婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜番外編 作:大岡 ひじき
まだ塾生の登校時間どころか起床時間にすら早い時刻に、私の執務室に飛び込んできたのは、ポニーテールを白いリボンで結わえ、セーラー服に身を包んだ、とても可愛らしい少女だった。
艶のある肌とピンク色の艶やかな唇が、可憐でありながらも健康そうで、まるで瑞々しい果実のようだ。
「…どちら様?」
だがどう考えても見覚えのない、ましてやここに居る筈のない存在に、ナチュラルに誰何する。
「俺だ、光。剣桃太郎だ。」
「はあ?」
名乗られた名に理解がついていかず、私は暫し、間抜けな顔で固まった。
「目覚めたらこうなっていた。助けてくれ。」
そう言って私に取り縋る手から感じる『氣』は、確かに桃のものなのだが…マジ!?
「助けて…と言われましても。何故私に?」
「おまえにしか頼れないだろう。
こんな姿で、寮や塾内をうろつけない。
自意識過剰と思うかもしれんが、はてしなく身の危険を感じる。
だから、同室の富樫にさえ気づかれんように、こんな時間におまえを訪ねたんだ。」
まあ確かに、男ばかりの環境の中でいきなり女の子になってしまったとか、なまじ男の生態を知り尽くしているだけに、恐怖を感じない筈もなかろう。
だが、いくら人体の構造を知り尽くしている私でも、男性が女体化するなんて事例は聞いたことがない。
「それにしても、その格好…」
「これも、目が覚めたらこうなっていた。
身体が縮んで自分の制服が合いそうにないから、ある意味助かっているが。」
…服まで変化しているということは、つまり、肉体的な変異による女体化ではないということだ。
しかし、そうか。
この
ううむ、それにしても……。
「可愛い……!!」
「え?…そ、そうか?
俺としては光のほうが、余程可愛いと思うが…。」
あ!お互いを褒め合うこういう会話、なんか女子っぽい!!
少し嬉しくなって桃の肩口にもたれてみる。
ふわりと、なんとも言えないいい匂いがした。
ギュッと抱きついて、桃の胸元にぐりぐりと頭を擦り付ける。
オウフwww女子の体柔らかいでゴザルwww
「……ひ、光?」
おっと、これはいけない。つい調子に乗った。
「…失礼いたしました。
同年代の同性の友達というのが居なかったもので、なんだか新鮮で。」
とはいえ、桃にしてみれば深刻な問題なのだ。
はしゃいでないで、少しは考えてやらなくては。
「けど、どうすれば元に戻れるかもわかりませんし、ね…。」
「ウム……!!」
と、桃とため息をついていたら、執務室のドアがまたも乱暴に開け放たれた。
「光!」
駆け寄って抱きつくように両肩を掴み、私を呼んだその人は、やはり見覚えはないがとても綺麗な女の子だった。
紫…いや、モーヴという色か…の、身体のラインがはっきり出るワンピースに、パフスリーブのボレロといった服装は、どっかのお嬢様学園の制服だろうか。
烏の濡れ羽色の漆黒の髪は縦ロールに巻かれ、意志の強そうな瞳は、長く濃いまつ毛に縁取られている。
おそらく走ってきたのであろう、息を弾ませ、頬がうっすら上気したその貌に、女の私ですらドキリとするほどの凄まじい色気を感じた。
「…どちら様?」
「俺だ、豪毅だ姉さん!助けてくれ!!」
…なんだろう。物凄いデジャヴを感じるんだが。
「豪毅…藤堂豪毅か!?」
「…豪くん!?」
私と桃の問いに、こくこくと頷いて向けてくる縋るような瞳に、何故かうっすらと涙が浮かんでいる。
「目が覚めたらこんな姿になっていて…同室のゴバルスキーに、危うく…!!」
「私の弟をよくも!あのオッサンぶち殺す!!」
そこまで聞いただけで頭に血が上り、寮に向かって駆け出そうとした私を、桃が慌てて止める。
「落ち着け!」
「…そうですね。落ち着いて下さい豪くん。
と、とりあえず…深呼吸して。」
「俺が言ったのは…いや、いい。」
なんか桃がなにかを諦めたような顔したけどなんなんだろう。
「わ、判った……!」
すー、はー、すー、はー。
私の言葉に従って深呼吸を始めた豪毅の、柔らかそうな胸が上下して、揺れる。
ふるふる。ふるふる。ふるふる。
「…うああ巨乳滅べ!!」
「だから落ち着け光!」
唐突に気持ちが昂り思わず叫んだ私を桃がまた取り押さえ、豪毅は驚いたように見つめる。
「ね、姉さん!?」
そう呟いた言葉が、唐突に琴線に触れて、私は豪毅を見つめ返して、言った。
「…もう一回。
いえ、姉さんではなく…お姉様と。」
「は?」
私の言葉の意味が一瞬判らなかったのか、豪毅が問い返してくる。
近くで見ると、桃とは逆のタイプの、洗練されたタイプの美少女だ。
思わず私の理性が飛ぶ。
「お姉様と呼んでください豪くん!」
「あ…お、姉さ、ま?」
「もっと大きな声で、はっきりと!!」
「…っ、お姉様…!?」
「悪役令嬢系超絶美少女のお姉様いただきましたあぁ──ッ!!!!」
本でしか読んだことのない憧れのシチュエーションをリアルに体験して、私は歓喜のあまり拳を振り上げて叫んだ。
…ふと気がつけば桃と豪毅が、何かものすごく残念なものを見るような目で、私を見つめていた。
…いや、お前らが美少女過ぎるのが悪いんだよ!
桃と豪毅の間の情報交換が済んだタイミングで、私の執務室のドアがみたび、乱暴に開け放たれた。
「おい、光っ!!」
「今度は赤石か!お前赤石だろ!!」
そこに現れた人物に向けて、間髪入れずに言葉を投げる。
「……何故俺だと判った。」
「銀髪と癖毛!あと服装まんまやないかい!!」
…そこで後頭部を掻きながら怪訝な表情を浮かべる長身の美女は、男の時に比べてかなり寸が縮んでいるが、普段赤石が身につけている肩当て付きの改造学ランを身につけている。
但しその下はヘソ出しチューブトップと革のショートパンツにニーハイブーツだけど。
あと例の刀もかなり寸が縮んだ状態で、やはり背中に背負っている。
しかもそれを負うための下緒が胸の間を斜めに通っている…所謂、パイスラッシュ状態で。
「あなたも目が覚めたらそうなってたって言うんでしょう!?
そのパターンもうこの二人でお腹いっぱいです!!
てゆーか女体化したら
☆☆☆
「……という夢を今朝みたんですが。」
「「「病院行け!」」」
…アタシはきっと頭がおかしいんだと思う。
もうほんとすいません。