「あぁ、成る程。あいつらは成り上がろうって挑んだ訳か。」
無能が雁首を揃えるとは、この事か。
ストレアの発見により、俺達がボス部屋に急行した時には、もう事は終わっていた。ボスにトドメを刺すキリト、それを支援するアスナとクライン。終わった直後でキリト達には悪かったが少し、事情を聞かせて貰った。
通常、ボス戦にはいくつかのパーティーやギルドが共同して挑む。物資と情報、十全な体勢を持って、死者を出さぬように挑むのが今までのボス戦だった。最前線で戦ってきたキリト達はそれを一番理解している。ならば、クラインのギルド『風林火山』とアスナとキリトの少数で何故戦わなければならなかったのか。
それは、功を焦ったギルドの無謀なボス攻略の尻拭いと、そのギルドの救出である。
「災難だったな。」
「はは、まぁ死人が出なかっただけマシだな。」
当事者、キリトは乾いた笑みを浮かべながらそう答える。ほんと、災難だな。イキリ…げふんげふん。
その後、無謀な攻略を行ったギルドは厳重な注意を受け、彼らのホームへと帰っていった。
そして一週間後。
「おー、凄い人だねー。」
「ああ、そうだな。」
俺達は、
とはいえ、まだ中に入った訳ではない。売店や屋台が並んだ闘技場周辺にいる。そして辺りに点々と設置してある広告のウィンドウには大々的にこう宣伝されている。
『黒の剣士、キリト VS 血盟騎士団団長、ヒースクリフ!果たして勝つのはどちらか!? SAO最強プレイヤーが今此所で決まる!!
この決闘の後にもイベントを用意しているので乞うご期待!』
「まさかキリトくんが血盟騎士団のヒースクリフと闘うなんてね。喧嘩でも売ったのかな?」
ホント、何やったんだ? キリトのやつ。血盟騎士団団長といえば攻略組の中でもかなりの実力者、『神盾』の異名を持つプレイヤーだ。そんな相手に喧嘩売るなんざ……あっ、(察し)
「……アスナ絡みか。」
「え? なになに? 何て言ったの?」
ストレアが聞いて来るがそれを無視して歩き出す。向かう場所は観戦席。広告を見た開始時刻と現在時刻が近く試合がもうすぐ始まる。
「まってよぉ~、セタンタくん!」
セタンタが歩いて行く後をストレアが後に続く。
「なぁ、この決闘後のイベントってなんだろうな?」
「さぁ?なにか催し物でもやるんじゃねぇか?」
辺りはまだ試合前にも拘らず、テンションが最高潮だ。つくづく思うが、二年前のあの暗い雰囲気からよく此処まで変わったな。まぁ、これの背景にはデスゲームという空間に閉ざされても、めげずに希望を持って戦った戦士達と、物資や娯楽をプレイヤーに提供し続けた労働組合の努力と頑張りがあってこその今なのだが。
「おっ! ヒースクリフが出てきたぞ!」
俺は隣でポップコーンを食っているストレアを横目に闘技場の中央に目を向ける。
「
流石は血盟騎士団団長だな。血の様に赤い甲冑に『神盾』の由来となった盾、そしてこの観客達の視線を一斉に浴びても動じない剛胆さ。
実の所、俺とヒースクリフは面と向かって話した事が無い。話したとしても攻略時の掛け声や注意喚起のみ。まぁ、一度ちゃんと話してみたいと思ってはいるが彼方が俺と話す気が無いならそれは仕方がない。
「黒の剣士、キリトが出てきたぞ!」
決闘の主役二人が揃い闘技場は更なる熱狂をみせる。二人が何か喋っているようだが周りが五月蝿くて上手く聞き取れん。……読唇術で読み取るか。
《すまなかったな、キリト君。こんな事になっているとは……知らなかった。》
成る程、本来は穏便に終わらせる筈が何処からか情報が漏れて事が此処まで大きくなってしまったと。血盟騎士団の情報は随分とズボラなんだな。
《ギャラは貰いますよ。》
ヒースクリフに軽口を叩きニヒルに笑うキリト。その背中にはいつもの愛剣と共にもう一本、煌めく剣が背負われていた。
《いや。君は試合後は、我がギルドの団員だ。任務扱いにさせてもらおう。》
やはりアスナを血盟騎士団から引き抜く事を賭けての試合か。だが、かなりリスキーな賭けだな。勝てばそれで万々歳だが、負ければアスナを血盟騎士団から引き抜く所かキリトがギルドに縛られソロの時の様に融通が利かなくなってくる。
ヒースクリフがコンソールを出し、決闘の申請を行う。承諾のコンソールを押したキリトはゆっくりと剣を抜く。
カウントダウンが始まった。
「ねぇ、セタンタくん。」
ポップコーンを食べる手をいつの間にか止めていたストレアが声を掛けてくる。
「なんだ。」
それを俺は素っ気ない生返事で返す。
「どっちが勝つかな?」
面白そうに、頬を弛めながら俺に問うて来た。それを見た俺は同じように頬を弛めると、
「そんなん知らねぇよ。」
知らぬ、と。これから起こる事柄に、期待を孕んだ声音で言い放った。
試合開始のブザーと共にキリトが飛び出す。対して盾を構えたヒースクリフは受けの体勢だ。
最初の斬結びはヒースクリフに軍配が上がった。ヒースクリフの堅さにキリトの二刀流の猛攻は弾かれ、盾による反撃を受けてしまう始末。その後反撃とばかりに放ったソードスキルは盾で受け流され、無力化されてしまった。
「素晴らしい反応速度だな。」
「そっちこそ、硬すぎるぜ。」
今の剣戟に観客達は盛り上がり大きな歓声を挙げる。
「硬いね……。どう思う? セタンタくん。」
ストレアが俺に聞いてくる。決闘や対人戦。AI等の決められた範囲の行動しか取れない相手としか戦ったことしかないストレアは、そういった手合いにはまだ素人だった。だからこうして俺に聞き、見て、考えることで成長しようとする。
「確かにヒースクリフの守りは硬ぇ。だが、キリトの攻撃はまだあれが全力って訳じゃねぇ。これからアガって来るぜ。段々と抑えきれなくなってくるはずだ。」
自分でも楽しんでいるのが分かるほど、声を弾ませながら俺は語った。
(なぁ、そうだろう? キリト)
二つ目の斬結び。段々とキリトの剣を振るうスピードが上がる。それに伴い、ヒースクリフの守りも崩れ始め、ヒースクリフ自らも攻撃を剣で迎え入れたりと大きな動作が増えていった。そしてその隙を突かれ、キリトの剣がヒースクリフの頬を掠める。そしてここぞとばかりにキリトは二刀流のスキルを使い今まで弾かれる事の無かったヒースクリフの盾を弾いた。そしてがら空きになったヒースクリフの頭部にキリトの剣が振り下ろされ、刃がヒースクリフを切り裂く直前、それは起こった。
(……なっ!? 速く……!?)
それはコンマ数秒の中で起こった確かな速度上昇。尋常ではない反射速度を持った人間でないと認識すら難しい瞬間。キリトが振り下ろす体勢で静止しているのに対し、ヒースクリフの腕だけが、動くというあり得ない光景を生み出していた。
そして、今の一瞬を認識してしまったが故に生まれてしまった隙を突かれ、キリトは敗北してしまった。
「あれ? 今、キリトくんの剣が当たったと思ったんだけど……気のせいだったのかな?」
ストレアが疑問を示す。だが、気のせいと一蹴し結末を見る。
今までのヒースクリフの動きは決して、断じて力を隠しているような余裕は見えなかった。それにヒースクリフはステータスを防御と力に特化させていた筈だ。ならば防御を捨て攻撃と速度に特化しているキリトにスピードで勝てる、ましてやコンマ零秒の世界で動けるという速さを有しているとは到底思えない。
ならば、その速度を出せる要因とは?
「……っ!!」
「……? どうしたの? セタンタくん?」
いた。 たった一人だけ。俺が
俺は席を立ち上がり、急いでこの闘技場から出ようとする。だが、腕をストレアに掴まれ、その場から動けなくなる。
「なんだ、ストレ……!?」
急いでこの場から離れなくてはいけない。そう言おうとしてストレアの方を向くと、俺の腕を掴んで動きを止めていたストレアは眼からハイライトが消え、まるで死んでいるかの様にぼうっとした目でこちらを見つめながら俺の行動を阻害していた。恐らく、ストレアは今自分が何をしているのか認識していないだろう。そしてそれが何を意味するのか。
「チッ……!!」
闘技場の中央にいる下手人に目を向ける。その下手人はマイクでこう民衆に言い放った。
『さて、お集まりの皆さん。本日はこの決闘の為に足を運んで頂き、感謝します。皆さんはこれで満足出来たかと思いますが……。当然これだけでは満足出来ない方もいらっしゃるでしょう。』
ヒースクリフの問い掛けに観客達は歓声で答えた。
『そうですか。 本来ならばこのイベントはこれで終了となるのですが……。 』
自らの剣を引き抜き、此方に鋒を向ける。そしてニヤリと笑うとこう言った。
『もう一戦……。其処にいる戦士の方に私と決闘をしてもらいましょう。』
一斉に観客の視線が此方に向く。
「お、おい。あの兜と鎧、『アルスターサイクル』のセタンタだ。」
ざわざわと観客達が騒ぎだし、やがて静かになる。俺の返答を待っているのだろう。
此処で逃げれば俺は腰抜けと称され同じギルドの団員のストレアまで侮蔑される。それは俺の人徳が許さない。そしてヒースクリフが言った俺に対して戦士と称した言葉。そして決闘。確かに俺は戦う者だ。真っ向から勝負を仕掛けられては、一人の男がその挑戦を叩き付けてきたからには、その挑戦を受けない訳にはいかない。戦士とは、俺とはそういう存在だ。
業腹だが奴の挑戦を受ける他無かった。俺は兜の中で引き吊った笑顔で高らかに宣言した。
「……良いだろう。その決闘、俺の力と名誉に賭けて……受けて立つッ!!」
俺の宣戦布告に観客達は大きな歓声えを挙げた。もうこれで後戻りは出来ない。
『……ふっ。ならば決闘は30分後だ。私も先の激戦で疲労しているのでね。』
ヒースクリフは笑う。全ては計画通りと。
「……ぅん?? あれ? 私寝て…って。何でこんな盛り上がっているの!?」
どうやらストレアはヒースクリフの支配から解放されたようだ。
「……いくぞ、ストレア。」
「行くって、どこに?」
「控え室だ。次の催しは俺とヒースクリフの決闘だ。」
「え、ええっ!? いつそんな事決まったの!?」
「さっきだ。ほら、いくぞ。時間は30分しか無ぇんだからよ。」
俺は控え室へと歩き出し、その後をあわててストレアが追う。
今に見てろよ茅場晶彦。どんな魂胆か知らんが俺に脅しをかけた事を後悔させてやる。
この作品が不定期更新なので、あしからず。