二〇二四年八月。上品なクラシックが流れる喫茶店に私は招かれた。ここは銀座の高級喫茶店で、私をこの場所に招いたのは、目の前でぱくぱくとふんだんに生クリームと苺が使われたショートケーキを頬張っているスーツ姿の生真面目そうな顔立ちの男だった。
この男の名は菊岡誠二郎。教師然としたこの男はこれでも国家公務員のキャリア組で、所属は《仮想課》。
何故、この男と高級喫茶店にいるのかといえば、弟の和人が入院している部屋に姿現しをした当時、偶々、遭遇してしまったのである。
それ以降、この男はよく私から話を聞き出したがるようになり、こうしてこの喫茶店で会うようになった。
今後、和人がお世話になる相手だ、無碍にはできなかった。
「やはり、この店の生クリームは絶品だなぁ」
「そりゃあ、良かったですね」
私は注文したショコラ・フランソワを一口ずつ味わって頂いた。ショコラの深みのある味が口に溶けて、まるでチョコレートを凝縮したような旨味に私の頬は蕩けるようだった。
「ところで、君はいつから魔法を使えるようになったんだい?」
「また、魔法の話ですか? そうですね、十一歳からですよ」
いつもは一蹴するような質問に私は気分が良かったので、応えてしまった。
「ほうほう? 誰か師匠がいたりするのかな?」
「プライバシーですから、お答えできませんわ」
はっと、正気に戻った私は菊岡さんの質問を一蹴した。
「そこを何とか聞きたいんだよな……君はその魔法で何をしたいんだ?」
「……」
何をしたいと聞かれると応えに詰まってしまう。魔法はあまりにも身近で生活の一部くらいにしか考えていなかった。
考えて、思い浮かぶのは大切な人たちの顔だった。
「私は、この力で大切な人を守りたい」
実際に、弟の和人を守れるように今も研究を続けている。それが全てだった。
「きゃああ!」
ガッシャーン!という激しい音と女性の叫び声が聞こえた。見ると、一頭のコウモリのような翼を持ったトカゲのような生き物――ワイバーンが窓ガラスを破り、店内に入り込んで来ているのが見えた。
私は咄嗟に駆け出し、ワイバーンに乗っている男を殴り倒し、男から片手剣を奪うと、ワイバーンの首に突き刺した。
周囲は唖然としたまま、その成り行きを見詰めていた。
「皆さん! 私は自衛隊の隊員です! 私の後について避難して下さい!」
店内には二十人程の人がいた。
「どこに避難するんだい? 外にはもう敵が……」
菊岡さんが冷静に助言してくれたが、それはもう知っている。だから
「分かっています。勿論、このビルの上に避難するんです」
私はビルの中にいる全ての人を上の階五、六階に避難させ、扉にバリケードを張った。
「皆さん! 私は屋上からワイバーンが来るかどうか見守りますので、此処を離れます! 何かありましたら、総務省の菊岡さんに言って下さい! では!」
「桐ヶ谷さん!」という私を呼ぶ声が聞こえたが、気にしない。
私は屋上に出た。すると、ワイバーンに乗った男と目が合った。ワイバーンは私の近くまで飛んで来た。私は懐から杖を取り出した。
「ステューピファイ!」
ワイバーンに当たった呪文は効力を十二分に発揮し、ワイバーンを麻痺させた。ワイバーンは地に落ち、背に乗っている男もその衝撃を受け、床に転がり、呻いた。
「ステューピファイ!」
私は男を麻痺させ、武器を全て回収し、鎧と兜を取り去った。
そして、男をイベントリにあった縄で縛り上げた。私は菊岡さんに男を預けて、ワイバーンの元に向かった。
「起きなさい。フィニート・インカンターテム」
ワイバーンは目を覚ますと、私を威嚇した。私はそんなワイバーンを威圧した。凝縮した気を放ったのだ。
すると、ワイバーンは大人しくなった。
(乗せてくれる?)
私はワイバーンに念話で語りかけた。ワイバーンは驚いたように目を瞠ると、ゆっくりと頷いた。