婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜番外編   作:大岡 ひじき

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ここでの塾生は、笑いの沸点低いです。
笑っちゃダメと言われるとしょうもないことでも笑いたくなる心理が働いてると解釈してください。
…今年の年末に向けて準備してましたが我慢できなくなりました。


絶対に笑ってはいけない男塾24時(前編)

「なんか猛烈に悪い予感がするのう。」

 

 ・・・

 

「という事で今から、根性試しの合宿に入ります。」

「という事に繋がる経緯が、全部省かれてるじゃねえか!」

「私の知った事ではありません。

 私は塾長から司会・進行を任ぜられているだけです。」

「いい加減だな!」

「…しかも、なんで今日の光はセーラー服なんだ?

 まあ、可愛いけど…。」

「よくは判りませんが司会は女装しなければいけないそうです。

 塾長から渡されましたのでそのまま着用しています。」

「いや、女装って…。」

「細かいことはいいんです!

 そんな事より、これから富士山へと向かいます。

 校庭にバスが到着しておりますので、全員直ちに乗り込みなさい。

 そして今から24時間、何が起ころうとも、決して笑ってはいけません。

 笑ったと判断された場合、教官達から愛の根性バッタによる指導が入りますので、皆さんそのつもりで。」

「うげっ……!」

「あと、虎丸は大放屁は禁じ手とします。」

「え〜!?ちぇ、せっかく準備してたのに。」

「ぶふっ!」

「…富樫、アウトー。」

「えっ!?も、もう始まってんのかよ…んぎゃっ!!」

「crazy……!!」

 

 狂気の合宿が、こうしてスタートした。

 

 ☆☆☆

 

「これより驚邏大四凶殺を始めます。

 豪学連組、前へ。」

 光の声を合図に、対陣から4人が進み出てきた。

 …伊達と三面拳、姿が見えないと思っていたらあちら側に居たのか。

 

「三面拳・雷電、参る!!」

 名乗りを上げ、更に一歩進み出てきた雷電を、Jが迎え撃……うん?

 

 …雷電は無表情のまま、ちょんちょんと自身の額を、指先でつついてみせた。

 そこにはいつもの通り、『大往生』の文字…あれ!?

 

 大 学 生………!!?

 

「「「ブフォオ!!!!」」」

「J、田沢、松尾、極小路、椿山、アウトー。」

 

 …危なかった…俺も危うく決壊しかけた。

 精神注入棒が肉を打つ音と悲鳴が響く中、俺は密かに安堵の溜息をついた。

 すまん、皆。

 

「てゆーか、それ刺青じゃなかったのかよ!

 なんで文字変えられるんだ!?」

孚孚孚(フフフ)…我が大往生流の極意は、髪から足の爪まで、身体髪膚すべてを鍛え上げ、おのれの意のままに武器とすることにあり!!

 …このように『女学生』や、『王大人』も思いのままよ!」

「やめろ───っ!!」

「全員、アウトー。」

 ……耐えきれなかった。

 最後に雷電が額に形作った『安全第一』で、俺はとうとう決壊した。

 

 

「……え?もう私の出番ですか?」

 光に声をかけられ顔を上げた飛燕は、どう見ても場違いな籐製の長椅子の上で、鶴觜千本を使って編み物をしていた。

 しかも膝の上には何故か、結構な大きさの茶トラの猫が寝ている。

 

「仕方ありませんね…はい、ちょっと退いて。」

 言いながら、飛燕は膝の上の猫を抱き上げて隣へ移す。

 寝ていた猫が目を覚まして、不満そうな声を上げた。

 

「うなんな。」

「文句言わない。」

 ここでまた数人が吹き出して、根性バッタの餌食になる。

 そんな地獄絵図とはまるで異世界のようなゆったりとした動きで飛燕は立ち上がりながら、手にしていた編みかけの何かを、やはり籐製のローテーブルの上に乗せた。

 

「おっと。」

 と、その拍子に毛糸玉が一個、そのローテーブルの上から転げ落ちた。

 瞬間、寝ぼけていた猫の目が輝き、それに向かって突進する。

 猫は転がる毛糸玉を捕まえると、コロンとその場にひっくり返り、それに嚙みつきながら、両脚でガシガシと蹴った。

 それを飛燕が抱き上げて、さりげなく毛糸玉を取り上げる。

 猫がまた不満げな声を上げた。

 

「うなんな。」

「こら。悪戯しちゃ駄目でしょ…伊 達。」

 

 ブッフォォオ!!!!

 

「全員、アウトー。」

 光の非情な声が響き渡り、俺たちの身にまたも、鬼ヒゲの根性バッタが炸裂した。

 

「…お前らが普段、俺をどういう目で見ているかよくわかった。」

 三面拳が籐家具を片付けている間、その後ろから恨めしげな伊達の、地を這うような低い声が響いてきた。

 

 …と、運搬していた籐製ソファーの、クッション部分に猫の毛がついていたものか、月光が執拗にコロコロをかけ始めた。

 

「あいつ、目ェ見えてねえなんて嘘だろ!!」

 虎丸がそうつっこんだ瞬間、富樫が吹き出した。

 

「富樫、アウトー。」

「虎丸!てめえ──っ!!」

 次に続いた精神注入棒の音と富樫の悲鳴に、俺の隣で何故か、Jが十字を切っていた。

 

「見せてやろう…辵家(チャクけ)流棍法術…!!」

 一旦引っ込んでから、何事もなかったかのようにそう言う月光に、何人かが耐えきれずに吹き出す。

 その者たちの名を呼んで宣告する光の声を背中に聞きながら、筆頭としての無力を噛みしめた。

 …いや、目をそらしてはいけない。

 奴らの尊い犠牲を無駄にしないためにも、死に様を目に焼き付けておかねば…あ、死んでないか。

 

「桃ー、警告。

 ちゃんと月光の方見てなきゃ駄目ですよー。

 次に逃避したら、笑わなくてもアウトです。」

 ………ちっ。

 

 そうしている間に月光の演武が始まる。

 相変わらず見事な、目にも留まらぬ棍さばき。

 さすがというほかはない。ただ…

 

「いや、それ棍じゃなくてゴボウだろ!」

「む…すまぬ。

 この月光、生来目が見えぬゆえ、間違えてしまった。

 うむ、わたしの棍はこちらだな。」

「絶対嘘だろ!しかもそれ大根!!」

「全員、アウトー。」

 …地獄絵図が繰り広げられる。

 それにしても先ほどから、タイミングよくツッコミを入れては笑いを助長させている虎丸は、ひょっとして密かにあちら側の人間なのではなかろうか。

 …い、いや、仲間を疑うのは良くないな。止そう。

 そもそも、あいつも根性バッタ受けてるし。

 

「豪学連総長伊達臣人、前へ!」

 光の呼びかけに応えて、奥から出てきたのは…

 

「うなんな。」

 

 …さっきの猫だった。

 しかも御丁寧に、折り紙で作られた兜を頭に被せられている。

 

「全員、アウトー。」

 またしても全員が決壊し、そろそろ疲れてきたらしい鬼ヒゲの代わりに、確か安松とかいう新任教官が精神注入棒を振るっていた。

 …そういえばこの教官が赴任してきた時、光が、

 

「いい年齢の筈なのに言動のあちこちに漂う童貞感が逆に怖い。」

 とか言っていたが…うむ、余計な事は考えるな俺。

 

 

「驚邏大四凶殺、これにて終了です。

 次の目的地に向かいますので、全員速やかにバスに乗り込んでください。

 尚、ここより先は伊達と三面拳も合流、同行します。」

 光の言葉に従い、どことは言わないが散々張られて痛む部分をさすりながら、俺たちは元来た道を戻ってバスに乗り込む。

 

「伊達、結局お前何にもしてねえじゃねえか!」

 と富樫が突っ込むのに対し、伊達は三面拳の手を借りて鎧兜を外しながら答えた。

 

「…ただ意味ありげに座っていろと、飛燕に言われてそうしていただけだ。」

 言いながら苦々しい表情を浮かべているところを見ると、猫の件で結構な精神的ダメージを食らっているらしい。

 ちなみにその猫は、ようやく座ってまた編み物を始めた飛燕の膝にすかさず飛び乗り、すぐに寝息を立て始めた。

 この、完全に飛燕に甘えきってるあたりがやはり伊達っぽい…と少しだけ思ったが、さすがに口に出して言ったら殺されそうな気がするので黙っておくことにした。

 

 ☆☆☆

 

 連れられてきた先は、長野八ヶ岳連峰、八竜の長城。

 大威震八連制覇が開催されたまさにその場所、という事は。

 …ウム、もう嫌な予感しかしない。

 

「大威震八連制覇、これより開催いたします。」

 やっぱりか。

 

 ・・・

 

「蝙翔鬼です…蝙蝠使えば空飛べるのに、磁冠百柱林の柱から落下しました。

 蝙翔鬼です…天稟掌波でうっかり死穿鳥を撃ち落として、男爵ディーノに殺されかけました。

 蝙翔鬼です…しかも次の日、俺の義手シリーズ一式が、全部掃除機のノズルにすり替えられてました。

 蝙翔鬼です…蝙翔鬼です……蝙翔鬼です………!」

 …すいません先輩。不憫すぎて笑えません。

 助かったけど。

 てゆーか報復が地味すぎますディーノ先輩。

 俺たちが笑うどころかしんみりしてしまったその空気に、蝙翔鬼先輩は涙目で後ろを振り返った。

 

「己の始末は己でつけろ。

 奴らを笑かす以外、貴様に生きる道はねえ。」

 その視線を受けて卍丸先輩が、マスクを外してタバコに火をつける。

 その時。

 

「わ、わは……はははっ!」

 俺たちの後ろから、明らかに無理矢理作った笑い声が響いた。

 全員がその声の方に注視すると同時に、光が戸惑いながらも、笑い声を上げた人物に判定を告げる。

 

「ええと…その、一応ルールですので…雷電、アウトー。」

 その判定に頷いて、雷電が根性バッタの洗礼を受ける。

 漢だ、漢がここにいる。

 

「ら…雷電!おまえは、本当にいい奴だなっ!!」

 その雷電に、蝙翔鬼が滂沱の涙を流しながら駆け寄った。

 

「蝙翔鬼殿…我らは、一度は敵として戦ったとはいえ、同じ男塾の塾生、仲間。

 仲間ならば、困った時はお互い様でござる…ウッ。」

「ら、雷電───っ!!」

 …いや、なんだこの茶番。

 

「って!これじゃまるで俺が悪モンじゃねえか!

 だーもうわかったよ!!

 こうなったら根性バッタでもなんでも、俺が責任取って受けてやるぜ!!」

 半分自棄になったような勢いで、卍丸が教官達の前に進み出る。

 …が、その間に何故か、光が立ち塞がった。

 

「…おい、光。そこを退け。」

「いいえ。それだけは私が許しません。」

 やはりルール的な事だろうか…と思ったのもつかの間。

 

「卍丸のお尻の形は、完璧だと私は思っております!

 その完成された芸術品のようなお尻が、腫れ上がって形が崩れる事を、私は容認できません!

 卍丸のお尻は、私が守ります!!」

「その言い方だけはやめろ、光っ!!」

 さすがの卍丸も涙目になった瞬間、周囲からどっと笑い声が響いた。

 

「あー…と。

 桃と、Jと伊達と、三面拳以外、全員アウトー。」

 あ…今のも笑いの演出だったのか。

 俺としては、光がまさかの尻フェチだったという事実に、つい呆然としてしまったんだが…。

 

「汚ねえぞ光──っ!!」

 虎丸の叫び声が、根性バッタの音とともに響いた。

 

「ちなみに、脚の長さは月光、胸筋ならば伊達、背筋なら影慶、全体的なバランスの美しさならば桃がダントツです!!」

「まさかの筋肉フェチ!?」




つづきます。
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