婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜番外編 作:大岡 ひじき
一応原案は現在公開停止中の18禁番外編に置いてる話と、犬の十戒。
もとが18禁なので若干の性的表現があります。
直接的な描写は避けてますが、これでも問題あるようでしたら削除します。
『気がついたらそうなっていた』なんてのは、言い訳だと思っていた。
或いは、
ましてや自分の身にそんなことが起きるなんて、この瞬間まで思ってもみなかった。
「後悔しているか?俺と……こうなったことを。」
雨に降られ、暖かい部屋にハンガーで吊り下げてなんとか乾いたブラウスの、ボタンを慌ただしく留める背中に、心なしか普段よりも艶のある、低い声がかけられる。
…『している』などと無粋なことを言うつもりはないが、全くないと言うとそれは嘘になる気がして、私は黙ったまま俯いた。
「…そうだろうな。」
その私の沈黙を肯定と解釈したものか、その呟くような声に、苦笑めいた響きが混じったのがわかる。
ますます募る気まずさに、振り返ることすらできずにいる間に、彼の言葉がまだ続いた。
「だが、光の最初の男になれて、俺は嬉しかった。」
…次の瞬間、大きなものに身体が包まれた。
「順番が逆になってしまったが、この際だからはっきり言う。俺は光のことが好きだ。
決して、中途半端な気持ちで抱いたわけじゃない。」
言って背中から抱きしめてくる、ブラウス越しに感じた熱に、先ほどまでは遮るものもなく直接触れ合っていた感触を否応なく呼び起こされて、その声が直接注がれる耳まで、茹で上がったように赤くなるのが、鏡を見なくてもわかった。
と、不意に大きな手に顎を掴まれて振り向かされたかと思うと、肩越しに唇を強引に奪われた。
「んんっ……!」
貪るように舌を絡められ、瞬間、呼吸の仕方がわからなくなる。
部屋の中心に据えられた、乱れたままの大きな寝台の上で、十数分前まで何度も繰り返していた行為ではあるが、その時はいずれも、これほど強引ではなかった筈だ。
…時間にして10秒はなかっただろうが、思うさま貪られたその数秒は、私にはひどく長いものに感じられた。
それがようやく離されたあたりで身体ごと振り返り、抗議の意を込めて睨んでやる。と、
「やっと、こっちを向いてくれたな。」
その青い目を細めたJは、どこかホッとしたような笑みを浮かべて、言った。
・・・
……きっかけは、些細なことだった。
羅刹とのデート?が急遽お開きになり、買い物をしようと思っていた矢先、ナンパ男2人に声をかけられたところを、通りかかったJが助けてくれた。
アメリカ人が傘をささないというのはどうやら本当らしく、そこそこの雨量であるにもかかわらず、ナイロン製パーカーのフードを被っただけで特に気にもしないJに傘を差し掛けたら、そこから兄の話になり。
なんとなく打ちひしがれていたら、さしていた筈の傘が、持ってる意味がないほどに傾いていて。
「…濡れるのは嫌いじゃなかったのか?
まるで、泣いているみたいに見えるぞ。」
そう言って頬に触れたJの手がやけに温かくて、目の奥がツンと痛んで、『気がついたら』その手を、縋るように握りしめていた。
買ったばかりの傘が、手から離れて地面に転がる。
降り続く雨から私を守るように抱きしめてきたJの、その身体の温かさに、冷え切った私は陥落した。
あとは流されるように近くのホテルに足を踏み入れ、濡れた服を脱いでハンガーにかけて、浴室で熱いシャワーを浴びて……そこから先の記憶は朧げだ。
『気がついたら』Jの彫刻のように逞しい裸身と、0.02ミリの隙間すらなく密着しており、初めてその身に受ける痛みと、その先を越えて辿り着いた快楽に、耽り、乱れ、溺れきった。
…身体の奥に与えられた熱を感じた瞬間、逆に頭の芯が急激に冷えた。
「……Can I cum inside?」
直前に確認はされたが、茹だった私の頭はそれに頷いていた。
冷静な頭で思い返して、その事に自分で驚いた。
自分が快楽と誘惑に弱い女だということを、その時になって私は、ようやくはっきりと自覚した。
☆☆☆
「…こうなったからには、絶対
今は塾生の身分だが、留学期間を終えて
軍人の妻となれば気苦労は多いだろうが、なに、ある意味やってる事は今と変わらん。
俺が帰国する際には、一緒に来て欲しい。
いや、もう攫ってでも連れていく。必ずだ。」
一度肌身を合わせただけの女に対し、Jはメッチャ重たいことを言ってくる。
この男は真面目すぎるのだ。
私の身体などの責任を取る為に、彼が一生を棒に振るなど、決してあってはならないことの筈だ。
「えっ、いや、あの…」
あまりのことにあわあわと意味のない声をあげると、微笑んだJが手を伸ばし、私の頭を撫でる。
気持ちいい、と感じて思わず目を閉じると、唇に、今度は啄むようなキスが落とされた。
「諦めていた、一番欲しかったものが手に入ったんだ。
俺は絶対に手放すつもりはない。愛している。」
そう言ってJは再び、しっかりと私を抱き寄せた。
…その腕の熱さが、すべての答えである気がした。
だから。
私は、この時間にすっかり慣らされた彼の、雄の匂いにくらくらしながらも、その胸から顔を上げた。
「では……誓ってください。
これから、私が言うことすべてを。
それが全部誓えたなら、あなたのものになってあげます。」
わざと上から目線でそう言って、間近から青い瞳を見据える。
「判った……言ってみろ。」
そんな私の目を真っ直ぐに見つめ返す彼は、さながら挑戦を受けるチャンピオンのようで、私は深呼吸をひとつすると、その鼻先にビシッと指を指した。
☆☆☆
「まずは絶対に、私より先に死なないこと。
私を守って自分だけ死ぬとかも駄目です。
その時は私も一緒に死にます。」
「私への要求は明確に。
あなたが何を私に求めるのか、察してあげられるとは思わないことです。」
「何があっても私を信じて、時には頼ってください。
絶対に、一人で抱え込まないで。」
「私をあなただけの世界に閉じ込めたりしないでください。
あなたには他にやる事があって、楽しみがあって、仲間もいる。
でも、あなたと一緒に行ってしまえば、私にはあなたしかいないのです。」
「時間がある時は、たくさん話をしましょう。
先ほどは察してあげることはできないと言いましたが、いずれはあなたの少ない言葉からでも、あなたの想いが届くように、私もなりたいと思っています。」
「あなたが私に接するように、私はあなたに接する事でしょう。
だから、私に冷たくされたくないなら、私に優しくしてください。」
「私を傷つけたりしないと約束してください。
そして覚えておいてください。
私はあなたをいつでも殺すことができるにもかかわらず、あなたを傷つけないと決めているのです。」
「私があなたの思い通りにならない時は、頑固だとか聞き分けがないと叱る前に、どうしてなのか理由を聞いてください。」
「私が歳をとって醜くなっても、私を捨てないでください。あなただって歳はとるのです。」
「最初の願いどおりしてくれたなら、私はあなたより先に死にます。
その、最後のその時まで一緒に側にいてください。
『見ていられない』『居たたまれない』などと言って目を逸らさず、私の最期を目に焼き付けてください。
あなたが側にいてくれたなら、最後の日も安らかに逝けるのです。」
☆☆☆
「さあどうです!これが守れますか?」
俺の腕の中で、どうだと言わんばかりに胸を張る彼女の、その可愛らしい要求の数かずに、俺は頬が緩むのを抑えきれなかった。
「ちょっと!何を笑ってるんですか!
私は真剣なんです、ちゃんと答えてください!!」
彼女は判っているのだろうか。
その言葉ひとつひとつが全て、全力で俺の事を愛していると訴えていることに。
強い口調で言えば言うほど、照れ隠しが露呈してくるということに。
胸に湧き上がってくる愛しさを堪えきれず、俺は答えがわりにその小さな手を取ると、細い指先に口付ける。
さっきまでもっと恥ずかしいことをしていただろうに、それだけのことに顔を赤くする彼女の耳元に、俺は誓いの言葉をそっと囁いた。
単にJといちゃいちゃさせるだけの話だった筈が、なんか知らんけど途中から方向性があさって行った。
なんだったんだ一体。