何故か彼女は普通だって言って、何もしないんだよね。本当は何もかもできるのに。
ああ、ごめんね。
でも、千歌ちゃんがリーダーでいいんだよ。
だって少なくとも、私じゃできない。
果南ちゃんみたく強くなくていい。
ダイヤさんみたく頭もよくなくていい。
多分、リーダーに求められるのはそういうことじゃないんだよ。
意思の強さと寄り添う力。
これが彼女は特出しているんだ。
何で彼女が普通怪獣っていうか、私にはわからないなあ。
ギルスは素手で剣を止める。ウィザードはその勢いを利用し宙を舞い、顔を蹴ろうとした。それをギルスは体を反らしてかわす。ウィザードはしゃがみこみ足払いをしてギルスの体勢を崩すと足技を決めようとするが、それは見切られる。距離を取りギルスはファイヤースイッチを出す。それをオンにすると、口から炎が出た。それをウィザードは避ける。
「炎ってのはね、こうするんだよ!」
曜の形態が変わる。顔に胸にドラゴン。大きな翼も生えている。そしてそのドラゴンの口から炎が出た。ギルスも再度炎を出すが、勢いがまるで違う。ギルスは対抗するのをやめ避けた。
「まだ馴染んでないね」
そうつぶやきギルスは咆吼する。ウィザードに向かいパンチをするが見切られる。回し蹴りは見事に当てたものの、すぐにウィザードは反撃する。キックの嵐に、ギルスはそれに屈することなく近づいてゼロ距離で炎を当てようとした。しかしウィザードは姿を消し、そしてギルスの背後に現れた。
「千歌ちゃん、悪いけどもう私には勝てないよ」
「……何強がり言っているの?ウィザードの力、完全に使いこなしていない曜ちゃんに勝てるわけがない!」
「……じゃあ、倒してあげるよ」
ギルスは咆吼した。常人では立つことすらままならない。ウィザードはそれに屈すことなく立っている。ギルスは攻撃する。今までよりスピード、手数、鋭さ。その全てを上回る。しかし、それを全てウィザードは見切る。それはまるでギルスが次の攻撃がどこか、それを全て知っているかのようだった。冷静に立ち回るウィザード。それは闘牛を操るマタドール。パンチを避け、その手を伝い、背後を取る。
「1・2・3」
ウィザードはカウントを行う。まるでベルトについたボタンを押すかのように。そしてそのあと、何かのレバーを軽くはじくように、指輪を通す。
『キックストライク!』
「ライダーキック」
ギルスが振り向いた瞬間、そこに合わせて強烈なカウンターキック。それは一切の隙もなく、スピードもある。このキックをギルスは知っている。カブトのカウンターキックだ。かろうじてガードをしたものの、右側に吹き飛ぶギルス。ウィザードは指を天に向けて指す。もちろん、倒したとは思っていない。だが、これをやらなければ、彼女の気がおさまらないのだ。ギルスはこの時、完全に親友の能力を忘れていた。何故ウィザードになる前まで前線に彼女がいたか。それは他ならぬ、彼女が天才であったからだ。
タイマン勝負であるならば、彼女の右に出るものはいないのである。これはウィザードの能力ではなく、変身者自身の能力である。そしてその能力の真髄は、他人の戦闘を真似ることである。ウィザードはランドドラゴンとなる。両腕についた黄色い爪。彼女は咆哮する。そしてギルスに攻撃を加える。ギルスと同じ方法、手段で。もし、同じ手法で、同じ読みをする者の場合、変身者の身体の能力が勝敗を決する。今の彼女は決して曜に身体能力で劣るわけがない。劣るわけがないのだが、ギルスは防戦一方だ。曜は完全に相手をコピーする。行動や癖、思考さえも。相手は、自分のコピーと戦っている感覚に陥る。非常にやりにくい。そして、彼女は完全にコピーしているわけではなく、今まで培ってきた中のものまで利用する。非常に相手側としてみれば読みにくいのである。
ウィザードは高く飛んだ。そして爪を縦に使う。ギルスは迎撃しようとする。着地すると砂が高く舞う。その中でもギルスは突っ込む。そのタイミングを見計らい、曜は回転し尻尾を当てた。
「がは」
ギルスは立てない。これが幼なじみであり、化け物の一人。曜の実力である。
「ダイナミックチョップ」
技名を後で言った彼女はギルスに近づく。
ようやく立ち上がったギルス。黙ったままウィザードに接近すると今度は苛烈な攻撃をした。それをウィザードは簡単に防ぐ。
「……」
上から斜めに振り落とすような蹴り。それを防御すると今度は同じ方向からパンチ。
「狙いはこれか!」
ウィザードはハリケーンドラゴンに変身し空中に脱出した。足が取られると思ったからだ。
「そこだ!」
エレキスイッチを押し、ギルスの手から雷撃が飛び出る。完全に予期していない攻撃をウィザードは喰らい地面に落ちる。その下降中にギルスは飛んだ。そして右足を天高く上げ、振り下ろし当てようとする。かかとには鋭利な鎌が付いていた。だが、ウォータードラゴンになったウィザードの地面から鎖が飛び出る。バインド。それでギルスの動きを止めた。しかしそれも長くは続かず、しばらくするとパリンとその拘束を破るが、その一瞬だけで十分だった。お互いに体勢を立て直すにはその時間だけで十分だった。
ギルスは地面に着地する。目は黒から赤みを帯びていく。
「……そっか。千歌ちゃん」
「……」
「闇にとらわれないで。マイナスの感情に心をゆだねないで。明るいあなたも、暗い君も、本物なんだよね」
「……」
「憎いよね。でもね、私は千歌ちゃんがうらやましかったんだよ」
「……」
「化け物みたいに何でもできる果南ちゃん、臆することなく突き進む千歌ちゃん。とってもうらやましかったんだよ!」
「……」
「だから!この力で、みんなと同じ土俵に立てたことが嬉しかったの!千歌ちゃんの隣に立てるのがとっても!」
ギルスの目が赤に戻っていく。しかし、すぐ黒に戻る。
「そんなはず、ないよね」
「……」
赤に戻る。
「曜ちゃん!早く私を倒して!そうしないと……」
黒に戻る。
「これは千歌の闇なんだよ。底が知れない闇なんだよ!」
「……わかった。あなたが闇なら、底知れない絶望なら、光も希望も!天井はないんだよ!」
その瞬間、ウィザードが光る。曜は別の空間にいた。そこにいたのはウィザードの力を司るドラゴン。
『この私の力を最大限に引き出そうとするのは、やはりお前が真のウィザードか』
ドラゴンは言う。
「関係ないよ」
曜は笑う。
『あいつは違う世界で頑張っている。そしてその姿になれば、お前の封じられた記憶も蘇るだろう。それでもなるのか』
「現在、過去、未来……それに私は屈しないよ」
『ならば、力を貸そう』
ウィザードの手には指輪が出現する。銀の指輪。
「曜ちゃん待って!」
千歌は自らの体内で欲望と戦っていた。
「あれだけは止めないと!」
「別にいいだろ?」
彼女にとりついた怪人が姿を現す。
「お前は味方を傷つけた」
「それは貴方のせいでしょ!」
「違う。俺はお前の欲望、願いを叶えただけだ」
千歌は怪物に叩きつけられる。
「もうすぐ、この体は俺のものだ!」
「くそ!」
体が重くて千歌は動けない。
「私は消えるかもしれない。私はいなくなるかもしれない」
ウィザードは一つ呼吸を置く。黒くなったギルスを見つめてそう言い放つ。
「ふふ、喜子ちゃんはそれで消えたんだよ」
「それはいけない!」
「ええい!うるさい!」
ギルスはまるで二人の人格を交互に入れ替えているように、支離滅裂なことを話す。黒の目で安定すると
「ウィザードはそれで消えたんだよ」
「違うよ。私にはわかるんだよ」
曜は言う。
「光太郎さんや、ジャークさんが来るまでただ、確信が持てなかったの」
「何?」
「これは私たちの繋がり。善子ちゃんだけじゃないんだよ。千歌ちゃんやみんなのとの繋がりを守る力。希望の力なんだよ。だから私はこの力におびえない」
それをベルトにかざす。指輪。それは永遠に繋ぐ輪廻の輪。そこに込められた願いは決してもれることはない。奇跡のようにつながった想いは離れることはない。以前の使用者の想いがこのリングに込められている。それをウィザードは感じ取る。
「繋がり、それは新しい希望、それは輝き・・・・・・」
『インフィニティ・プリーズ』
「闇が無限、嫉妬が無限なら……」
『ヒー・スイー・ヒュー・ドー・ボー・ザバ・ビュー・ドゴン』
「その対も無限なんだよ!」
ウィザードは変身した。白銀の魔法使い。それは無限の希望を体現した姿。その輝きにあふれた銀の体に青い眼と胸が光る。その高貴なる輝きは、ウィザードの究極の姿として見た者の瞳に触れる。今のウィザードには現在も未来も過去も関係ない。全てを見通す力を兼ね備えている。曜の脳裏に幼い二人が映る。その子を絶対に助けたいと思った記憶が彼女にはある。そして、その子は今まで顔がぼんやりしていたが、はっきりと映った。そうだ、彼女に魔力を分けたんだ。
そしてその子の名前は……
スーと手を顔に近づける。彼女がそうしていたように。
「さあ、ここからがショータイムだよ!」