婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜番外編   作:大岡 ひじき

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あずきバーが好きです。
ミルク金時バーはもっと好きです。


夏の日の君に

 風雲羅漢塾との対決も終わった、僅かな平和な時間。

 愕怨祭の為の備品の買い出しにと、光の要請で荷物持ちに駆り出されたのは、一号生の東郷総司と、何故か、総代である俺だった。

 

「お疲れ様です、2人とも。

 けどちょっと歩き疲れましたから、ここで座って休んで行きましょう」

 そう言って塾との中間地点にある公園に入り、すぐにベンチに腰掛けると、両隣をポンポンと手で叩く。

 

「だから、デパートくらいバイクで行きゃあすぐだったのによ」

 最初に声をかけられた時、そう提案したらあっさり却下されたという東郷が、ブツブツ言いながら、それでも光の右側にドサリと無造作に腰を下ろした。

 

「何言ってるんですか東郷。

 あなたはそれで良くても、それだと私と桃がついてこれないじゃないですか」

「総代はそもそもこんな雑用につきあうべきじゃねえし、アンタは俺の後ろに乗ればいいじゃねえか」

 恐らくは、光に声をかけられて、こいつはそこそこ期待したんだろうと思う。

 まさか荷物持ちとは思っていなかった上に、放課後待ち合わせた裏門に、俺が一緒にいた事で、顔には出さなかったようだがえらく氣を乱していたし。

 

「諦めろ、東郷。

 今日、光が欲しかったのは足じゃなく、荷物を持つ手だ」

 言いながら光の左側に、俺も腰を下ろす。

 反対側で学帽の下から睨むような視線が返ってきたのを、俺は見ないふりをした。

 

「そうなんですよ。

 今日に限って誰も捕まらなくて。

 豪くんは今年のあの、船が山に登りそうな面子の一号生の筆頭になったばかりのせいか、なんだかとても忙しそうにしていますし、本当は三号生の江戸川とか丸山に同行してもらおうと思っていたのを赤石に阻止されましたし、ここはもう藤堂家に電話して車を出してもらおうかと本気で考えたあたりで、暇そうなあなた方を見つけたので本当に助かりました!」

「…そろそろ何からつっこめばいいのかわからなくなってきたんだが」

「だから、諦めろって東郷」

 学帽の庇の下の眉間に指を当て、頭痛を堪えるような仕草をした東郷に、俺はこの場で最も適切なアドバイスをした。

 …された本人がどう捉えたかは別として。

 

「まあ、来ていただいて有り難かったのは間違いありませんから、せめて少しでも来てよかったと思ってもらえる事でもしましょうか。

 2人とも、少しここで待っていてください」

「「えっ!?」」

 と、そんな俺たちのやりとりになにを思ったのか、光は座っていたベンチからぽんと立ち上がると、財布だけ持って駆けていく。

 取り残された俺たちは、一瞬顔を見合わせ…お互いどちらからともなく顔をそらした。

 ひとつのベンチに男2人で座っているというのは、なんとなく居心地が良くない。

 そのまま黙りこくってしまえば、その沈黙に耐えられなくなったものか、東郷がぽつりと言葉を発する。

 

「アンタは……」

「…ん?」

「いや……なんでもねえ」

 …言い淀んだヤツの言いたいことが、なんとなくわかった気がして、俺は忌憚のない意見を口にした。

 

「…今のこの男塾で、光に惚れてないヤツなんて居ると思うか?」

「………そうだな」

 男と女が惹かれ合う理由は、どんな理屈をつけようが、結局は互いに『そこに居るから』でしかない。

 そしてほぼ選択肢のない俺たちと違い、光にはそれがある。

 

「選ぶのは、光だ。それだけは忘れるな」

「…判ってるさ」

 その一言を吐き出した後、俺たちは再び口を閉ざした。

 少し鳴き方の下手な蝉が、遠くの方で鳴いているのが聞こえた。

 

 ・・・

 

「お待たせしました!

 こんなもので申し訳ありませんが、どっちか好きなの選んでください」

 …そうして戻ってきた光が、手にしていたコンビニの袋を俺たちの前に突き出す。

 中には、棒アイスが2本入っていた。

 俺たちに袋を押しつけた後、光は既に手にしていた『亞逗鬼罵阿(あずきバー)』の外袋をもう開けて、口に咥えながら俺たちの間にひょいと腰掛ける。

 

「…そういう事か。

 東郷、『寿威夏罵阿(すいかバー)』と『ゴリゴリ君葬堕(ソーダ)味』、どっちがいい?」

「……『ゴリゴリ君』で」

「了解」

 袋の中からそれを取り出して手渡してから、最後に残った自分の分を出すと、待っていたように光の手が、空いたコンビニ袋を俺の手から、自然な流れで引き取った。

 その袋に、先程剥いた『亞逗鬼罵阿(あずきバー)』の外袋を入れる。

 それに倣って俺たちも、それぞれの剥ぎ取った包装をその中に放り込んだ。

 

「…光は割とあんこモノが好きだよな。

 でも、それ固くないか?」

 割と固いものを普段の食事で噛み慣れている俺たちは多分平気ではないかと思うが、人によっては歯が欠けると言われるくらい固いそのアイスを、小さな口でゆっくり味わっている光に声をかけると、光は視線だけで俺を見上げ、リスのようにしょりしょり削り取っていたそれから一旦口を離して答える。

 

「この固いのが好きなんですよ。

 これだけカチコチだと長持ちするじゃないですか」

「ゲホッ!ゴホガホゲホッ!!」

 と、光の答えを聞いた瞬間、何故か東郷が咳き込んだ。

 

「ちょ!大丈夫ですか東郷!!」

「…アンタそれ、問題発言だぞ?」

 心なしか顔を赤くしながら、東郷は心配して肩に手を触れた光を睨む。

 

「なにが?」

「……………なんでもない!」

 そう吐き捨てて光から目をそらすと、東郷はまだ大きなアイスの青い塊に噛り付いた。

 がりりと音がした直後、指でこめかみを抑える。

 そうなるよな、うん。

 

 と思ったところで、俺まで咳き込みそうになったのを、意志の力で慌てて押しとどめた。

 東郷が光の言葉からなにを連想したのか、不意に判ってしまったからだ。

 あーうん、その、なんだ。

 

 ………『男の子』だからな、俺たちも。

 

「……諦めろ、東郷」

 今日三度目のその言葉を口にした後、俺もまた、まだ大きな赤い塊に噛り付いて……

 こめかみに、鋭い痛みが走った。




……暑さで錯乱した。多分そういうこと。
どうしてこうなった。
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