一方、その頃
「があ!」
ほのかは変身を解除させられた。
「悪になりきれん悪に用などないわ」
「なりきれない・・・・・・?」
「・・・・・・差し違えてでも暴走を止めようとしている者の覚悟など、見え透いているわ」
このクウガの戦闘能力は凄まじいものがあった。荒削りであるが、一言で言えばチャンスを絶対にものにする気迫である。通常の相手であれば、押し込まれることは明白だが、幾千もの戦闘を経験してきた将軍にはその対処は容易であった。相手が悪いのだ。この黄金のライダーは意志だけでは勝てない。実力がなければ勝てないのだ。それを彼女は痛感する。ジャーク将軍はとどめの一言を放つ。
「貴様は全力をもって余に勝てなかった。もう貴様が勝てる可能性はない」
「くそ!くそ!」
地面を叩き、悔しさを表す。浜辺では大きな音がする。それを聞いてほのかは絶望の表情を浮かべる。
「みんな・・・・・・」
「お主、何故、信じてやれぬ」
「決まっているよ!あんな不安定な状態でみんなが勝てるわけが!」
「・・・・・・違うな。貴様は恐怖しているのだ。そのブラックアイとやらに。いや、違うな。そのギルスとやらに。この地のライダーに」
ほのかは驚愕した顔を見せる。
「貴様はあの子たちを知らぬ」
ジャーク将軍は言う。唇をぐっとかみしめ、ほのかはその横を通り過ぎようとする。ジャーク将軍は何もしなかった。ただ向かわせた。
「いいのか?」
銀のカーテンが現れる。ディケイドが姿を見せた。
「・・・・・・あいつは若い。信じられぬなら、見せた方が良い」
「感謝する。顧問として、な」
士はそう言うと、将軍の横を走り抜けた。
「あと、彼女はしばらく変身できんぞ」
その言葉に士は止まる。
「何をした?」
「恐怖を植えてやっただけだ。それを乗り越えた時、彼女は究極の闇になれるだろう」
「なるほど、だいたいわかった」
そう言って走り去る。そこで9人の少女と合流した。そこにはアンクの姿もある。果南の背中に曜が。ダイヤの背中に鞠莉が。そして梨子の背中に千歌が眠っている。
「みんな、状況は?」
「ご覧の通り、ですが?」
「じゃあ、私が千歌ちゃんにとどめを刺す」
「お待ち下さい。彼女の脅威はもうありません」
ダイヤが言う。それをほのかは聞いていない。彼女はクウガに変身しようとアマダムを顕現させた。それを士は肩をつかみ、足払いをして彼女の体勢を崩す。
「ちょっと!士さん!」
「落ち着け、馬鹿野郎」
そう言うと、彼女の前に立ち質問をする。
「暴走しないってことか?」
「はい」
「わかった。では一つ確認させてくれ。今回のように、この中の誰かが暴走したら、お前らはそれを殺す覚悟はあるのか?」
「・・・・・・」
誰一人として答えない。
「おい、士。そいつにも同じ事聞いたらどうだ?」
アンクはほのかを指さす。
「私は殺せるよ」
「それがあっちのライダーでも、か?」
「・・・・・・必要があれば、倒す覚悟はできている」
「倒すんじゃない。殺すんだよ!」
アンクは叫んだ。ほのかは黙っている。
「結局、お前の覚悟もそんなんだ。そんな覚悟しかねえ人間にな」
近づいて彼女の首を掴む。そして顎をあげさせて、彼の目を見させた。
「こっちの問題に干渉するな。馬鹿野郎」
手を離すと、ほのかは咳き込む。アンクはほのかを見下し
「偉そうなことを言って結局やることは、俺らと同じことだろ」
そう言い放つ。その言葉は冷徹で怒りと悲しみが入り交じっている。
「アンク。もういいよ」
「ふん、お前らも、こいつが最初だから従っているのか知らんが、言いたいことははっきり言うんだな」
お得意の嫌み。しかし、これはアンクの優しさであることを、8人はわかっていた。
「アンク、ありがとう」
果南は言う。
「ふん」
「で?解答は?」
「殺せませんわ。ただ、倒すことはできます」
ダイヤはそう言った。士は、そうか、と一言言う。
「納得した?」
「俺も仲間なら救う方法を考えるはずだからな。当然だ」
「・・・・・・」
その言葉にダイヤは冷や汗をかく。
「やっぱり」
そう花丸はつぶやく。今にも向かいそうな花丸をルビィは制御する。梨子も険しい表情のままだ。
「ほのかさん、貴方が私たちをどのように見ているかがよくわかりました」
ダイヤが言う。
「そんな、私は・・・・・・」
「何ですか?あなた方は、補填の計画を知りながらも、私たちに話をしていただけませんでしたよね?」
刺すような視線で彼女を見る。
「ダイヤさん、何の話ですか?」
「こちらの話ですわ。それに、真姫さんは千歌さんを改造、そしてその高速攻撃は絵理さんと手合わせしたと聞いています。あなたが知らない、なんて言わせませんわよ」
ほのかは震えている。今まで、これほどの敵意を人に向けられたことなどないからだ。一言も言えずにただ立ち尽くしている。するとその時、空から電車が降りてきた。彼女たちの間に止まると、すぐにまた発車する。彼女たちはあわてない。それが誰の仕業であるかわかっているからだ。そこには二人の人物が新たに登場していた。
「ほのか、しっかりしなさい!私がいますよ!」
青い色の髪をした女性はおびえる彼女の肩を叩く。そしてもう一人は金髪のクォーター。凜としたたたずまいをしている。彼女は少し考えて
「どういうことか、説明がほしいのだけれども」
そう言った。
「絵理さん、ほのかさんは、無害となった千歌さんを殺そうとしました。そこをせめていたのです」
淡々とダイヤは言う。
「どうやら、お前たちは俺たちのことを仲間と思っていないようだしな」
「アンク、どういう意味?」
「さあな。そこの震えているリーダーか士にでも聞いてみろ。少なくとも、俺たちはそう判断している」
「士さん?」
「仲間なら殺そうとしない、って言っただけだ」
「そう」
短く言うと
「ダイヤ、アンク。ほのかは周囲が見えなくなること、知っているでしょ?貴方たちのリーダーとは違うから、そこには違和感があるかもしれないわ」
「・・・・・・いいえ、今回はそんな次元の話ではありません。あなた方は私たちに何も言わなかった。そこから見ても、あなた達がどのように見ているかがわかりました」
鋼鉄の意志は眼に現われる。絵理はその敵意をぐっと飲み込む。
「何のことを言っているのかしら?」
「ねえ、その話って今じゃないとダメ?」
果南が口を開く。ダイヤは振り向いてため息をついた。
「そうですわね。幸い、こちらのネゴシエーターも活動停止していますわ。改めて相談の場を設けていきたいと思います」
「ええ。私はほのかの様子を見にきただけだから。まずは充分休んでね」
「そうさせて頂きます」
電車が4人をさらい、空へ消えていく。ダイヤはふう、とため息をつく。海岸近くの千歌の家に、彼女を送り届け、その他のメンバーは一度隣の梨子の家に集合した。
最初に起きたのは鞠莉だった。鞠莉は事のあらましを聞き、考える。
「そういう状況ということを聞いて、みんなはどうしたいの?」
「正直、その見方が事実なら、私は関わることを避けた方がいいと思う」
「同意見ずら。でも情報は欲しいずら」
「・・・・・・じゃあ、お互いの情報は交換するけど、問題には不干渉ってことで話を進めるわ」
「えっと?」
「つまり、情報だけは交換する。技術の提供も必要なら受ける。だけど何のためにとか、そういうものは『よほど重要なものでない限り』話をしない。要は自分のところの問題は自分たちで解決しなさいってこと」
「それは、今までと同じでは?」
「口約束だったでしょ?今回は法的な拘束力を持たせるわ」
鞠莉は携帯電話でどこかに電話をし始めた。その音に曜も気がつき、起き上がる。
「あ、曜ちゃん」
曜は寝ぼけ眼で周囲を見る。そして
「千歌ちゃんは?」
そう問いかける。
千歌は起きる。あれだけの戦闘をしたのに、体が全然重くない。治癒能力がギルスになってから上がったことを彼女は実感する。
あのヤミーが来たのは、善子が消失してからだ。真姫に改造手術を頼みに行ったその帰りに、その欲望につけこまれたのだ。以来、夜にその暴走を続けた。一人でアジトを破壊すること、その破壊数の数だけ強くなる。そう信じていた。実際に以前よりも強くなった。しかし、仲間にそれを向けたことで、それは偽りなのだと。必死で押さえていたヤミーが姿を現し、それを悟る。様々な記憶が蘇る。ああ、と泣く。きっと私はもう、みんなの所にいられないのだと。最悪のことをしてしまったから、戻れないのだと普通に決めつける。
「みんなあああああ」
その声は叫びとなる。すると、隣の家が騒がしい。「ちょっと曜ちゃん!落ち着きなさい!」「だって今、千歌ちゃんが!絶対そうだよ!」「いくらライダーだからと言っても、はしたないですわ!早く準備する!」「でも速さが足りないよ!ああもう!行くよ!私が千歌ちゃんの最期の希望であります!全速前進!ヨー・ソ・ロオオオオオオオオオオオ!!!」「曜ちゃーん!!!!」
千歌がガラっとベランダを開けるとその瞬間、制止を振り切った曜が既に跳んでいた。彼女の部屋の向かいは梨子の部屋であるが、ライダーであれば飛び移るのに距離はないに等しい。地味で普通な女子高生でも大型犬に追われて死を覚悟している状況であれば、前宙して尻餅をつくぐらいは可能な距離だ。ただ、千歌の出てきたタイミングは絶望的に悪かった。その状況を飲み込めない千歌は棒立ち。曜も流石に着地地点に彼女がいることは想定しておらず、結果彼女に抱きつく格好になった。
「ぐえ」
「だ、大丈夫?」
抱きついて部屋に転がり込み止まったところで曜は話す。
「もう、無茶しないでよ」
「ごめん、ごめん。千歌ちゃんの声聞いたらテンション上がって……」
ははは、と曜は笑う。
「きっと変なことを考えている幼なじみを一番に迎えに来たのであります!」
「え?迎え?」
「さあ、行くよ!」
曜は彼女の手を取り、玄関に行く。すると全員が玄関の前に集合していた。
「み、みんな?」
「曜さんの見立て通りですね。あんな『喧嘩』ぐらいであなたを嫌いになるとでも想っているのですか?」
ダイヤが息を整え、口を開く。
「自分勝手に消えるなんて許さないずら」
「消えたら、星の本棚使ってでも探すもの!」
花丸とルビィは言う。
「もう、不器用なのよ!ちかっちは!もっとイージーに考えなきゃ!」
「マリー。ブーメラン芸でも覚えたのかい?」
コンと鞠莉はベルトをたたく。唇を閉じていた千歌は
「何で?何で私を許そうとしている流れなの?」
そう聞き返す。
「逆に何でギルティってちかっちは思っているの?」
「だ、だってみんなを傷つけて、嘘までついて……」
「確かに隠していたことは謝ってほしいけど、あなたはそれ以上のことを既にしているんだよ?」
梨子が優しい笑顔で言った。
「え?私、何かした?」
この普通怪獣は自分のしたことを理解していない。その怪獣以外は、偉大な功績を知っているのだ。
「最初に力が顕現して」
「顕現してこの力を怖がっている私達に」
「最初に『大丈夫。この力は怖くないよ』って声をかけて」
「その後も凄く気にかけてくれて」
「いつの間にか、居場所を作って」
「みんなの希望になっているんだよ?」
思い思いの言葉を口にする。
「千歌ちゃん!」
「千歌」
幼なじみ二人が話しかける。
「千歌はね、こういうことを普通にできちゃうんだよ。昔から。だから思ったの。『千歌みたいな優しくて強くて、綺麗な心を持ちたい』って。今でもそれは変わらないよ」
「私はね、いろんな事に挑戦して、いつも一生懸命な千歌ちゃんの支えになれたらって。だから」
曜は涙ぐむ。
「だから、あなたは、私の希望なんだよ。千歌ちゃんがいるから、私も頑張れるんだよ!」
「曜ちゃん、曜ちゃーん!」
その一言で彼女は涙腺が壊れたように泣き出した。それを仲間は囲む。普通怪獣の鳴き声は澄んだ青い空に消されていく。
その声を聞きながら
「やっと素直になったか、バカチカ」
と高海三姉妹の次女、美渡が日本酒を光太郎に注ぎながら言った。
「世話の焼ける子ねえ」
とジャーク将軍に酒を注ぐのは、志満だった。
「いいんですか?ごちそうになって」
「なーに言っているのさ!今回の影のMVPはあんたらだろ?」
戦闘の間、光太郎は別の場所でわいていた敵を倒していた。それがちょうど旅館の前だったため、こうした宴会の席を開いている。将軍に声がかかっているのは通りたまたまだった。光太郎が今回のことで謝辞を言おうとした時に、美渡が通りかかり声をかけたのだ。
「長い付き合いになりそうだからねえ。それにお酒は飲まれてなんぼだし」
二人の姉も酒を用意した。隣同士に座った戦士は話す。
「南光太郎よ。元の世界では命を奪い合った仲であることは事実だ。だが、この世界では余は守らなくてはいけないものがある。この世界ではそういったものは無しにしたい」
「ジャーク将軍。お前を全面的に信じるわけじゃないが、お前がこちら側につく限り、攻撃はしないことを約束しよう」
「それで充分だ」
口元がふふっと笑う。そして4人は杯をかわした。
「ところで、ジャーク将軍、18歳以下は犯罪になるんじゃなかったのか?」
「今更、余に犯罪するな、とでも言うのか、貴様は?」
この会話に酒の入った美渡は爆笑した。
※これで千歌ギルス編終了です。
※まだまだ続きますが、色々入れ込んでいきたいと思います。
※堕天使の出番?本編はもうちょい待って欲しいけど、格好いい登場シーンを用意してますw
※ちなみに次の章は整理回として特別編。だけどあの神っぽい人(CEO)を出そうと思います。まだ神になる前なので暴走はしない・・・・・・はず。