無限の籠の中で   作:残斗

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01-A「あいとゆうき」

 荒れ果てた野を一人の男が往く……

「フーン……フンフーン……フーン……」

 軽い鼻歌を鳴らしながら歩く男の足取りは重く、分厚い外套はところどころ穴だらけの無残な格好だ。

 長い黒髪はボサボサと砂埃を纏い、ズボンの裾は破け、被る帽子は泥のシミ。

 

 しかし、彼の腰に携えられた二丁の拳銃はギラギラと輝いている。

 この砂嵐の中、まともな整備を受けているとは思えないが、汚れも傷もひとつとて無い。

 ギラリと輝く二丁拳銃とボサボサの男は歩き続けていた。

 

 ―+―+―+―

 

 見つけたのは一件の食事店。

 キイ、と立て付けの悪い戸を開くと中は盛況のようだ。

 見てくれの悪いゴロツキや、旅の途中に寄ったのか男と同じような客の姿もあった。

 

 男はどかっと

「すんません、水をもらえませんか。それと、この店で一番安くて量のあるメシを」

 あいよ、と店員の娘は返事をして厨房へ向かう。

 待っている間、男は腰の銃に触れながら暇をつぶしていた。

 

「おい、兄ちゃん。良さそうなもん持ってるじゃねえかい?」

 話しかけてきたのは近くのテーブルを占拠していたゴロツキたちだ。

 身の丈に合わないように見えるその銃が高価なものだと思ったのだろう。

「あの……話は飯食ってからでも良いっすか?」

「はあ? ダハハハハハ!」

 その気の抜けた返事にゴロツキたちは笑い出す。

 

 男のテーブルの前に山盛りのふかし芋が置かれる。

 店員の娘は、またいざこざか……と、ばつが悪い顔をしていた。

 

「冷めちゃうんで食べていいですか?」

「馬鹿言ってんじゃあねぇ!」

 ゴロツキがテーブルに拳を振り下ろし、皿が跳ねて落ちる。

 ゴロツキはふかし芋をひとつ掴むと齧りながら言い放った。

「おい! コイツからパクっちまいな!」

 

 ここにはいられないと、店から数人の客が飛び出る。

 ……が、また勢い良く戻ってきた。

「おい! 外に悪魔どもが!!」

 そう言い切った瞬間、客の腹から腕が飛び出る。

 血を吹き出しながら崩れる客の背中には、それはもう醜悪な一つ目の悪魔が立っていた。

 

「なにっ、くそっ野郎ども! 撃て! 撃てぇ!!」

 ハンドガンにリボルバー、ショットガンにライフル……

 ゴロツキたちの一斉発射を受けてもなお薄黒い肌を持つ悪魔は倒れない。

 

 店の窓を突き破り、更に数体同じ悪魔が乱入。

 ジリジリとゴロツキたちは追い詰められていた。

 そんな中、例の男はふかし芋をとにかく頬張っていた。

「このクソ野郎! 食ってる場合かぁ!」

「うるせぇ! 腹が減ってんだ!!」

 次から次へと芋を流し込む男。

 それに合わせるかのように一人、また一人とゴロツキは倒れる。

 

「く、クソ……ッ!」

 ついには店の中に残っている人間は男一人となった。

 一つ目の悪魔は三体。その背中には蝙蝠のような翼が生えており、長い腕―――その指先の爪は赤黒く鋭い。

「―――ぷはぁ~……食った食った……」

 芋の載っていた皿を投げ捨て、男は二丁の拳銃を抜く。

 馬鹿デカいリボルバーと銃身の細いハンドガン。

 しかしその見た目にはこれまた異形なものが付いていた。

 

 【目】である。【眼】である。【眼球】である。

 

「ったく、飯もまともに食わせてくれねえのか。クソ悪魔ども」

 ガァン!! と、右手に構えたリボルバーから弾が撃ち出される。

 その速度は並の拳銃よりも速く、衝撃は遥かに重い。

 ゴロツキたちの銃撃を受けてもびくともしなかった悪魔の胸に大穴が空いた。

 たとえ悪魔といえども心の臓を貫かれれば無論、絶命したようだ。

 

 残った悪魔たちは状況が悪いと悟ったか店から逃げ出そうとする。

「逃さねえぜ」

 続いて左の拳銃から撃ち出される弾丸。

 狙いを全くつけていないにも関わらず、その弾は大きくカーブを描いて一体の悪魔の目を潰した。

 その弾は勢いを衰えずにもう一体の悪魔の眼を貫く。

 両者ともに絶命。

 

「……やれやれ。すまなかったな」

 男はそう言うと金の入った小袋をテーブルの上に置いて店を出た。

 もっとも受け取る人物など既にこの世に居ないのであるが。

 

 ―+―+―+―

 

「見つけた」

 陰から覗く人物が一人いた。

 正確には人ではない。頭の上に浮かぶそれは光り輝く輪っか。

 純白の翼を持ち、美しい肌を持つ。

 紛うことなき天使である。

 

「【邪器】を使いこなす人間……彼のことなのか」

 天使は男が去ったあとの食事店に祈りを捧げた。

「天使――ランバルディアの名のもとに……永遠の安らぎに包まれよ……」

 ランバルディアと名乗った天使は、手のひらから火を出す。

 その火は人間たちの肉体のみを優しく包み、跡形もなく消滅させた。

 ふわりと浮かんでいく煙は人の魂であった。

 

「追いかけなくては」

 ランバルディアは店を後にし飛び出す。

「邪器の使い手……アギト。あの男が、ボクのパートナーか……」

 

 白い羽だけが残ったこの店に、生き物の気配はしなくなった。




Bパート、更新不定。
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