忠犬ハチ公 ハチマン   作:八橋夏目

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1話

「さて、まずはカントーに帰る道中、バトルをしようか」

 

 シャドーから脱出後、ド素人な潜入捜査官と伸びているザイモクザを連れ、何故こんな奴を連れてきたしまったのだといいたくなってしまう人物、ロケット団ボスのサカキの飛空艇に乗り込んだ。

 そして開口一番がこれである。

 

「嫌だ。これからまた暴れねぇといけないのに、なんだってそんな面倒なことを」

「お前がこの八か月、どう変わったのかを見るためだが?」

「見せる義理がない」

「オレには知る権利がある」

「状況判断だけで充分だろ」

「エンテイとスイクンか? あの程度のポケモンに命令できたところで、たかが知れている。オレが言いたいのはお前とリザードンの力だ」

「………何を企んでいやがる」

「何も、と答えるのは嘘になるが。オレ自身の興味本位だ。それにお前が端から断れるとでも思っているのか? 会話の主導権はオレにあるのだぞ」

「………さすがロケット団のボス。横暴なのに磨きがかかってんな」

「誉め言葉ととっておこう」

「………あんまりプレッシャーを出すなよ。さっきからこいつが俺から離れてくれねぇじゃん」

 

 黒長髪の名前は知らない女の子。

 シャドーに潜入捜査に来た馬鹿なやつ。

 そんな奴がさっきから俺の背中に身を隠してサカキを睨んでいるのだ。

 

「ふっ、羨ましい限りだ。オレにはそんな奴がいないからな」

「そりゃいるわけないだろ。誰が好きで悪事を働く組織のボスの傍にいるんだよ」

「それもそうだ。さて、やるぞ」

「はあ………、マジで何がしたいんだよ………」

「二本だ。オレから二本取ればお前の勝ちとする。どうだ、簡単だろ?」

「わー、簡単。だからと言ってやりたくはねぇけど」

「ニドキング」

「どうやら本気らしいな………。おい、ちょっと離れ……」

 

 無理か………。

 

「リザードン、さっさと片を付けるぞ」

「シャアッ!」

「ニドキング、がんせきふうじ」

「はがねのつばさで撃ち落とせ」

 

 ニドキングが両拳をぶつけ合わせ、衝撃で岩石を作り出してきた。それを尻尾で全てをこちらに飛ばしてくる。

 リザードンは翼を鋼鉄にして折り畳み、ドリルのごとく回転して岩石を叩き落していった。

 

「かえんほうしゃ」

 

 今度はこっちから仕掛ける。

 炎を吐きながらニドキングへと近づいていく。

 

「メタルクロー」

 

 相手はニドキング。身体に触れれば毒状態にされてしまう特性どくのトゲを持っていることもある。確かサカキのニドキングはどくのトゲだったはずだ。直接触るなら、せめてはがねタイプの技を併用しなくては何をされるか分かったもんではない。

 

「ほのおのパンチ」

 

 だが、ニドキングは拳に炎を纏うことで鋼の爪に対抗してきた。リザードンに効果はいまひとつだが、殴られるというダメージは引かれない。

 

「かえんほうしゃ」

 

 ニドキングとの距離が離れてしまったため、遠距離からの攻撃に切り替える。

 

「がんせきふうじ」

 

 だが、自分の周りに岩で壁を作り、炎をやり過ごした。

 

「じしん」

 

 今度は地面を揺らし、攻撃してくる。

 しかし、リザードンは飛んでいる。一体何が狙い………。

 

「………リザードン、メタルクローとはがねのつばさでトルネード。ニドキングに突っ込め」

 

 狙いは分かった。恐らく壁にした岩を再び浮かし、飛ばそうという魂胆なのだろう。

 ならば、全身鋼にしてしまい、突撃してしまえばいい。鋼だから毒も効かないしな。

 

「………ふっ、さすがだ。タイプ一致の技でなくともオレのニドキングを倒すとは。つくづくお前が図鑑所有者でないことが不思議で敵わん」

「ああ、そうかよ」

「次はこいつだ。オレのとっておきを見せてやる」

 

 二体目としてサカキが出してきたのはスピアーだった。

 大地のサカキなんて呼ばれ方もするようだが、この男の代表的なポケモンと言えば、やはりスピアーの方に目が行ってしまう。実力もさながら、サカキの愛着っぷりが半端ない。

 

「スピアー、メガシンカ」

 

 はい?

 メガ………シンカ……………?

 進化、なのか………?

 スピアーにはさらに進化した姿があったというのか?

 バカ言え、そんな話聞いたことがない。

 いや、だが相手はサカキだ。

 現にスピアーが白い光に包まれていく。

 

「姿が………変わった…………」

「………これが、メガシンカ…………」

 

 俺の右肩からも声が聞こえてきた。

 だが、それは驚きというより本物を初めて見たという感じだ。すなわちメガシンカそのものについては知っていた可能性がある。

 

「ダブルニードル」

 

 は、速い?!

 一瞬でリザードンの懐に飛び込み、二撃突き刺した。

 

 ドックン!

 

 嫌に強く鼓動が鳴った。

 それと同時に強い力に引き寄せられるかの如く、意識が薄れていく。目の前が真っ暗だ。

 

「シャアァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアッッ!?!」

「きゃあっ!?」

 

 ぐぅ………!?

 なん、なんだ………この圧力は?!

 

「………やはり、ダークオーラに反応を示していたか」

 

 ダメだ、抗えない。

 それに、身体が、熱い………!

 

「な、に…………ヒキガヤ………くん?」

 

 ぐぁぁあああああああああっっ!!

 頭が、割れる! かち割れそうだ!

 

「暴……走………してるの?」

 

 暴走、だと………?

 まさか、これはリザードンによるもの、なのか……………?

 ッ!?

 視界が戻った………いや、これは………何度か味わったことのある…………リザードンの視界だ。頭痛もちょっと治まってきている。

 

「………来るなら来なさい。私は逃げないわ」

 

 なに………?

 来るってどういう意味だ?

 視界にはサカキとスピアーが…………っ!?

 まさか俺の身体が無意識に動いている、のか…………?

 というか黒髪少女の声がさっきよりも遠い………。驚いて俺から離れた、のか………………?

 

「………あなたは私たちを救ってくれた。だから今度は私があなたたちを助ける番」

 

 な、んだ………いきなり激しく揺さぶられる感覚が薄れていくぞ。

 それにこの柔らかい感触…………。

 

「私は、ずっとあなたの味方よ」

「………黒………髪………………」

 

 一瞬、視界の奥で黒髪が靡いた。位置的にリザードンの視界には少女の姿が入ることはないはずだ。まさか俺とリザードンの視界が混同しているのか?

 ふわりと靡いた黒髪が鼻を燻った瞬間、一気に圧力が引いた。

 この黒髪、どこかで見覚えがある。そんな昔の話ではない。

 

「ふっ、なるほど。この娘が対抗手段というわけか。面白い」

「はあ………はあ…………、はぁぁぁああああああっ……………」

 

 怠さだけが残り、立つのも難しい。

 なのに倒れることがない。

 

「………あなた、ヒキガヤ君たちに何したの」

「さあな」

 

 支えられて、いるのか…………?

 黒髪少女の声が間近で聞こえてくる。

 

「そいつを休ませてやれ」

 

 …………………………………。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「………彼に何をする気!?」

「様子を見に来ただけだ」

「なら出ていって」

 

 ………ここは………?

 女の子の荒げた声で目が覚めた。

 見たことあるようなないような天井である。

 ふと、視界に黒長髪の後ろ姿が飛び込んできた。何かから俺を守ろうとする態勢で、両手を広げている。

 

「………ユキノ、シタ………」

 

 あれ?

 俺ってこいつの名前知ってたっけ?

 そもそもこいつと面識ってあったっけ?

 

「起きたか、ハチマン」

 

 ああ、そういやサカキとバトルして、リザードンが暴走したんだっけな。ということはここはまだ飛空艇か。

 

「ザイモクザの、様子………見てきてくれないか…………」

 

 頭がぐわんぐわんするが、無理して身体を起こし、黒長髪の少女に退室を仕向ける………はずだったが、見かねた少女に体を起こすのを手伝ってもらった。

 

「………分かったわ。何かあれば呼びなさい。すぐに駆け付けるから」

 

 そして、じっと少女の瞳を見やると小さくため息をついて了承してくれた。

 

「………これは、どういうことだ」

「………『レッドプラン』、あれの実験で今まで力が抑えられていたが、ダークオーラを纏ったことで目を覚ましたとみていいだろう」

「『レッドプラン』………?」

「………記憶を食わせたのか。まあいい。お前たちは今ダーク化したことにより、暴走と紙一重の所に立っている状態だ。………ハチマン、呑まれるなよ」

「……………要は常に冷静にいればいいんだろ? 熱くならなければ暴走したとしても我を忘れることはない」

「果たして、それはどうかな」

「言ってくれる………」

 

 呑まれるなというのは自我を失うなってことだろ。

 一度目があれなら、次は絶対抑えるさ。

 

「お前の実力は当に知っている。バトル山を制覇らしいな。それだけで、この八か月どのくらい成長したのか手に取るように分かる」

「………なら、なんでバトルなんか………………」

「偶然とはいえ、ロケット団の遺物がお前に行き渡ってしまったのだ。強大な力にお前が呑まれないか心配にもなる」

「………それは反勢力にならないためか?」

「ただの親心だ。自分の息子には何もしてやれなかった。だからお前に重荷を背負わせたオレ自身が、手取り足取り教え込もうという、泣ける話だ」

「………自分で泣ける話とか、言ってて恥ずかしくねぇのかよ」

「一年前、長年探していた息子にようやく会えた。それまで何もしてやれなかったオレの方が恥ずかしく思う」

「所詮、アンタも人の子ってことか」

「そうだな」

 

 おいおい、どうしたってんだ、サカキさんよ。らしくないことばかり言いやがって。

 

「カントーに着いたら、まずは協会を動かせ。カントーやジョウトの各地にオレの部下たちがいる。マチスやナツメに従っていない者は排除しろ。危険要素の塊だ。それと、そいつらを従える者もな」

 

 らしくないと言えば、ロケット団に対してもだ。俺を脅迫してまで自分の組織を壊そうだなんて、一体何を考えてるんだ?

 

「いいのかよ、一応アンタの部下だろ?」

「いづれ分かる」

「そうかよ。なら遠慮はしないからな」

「ああ」

 

 まあ、ボスがやれと言ったんだ。俺も言質を取った。これ以上俺が言うことは何もない。ただ、言われたようにロケット団を壊滅させるだけだ。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「ここか………」

 

 サカキの飛空挺でカントーに帰ってきてすぐ、そのままカントーポケモン協会本部に足を運んだ。ユキノシタとザイモクザも付き添いで来ている。

 来なくていいと言ったんだが、どうしても離れる気はないらしい。ザイモクザに至っては恨めしそうな視線を時折送ってくる始末。一体何がしたいんだか。

 

「さあ、いくわよ。私も報告しなければいけないのだから」

 

 それは初耳だ。

 一体何を報告するって言うんだ?

 

「………心配しなくてもあなたとサカキのことについては何も言わないわ。そこはあなたの判断に委ねます」

 

 要はサカキについて深く知っているのは俺なのだから、言うか言わないかは俺が判断しろとな。

 分かったよ。下手にお前らが説明しても今度は俺の立場が危うくなるだけだしな。

 

「で、お前はどうすんの?」

「我はしばらく厄介者になるつもりである」

「はあ………」

 

 やっぱり一人にさせてはくれないのか。

 

「というか、今のお主を一人にしておいていいものか、我では判断出来兼ねる」

 

 さいですか…………。

 まあ、仕方ない。ついてくるというのだから好きにさせよう。俺の説明も省けるかもしれんし。

 

「失礼します」

 

 懐かしい理事長室を入ると、これまた懐かしい人がいた。そもそも懐かしいといっても八か月ぶりなんだけどな。これを長いととるか短いととるかは人それぞれだろう。

 

「ご苦労………だ…………ッ?!」

 

 振り向いた理事が俺の顔を見るや、目を見開いた。死んだと思っていた奴が帰ってきた、そんな顔である。

 そんなに信じられないことなのかよ………。

 

「ハチ、マン………。ハチマン、なのか………?」

「逆に誰に見えるんだよ」

「お前、ポケモンタワーでゴーストタイプのポケモンたちに食われたんじゃなかったのか…………?」

「や、そっちの方が驚きだわ。誰だよ、そんなデマを流した奴は………」

 

 マジで死人扱いになってたし。

 なんだこれ。

 たった八か月顔を見せなかっただけで、そんな噂流れるなんて、俺って割と有名人?

 やだなー。有名人とか超面倒じゃん。顔が知られてるようなもんなんだし。

 

「理事、これではっきりしましたよね」

「あ、ああ………。君の言う通りだったな」

「ユキノシタユキノ、任務から只今戻りました」

「う、うむ。ご苦労だった。それで何がどうなっているのだ?」

「彼がシャドーふぐっ?!」

 

 素人のお前がシャドーのこと話してもしょうがないだろ。

 俺はユキノシタの口を塞ぎ、代わりに説明を始めた。

 

「俺はこの八か月、シャドーに軟禁されていた。その間、ダークオーラというポケモンの能力を飛躍的に上がるオーラを纏ったポケモンを育てされられていたんだ」

「………そうか、それで捜査に赴いたユキノに……」

「なあ、もう少しマシな奴寄越せよ。こいつ、すげぇ素人くさい動きばっかしてたんだけど」

「んぐっ! んんっ! んんーっ!!」

「あ、すまん………」

 

 あ、やべ……。

 ずっと塞ぎっぱなしだった。

 窒息する前に口から手を離してやる。

 すると涙目で恨めしそうにこっちを見てきた。

 

「なんだ、このラブコメ………。リア充爆発しろ」

「ふん!」

「ふひっ!」

 

 取り敢えず、ザイモクザにチョップを入れた。

 

「潜入捜査に名乗り出たのは彼女自身だ。私はその意気込みを尊重し派遣した」

「ならせめて潜入捜査の特訓でもさせてから派遣しろよ。あれじゃすぐに捕まってたぞ。現に俺がすぐに捕まえたし」

「………ハルノの仕業か。妹に無茶させて」

 

 ユキノシタの姉だろうか。

 まあ、何にせよユキノシタに潜入捜査させるのは今後やめていただきたい。あれじゃ、こっちのピンチになり兼ねないわ。せめて誰かと組ませてほしい。

 

「で、だ。シャドーの方は一旦体制を立て直さなければならなくなっているはずだ。しばらくは大人しくしてるでしょうね。それよりも噂ではまたロケット団が活動を再開したみたいですよ」

「っ?! ロケット団………、確かに最近また事件が増えてきたと思ってはいたが………」

「今ならまだ本格的に動き出したわけじゃない。叩くなら今だと思うんだが………」

 

 これでいいのか、サカキさんよ。

 

「分かった。詳しく聞こうじゃないか。………あー、すまんがしばらく二人にしてもらえないだろうか」

「………………分かりました。終わったらお呼び下さい。その男を一人にさせたくないので」

 

 ………それにしても何故この二人は俺を一人にしようとしないのだろうか。

 

「………そもそもどこでロケット団の噂を聞いたのだ? この八か月シャドーにいたのだろう?」

「そりゃロケット団から聞いたからに決まってんじゃないですか。シャドーにはダークオーラの他に、他人のポケモンを奪う道具がありましてね。その道具を使って、ダークポケモンにされていたエンテイとスイクンを奪い、脱出してきたんですよ。そこにロケットのボス、サカキが現れた。それだけです」

「サカキ…………自らロケット団を滅ぼすつもりか………?」

「いや、あれはどちらかというと組織内の統制を一本化させるためでしょうね。サカキなき今、誰が指揮統制をしているのかは分からないが、少なくとも意見が割れていることは確か。マチスとナツメ派以外は排除しろって言ってましたよ」

「………そうか、少し考えさせてくれ。取り敢えず、ハチマン。ロケット団の掃討作戦を立てるとしても、お前は顔出しをするな。名前も伏せろ」

「………理由は?」

「お前はロケット団に顔が割れている。それに恐らく参加することになるであろうユキノの姉がお前の顔を見たら、面倒くさいことになり兼ねない」

「………そんなにヤバいのか?」

「お前なら会えば分かる」

 

 やだなー。会いたくないなー。

 そんな脅しまがいのこと言わないでおいてくれると良かったのに。

 逆に身構えちゃうじゃん。

 

「それとお前の所属は理事直属にしておく。一度はチャンピオンにまで上り詰めたその実力。私のもとで存分に使ってくれ」

 

 …………他にどんな所属先があるのかは知らんが。

 まあ、一番待遇がいいということなのだろう。

 なんやかんや就職先が決まってしまった。働きたくないでござる。

 

「手配が整い次第、追って連絡する。それまでは………」

 

 理事は俺の方に両手を深く落とすと一息飲んだ。

 

「ゆっくり休みなさい」

 

 そして、安堵した声でそう言い放った。

 

「うっす」

 

 取り敢えず、サカキに言われた通りにロケット団討伐部隊が組まれることになるだろう。

 どうなっても知らないからな、サカキ。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 討伐部隊の招集がかけられるまでの間、束の間の休日となった。

 ポケモンセンターで夜を過ごし、翌日家に帰ろうかとも思ったが、これからやる事が事なだけに足を向けるのが躊躇われた。だからといってコマチの顔を見ないでいいかというと、しばらく会っていないので見たい気持ちの方が強い。

 会うことは避けた方がいいが見るだけなら………。

 そう思い、クチバのトレーナーズスクールに向かうことにした。昼間であれば、コマチもそっちにいるだろうし、外に出ていれば見れる可能性もある。

 ただ、当然のようにユキノシタがついてきている。ザイモクザは何かすることがあるらしい。「締め切りが」とか言ってたし、また何か書いてるのかね。

 

「………何かしら?」

「いや、何も」

 

 もう特にいうことはない。

 こいつが俺を1人にする気がないのは重々分かった。

 

「………お前さ、何で俺を知ってるんだ?」

「………覚えてないのね。私をこんなにまで変えてしまったっていうのに」

「何かしたのかよ」

「思い出すまで忘れてなさい。忘れた罰よ」

 

 言いたくないなら別にいい。

 特に知りたいわけでもない。

 俺の過去とか碌なものじゃないし、忘れたなら万々歳である。

 

「と、着いたか」

「ここって………」

「俺が通ってたスクールだよ」

「知ってるわよ、そのくらい。私も通ってたのだから」

 

 へぇ、こいつもこのスクールの出身なのか。

 まさかそれで俺のこと知ってるとか?

 一番あり得るな。

 

「ただまあ、関係者以外立ち入り禁止なのが普通だよな………」

 

 校門に来たがしっかりと施錠されている。

 それが普通であり、安全対策をしっかりとしている証拠である。

 だが、これだとどう入ったものか………。

 柵を乗り越えたら不法侵入になるだろうし…………。

 

『ぐへっ!?』

 

 っ!?

 ヤドキング?!

 なんかいきなり上からヤドキングが降ってきたぞ。

 見たところ、バトルに負けたという感じである。

 

「あれは………校長の………ヤドキング!」

 

 すぐにトレーナーが駆けつけてくるものだと思い、ただ見ているだけにしていたが、ユキノシタの方がヤドキングが飛んでくるや否や柵を乗り越えて駆け寄っていった。

 

「何があったの!?」

『………ロケット………、オレっちの攻撃…………ああの数は、むり……………」

 

 途切れ途切れに聞こえてきたのは、どうやら想定外のことが起きたということだった。

 状況がよく分からないが、取り敢えずヤドキングを倒した相手が校内に入る。しかもユキノシタの発言から取れば、あのヤドキングが校長のポケモン。俺が特例の卒業試験をした時にバトルしたヤドキングである。そんな奴が無状にやられてくるなんて相当腕が立つ相手らしい。

 

「取り敢えずオボンの実を食べて。………ヒキガヤ君! いくわよ!」

「えっ? 俺も行くの?」

「当たり前でしょ? 何かよくないことが起きているわ」

「はいはい………」

 

 はあ…………、コマチは無事だろうか。

 校長のポケモンがこうもやられてくるんだしなー。

 下手したら、生徒職員が人質になっている可能性だってあるぞ。

 

「…………もしもの時は、頼むぞ」

 

 そう呟くと、俺の影が動いた。

 よし、いるな。

 さて、後はどうしようか。

 もし、想像通りのことが起きていたりしたら、下手に動けはしない。相手に見つからずに倒すのが先決だが、一緒にいるのが潜入捜査がド素人な奴だし。

 逆にこいつから離れるのも得策じゃなさそうだ。

 

「ゴルバット、エアカッター!」

「アリアドス、どくばり!」

「「「「スバット、ちょうおんぱ!」」」」

 

 チッ!

 悪い方に出たか。

 しかもこの声の数。相当な数だ。

 それを生徒を守りながら職員たちで守りきるのは無理な話といえよう。

 数の暴力反対!

 

「オーダイル、ギャロップ!」

「おい、ユキノシタ。どうする気だ」

「止めるわ!」

「できるのか?」

「バカにしないで。シャドーでは潜入捜査に慣れていなかっただけで、バトル自体は身体に染み付いているわ」

 

 そういうことじゃない。

 人質がいた場合のこととか考えているのかと聞いてるんだ。

 

「そうじゃなくて…………っ!! いや、いい。なんでもない」

 

 あー、そうか。

 要はこいつが正面から行って、俺が密かに動けばいいのか。

 ユキノシタという新たな敵が現れれば、敵ばそっちへ集中するだろう。俺がその隙に動けばなんら問題はない。

 

「あー、一つ頼みがある」

「なに?」

 

 校庭に人だかりができている。

 目につくのは全て黒い服を着た怪しい者たち。背中には『R』の文字が刻まれていた。

 それにしても数が多い。多すぎる。はっきり言って黒服だけで百はいるように見受けられる。

 

「俺の名前を呼ぶな。多分、コマチーー妹がいると思う。これからやることを考えるとあいつを巻き込みたくない」

「…………善処するわ」

 

 ユキノシタはそれだけ言って、敵陣へと突入していった。

 

「オーダイル、アクアジェット! ギャロップ、かえんぐるま!」

「「「ぐあぁぁっ!!?」」」

 

 オーダイルが水のベールを纏い駆け抜け、ギャロップが炎を纏い追撃していく。

 

「今だ。ツルミ!」

「はい!」

「カイリキー、ばくれつパンチ! サワムラー、まわしげり!」

「ハピナス、プクリン、タブンネ! マジカルシャイン!」

 

 それに呼応するかのように、中からも反撃が始まった。

 あの中にヒラツカ先生とツルミ先生がいるのか。ということはおそらくはあそこに生徒が集まっているということだろう。

 

「フーディン、サイコキネシス!」

 

 校長もかよ。

 ということはあそこからヤドキングが飛ばされてきたってのか?

 どんだけ飛ばされてんだよ。結構な距離あるぞ?

 

「数が多すぎる………」

 

 フーディンのサイコパワーをもってしてもロケット団の下っ端どもの数は減る気がしない。中から校長、ヒラツカ先生、ツルミ先生を主導に全生徒を守り、外からユキノシタが攻撃を仕掛けているが、時間の問題だろう。

 

「俺も動くか」

 

 逆にあの数を相手にやり合っていることがすごいことだ。それだけあの三人がすごいということなのだろう。だが、それも時間稼ぎにしかなっていない。

 取り留めやるべきことは生徒の安全確保。ならば、一ついい方法がある。

 

「早速だが、頼むぜ」

 

 スクールに通う生徒は六学年ある。低学年はまだまだ幼い。黒い穴でロケット団を呑み込めば、少なからずトラウマを植え付けてしまう可能性がある。そうでなくとも今の状況がトラウマになりかねない。

 

「捕らえるのは生徒の方だ。今日の記憶を食ってやれ」

 

 だから黒い穴に捕らえるのは生徒の方。

 

「きゃあっ!?」

「うわっ!?」

 

 よしよし、上手くいったみたいだな。

 後はロケット団の連中を倒すのみ。

 

「なん………だと………? 生徒が、呑まれた…………」

「ルミ! みんな!?」

「むぅ………」

 

 あ、すんません。

 いきなりだと驚くよね。

 

「アーボック、どくばり!」

「先生、危ないっ!?」

 

 生徒が急に消えたことで先生たちに大きな隙が生まれてしまった。

 まあ、これは俺のせいなので、俺が対処するのが筋ってもんだろう。

 あ、でも何か顔の隠せるもんないかな。顔出しすんなとか言ってたし。

 ………あー、そういやパーカー着てるんだったな。今はフードで凌ぐとするか。

 

「リザードン、かえんほうしゃ」

 

 先生たちが目を離した隙に飛び込んでいったアーボックを丸焼きにした。

 

「何者っ?!」

 

 赤い髪の………恐らくアーボックのトレーナーだと思われる女が、炎の道筋をたどってこちらを向いてきた。

 

「………通りすがりの、ポケモントレーナーだ」

 

 変身はできないぞ。

 

「全員で攻撃しなさいっ!」

 

 赤髪の女が下っ端に命令を出した。

 となると、あれがこの集団のトップかそれに近い位置の奴なのだろう。

 

「なっ………?!」

 

 なら、もっと心を折ってやればいい。

 俺は黒い穴を開かせ、すべての攻撃を吸収した。途中で技と技がぶつかり合い、爆発も起きたが俺にダメージはない。

 全員攻撃をものともせず傷一つなく立っていたら、さぞ心が折れることだろう。

 

「さて、お前らに選ばせてやろう。ここで投降するか生徒と同じように死ぬか。二つに一つだ。逃げるだなんて考えはするだけ無駄だぞ。何をしようが一瞬であの世行きだ。生徒のように、な」

 

 おいおい、今日は楽しそうだな。

 黒いのも乗ってきたのか、俺の周りに黒いオーラを放ち始めた。

 

「く、くそっ……!」

「そんなウソに引っかかるか! ドガース、スモッグ!」

「嘘か………。ならこれでどうだ?」

 

 男性下っ端二人が忠告を無視し、一目散に逃げ始めた。

 

「「ぐあぁぁぁっっ!!」」

 

 だから忠告通り、黒い穴に吸い込んでやった。

 

「これで今の二人はあの世へ行ったぞ。さあ、どうする? 生きるか? 死ぬか?」

 

 実際に目に焼き付けてしまえば、人間恐怖を覚えるというものだ。

 

「いやだ………」

「………死にたくない…………」

「アテナさん!」

「死にたくないです!」

 

 泣き縋るように下っ端どもの声が次々と上がってくる。

 

「お断りよ! クサイハナ、ラフレシア!」

 

 だが、それを赤い髪の女は一言で跳ね退け、そのままポケモンを出すと、妙な粉をまき散らした。

 これは………、ヤバいな、どくのこなだ。しびれごなならまだしも毒とは厄介な。下手すれば吸った人間が死ぬ。

 

「リザードン、翼で仰げ」

「シャアッ!」

 

 きりばらいでも覚えさせておくべきか。いや、この場合はかぜおこしの方が有効か。似たようなネーミングなのに技の効果が違うというのも面倒な話だな。

 

「チッ………、逃げられたか」

 

 粉が晴れるとヤミカラスに捕まり飛んでいく赤髪の女の姿が見えた。

 深追いはしない方がいいだろう。

 そこまでして首を突っ込まなくても、これから突っ込むことになるんだしな。

 

「ちょっとでも下手な動きをしてみろ。一瞬だぞ」

 

 下っ端たちに釘を刺すと首を縦に大きく何度も振った。

 

「………結局一人で片づけてしまうのね」

「ユキノシタ………、知り合いなのか?」

「ヒラツカ先生、お久しぶりです。彼の話は後程。今はロケット団を警察に預けるのが先です」

 

 騒ぎが収束したところでファンファンとサイレンの音が聞こえてきた。

 ようやく警察の到着である。

 

「事情聴取は儂が行ってくる。生徒のこと、頼むぞい」

「うぃっす」

 

 音もなく俺の横を校長が通り過ぎて行った。気配がなさ過ぎて怖いんですけど。

 バスから出てきた警察は百はいるロケット団を次々次々と乗せていく。それでも足りないのか押し込むようにバスの中に詰め込み始めた。中では一体どんなことになっているのやら………………。

 

「さて、ロケット団もいなくなったことだし」

「………お前は、何者だ……。生徒たちをどこへやった!」

 

 校長は早々と気づいたようだが、ヒラツカ先生を始めとする職員一同は俺に敵意を向けていた。

 

「出してやれ」

 

 黒いのに合図を送ると、再び黒い穴ができ、そこから吸い込んだ生徒一同を放り出していく。怪我しないように着地も黒いオーラで補強しているようだ。

 

「みんなっ?!」

「寝てる………のか?」

 

 寝ている生徒たちを見ていると、ふと見知った顔を見つけた。

 

「………コマチ、元気にしてるか?ごめんな、ずっと連絡しなくて。まだもう少し帰れそうになくてな。………こんなお兄ちゃんでごめんな。ちゃんと帰るから。それまでお利口にしてるんだぞ」

 

 静かな寝息を立てている。元気なようで何よりだ。

 それにしてもコマチをこんな危険な目に遭わせるとか、ロケット団許すまじ。サカキの件がなくても、俺はお前たちをぶっ潰す。サカキが何と言おうとぶっ潰す。

 

「ヒキガヤ………、なのか………?」

「俺は通りすがりのポケモントレーナーです」

 

 ようやく気づいたヒラツカ先生が声をかけてきた。

 だが、今は先生の顔が見れない。

 こんな殺意の篭った目で先生を見るのは失礼ってもんだ。

 

「…………妹を、頼んます。いくぞ、ユキノシタ」

「えっ、ちょ、もう?」

 

 取り敢えずコマチの顔は見れた。

 だが、新たにやることが出来てしまったようだ。

 折角人が適当にやって終わらせようとしていたものを。

 火を付けたのはお前たちの方だからな、ロケット団。

 

「先生方が無事で何よりです。彼のことは今は余り追求しないで下さい。それでは」

 

 コマチ、お兄ちゃんはもう少しで帰るからな。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「ユキノシタ姉妹、シロメグリ、ザイモクザ、ハタノ、サガミ、チームタマナワ、ハンダサムロウ、そしてハチ公。ここにいる者でロケット団残党討伐部隊を編成する。指揮官はハルノ、お前だ」

 

 一週間程の後、俺たちは再びポケモン協会に集められていた。

 どうやらロケット団討伐部隊の編成が整ったようだ。

 当然、ユキノシタはいるし、何故かザイモクザまで召集をかけられていたようだ。いつの間に協会の人間になってたんだよ。

 そして理事の計らいか、俺の名前は伏せられている。代わりに「ハチ公」とつけられたみたいだが………なんかもっといい名前があっただろうに。俺はペットかよ。

 

「はいはーい」

「はるさん、いよいよですね」

「………なにゆえ我も参加することになっているのだ……………」

 

 ま、お前はついでだろうな。事情も知ってるんだし、手伝いなさい。

 それよりもこのぐるぐるメガネに長いコートを羽織った男だ。只者ではない。歳はこの中で一番上だろうし、いくばくか貫禄も感じる。

 かく言う俺も相当アレな出で立ちになっている。

 顔を隠せというものだから、目深い帽子をかぶり、雰囲気を変えるためにマントも買った。ついでにザイモクザに倣って指貫グローブもつけている。もちろん全て黒。別にかっこいいからとか一度やってみたかったってわけじゃない。ないったらないのだ。

 

「詳しい情報はハルノとシロメグリが持っている。チームタマナワを参考に、お前たちでチームを組んでも構わん。自分たちの命を第一とし、ロケット団残党を討伐せよ。奴らの処遇は任せる。以上だ」

 

 それだけ言って、理事は会議室から出ていった。

 

「さて、それじゃまずは情報共有といこっか」

 

 話を切り出したのは指揮官になったハルノという女性。作られた笑顔がとても恐怖心を煽ってくる。

 

「メグリ」

「はい。まず今回の討伐対象ですが、数年前に図鑑所有者によって倒されたロケット団の残党になります。一年前、活動を再開したかと思われたロケット団ですが、トップのサカキの行方不明によりまたしても活動を停止。しかし、ここ最近になってロケット団と思われる集団が動きを見せているようです」

「というわけで、まずはかつての活動拠点となっていたタマムシシティのゲームコーナー、ヤマブキシティのシルフカンパニー、5の島にそれぞれ向かい、調査しようと思うわ」

 

 つまりさっき言っていたチーム分けは三つに分かれるってことか。

 

「チームは………」

「まずは全員でアイスブレイクを行うのはどうかな?」

「それアグリ」

「アグリ」

「みんなもどうかな? コミュニケーションをとることで互いのグランドデザインを共有し、ロジカルシンキングで論理的に考えて、コンセンサスをとることができれば、いいアイデアをシェアできると思うんだけど」

 

 ………………何回考えるんだよ。

 というか、みんな言ってることが理解できたのかよ。

 

「僕はタマナワ。トレーナーズスクールを卒業と同時にチームを結成し、各地でポケモンの生態系を調べている。ちなみにジムバッジは現在六つ獲得したよ」

 

 なんだこいつ。

 どんだけ自分のこと話したいんだよ。自慢か? 自慢話か?

 それから次々とチームタマナワの面子が自己紹介をしていく。超どうでもいい話ばかり聞かされている気分だ。

 

「なるほどねー。確かにこうしてお互いのことを知るのは大事よねー」

 

 ………なんだろう。

 指揮官の女性の声に寒気を覚えてしまう。顔は笑っている。目も笑っている。声も明るい。なのに、背中に汗がつつつーっと流れていった。

 

「それじゃ、次は私だねー。私はユキノシタハルノ。そこにいるユキノちゃんのお姉ちゃんです。あ、あとチャンピオンを務めてた時期もあったし、ロケット団についてはここにいる誰よりも詳しいと思うわ」

 

 ……………へぇ、チャンピオン。

 ……………はっ? チャンピオン?!

 おいおい、なんでまたそんな人がこんなところに。かくいう俺も元チャンピオンの肩書があるわけだが。そんなもん内に等しいし、隠しておくのがベストだ。

 というか、チームタマナワの顔色が一気に青ざめていく。妹だというユキノシタはぷいっとそっぽを向いており、眉一つ動かさないのはハンダさんくらいである。

 

「あっははは……………、はるさんやりすぎですよ……………。あ、私はシロメグリメグリです。はるさんとチームを組んで活動しています。よろしくお願いします」

 

 傍らにいたほんわかした女性は指揮官とは対照的に場を和ませた。

 

「えっと、次はユキノシタ……さん、かな?」

「………ユキノシタユキノ。私は私。姉さんは姉さん。姉妹だからといって過度な期待はお断りします」

 

 シロメグリさんの戸惑った声をかき消すように、つんとした冷たい声で姉と自分は別物だと一刀両断。姉妹仲はお世辞にも良好とはいえないらしい。

 

「私はハンダサムロウ。相棒のグレッグルとともに悪の組織を追っている」

「ぬははははっ! ついに我の出番であるな! 剣豪将軍、ザイモクザヨシテルである!」

「ハチ公。それ以上の情報は非公開だ」

 

 ちなみにハチ公ってすでにプロフィールとかがあったりするのかね。

 やべ、ちゃんと聞いとけばよかった。

 

 取り敢えず、勝手に進む話に耳だけは傾けておこう。何言ってるか分からないけど。

 

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