婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜番外編 作:大岡 ひじき
桃の一人称視点。
「…、ですよ。
塾生たちは、みんな………てます。」
夢うつつの中で、心地良い声が聞こえた。
俺の、一番好きな声だ。
何を言っているかよく聞きたくて、俺は横にしていた頭の角度を微調整して、耳を両方解放する。
誰かと話をしているようだが…誰だ?
「仕方ないですね。
今日は私がしてあげますけど、次からは自分でお願いします。
やり方は、私のを見て覚えなさい。」
「判った。」
光の言葉に答える低い声には、聞き覚えがある。
誰だったかな?赤石先輩じゃない。
富樫でも虎丸でも、Jでもなさそうだが…?
「はい、じゃ、脱いで。」
「ああ。」
え?脱ぐ?
「…こんなに大きくなって。
でもこれじゃ苦しかったでしょう?」
え?え??ちょっと待て。
「……な、なんだか距離が近いですよ。
それに、じっと見られていると、ちょっと恥ずかしいです。
私、あまり上手くありませんから。」
「見ていろといったのはおまえだろう。」
何?何がだ!?
「もう…ではまずここをこう押さえて…こう入れて、動かし…痛っ!」
な、なんだ、何があった!?
「だ、大丈夫か?」
「ええ、平気です。
それから、一旦引いて…こう、抜いて…それから、また、入れて…動かして…」
ちょっと待て!俺が寝ているそのすぐそばで、一体何が起こってる!?
「ひ、光──っ!?」
「っっ!!?」
「のわっ!?……痛った───ッ!!」
寝ぼけていた頭が一気に覚醒して、俺はソファーに横たえていた身を起こした。
そこはいつもの光の執務室。
俺が寝ていたのと反対側のソファーには、上半身裸の豪毅(!?)と、うちの制服とは違う学ランを手にした光がおり…光は涙目で俺を睨みつけている。
「ちょっと、桃!
いきなり大声出さないで下さい!
びっくりしてまた指に針刺したじゃないですか!!」
え、針!?鶴觜千本か?刺さった!?
「大丈夫か。すまん、光。
俺が、袖の繕いなど頼んだから…!」
「豪くんのせいじゃありませんよ。大丈夫。
…はい、できました。ごめんなさい。
私、裁縫はあまり得意じゃなくて。
飛燕あたりなら縫い目なんてわからないくらい綺麗に繕えるんでしょうけど。」
俺に向けるのとはまた違う微笑みを浮かべて、光は豪毅に学ランを手渡した。
指差して示しているのは学ランの袖の、どうやら脇の部分のようだ。
「いや、充分だ。ありがとう、光。」
それを受け取る豪毅もまた、他の誰にも向けないような甘ったるい微笑みを光に返す。
「どういたしまして。
豪くんの世話を焼かせてもらうのも久しぶりですから。
…けど、そろそろ制服、発注しませんか?
それ、サイズ合ってませんよね?
明らかに窮屈そうですし、すぐにまた破れちゃいそうですよ。いつから着てるんです?」
「2年ほど前に、急激に身長が伸びた時期があるから、その頃だと思うが。」
「…滅べ。」
「……何?」
「いえ、何でも。
せっかくですからサイズ計り直しましょう。
豪くん、体格がいいから、うちの制服もきっと似合いますよ。」
ここまで2人の会話を聞けば、そろそろ俺にも状況がわかってきた。
「裁縫?制服……?破れ…そ、そうか。」
さっきまでのやり取りは…そういう事だったか。
あらぬ想像をした自分が気恥ずかしくなる。
その俺を見上げながら、光が不思議そうな表情を浮かべた。
「…どうかしましたか、桃?
それにしても派手に寝ぼけましたね。
私の名前を呼んでいたようですけど、どんな夢をみていたんですか?」
言えるわけがない!しかも夢でもない!!
光の質問に、俺は曖昧に笑って誤魔化すしかできなかった。
光から逸らした視線が、今度は豪毅と合う。
豪毅は何事か悟ったような目で俺を見返すと、口角を笑みの形に吊り上げた。
…光からは見えない角度で浮かべたそれは、実に悪そうな微笑みだった。