婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜番外編   作:大岡 ひじき

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このネタは12月のうちに書き上げなければいけなかった。
ちゃんと今年中に上げられてホッとしている。


絶対に笑ってはいけない男塾24時(後編)

「なあ…光」

 必要があるのかないのかわからない次の闘場へ向かう途中の谷で、俺は光に声をかける。

 

「なんでしょう?」

「その…寒くないのか?」

 以前、闘士以外の一号生全員がその身で橋を架けてくれた谷には吊り橋が渡されていた。

 橋を架けられるなら最初からそう…いや、これは言ったら負けな気がする。

 全員が橋を渡り切るのを待つ間、吹き上げる谷風に光が着るセーラー服のスカートの裾がふわりと浮かされる度に、全員がそちらを注視するのが気になって仕方ない。

 幸いにも吹き上げられる寸前で手で押さえて止めているから、彼女の太ももやまして下着が、大勢の男の目に晒されるという事態には至っていないが。

 そもそも、女性のスカートという着衣自体、俺たち男の目には、どうしても寒そうに見えてしまうのだ。

『寒い』と言ってくれれば俺の上着を貸すし、長ランを上から羽織れば、いい具合に裾を押さえられそうな気がする。

 だがその唐突な俺の問いの、意図が恐らくは理解できていないのだろう。

 光はキョトンとした表情で俺を振り返ったが、それがどこか呆れたような顔に徐々に変わっていく。

 

「南極でも学ランの前全開で素肌晒してる奴に言われたくありませんけど…」

 まったく可愛くない。

 しかし、いかにも光らしい答えだ。

 だがそれに続いたのは、俺だけでなくその場の誰にも、まったく予想がついていない言葉だった。

 

「…ですが、これ以上心配をおかけするのもなんですので、安心していただくためにも、お見せしましょうか。

 本当は、あまり人様の目に触れさせるものではありませんが」

 光はそう言うと、右手でスカートの裾を掴み、それを太ももまで持ち上げた。

 同時に左手で上衣の裾も、胸元までめくり上げる。

 

「なっ……!!」

 その瞬間、崖を渡りきった全員が息を呑んだ。

 誰もがそこに当然、彼女の白い素肌と、それを覆う薄い下着があると、信じて疑っていなかったからだ。

 …だが、実際にその目が捉えたのは、その肌一面を覆う黒い布地だった。

 上衣の下は言うに及ばず、足も太ももから膝上までもをぴっちりとしたタイツ?が覆っており、膝から下は紺色のハイソックスを履いているため、素肌が出ているのは膝だけである。

 安心すると同時に少しがっか…いや、なんでもない!

 

「繊維の進化こそ文明の進化!

 これぞ現代技術の(すい)を集めて生まれた、薄くて暖かい究極のインナー、その名も……!!

 

火糸徹軀(ひいとてっく)』です」

 

 光の台詞に、俺以外の全員が足を宙に浮かせてずっこけた。

 とりあえず、誰一人笑い声は上げていないからセーフではある。

 

「チッ………!」

 俺たちに背を向けて歩き出した光の方から、小さく舌打ちが聞こえた気がするのを、俺は聞かなかったことにした。

 

 ・・・

 

「男とはなんぞや!!」

「下ネタやめてください」

「まだ何も言ってねえだろうが!」

 着いて早々放たれた独眼鉄先輩の問いを、光が一刀両断にぶった斬ったのは、先の件で機嫌を損ねていたからだろう。

 そこで若干の笑いが起き、先ほどは出番のなかった教官達の根性バッタが炸裂する。

 

「つか、いくら俺でも若い娘の前で、ンな下品な事ァ言わねえよ!!」

 独眼鉄のその言葉に、何故か俺のすぐ横で、Jが顔を赤らめて小さく咳き込んでいた。

 …ああ、そういえば以前この問いにやたらと直接的な、言ってしまえば下品な答えを出したのがJだったからな。

 少なくとも、あの時に光が目の前にいたなら、さすがに言わなかっただろうとは思うけど。

 

「J、アウトー」

「待て光!俺は笑ったわけではなく……Ouch!」

 ……これは、『御愁傷様』とでも言うべきなのか。

 

「ウム、そうだな。

 独眼鉄は、顔の割には紳士だからな!」

「あなたは顔の割にデリカシーが無さすぎです」

 言ってる間に、後ろから進み出てきたセンクウ先輩の発した結構ひどい言葉も、光はバッサリぶった斬る。

 まさに、言葉の斬岩剣。

 あいつと赤石先輩、本当に血の繋がらない他人なんだろうか。

 

「…光は、俺に冷たくないか?」

「冷たくはありません。

 私は火糸徹軀(ひいとてっく)を着ていますから」

 そのネタまだ引っ張るのか!だが、

 

「…俺の為に怒ってくれてありがとな、光」

 と彼女の頭を撫でている独眼鉄に和みすぎて、根性バッタによる周囲の地獄絵図から、俺は無意識に目を逸らしていた。

 

 ……現実逃避であることは、俺自身が一番よく判っている。

 

 ・・・

 

「…たく、なにがテンピン肉だ。

 ひとんちの飼い鳥を食材呼ばわりしやが…ん?

 ……フォッホホホ、ようこそ諸君!

 わたしの名は男爵ディーノ。

 ひとはわたしを地獄の魔術師(ヘルズ・マジシャン)と呼びます」

 何やら不満げにぶつぶつ呟いていたのに、俺たちが居るのに気付いた瞬間、何事もなかったかのように自己紹介を始めたディーノ先輩の姿に、数人が吹き出す。

 ていうか、足元に広げてるのがどう見ても掃除機のノズルなんだが、どうやら先ほど蝙翔鬼先輩が言ってたのはネタでもなんでもない事実だったらしい。

 ひょっとして毎朝やってるのか。

 相当根に持ってますね先輩。

 

「おい、店出してんじゃねえんだぞ。

 出したモンはちゃんと片付けろ。

 つかソレ出してんなら、ちょうどいいからおまえの部屋も、隅から隅まで掃除機かけとけ」

 と、後ろから出てきて男爵ディーノに声をかけたのは…何故か割烹着姿の羅刹だった。

 

「全員、アウトー」

 非情な光の声が響き、精神注入棒が振るわれる…が、そろそろ教官達も疲れてきたものか、最初の頃より威力がなくなってきている気がする。

 

「てゆーか先輩、なんですかその格好!?」

「おまえらな。そろそろ年末だぞ。

 今から大掃除始めとかないと、あっという間に新年になっちまうだろうが。

 一般三号生に号令かけて、天動宮の方は任せてあるから、こっちは俺らがやっとかなきゃいけねえのに、他の奴らは手伝いもしねえ」

 …そうだった。

 寮に帰ったら、俺も一号全員に号令をかけて、寮の掃除に取りかかろう。

 …と、また現実から目を逸らしていたな。

 その後、何故か俺たちは闘場の掃除を手伝わされた。

 

「ご苦労だったな。助かったぞ。

 これは、俺からのささやかな御褒美だ」

 そう言って羅刹先輩が、俺たち一人一人に、一個ずつアメ玉をくれた。

 

「大阪のおばちゃんか!」

 富樫がつっこんだ瞬間、虎丸と松尾と田沢が吹き出す。

 根性バッタを受けながら、原因を作った富樫を睨みつける3人。

 その視線を受けながら、富樫は奴らに背を向けて、学帽を深くかぶり直していたが、俺は見た。

 なんて野郎だ…この場に及んで。

 富樫の奴は、笑っていやがる…!

 

「富樫、アウトー」

「クッソ!!」

 …諦めろ富樫。

 今の光に誤魔化しは通用しないぞ。

 

 ・・・

 

 最後の闘場に深い意味もなく到着すると、既に影慶と邪鬼がそこに立っていた。

 

「おふたりは相変わらず、仲睦まじいですね」

「お前は何を言っているんだ」

 なぜか目をキラキラさせて声をかける光に、なんだか嫌そうに影慶が答えるのを見て、数人がクスリと笑い声を漏らし、例によって例の如く根性バッタの餌食となる。

 というか光…その穢れのない腐った瞳はやめろ。

 幸いにも、邪鬼先輩は気がついていないようだが。

 

「見事だ。

 よくぞこの大威震八連制覇、ここまで戦い抜いてきた。

 男塾三号生筆頭・大豪院邪鬼、誉めてやろう!!」

 …別に誰とも戦ってはいないんだが。

 いや、これはある意味戦いだったかもしれない。

 

「待てい!わしが男塾塾長江田島平八である!!」

 そこに唐突に現れた塾長が、いつも通りの自己紹介で話に入る。

 

「この勝負に入る前に、このVTRを見てもらおう!」

 だから、戦ってはいない…うん、まあいい。

 多分、色々諦めた方が一周回って楽に違いない。

 ひとまず、塾長の言うVTRを流すためモニターが持ち込まれ、見ている間は根性バッタはされないという(判定だけはされているので終わった後に、という事らしい)ので、俺たちはそこに腰を下ろしてモニターに注目する。

 

【はじめまして、みなさん。

 きょうは、わたくしのおうちの、おはなしをいたします】

 画面に映像が映る前に、流れてきたのは幼女の声だった。

 

【わたくしのちちうえは、ほんとうのちちうえではありません。

 わたくしのははと、ちちうえが、けっこんされるときに、わたくしは、ははといっしょに、このおうちにまいりました】

 映像は、どこかの日本家屋を遠くから映した光景を、徐々に近付けて行き、そしてカメラがその大きな門をくぐる。

 何故か、邪鬼先輩が息を呑んだのがわかった。

 

【ははうえは、わたくしのおとうとがうまれたときに、はかなくなられました。

 ははうえのおそうしきのあと、ちちうえは、わたくしに、こうおっしゃいました】

 映像は大きな桜の木が、枝からはらはらと花びらを落としている。

 そして次の瞬間、幼女の声のトーンが急に下がった。

 

【『辛いだろうが、今日この時より、貴様がこの家の女主人だ。

 これよりは弟を、母の代わりに守ってくれ』】

 

 それは、どのように聞いても邪鬼先輩の声だった。

 全員がそれに気づいたと見え、その場の視線が邪鬼先輩に集中する。

 が、邪鬼先輩の動揺は、俺たちのその視線にすら気付かないほど大きいものだったようだ。

 

「あ…あやつ、いつの間に声帯模写などという高等技能を……!!」

 いや、そっちかい。

 

【そのひからわたくしは、5さいにして、かせいのすべてをまかされました】

 再び幼女の声が語り出し、

 

「いやそれ普通に児童虐待…」

 という声が周囲から小さく上がる。

 …あと虎丸が、

 

「邪鬼先輩の家は火星にあるのか?

 人間じゃねえとは思ってたが…」

 とかブツブツ呟いているが…多分だが『火星』ではなく『家政』だ。

 

【おとうとは、1さいはんで、げんぷくのぎをおえました。

 ほんらいなら、まんさんさいのとしに、おこなわれるぎしきだそうですが、ちちうえがおっしゃるには、

 

『数えならば既に三歳、構わぬであろう』

 

 とのことでした】

 …どうやら邪鬼先輩の娘さんは、父親の声真似がマイブームであるようだ。

 いや、クオリティ高すぎるだろ。

 

【このとき、わたくしはいっしゅうかん、しんせきだというおうちにとまっておりまして、くわしいないようはわかりません。

 ですが、かえってきたとき、おとうとのこうきは、がりがりにやせてしまっていました。

 ちちうえも、せんだいさまも、ほかにしようにんのかたがたも、おとなのひとがあんなにおおぜいいたのに、だれひとりまともにあかちゃんのおせわもできなかったのでしょうか。

 しかも、さんかげつもまえに、わたくしがかんぺきに、そつにゅうをさせたというのに、しばらくはこけいぶつをうけつけなくなっていて、もとにもどすのに、いっかげついじょうかかりました。

 おとこのひとは、ばかなんじゃないかとおもいます。

 これをみているみなさまは、しょうらい、こんなちちおやには、ならないでくださいね】

 …ううむ。ここらへんは、怒りに打ち震えてるなこの子。

 というかここら辺に来たところで周囲から次々、

 

「…マジで虐待として通報した方がいい案件じゃねえのかコレ」

 という声が聞こえてくる。

 

【ですが、それいがいなら、わたくしはちちうえがだいすきです。

 ちかごろなにかにつけて、こうきにたいして、

 

『そのような不作法をするならば、庭で大鐘の中に閉じ込めてしまうぞ』

 

 とおどしにかかるせんだいさまを、とめてくださったら、もっとすきです。

 あかちゃんがぎょうぎよくできないのはあたりまえです。

 そんなことをされたら、こうきがしんでしまいます。

 せんだいさまはそろそろぼけてきたのではないかとおもいます。

 ですがあんなのでも、ちちうえがいないあいだは、このいえのさいこうけんりょくしゃなので、ちちうえにはもっとひんぱんに、おうちにかえってきていただいて、あのくそじ…せんだいさまに、しっかりしつけをしていただきたくおもいます】

 やばい、幼女の声にどんどん毒が溢れてきている。

 あのクソジジイって言いかけたよな今。

 先代様というのは、邪鬼先輩の父親だろう。

 先ほど幼女が声真似をしていた嗄れた声が、その先代様の声なのだろうか。

 

【ちちうえ。

 こうきもわたくしも、ちちうえのおかえりをおまちしております。

 そして、ちちうえがいないあいだ、こうきはかならず、わたくしがまもります。

 またおあいできるひまで、おからだにきをつけておすごしください】

 健気だ……映像に、恐らくは子供が折ったのであろう沢山の折り鶴と、語られている内容が書かれた便箋が流れ、周囲で次々と、鼻をすする音が続く。

 しかも邪鬼先輩までもが、

 

「クッ…済まぬ、貴様にばかり苦労をかけて…!

 せめて次の休みには、必ず帰る……!!」

 と、俯いて声を震わせているではないか。

 どうやら朗読も最後の方に差し掛かっていると見えて、便箋の上に書かれた手紙の書かれた日付らしい数字が、拙いが一生懸命書いたであろう子供の字で綴られている映像が流れる。

 

【12がつ10か。大豪院…】

 

 そういえば文中で、邪鬼先輩の息子さんは『こうき』と呼ばれていたようだが、姉であるこの子の名前はなんというのだろう…と、次に続くだろう名前に注目していたら、

 

【…邪鬼。シャイニング・ゴッド・ハンズ】

 

 瞬間、ものすごい光がその場を照らした。

 

「フハハハハ!

 この瞬間を待ちかねたぞ、邪鬼!!」

「何故だ、流依ッ!!

 というか貴様が何故ここにいる、聖紆塵(ゼウス)!!」

「恨むならば、家庭を顧みなかった過去の己を恨むのだな!!」

 …若干噛み合わない会話を交わしながら、宿命の対決が勝手に始まった。

 ここまで来ると、俺たちは蚊帳の外だ。

 というか、邪鬼先輩の娘さんはルイちゃんというらしい。

 と、しばらく黙ってその場に控えていた影慶が突然立ち上がり、携帯電話

【挿絵表示】

をおもむろに取り出すと、どこかに電話をかけ始めた。

 

「集英デパートさんですか?

 12月25日朝の配送、まだ間に合いますでしょうか…ええ。はい。

 ………では、高さ50センチ以上のテディベアのぬいぐるみをひとつ、大豪院流依様宛て。

 それと、電車のプラレール一式を、こちらは大豪院煌鬼様宛てで。

 差出人名は、大豪院邪鬼。住所は……」

 どうやらここは笑いではなく、泣きを提供する舞台だったようだ。

 

「やはり、影慶は理想の奥様ですね!」

「お前は何を言っているんだ」

 通話を終えた影慶に、やはりキラキラした瞳で光が言葉をかけ、それに影慶が嫌そうに答えた。

 

「全員、アウトー」

 ………。

 

 ・・・

 

「というわけで最後は男塾名物『魍魎サバイバル』で締めることに…」

「締まるかそんなもんで!!」

 光がそこから、何事も無かったかのように告げるのを聞き、誰かがつっこんだその時、バスの陰に隠れているつもりらしいゴリラの着ぐるみが肩を落とし、その肩を赤石先輩がぽんぽん叩いている光景が目に入ったが、それも俺は見なかったことにした。




邪鬼様の義娘の存在は、本編の緩流安息編3での邪鬼様の台詞で一応描写しております。
つまり『あさしん』のみのオリジナル設定です。
ちなみにこことは別のR18版番外編に、曉設定の成長した年代でヒロインの一人としても登場させましたが、そちらは現在公開を停止しております。
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