「ハイハイ、驚いているとこ悪いけど早速始めちゃうぜ」
ヘクトールの声で俺は今から始まる試練に意識向ける。
「すまない。始めてくれ」
「じゃあ彼処に立って待っててくれる?オジサン、アレ動かさないといけないからな」
ヘクトールは俺に広場の中心で待つように指示すると投石機の方へと歩いていった。俺はその間にコンソールから朱い槍を取り出す。そして少し間を置いてヘクトールの声が聞こえた。
「準備出来たかなー?」
「ああ。その前に確認だが、防ぐならどんな方法でも良いのか?」
「良いよー、防いで生きていれば試練クリアだからなぁ」
ガコンッ! と投石機が大岩を此方に飛ばす。その大きさはこの広い広場の半分ほど、大体半径9メートル程か。ヘクトールは生きていれば試練クリアと言った。常人ならこの時点で諦め、逃げるかその場で立ち尽くし、大岩に潰されていただろう。だが、以前行ったユニークスキル修得クエストに比べれば、足下にも及ばない。
「さて、早速試しますかね」
俺は集中し、ユニークスキルの一部を発動する。すると俺の左目の瞳の色が変化し、金色に輝き出した。そして俺に向かって落ちてくる大岩を見つめた。すると大岩には赤い点が一つ現れていた。
大岩が加速して落ちてくる。俺は其処に棒立ちしながら自然体で大岩を見据える。そして大岩が俺に直撃する直前、槍をその赤い点に寸分狂わず突き立てる。突き立てられた大岩は一瞬浮き上がり、突き立てられた点から罅が入り爆発するように砕け散った。
俺は突き出していた槍を器用に回し肩に担ぐ。そして既に此方に歩いてい来ているヘクトールに向けて挑戦的な笑みを浮かべながら、
「どうだ?一つ目の試練合格かい?」
「いやー、おじさん吃驚だぜ。一突だけであの大岩が粉々になるなんてなぁ」
「キャー!セタンタくん格好良い!」
一人おちょくって来る奴が居るが無視しよう。
此所で俺が使ったスキルとユニークスキルについて語ろう。俺のユニークスキルの名は『光の御子』、そして先程使ったスキルは『バロールの魔眼』だ。
『光の御子』で気付くと思うがこれはケルト神話における最強の英雄、クー・フーリンの力を伝承通りに使えるというユニークスキルだ。このスキルの修得方法は大体察しが付くだろう。そして『バロールの魔眼』、これはクー・フーリンが怒りによってクー・フーリンの父、太陽神ルーの祖父、バロールの魔眼を額に開眼し、怪物のごとき姿になったのをモチーフにしている。
そしてその効果だ。バロールの魔眼は伝承では見ただけで神を殺せてしまう程強力だが、このSAOではクリティカルを出すための点を映す能力になる。前述通りその点を突けば普段の倍のダメージを与えられる。因みに俺の急所を貫いたり首を斬り飛ばしたりしてHP関係無しに殺していたのは『心意システム』というモノらしく、それはまた別の時に話そう。
閑話休題。バロールの魔眼は前述したクリティカルを出すための点とあったがそれは対モンスター、或いはプレイヤーのみで、今降って来た大岩や防具、武器等は当てれば耐久度関係無しに一撃で壊れる。そしてこのスキル、レベルを上げていけば見るだけで相手を即死させる事が出来る様になるらしい。だが、やはりと言うべきかデメリットが存在し、相手を即死させる為には五分間目を離さずに相手を凝視していないといけないとか、即死無効を持っている相手には効かない、左目を潰されたら暫く使えなくなる等デメリットがある。
さて、色々『光の御子』について解説したが詳しい話はまた別の機会に、今はヘクトールの試練だ。
「次はどんな試練だ?」
俺の問いにヘクトールは頬を掻きながら言った。
「いやー、お兄さんには少し拍子抜けかも知れないけど、次はおじさんの攻撃を五回防いで貰うのが第二から第六までの試練さ」
第二から第六まで?それはつまり、たった五回のヘクトールの攻撃を防げば一気に最後までいけると?
「了解だ。んじゃあ早速始めようぜ」
「おっけい、じゃあ……」
拍子抜け、案外楽。そう思った。だが、俺はあそこで少しでも油断をしてはいけなかった。
「始めようか」
「ッ!?」
頬に一筋の傷が走る。ヘクトールの動きは一瞬でがらりと変わり、あの少し気だるそうなおっさんから歴戦の戦士。トロイヤ最強の戦士、兜輝くヘクトールへとその雰囲気を変えた。
油断してしたッッ、瞬時に顔を反らさなければ死んでいた。言い訳をするつもりはない。今あるのはただ相手への称賛だ。流石ヘクトールの名を冠するだけの事はある。巧みな話術で自分のペースに持っていきやがった。
二槍目。間髪いれずに放たれたそれは心臓に向かう。だが、それはやはりと言うべきかセタンタの槍に逸らされる。
三槍目。槍の矛先は首へ向かう。次は三叉の間に槍を挟まれ抑え込められる。
連続して四、五槍目。連続してセタンタの両肩に放たれたそれは同時に突き出されたかのような錯覚を見せる。これも突き自体を合わせられ、相殺される。
セタンタが飛び退く。その頬には一筋の傷と共に冷や汗を流していた。
ヘクトールは槍を肩に担ぐとまたいつも通りのおっさんに戻った。
「ふぅ~、やっぱ最初で仕留めないと駄目かぁ」
「吃驚したぜ。まさかあんな変わるなんてな」
「そりゃね、おじさんだってやる時はやるさ。それにお兄さんが吃驚したのは自分のせいだろう?」
ぐうの音も出ない程の正論だった。確かに油断なんぞせず、気を張っていればヘクトールの初撃を無傷で防げた。だが、今はこんな悔いている場合ではない。それこそヘクトールの思う壺だ。
「そうだな。それで、最後の試練はなんだ?」
次の試練を急かす。長引かせればロクな事はない、そう思ったからだ。
「ハイハイ、せっかちだねぇ。お兄さんは」
そう言ったヘクトールは大きく後ろに後退し、槍を顔の横に置き、腕を引く。所謂、槍投げの構えだった。
「最後に、おじさんの槍投げを防げたら合格、晴れてクエストクリアだ。さぁ、気張ってくれよ?」
その言葉を気に、ヘクトールの雰囲気が変わった。そしてそれを唱え始める。
「標的確認、方位角固定……『
おおよそ人が出せるものではない速さ、破壊力を秘めた槍の投擲。恐らくどこでも当たれば死ぬだろう。数値分のダメージが俺の残りHPを越えて。
トロイヤ最強の戦士が投げた渾身の一槍、ならば此方もそれに答えなければいけない。
俺は手に持った朱槍を構える。左手は刃のギリギリの所に添え、柄を握った右手を引く。朱槍は燃え盛る紅の濁流を纏い、その名の言を待つ。
「貫けッ!『━━━━━━』!」
槍が放たれる。ヘクトールが放った槍は凄まじい轟音と共に此方に飛んでくる。対して俺が放った槍は紅い稲妻が走るかの如くヘクトールが放った槍に向かっていく。
そして程無くして、槍と槍が激突した。拮抗は無かった。
俺の隣に槍が突き刺さる。ヘクトールの槍だ。俺の槍は宙に浮いていたが意志を持っているかのように俺の手に戻ってきた。
防ぎ切った。これで第七の試練はクリアだ。
俺の前にクエストクリアのウィンドウが出てくる。大量の経験値に大量のコル。そして、お目当ての盾と槍が表示されていた。
「おめでとう、お兄さん。オジサンは疲れたからもう帰るぜ。その槍は餞別だ、くれてやるよ」
ウィンドウから目を離しヘクトールの方を見るが、既にそこにはヘクトールはいなかった。
そしてヘクトールから貰った槍と盾を確認する。槍はヘクトールが使っていた『ドゥリンダナ』。剣の柄を伸ばし、槍にした様なこの槍は後に、デュランダルの原典になった槍だ。そして盾、名前を『ロー・アイアス』。トロイヤ戦争においてギリシャ側のアキレウスに次ぐ英雄アイアスの盾。この盾はアイアスとヘクトールが決闘を行った際にヘクトールの投石を防ぎ、果ては槍の投擲まで防ぎ切った金剛不壊の如き盾。
因みにロー・アイアスはスキルとしても発動可能で、手を前に掲げ、名前を唱えれば防壁として七枚の透明の花弁が展開され発動者を守ってくれる。実際に装備している時は手を前に掲げることで障壁となる花弁を展開し、所持者を守ってくれる。
「お疲れ~、セタンタ」
ストレアが軽いノリで近付いて来る。
「ああ、待たせたなストレア」
「うんうん、お目当てのものはゲットできたみたいね。じゃあ、お食事にいこー!セタンタの奢りね♪」
……まぁ、今回このクエストを教えてくれたのは彼女で方向音痴な俺を所々で助けてくれたりしてくれたのは確かだ。今回位、良いだろう。
「良いぜ、好きなだけ奢ってやるよ」
「やった!言質獲ったどー!」
今回のクエストで大量のコルをゲットしたんだ。大丈夫だろう。……大丈夫だよな?
俺はかなり上機嫌なストレアに手を引かれ街に向かって行った。財布が空になりそうな不安を抱えながら。
逸話や伝説については自己解釈が含まれているのであしからず。