。
騎手が圧倒的な地の利を得ても、ギルガメッシュが夥しい数の命を奪っても。
このまま千日手を繰り返せば、追い詰められるのは前者だ。故に、騎手は新たな手段を取る。
「ほう?」
騎手の意を汲んだドラグランザーは、ヴィマーナではなく明後日の方向へと火球を飛ばした。
その方向には、辛うじて形を残していたビルの窓ガラス。そこを斜角から通り抜け、鏡の世界へ。
そして、消えていった火球は対面のビルガラスに吸い込まれ、現実世界に再度射出された。
火球の直線状には、ヴィマーナ。反射する盾から着想を得た奇襲は、膠着した盤面を覆す一手となり得る。
「おっと……賢しいやり口ではあるが───」
ギルガメッシュは最低限の操縦で、背後から迫る火球を危なげなく回避。だが、騎手は彼の予想を上回った。
ドラグランザーの尾を横薙ぎに振るわせ、躱された火球を蹴鞠のように弾き飛ばしたのだ。
蹴り返された熱塊がヴィマーナの玉座に着弾。この戦いに於ける初めての有効打が直撃した。
「──────」
黒煙が濛々と花開く。玉座に掛けられていた赤い布の切れ端が、風に流され飛んで行く。
追撃。相手の生死を確認するまでも無く、一切の容赦も無く。騎手はデッキのカードをバイザーに装填する。
しかし、カードを切ろうとした寸前。黒煙を切り裂き、斧槍が群れを成して襲い掛かってきた。
「───ヴィマーナの上に居ながら腰を上げざるを得なくなるとは。少々、戯れが過ぎたな」
追撃を中断し、騎手は仕切り直す。半壊した建物の影に退避し、ギルガメッシュの迎撃をやり過ごす。
敵は未だ尚健在。仕留め損ねた。ドラグランザーが吐き出す炎は、あの黄金の鎧を突破出来なかった。
唯一露出している顔は腕で保護したのだろう。腕周りに付着した煤が、それを物語っている。
「……と言いたいところだが、今宵の宴を無礼講と定めたのは我だ。……然らば、一言も発さぬ貴様の悲鳴で手を打つとしようか」
ギルガメッシュの声色に険が帯びる。徹底的に周囲の鏡を破壊しながら、騎手とドラグランザーの後を追う。
未だ底の見えぬこの者に、更なる艱難辛苦を。王の思念を読み取り、宝物庫の門戸が数を増やしてゆく。
追い込み漁の如く逃げ場を奪い、追い詰めた瞬間。ギルガメッシュは右手を振り上げた。
そして、これまでとは比較にならぬ程の巨大な波紋が、騎手の頭上に二つ出現する。
「そうら、最早貴様の周囲に鏡は無いぞ。これらをどう凌ぐ?」
「──────」
イガリマ、シュルシャガナ。千山斬り拓く翠の地平、万海灼き祓う暁の水平。個人を滅ぼすには過剰すぎる超弩級の宝具が二振り。重力に従って振り下ろされる。
瓦礫と屍の山が斬り拓かれ、広大な火の海が更なる劫火に灼き祓われる。周囲に遍き、轟き渡るけたたましい破砕音。それは、新都が最期に上げた断末魔だった。
「……あの局面で、先ほど装填していたカードを切らなかったのは意外だったな」
何の対処も為さずに姿を消した騎手について、ギルガメッシュは思案する。轟々と燃え盛る焦土を、市街地だった場所を視界に収めながら。
この街と運命を共にしたのか。否、それは有り得ない。この身に真っ向から立ち向かってきた者の最期が、あれ程呆気ないものである筈がない。
不服ながらも、ギルガメッシュは認め始めていた。あの黒き仮面の騎士が持つ戦闘センスは、自身の絶対的な力を覆し得る脅威になるのだと。
「…………ちっ、雨か」
火災積雲。空へと立ち昇った煙が灰色の雲となり、街へと鎮火の雨を降らす。シュルシャガナが発した高熱は、皮肉にも空に雨雲を形成させたのだ。
逆立っていた金髪が、雨に濡れて下ろされる。張り付いた前髪を煩わし気に掻きあげながら、ギルガメッシュは視線を巡らせる。
「───っ!」
真後ろから発せられた殺気が背筋を刺激する。彼は慢心を緩めた。だからこそ、気付くことが出来た。
煤と傷に塗れたヴィマーナ。その機体を覆う黄金が雨に濡れ、鏡面を作り出している事に。
身を捩り、背後から放たれた光線を寸前で躱す。顔の真横を通過した光が、彼の右頬を僅かに焦がした。
接近戦。息を吐く間も無く、銃剣の変形音と間断の無い足音がギルガメッシュの耳朶を打つ。
近づかれては、こちらの勝機が希薄なものとなる。弾かれるように翻り、最短時間で宝具を射出する。
「──────」
騎手はその身に少なく無い傷を負いながらも、生き延びていた。ビルの谷間を滑空する最中、拾い上げた鏡の破片を利用したのだ。
一秒、瞬間、刹那。それらを等間隔で切り刻む。回避、迎撃、疾駆。切り刻んだそれらを動作に割り当て、彼我の距離を最短で詰める。
そして、ヴィマーナの甲板にて。騎手はギルガメッシュへの肉薄を果たす。二度と訪れぬ好機を逃す筈も無く、脳天へ刃を振り下ろした。
「ちいいぃぃ……っっ!!」
その一刀を、ギルガメッシュは咄嗟に手繰り寄せた剣でどうにか防ぐ。だが、至近距離における戦闘は、騎手の独壇場だった。
刃と刃の拮抗を自ら解き、鎧に守られていない顔や関節部を徹底して狙う。絶え間ない剣戟を繰り返し、着々と追い詰めてゆく。
そして、次々と繰り出される連撃に堪えきれず、遂にギルガメッシュの体勢が崩れた。逃げられぬように鎧の縁を掴み取り、喉笛を刺し貫かんと銃剣を振り上げる。
「──────」
数多の駆け引きを乗り越え、騎手が目前にした王手。しかし、それは紙一重で凌がれた。
ギルガメッシュは己の思考をヴィマーナの操縦に割いた。機体を斜めに傾け、刃を逸らしてみせたのだ。
瞬時に体勢を立て直され、腹を蹴り飛ばされる。たたらを踏んで退くと、再び距離が開いてしまった。
【SHOOT VENT】
それでも尚、騎手の攻勢は終わらない。寧ろ、これが本命であると言わんばかりにカードを切り、空に待機していたドラグランザーに呼び掛けた。
跳躍し、引き金を引く。それと同時に、後方から青白い光が瞬いた。そして、龍の口を砲門とした灼熱光線が撃ち放たれる。制止していたヴィマーナに直撃する。
「──────」
撃墜。しかし、空中戦を制した余韻に浸る素振りも見せず。騎手はドラグランザーの背に乗り、急転直下する。
そこから、その仮面の下の双眸は、飛散した人型の落下物を一心に捉える。把握していたのだ。倒すべき敵が、まだ死んでいない事を。
「───エルキドゥッ!」
騎手の見立ては正しかった。だが、怒号と共にギルガメッシュが切った手札は、騎手の想定の範囲外だった。
射出された鎖が、その身を蜘蛛の巣のように張り巡らせ、即席の足場を作り出す。
射出された鎖が、その身を蛇のように絡みつかせ、騎手とドラグランザーを雁字搦めに拘束する。
「はぁ……はぁ……っ」
呼吸という生物として当然の行為。誰しもに与えられたそれを、人類最古の英雄は存分に謳歌する。
王の威光を示す黄金の鎧。それは中の肉体をも巻き込み、半ばまで焼け爛れ。本来の機能を果たしていない。
サーヴァントとして現界して以来、唯一無二の窮地。それを救ったのは、彼の唯一無二の友だった。
【STRANGE VENT───】
「───させると思うか?」
彼の声色には、既に微塵の油断もない。無理矢理にカードを切ろうとした騎手に対して、更に鎖の本数を増やす。
エルキドゥ。そう呼ばれた鎖がギルガメッシュの意に沿って、拘束を強めて行く。
やがて、この状況を覆し得る召喚機を、騎手は敢え無く手放してしまった。
「認めよう、強き命よ。お前は滑稽な道化などではなかった。我が現世に呼ばれてさえいなければ、勝ち残っていたのは間違いなくお前だったであろう」
あの娘に取り憑いた運命を払い除け、この聖杯戦争を止められていたであろう。
それは、彼なりの賛辞だった。数々の苦境を乗り越え、この身を追い詰めて見せた好敵手への。
半壊した鎧を脱ぎ捨て、ギルガメッシュは騎手を見据える。そして、己が持つ至宝を波紋から引き抜いた。
彼が右手で掲げたそれは、剣とは呼び難い円柱のような形状を成していた。
三つに分かれた円形の刀身が、それぞれ別方向に回りだす。その回転が、赤き暴風を生みだす。
「……この期に及んでも口を開かぬのか。……それとも、まだ諦めていないのか?」
「──────」
「四肢の自由を奪われて尚、戦いを止めようとせぬその執念。見事と言うべきか、哀れと言うべきか。……せめてもの手向けだ。この乖離剣を、死して拝せよ」
周囲の大気を巻き込み軋ませながら、暴風はその密度を増してゆく。
そして、ギルガメッシュは己が宝具の真名を叫び、乖離剣を振り下ろした。
「
あらゆる物質、生命の存在を許さぬ死の奔流が放たれる。射線上の空間さえも切り裂きながら、微動だにしない騎手を目掛けて飛んで行く。
最早、どう足掻こうと避けようの無い必然の死。最早、世界と世界を遮断する程の埒外の奇跡が起こらなければ、防ぎ得ぬ究極の一閃。
「──────」
だが、それが騎手を呑み込む寸前。ほんの一瞬を先駆けて、手落とした召喚機が地面に激突した。
言うまでもない些事である。落下の衝撃が、ストレンジベントによって変質したカードを発動させなければ。
【───TIME VENT】
濁った機械音声が、淡々と言葉を紡ぐ。その瞬間。鏡の割れる音と共に、世界が停止した。
上向いた時計の針が、左回りに遡行してゆく。秒針も分針も、指し示す数字を減少させてゆく。
しんしんと降り注いだ雨が上昇し、雨雲へと還ってゆく。空を覆う雨雲が下降し、黒煙へと還ってゆく。
焦土と化した筈の都市群が、本来の形を取り戻す。失われた筈の命が、何事も無く蘇る。
溶断された筈の送電鉄塔が、本来の形を取り戻す。訪れた筈の暗闇が、街明かりよって掻き消える。
脱輪した筈の貨物列車も、弾け飛んだ筈の雲も。何もかもが一様に巻き戻された。
「──────」
過ぎ去りし時が、今この瞬間を流れる時が、有り得たかもしれない未来となる。
タイムベント。そのカードが起こした現象は奇跡などではない。かつての城戸真司を苦しめた禁忌だった。
それと同時に、あの進退窮まった状況を打破する、唯一無二の最適解だった。
そして、騎手が黒い影から這い出た瞬間を以って、時間の逆行は終わりを迎える。
建物が疎らになった郊外。騎手とギルガメッシュの戦いが勃発した場所。先刻との違いは互いの消耗だ。
騎手は死の奔流の余波による負傷を、ギルガメッシュは真名解放の反動を持ち越していた。
だが、前者は止まらなかった。崩れかけた四肢に鞭を打ち、腰のカードを引き抜く。
「貴様、よもやそこまで───」
【───FINAL VENT】
己の弱さから目を背けたまま、弱きを助け強きを挫くなどと、誰が言えようか。
自らに念じた言葉と共に、騎手は……仮面ライダーリュウガは、残された最後の一枚を召喚機に装填する。
やがて、けたたましいエキゾーストノイズが閑静な郊外に響き渡った。
その音に数拍遅れ、膨大な熱量の爆炎がギルガメッシュへと炸裂した。
一話丸ごと戦闘に使ったのは今回が初めてですね。かなり急いで書いたので、描写が雑になっていないか心配です。
ついでに、前々から導入したかった挿絵を入れてみました。出来栄えはそこそこイケてると思うのですが、改めて見ると構図が挿絵っぽくない気も……。
何かしらの反応がいただければ、あと一枚くらいは描く気力が湧くかもしれません。執筆との同時進行がしんどかった(小並感)
それと、書き溜めを枯らしてしまったが故に、更新がかなり遅くなって申し訳ないです。
なので、恒例の書き溜め期間を設けたいと思います。年内に更新再開したいなあと思いつつも、どうなるかは分かりませんね……。
感想、アドバイス、お待ちしております。